思い浮かぶネタの大半が、どちらかと言えば何話目記念とかに書くようなものばかりで困っております、作者です。
今回はタイトル通り、イブキちゃんと狐のおじいちゃんが出会った際のお話です。
──どうしたの?イロハ先輩
──"おじいちゃんとどうやって会ったのか知りたい"……?
──いいよ、教えてあげるっ!えっとね────
◇◇◇◇◇
──ある日のこと、イブキはゲヘナ学区内の街中を一人で歩いていた。
本来であれば誰かしら──特にイロハ──がそばに居るのだが、その日はシャーレの当番だったり、風紀委員長への嫌がらせに奔走してたり、催眠術の研究をしていたりと皆忙しそう……忙しそう?にしていたため、珍しく一人であった。
最初のうちは、いつもの様に生徒会室で絵を描いていた彼女であったのだが……どうやら画用紙の残り枚数が少なかったらしく、2、3枚描いたら紙が無くなってしまった。
……実を言うと、画用紙自体はマコトが大量に買い集めて会長席の引き出し内に仕舞っていたのだが……ゲヘナの良心たるイブキが勝手に人の机の引き出しを開けるはずもない。
──結果として、イブキは画用紙の存在に気付かず……また、偶には普段行かないような所を見てみたいっ!という無邪気な気持ちで、買い出し次いでに生徒会室を飛び出して行ったという訳であった。
……本来であれば、ゲヘナ学区内というテロリストの蔓延る危険極まりない場所に一人で出歩くべきでは無いのだが──そこは流石イブキと言うべきか、天真爛漫、周りに笑顔を振りまくゲヘナに舞い降りた天使の如き愛らしさを見せる彼女だけは巻き込むまいと、道行く先に立つ者たちは争いを辞めていた。
……誰がイブキちゃんにお菓子をあげるかという争いは秘密裏に行われていたが、気付かなければ無いのと同じである。
「どけ貴様らッ!イブキにお菓子をあげるのはこのマコト様の役目だッ!」
……この場にいない筈の人物の声が聞こえたような気もするが、全部気の所為である。
◇◇◇◇◇
──特に何事も無く、お店に辿り着いたイブキは画用紙を購入すると、お絵描きの題材を探す為に色々なところを見て回る。
魚の形をした雲や、野良猫、美味しそうなお菓子など、色んなものを見つけては買ったばかりの画用紙へと描いていく。
「……あれっ?」
ふとした拍子に、イブキは辺りをぐるりと見渡す。
「ここ、どこだろう……?」
どうやら、野良猫を追い掛けることに夢中になり過ぎてかなり遠くまで来てしまったらしく、気付けばイブキは見知らぬ場所にいた。
建築様式からしてゲヘナ自治区内ではありそうだが……人は疎らで、閑散としていた。
……今までこの様な状況になった事がなく、常に誰かと一緒にいたイブキはここに来て、今の自分はひとりぼっちだと言うことを悟る。
周りに頼れる人が居ないというその状況は、例え普段は明るい彼女であっても不安を抱くには十分であり……イブキは心細そうな表情を見せる。
「イロハ先輩……」
普段共にいる先輩の名を呟くが……都合よく現れるようなことは無い。
何とか学校へと戻ろうとするも、道など分からない彼女はより迷うという悪循環。……迷路のように入り組んだ路地裏に足を踏み入れてしまっていることにも気付かず、その歩みを進める。
圏外となっている為に電話することも出来ず、次第にイブキの眦に涙が溜まっていく。……その時
シャァン──
と、どこからとも無く鈴の音が聞こえてきた。……顔を上げると、目の前には先程までは存在しなかった筈の、狐の描かれた木の板が。
……よく見てみると取っ手のようなものが付いているそれは、どちらかと言うと扉のようではあったが──問題は、何故そのような物が目の前に現れたのか。
左右の壁に取り付けられているのであればまだ分かる……しかし扉は、何も無い空間に存在している。
未だ不安に駆られているイブキを置いて──"ギギギ……"と音を立てながらひとりでに、まるで招き入れるかのように扉は開いていく。
……本来であれば不用意に足を踏み入れるべきでは無い。しかし、助けを求めていた際に突如として現れたそれに、もしかしたら学校に帰れるんじゃないかという一抹の期待を込めて、イブキは扉を潜り──
◇◇◇◇◇
──結果として、イブキがたどり着いた先は学校では無かった。
それどころか、周りには一切の人影もなく、建物は石造りの道の先にある巨大な寝殿造りの建造物が鎮座するのみであった。
扉をくぐり抜ける際に光に包まれた彼女は、しばらくの間"しぱしぱ"と眩しそうに瞬かせていたが……
「わぁあっ♪」
先程までの陰鬱な景色とは違う、目の前に広がる美しい花々の咲き誇る幻想的な風景に──イブキは心を奪われた。
感動により、先程まで抱いていたはずの不安が払拭された彼女は、視線の先にある建造物へと歩みを進める。
──イブキは自身がくぐり抜けた扉が消えていたことに、終ぞ気づくことは無かった。
◇◇◇◇◇
──咲き誇る花々に目を奪われながらも、イブキは歩みを進め……やがて、自身の身の丈を優に超える、大きな大きな扉の前に立つ。
インターホンを押そうとしたが、辺りにはそのような物は一切なく……やむを得ず、イブキは大きな声で呼びかけた。
「こんにちはー!誰かいませんかー!」
…………
……しかし、返事は無い。もう一度大きな声で呼びかけようとした時──ゆっくりと、扉が開いていく。
まず彼女の目に映ったのは、白くて大きなもふもふとした毛に覆われた何か。上下するそれは呼吸をしているようであり、何かの生き物なのかなと思わせる。
次は、ゆらゆらと揺れ動く何か。尻尾のように見えるそれは、初めは一本だけかと思ったが……扉が開いていく度に、目に映る数は増えていく。
「……最近は、よく来客が訪れるのぅ」
──開かれた扉の先には、身の丈十尺を超える巨大な狐が鎮座していた。
「──初めまして、人の子よ」
狐は鎌首をもたげ、見るものを萎縮させてしまうような金色の瞳でイブキを見据える。
「此処へ訪れる為の扉は、迷う者、悩む者──そして、助けを求める者の前に現れ開かれるのじゃが……」
"お主は、なにゆえ此処へ訪れた?"──その狐の問いに対して、イブキは答える。
「えっとね……イブキ、学校への帰り道が分からなくなっちゃったの……」
「学校への帰り道が、か……なるほどのう……」
──……
「……んん?」
イブキの返答に、"そんなはずは……"と呟きながら何かを念ずる様に、目を瞑りながら狐は唸る。
「……どうやら、最近力が減った事で設定が狂ってしまっておったようじゃな……」
"まさかこのような弊害が有るとは……"と独り言ちる狐は、ふとイブキの方へと視線を向け──
「イブキ、もう学校に戻れない……?」
眦に涙を溜めながら不安げに己を見つめる少女を視界に捉えた狐は大いに慌てる。
……長年生きてきたとはいえ、最近まで人と接する機会が無くなっていた狐は、泣いてる人の子の慰め方を忘れていた。
どうしたものかと悩みに悩み、今の己に出来ることを考え──過去の記憶を遡る。
◇
【どうしたんじゃ?──よ。……泣いておるのか?】
【……狐か。……泣いてなどおらんわ、失礼な奴め】
【……丁度いい、乗せろ】
【なんじゃ、藪から棒に──って、もう乗っておるし……】
許可を得る前に女は狐の背に跨ると、"ほら、さっさと行かんか"と、さらさらふわふわした毛並みを堪能しながら催促する。
【……はぁ、仕方ないのう……どこか希望はあるかね】
【ん?そうさな──】
──街を見渡せるようなところなら、何処でも構わぬ
◇
もふっ、もふっ……
「──ほれ、泣くでない」
イブキを宥めるように、狐は自らの尻尾を使って頭を撫で……彼女の涙が止まったことを確認した狐は目の前で屈みこんだ。
キョトンとした表情を浮かべるイブキに向けて、なるべく怖がらせないように狐は語りかける。
「ここで会ったのも何かの縁じゃ、儂の背に乗るといい。──ちゃんと学校まで連れて行ってやるでな、安心しなさい」
「──いいの?……ありがとう、狐さんっ!」
イブキは一言礼を告げた後、狐の背によじ登る。
「わぁ、すっごくもふもふしてるっ!」
"あったかーい♪"と無邪気にはしゃぐイブキに懐かしさを感じながら、狐は立ち上がり、建物の外へと歩みを進める。
「──イブキちゃん、といったかね。……学校に帰る道中、少しだけ儂の散歩に付き合ってくれぬか?」
「お散歩?……いいよっ!」
イブキの返答に満足げに頷くと、狐は"しっかりとつかまっておるんじゃぞ?"と注意を促す──背に跨る少女がしっかりとつかまったことを確認した狐は、大きく吼噦をあげる。
狐の声が辺り一帯に響き渡るとともに、空気は揺れ──少し離れたところに扉が現れる。
「さて、それじゃあ行くとしようかの」
そう言うや否や、狐は扉に向かって駆けて行く。
「狐さん、このままじゃぶつかっちゃうよっ!?」
「──安心せい。年老いておるとは言え、そのようなへまはせぬよ」
その言葉を肯定するように、扉は開いていき──一気に狐は潜り抜けた。
◇◇◇◇◇
──扉を潜り抜けた直後、イブキの全身を風が打ち付ける。咄嗟に目を瞑った彼女であったが、すぐさまそよ風程度に収まったことでゆっくりと瞼を開き──目を見開く。
イブキの目線の先には──晴れ渡る青空と、天を駆ける虹。見上げることなく目に映るそれに、少女は驚き──キラキラと瞳を輝かせる。
「──すっごーい!狐さん、なんで空を飛べるのっ!?」
目に映るその光景に感動しながらも、イブキは訊ねる。──彼女の言う通り、狐は空を
「ふっふっふ、それはのぅ……500年以上生きてきたうえで身に着けた、不思議ぱわーというものじゃ!」
「500年!?狐さんっておじいちゃんだったの!?」
「うむ、儂はおじいちゃんじゃよ」
──そんなやり取りをつづけながら、一人と一匹は空を駆けて行く。
「おじいちゃんっ!イルカさんがいるよっ!」
「おぉ、ほんとじゃ。……どうせなら近くで見てみるかね」
──広大な海原を群れで泳ぐイルカのそばで、海の上を駆ける狐と、イルカに向けて"こんにちはー!"と挨拶するイブキ
「ここっておじいちゃんがいた場所と同じところ?」
「ふむ、そうじゃな。……ここは、儂が元々住んでた場所じゃよ」
──和風建築の建物が立ち並ぶ街並みの上空で、懐かしそうに目を細める狐と、直後に空に咲いた火の花に驚きながらも笑顔を見せるイブキ
「……あれ?あそこにいる人、こっちに向けて手を振ってるよ?」
「うん?……おぉ、元気そうで何よりじゃな。……折角だし、挨拶でもしていくかの」
──砂に埋もれた街並みの中、空を駆ける狐に向けて
「──ひさしぶり、おじいさん!また遊びに行くね!」
◇◇◇◇◇
──その後も、一人と一匹は色々な街の空を駆け──やがて、ゲヘナ学園の屋上へと降り立った。
「すまんのう、思ったよりも遅くなってしもうた……」
「大丈夫!イブキ、今日すっごく楽しかったから!」
心の底から楽しそうに笑顔を見せるイブキに向けて、狐もまた眦を下げながらゆるりと微笑んだ。
「ねぇ、おじいちゃん……また会える?」
自身も帰ろうと踵を返した狐の背に、寂しげな様子をにじませながらイブキは訊ねる。
「もちろんじゃよ。……イブキちゃんが会いたいときに、いつでもおいで」
"そうだ、これを渡しておこうかね"と、狐は目の前に小さな扉を開くと──一つの狐をかたどった飾りを取り出し、イブキへと差し出した。
キョトンとした表情で飾りと狐を交互に見るイブキに向けて、狐は語る。
「それは、儂がいるところへとつなぐための印のようなものじゃ。……決して、なくしてはいかんぞ?」
忠告に対し、目の前の少女が大きくうなずいたのを確認した狐は、"それじゃあ、またの"と、帰っていった。
狐の姿が見えなくなるまで手を振り続けたイブキは、屋上から生徒会室へと向かっていく。
──初めましては不安でいっぱいだったけど、その後の狐との散歩はとても楽しいものだった。
狐の背に乗り、いままで見たことのない様なものもたくさん見ることができた彼女は、"何から描こうかな?"と楽し気に鼻歌を歌いながら歩みを進める。
「──そうだっ!おじいちゃんの絵を描こう!」
"おじいちゃん、喜んでくれるかなー?"と、次に会った時のことへと思いを馳せながら、少女は生徒会室の扉を潜り抜けた。
> 見るものを萎縮させてしまうような金色の瞳
あくまでも一般人目線。狐にそのような意図は無いし、実はイブキちゃんも"綺麗な目だなー"と特に萎縮した様子もなかった。
更新を途絶えさせるようなつもりは無いので今後ともよろしくお願いします。
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