今回ほぼイロハ回かも?
──イブキに連れられ扉をくぐりぬけたその先で、"狐のおじいちゃん"との邂逅を果たしたイロハは今、狐が襖の奥から取り出した机を挟んで向かい合うように座っていた。
……なおイブキについては、イロハの反対側で狐にもたれかかっている。
(……何故イブキはあんなに平然としていられるんですかね)
普段はのんべんだらりとしている彼女ではあるが、目の前の存在が文字通り"次元の違う"存在であると認識してしまった以上、例え相手から"そんなに緊張する必要は無い"と言われようとも、萎縮してしまうのも無理はなかった。
そんなイロハのことを、狐は困った様子で見つめ……何なら"どうしたものかのぉ"と口に出しながら思案する。狐は長年の経験で、無理に距離を詰めようとすればかえって相手が萎縮してしまうのを知っていた。
……自身が人に化けた状態で会っていればまた結果は変わったかもしれないが、過ぎてしまったことはどうしようもない。
イブキや他に遊びに来てくれる者たちは皆、狐としての姿を気に入ってくれていたために、"初対面ならこっち*1の姿の方が良いのかの?"と考えていたために起きてしまった悲しき事故であった。
そんなちょっと気まずい雰囲気を払拭するかのように、先程まで狐のしっぽの毛で三つ編みを作っていたイブキが顔を上げ──"イロハ先輩!おじいちゃんの作ってくれるお菓子ね、すーっごくおいしいんだよ!"と、笑顔を見せた。
イブキの言葉を聞いた狐は、"おぉ、そうじゃったそうじゃった!"と何かを思い出したように戸棚に視線を向け、己が神秘を操作してそこにある物を取り出し机の上に置いた。
イロハが置かれたものへと視線を向けると、そこには薄く切られた多種多様な野菜を揚げたもの──野菜チップスが置かれていた。
自身に差し出されたものを、目をぱちくりとさせながら見つめること数秒、イロハは顔を上げて狐を見やる。
「……あの、これは?」
「見ての通り、"野菜ちっぷす"じゃよ。イブキちゃんから、よく"ぽてとちっぷす"を食べていると聞き及んでのぉ……どうせならと、じゃがいも以外も色々と用意してみたんじゃ」
"口に合えばいいんじゃがのぉ"──そう言って自身を見つめる狐の目は、とても優しいものだった。
改めてイロハは机の上に置かれた物へと目を向ける。王道のじゃがいもで作られたポテトチップスが約七割を占めているが──ただし、うすしおやのり塩、山葵など複数種類の味がある──狐の言う通り他の野菜もあった。
さつま芋や紫芋などの、同じ芋類ではあるが甘みが主となるものや、かぼちゃなどなど……しょっぱいものと甘いものを交互に食べることで、飽きがこないように工夫が凝らされている事がよくわかる。
会って間もない……何なら、これを作っている時はそもそも会ったことも無い相手の事を考えて作られたそれを見て、イロハの警戒心も次第に薄れていき──
(……と言うより、私が無駄に警戒しすぎてるだけですかね)
──先程から一切の害意もなく、こちらを気遣うような言動ばかりであったことを思い出す。
今もなおイブキと戯れている狐を横目に、警戒するのも馬鹿らしくなってきたイロハは──"一緒に食べよ!イロハ先輩!"と無邪気に笑いかけてくるイブキに対して笑みを浮かべながら、"そうですね、せっかくだし頂きましょうか"と言葉を紡ぎ、その手を野菜チップスへと伸ばした。
◇◇◇◇◇
イロハはまず、自身もよく食べている山葵味のポテトチップスを手に取り、口に運ぶ。
口に入れた途端、フワッと山葵の風味が口の中に広がるが、不思議と辛さは感じない。首を傾げつつ、パリッと噛み締めると──じゃがいもの旨味が、口いっぱいに広がった。
薄く切られているにもかかわらず感じられるじゃがいもの旨味は、市販のものとは比べ物にならない程強く──直後、山葵の鼻を抜けるようなツンとした辛味が追いかけるようにやってくる。
噛み締めるほどに、じゃがいもの旨味と山葵の辛味が絶妙なバランスで混ざり合い──都合10回噛み終えた後、"ゴクリ"と飲み込む。その後も余韻を味わう様に数秒目を瞑り──
「……美味しいですね、これ」
──と、ポツリと呟いた。イロハからの賛辞を受け取った狐は、"そう言って貰えると、作った甲斐が有るのぉ"と笑みを浮かべながら告げ……イロハは再び器へと伸ばしていた手をピタリと止めて、狐へと視線を動かした。
「うん?何か気になることでもあったかの?」
「……これ、おじいさんが作ったんですか?」
"いったいどうやって"……言葉には出さなかったものの、その瞳は雄弁に物語っており──狐はイロハが抱いた疑問に合点がいったように、"あぁ"と頷く。
「儂、人に化けれるんじゃよ。一応この姿でも神秘でこう…"ちょい"と道具を持ち上げて料理は出来なくはないんじゃが……台所はちと狭くての」
"だから料理をする時と、後は買い出しに出かける時だけ、人の身に姿を変えておるんじゃ"と、狐は苦笑いを浮かべていた。
◇◇◇◇◇
その後もポテトチップスをつまみ、時折さつま芋チップスなどで口の中をリセットしつつパクパクと食べ進める。
(──幾らでも食べれそうなくらい美味しいですけど、流石にちょっと喉が渇いてきましたね)
「おじいちゃーん、イブキ喉渇いちゃった……」
「おぉ、すまなんだ。今持ってこようかね」
狐の"お茶とじゅーす、どっちが良いかの?"という疑問に対し、イブキはジュースを、イロハはお茶を所望し、しばらくして二人の前に飲み物の入った湯呑が置かれる。
イブキの湯呑にはオレンジジュースが、イロハの湯呑には──梅昆布茶が入っていた。
「──梅、昆布茶……?」
"こういう時って麦茶とか緑茶じゃないんですかね?"と思いながらも、折角いただいたものを飲まないのも失礼だと気を取り直し、口にし──
「あ゙ー……おいしいですね、これ……」
とろけた表情をしながら"はぁー"と息をこぼした。
(なんだか、体の芯からぽかぽかとあったまるような……)
「──ほっとする温かさですねぇ」
そう言ってイロハは再び"ズズズ…"とお茶を啜り──イブキが自分のことをじっと見つめていることに気付いた。
「どうしました?イブキ」
"何か私の顔についてます?"と、顔に手を当てるイロハに対して、イブキは──
「イロハ先輩、おばあちゃんみたい!」
「かふっ……!」
──無邪気に、花のJKの精神へと会心の一撃を叩き込んだ。……純粋なイブキからの言葉であるからこそ、その言葉の威力は絶大であり──イロハは、机の上に倒れ伏した。
「あれ?イロハ先輩どうしたの?」
「…おぉ……なんと惨いことを……」
◇◇◇◇◇
数分後に復活したイロハは、何事もなかったかのようにイブキと一緒に残りの野菜チップスを食べ進め──やがて、器は空になった。
「ごちそうさまでした!」
「ご馳走さまでした」
口をそろえて食後の挨拶をする二人に、満足げに頷く狐。少しすると、お腹がいっぱいになったことで睡魔が来たのかイブキはウトウトとし始める。
「おじいちゃん、イブキねむたくなってきちゃった……」
言うや否や、イブキは"すぅすぅ"と寝息を立てて、狐に持たれかかりながら眠りにつく。狐はイブキがお腹を冷やして風邪をひいてしまわないように、八つある尾の内の一つを毛布のように、イブキの上に"ぽふっ"と乗せた。
そんな一人と一匹の様子を微笑まし気に見つめるイロハであったが、緩まった表情を引き締めて狐を見据えながら、気になっていたことを訊ねる──"ここは、いったい何なんですか?"と。
「ふむ……ここが何なのか、か」
"建築様式的に、百鬼夜行のどこかだろう"──そんな風に考えていた彼女は……狐の答えを聞き驚愕のあまり目を見開くことになろうとは、この時はまだ露程にも思っていなかった。
次話も半分くらい書き進めているので、もしかすると二話投稿できる……かも?無理でも翌朝には投稿できると思いますので、是非次回もお楽しみに。