イブキちゃんと狐のおじいちゃん   作:燐檎あめ

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別名:琥珀糖



錦玉羹

 ──イブキとイロハが一緒に狐のいる世界へと遊びに行ってから、数日後。二人はまた狐のところへ行こうと人気のない道へと歩みを進めていた。その時、二人の前に二人組のギャルが現れる。

 

「……あれ?イブキちゃんとイロハちゃんじゃん!どしたのこんなとこで?」

 

「ん?ホントだ」

 

 "ヤッホー!"──そう言って手を振る彼女たちは"夜桜キララ"と"旗見エリカ"。ゲヘナ学園帰宅部に所属?する生徒である。

 

 そんな彼女たちを見据え、イロハは"厄介なことになりましたね……"と考えていた。……狐自身は百鬼夜行では昔話として伝わっているといって、あまり気にしてないようだったが、あの世界のことは無暗矢鱈と知られるわけにはいかないだろう。

 

 どう切り抜けたものかとイロハが思考を巡らせていると──

 

「あ、もしかして狐のおじいちゃんの所に行く感じ?」

 

「うん!……あ、お姉ちゃんたちも一緒に来る?」

 

 "いいね、行こう!"──と、気付けばイロハを置いて、話が進んでいた。聞いた限りだと、どうやら帰宅部の彼女たちは既に狐の事は知っているようであった。

 

(私がおじいさんの事を知ってからは何時もイブキと一緒に遊びに行っていましたし……となると、私が知るよりも前に、彼女たちは会っていたことになるんですよね)

 

 "一体いつ出会ったんだろうか?"──そんな疑問をイロハは抱いたが、その疑問を胸の内にしまい込み、イブキへそろそろ狐のところへ向かおうと促した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 いつも通り、人気のない路地裏へと移動した彼女たちは、狐の居る世界への扉を開こうとする。

 その時、イブキが何かを思いついたかのように、"あ!"と声をあげる。

 

「ねえ、イロハ先輩、お姉ちゃんたち、今日は一緒に言おうよ!」

 

「……え、私たちも言うんですか?」

 

 今この状況で、イブキが何について言っているのかを察したイロハは、躊躇いを覚えるように口に出す。

 ……これまではずっと、イブキが元気に唱えているのを微笑ましげに眺めていたが、いざ自分が言うとなるとちょっと……そう思っていたのも束の間──

 

「お、いいね!あたしも一度言ってみたかったんだよね!……エリカちゃんはどーする?」

 

「うーん、そうだね……折角だし、私も一緒に言おうかな」

 

 気付けば、イロハ以外の面子は一緒に唱えることに賛成していた。……正直言うと断りたい、自分はそんなキャラではないから……しかし、こちらをキラキラとした、期待に満ちた瞳で見つめるイブキを前にして、断るという選択肢を取れるはずもなく──

 

「……いいですよ、私も一緒に言います」

 

 彼女もまた、例の祝辞を唱える事を了承した。

 

「やったー♪じゃあイブキが"せーの!"って言うね!……じゃあいくよ!せーのっ!」

 

 

 ──お狐様、どうぞ扉をお開け下さい!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「──よう来たねぇ。……おや、キララちゃんとエリカちゃんも来てくれたのかね、久しぶりじゃのう」

 

 "やっほー、おじいちゃん!"と右手を掲げながら挨拶する帰宅部の二人を真似するように、イブキも"やっほー!"と満面の笑みを浮かべて挨拶をする。

 

 挨拶もそこそこに、イブキは早速"おじいちゃん、今日は何を教えてくれるの?"と狐へと語りかける。

 

「ふぅむ、そうじゃのう……今日はお菓子作りでもしてみようかのう」

 

 狐がそういうや否や、気付けばイブキ達の目の前にはお菓子作りに使うと思われる材料や、料理器具が置かれていた。

 

「わっ!いつの間に!?……ぜんっぜん気づかなかった!」

 

 驚く私たちの事を、クツクツと笑いを零しながら眺める狐の事へとジト目を向ける。

 

「ねぇ、おじいさん」

 

「ん?なんじゃねエリカちゃんや」

 

 "材料ってホントにこれだけなの?"──エリカの言葉につられてイブキ達は改めて机の上に置かれた材料へと意識をうつす。

 

 ──そこに置かれているのは、粉寒天に、グラニュー糖、水、数種類のかき氷シロップのみであった。

 

 エリカの言う通り、本当にたったこれだけの材料でお菓子が作れるのか、作れるとしてどの程度のものが出来るのかと僅かばかりに不安を抱く。

 ……なおイブキについては、狐の事を信頼しきっているのか、ワクワクした気持ちを全面に露わにして"早く作ろー!"とはしゃいでいた。

 

 そんな不安を感じ取ったのか、狐は"そう慌てるでない"と言って、目の前の材料で試しに作ってみたというお菓子の入った器を持って来ると、まず初めに狐はイブキだけを呼んで、器に入っているらしいお菓子を見せる。

 

「わぁあ♪すっごいキラキラしてる〜♪」

 

 器の中身を見たイブキは、それはそれは楽しそうに目をキラキラと輝かせ、その愛らしい顔に満面の笑みを浮かべていた。

 

 そんなイブキの様子を見た三人も、一体どれほどのものかとついソワソワとしてしまい……狐に手招きされると共に、早足で近づいていき──器の中身を見たイロハ達は、皆一様に驚き目を見開いた。

 

「──凄いですね」

 

「なにこれ!宝石みたいなんだけど!」

 

「うん、凄いきれい……」

 

 彼女達の目には、色とりどりのキラキラと輝くお菓子が散りばめられた……まさしく宝石箱といっても過言ではない光景が映っていた。

 驚きに包まれた彼女たちの様子をその金色の瞳に捉えた狐は満足げに頷き、目の前のお菓子の名を告げる。

 

「このお菓子はな、"錦玉羹(きんぎょくかん)"というんじゃよ。……"琥珀糖"、といった方が伝わりやすいかの?」

 

 狐はそう言うが、彼女たちは錦玉羹も琥珀糖も聞いたことはない。合点がいっていない様子を視界に捉えた狐は、このキラキラとしたお菓子がどのようなものかを簡単に教えた。

 

 狐曰く──このお菓子は百鬼夜行で古くから食べられているお菓子で、この煌びやかな見た目も相まって、お土産としても実は結構人気らしい。見た目に反して材料の種類も、作る手間も少ないため、然程お菓子作りをしたことが無くても作りやすいだろうとのことで、今回選んだらしい。

 

「──さて、説明はこのくらいにして、皆で作ってみるとしようかの」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 錦玉羹……は言い難いため、琥珀糖ということにした彼女たちは、まずはどんな色で作るかを決めることになった。色んな色をうまく混ぜ合わせることでグラデーションを付けることができるらしいが、今回は皆初めてのため、単色でやってみようとのこと。

 

「イブキは黄色にするー!」

 

「じゃあ、あたしは赤にしよっかな!」

 

「なら、私は青にしようかな」

 

「では、私は残った緑にしますね」

 

 イブキはレモン、キララはイチゴ、エリカはブルーハワイ、イロハはメロンのかき氷シロップを選ぶ。使う色を決めた彼女たちは、狐の指示に従ってお菓子作りを始める。

 

 

「──まずは、鍋に水と粉寒天を入れて中火にかけて煮詰めておくれ」

 

 一人ずつ目の前に置かれた、既に分量の図られた水と粉寒天を鍋に入れた後、カセットコンロの火をつけ中火で煮詰める。……イブキは大丈夫だろうかとイロハは心配するが、今のところは特に問題なさそうである。

 

 粉寒天が完全に溶けたら、今度はグラニュー糖を加え、へらで混ぜながらさらに煮詰めていく。

 

「とろみがついてきたら、へらを持ち上げてみておくれ。……その時に垂れた雫がそのまま残ったら、火を止めるんじゃ」

 

「おじいちゃん、こんなかんじー?」

 

「うむ。よくできておるよ、イブキちゃん」

 

 "えへへ♪"と笑うイブキに癒されながらも、残る三人も煮詰めていき──ちょうどいい感じになったところで火を止める。

 

「うむうむ、みないい感じじゃのぅ。……ここまで来たら、もう出来たも同然じゃ」

 

「え、もうですか?」

 

 まだ材料を溶かしただけなのに、もう既に出来たも同然と聞いたイロハは疑問の言葉を口にする。かく言うキララやエリカもまた、"え、もう?"と驚きの表情を浮かべている。

 

「カカカッ!……いったじゃろ?簡単じゃって。後は今煮詰めたものを紙の器に流しいれて、かき氷しろっぷで色を付けたものを冷やして固めれば完成じゃ」

 

 狐の言葉を聞くや否や、イブキは早速紙の器へと流し入れ始める。イロハたちもそれに倣い、流し入れる。その後はかき氷シロップを加え、全体に均等に色づくように軽く混ぜた後は、器を冷蔵庫に入れて固まるまで待つ。

 

 

 

「うーん、なんか色が薄いような……もっと入れちゃおっと!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──しばらくして、固まったものを冷蔵庫から取り出す。

 

「……ちゃんと固まっておるようじゃの。後はそれを小さくちぎってやれば、琥珀糖の完成じゃ」

 

 "好みによって、三日ほど乾燥させてやるのもありじゃな"という狐の言葉を聞きながら、器から取り出したものをちぎっていく。そして──

 

「できたー!」

 

 ついに、琥珀糖が完成した。……といっても、ほとんどの時間は冷やし固まるのを待っているだけであったが。それぞれが作った琥珀糖がどのようになったかを順に確認していく。

 

 

 

 大きな声を上げて喜ぶイブキの目の前には、イエローダイヤモンドのような、淡い黄色の、明るく鮮やかな輝きを持つ琥珀糖

 

 エリカは、穏やかに澄んだ海の色を思わせる、アクアマリンのような水色の琥珀糖

 

 イロハの作ったものは鮮やかな新緑グリーンの際立つデマントイドガーネットのような琥珀糖

 

 

 三人が作ったものは、皆一様に宝石のような輝きを放っており、食べるのがもったいないと思ってしまうほどであった。……最後に、キララの作ったものを確認しようと、そちらに視線を向けると──

 

「んんー……?」

 

 ──首をかしげながら、自身の作った琥珀糖を眺めるキララの姿があった。

 

「どうしたの、キララちゃん」

 

「あ、エリカちゃん。……いやー、あたしが作ったのも綺麗といえば綺麗なんだけど……」

 

 "なんか宝石っていうよりもなー……"と、どこか納得のいかない様子の彼女に向けて、イブキは──

 

 

「わぁ、おさしみみたい!」

 

 

 "おいしそー!"と、笑顔で告げる。イブキの言葉を聞いた彼女は改めて自身の作った琥珀糖へと視線を移す。……数秒後

 

 

 

 

 

「マグロだこれ!」

 

 

 ──と、キララの嘆きが、辺り一帯に響き渡った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 お菓子作りを終えた彼女たちは、自身の作った琥珀糖を味見していた。

 

「うぅん……見た目マグロなのに甘くて変な感じするぅ……」

 

 "おいしいんだけどさぁ……"と、普段のキラキラとした様子はどこへやら、しょもしょもとした様子で琥珀糖を食べるキララ。自分以外の皆が宝石みたいに作れている中、自身だけ刺身のような見た目になってしまったことに残念がる彼女を見かねたのか、それとも単に他の味が気になっただけなのか……エリカは、"どうせなら皆で分け合わない?"と提案する。

 

「交換?するするー!」

 

「ずっと同じ味だけだと飽きちゃうかもしれないですし、いいですよ」

 

 エリカの提案に、イブキやイロハも同意する。そんな彼女たちに、感謝、嬉しさ、愛しさetc...ありとあらゆるプラスの感情があふれ出したキララは満面の笑みを浮かべ、"ありがとー!"と全身全霊で抱きしめた。

 

 

 

 

 その後は、互いの作った琥珀糖を食べながら談笑したり、イブキが狐に"あーん!"と食べさせたり、"あたしの作った琥珀糖をご飯の上にのせて鉄火丼って言ったら騙せるんじゃない?"と、やるかどうかは別として、悪戯に使えそうと笑い合っていた。

 

 

 しばらくすると、また鈴の音が鳴り始める。食べきれなかった分は持ち帰って、友達におすそ分けしたりしようということで、狐に用意してもらった袋へと小分けにして詰めていく。

 

「──すべて詰め終わりましたね。ではそろそろ帰りましょうか。……おじいさん、今日もありがとうございました」

 

「おじいちゃん、また来るねー!」

 

「次こそはあたしも、皆みたいにキラキラしたの作りたいから……ちゃんと教えてね、おじいちゃん!」

 

「あれはキララちゃんがシロップを入れすぎちゃっただけだと思うけどね……またね、おじいさん」

 

 "またね"と別れの挨拶をする彼女たちに向け、狐も"またいつでもおいで"と微笑みながら、扉が閉まるまで前足を振り続ける。

 

 

 

 扉が閉まったことを確認すると、"グググッ"と体を伸ばし──

 

「──さてと、次はどんなことをしようかのぅ」

 

 狐は、"新しい遊びを教えてあげるか、それともまたお菓子作りをするか……他の学区に連れて行ってあげるのも良いかもしれんのう"と、イブキたちがまた遊びに来てくれた時にどのようなことをしようかと、楽しそうに笑みを浮かべながら思いを馳せていた。




キラキラした和菓子で真っ先に思いついたお菓子が琥珀糖でした。なのでギャルなキララちゃんやエリカちゃんの初登場回はこれしかないなと……決してXで見た琥珀糖≒マグロネタをやりたかったとかそういう訳では無いです。


以下おまけ

琥珀糖は、三日ほど乾燥させると食感が変わると聞いていたキララは、自身の作った琥珀糖を日陰の、風通しの良いところで乾燥させていた。

──三日後

"漬けマグロだこれ!"という笑い声が、ゲヘナに響いたとか、響かなかったとか……
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