投稿していない間もじわじわとお気に入り登録してくださった方々が増え、気づけば1200名を越えておりました。
これまでお気に入り登録してくださった方々、また高評価をしてくださっていた方々、本当にありがとうございます。
今回は二部構成です。
また二部目の登場人物たちは、本当はもっと後(25、50話目などの節目)の登場予定でしたが……丁度いい機会なので書きました。
"ハロウィン"──それは、毎年十月三十一日に行われる祭りである。
古来では夏の終わりを告げ、冬の到来を祝うという意味合いがあった。また死後の世界の扉が開き、先祖の霊が帰ってくると考えられていたこの日は……今では、カボチャなどをくり抜いて作る顔を模した"ジャック・オー・ランタン"や、魔女やお化けなどの仮装をする日というイメージのが大きいだろう。
そんなハロウィンを象徴する最も有名な言葉が今宵、狐の世界に響く。
「──トリック・オア・トリートっ!お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうよ〜っ♪」
元気で可愛らしい声の正体は、ゲヘナに舞い降りた天使ことイブキちゃん。
彼女はいつものように狐に向かって飛び込むと、ふわふわとした毛並みを堪能し始める。
「イブキ、返事を聞く前におじいさんに飛びついてどうするんですか……」
「良い良い、元気なことはいい事じゃでな」
最近、保護者枠と言っても過言ではなくなってきた一人と一匹は共に笑みを浮かべながら、はしゃぐイブキに対して温かい目を向けていた。
◇◇◇◇◇
狐に対してじゃれつくイブキとそれを見守る虎の仮装をしたイロハ。……そんな彼女たちの元へ、二つの人影が近づいてくる。
「トリック・オア・トリート!おじいちゃん!お菓子を貰いに……って、イブキちゃんにイロハちゃんも来てるじゃん!」
「あっ!キララお姉ちゃん、エリカお姉ちゃん!こんばんは〜っ♪」
「こんばんはイブキちゃん。その衣装、似合ってるね」
やってきたのは、最早顔馴染みとなった夜桜キララと旗見エリカ。二人はそれぞれミイラと吸血鬼の装いに身を包んでおり……もちろんのこと、イブキもまたハロウィンを楽しむ為に仮装をしてこの場に訪れていた。
褒められたイブキは"えへへっ♪"と喜びを露にしながら狐から離れると、その場でくるりと回る。
普段の装いと違い、今の彼女は黒くて大きな三角帽子と、フリルのあしらわれた膝下程の丈の長めの服──いわゆる魔女っ子と言うべき仮装に身を包んでいた。
「おぉ、おぉ、エリカちゃんの言う通りじゃ」
"よく似合っておる"と狐は頷きながら褒めたあと、襖の奥から二本の爪で器用に小包を掴みイブキへと差し出す。
「イブキにくれるの?」
「もちろんじゃよ。はっぴーはろうぃん、と言うやつじゃ」
「ありがとうおじいちゃん!」
両手で丁寧に受けとった彼女は、狐に一言断りを入れると封を解き──辺りに、美味しそうな焼き菓子の香りが広がった。
「わぁあっ♪動物さんのクッキーがいっぱいだ〜!」
犬や猫、鳥に狐、イルカや魚……多種多様な生き物を象ったそれは、ハロウィンらしくかぼちゃ味のクッキーとなっていた。
出来たてのような仄かな温かさを残したクッキーを、イブキは早速口にする。
サク、サク……パクリと一つ食べ終えた彼女は──その美味しさに目を輝かせ、花が咲いたような満面の笑みを浮かべる。
「おじいちゃん!これすっごくおいしいっ♪」
「そうかそうか、喜んでもらえたようで何よりじゃ。もちろん、イロハちゃんたちの分もあるでな」
狐はそう言うと、一人一人に手渡していく。受け取った彼女たちもイブキと同じようにクッキーをひとつ摘んで口の中へと放り込み……その優しい甘さに、舌鼓を打つ。
「おいひい……おじいさん、和菓子以外も作れるんですね」
「うむ、長く生きておると同じものばかりでは飽きてしまうでな。最近までは人の子も滅多に来んくて時間だけはあった故……和洋中の料理やお菓子は一通り作ったかのぉ」
「うっそ、これおじいちゃんが作ったやつ!?」
「……凄いね、てっきり高級なお店のお菓子かと思っちゃった」
「ほっほっほ、年甲斐もなく張り切ったかいがあったというものじゃのう」
その後、他の友人たちや
持ち帰った先でクッキーを分けてもらい、食べたものたちは総じてその美味しさの虜となり、何処で買ったのかと訊ねたようだが……狐との約束もあるため、みな口を揃えて"ある人に貰った"としか言わなかった。
それ故に、手がかりは彼女たちが持っていた小包に描かれた狐の絵しかなく──しばらくの間、キヴォトス内で"幻の狐のお菓子屋さん"の噂が広がったそうな。
◇◇◇◇◇
???side
「ん……そういえば今日はハロウィンだったっけ」
最近になって、少しづつ人が増え始めたアビドス……その市街地の一角を歩く女性は、街を彩る飾りを目にしてポツリと呟いた。
……ここも、随分と変わった。自分がいた世界では終ぞ目にすることが出来なかった光景に、彼女は嬉しさと……僅かな寂しさを覚える。
この世界に訪れたのは自分以外に二人いた。……でも、そのうちの一人はもう居ない。
この世界の先生も、小さい私も、ホシノ先輩たちも……みんな私のことを気にかけてくれていて……私もここで生きていこうと思えたけれど、それでもやっぱり……
──"もし、また会えたなら"
……そう、思ってしまう。
「ん、楽しい日にこんなこと考えてちゃ駄目だよね……
彼女は抱いた思いを振り払いながら面を上げ、自室への扉に手をかけ開き──
シャアン……
「………………ぇ?」
──視線の先に広がる、自室とはかけ離れたその光景に目を見開いた。
辺り一面が秋模様に彩られ、顔の彫られたかぼちゃが陽気に歌う摩訶不思議で幻想的な光景……これまでの人生で、どの世界でもただの一度も目にしたことの無いようなその景色に、彼女はつい見入ってしまう。
……しかし、何時までもボーッとしているわけにはいかない。扉を開いた際に感じ取った感覚から、この事象が空間跳躍に類するものであると理解した彼女は警戒心を高める。
いったい、誰が、何のために……何時でも引き金を引く事が出来るように銃に手を添える彼女へと………近づく影がひとつ。
『"……シロコ?"』
「────ッ!?」
背後から聞こえてきた声を耳にしたその瞬間……彼女は両の目を、大きく、大きく見開いた。
あまりにも懐かしい声、消して聞き間違えるはずのない──もう二度と、聞くことは叶わぬと思っていたその声に、彼女は……別時間軸から訪れた砂狼シロコは、恐る恐る振り返る。
"そんなはずは無い"、"きっと、会いたいと思ってしまった私が無意識に生み出した幻聴に過ぎない"……そんな彼女の思いはすぐに裏切られることとなる。
──ただし、決して悪い意味ではない
「…………せん、せい?」
『"うん……久しぶりだね、シロ──っとと"』
懐かしい声……そして、二度と会うことが叶わぬと思っていた大切な人が、目の前にいる。
その事実を彼女の脳が理解するよりも前に、気づけば銃を投げ捨て、駆け出し──思い切り、抱きしめていた。
夢じゃない……この懐かしい温もりは、決して幻想なんかではない。
『"ふふっ……シロコは甘えんぼさんだね"』
「うんっ……ゔん゙っ……!」
……いったい、何時ぶりだろうか。名前を呼んでくれて、頭を、優しく撫でてくれて……
二度と感じることが出来ないと思っていた声を、姿を、温もりを前に……やがて抑えきれなくなった感情は、大粒の滴となってシロコの眦から溢れ出す。
今まで溜め込み続けたものを吐き出すように……彼女は先生の胸に抱かれながら、大きな声を上げ泣き続けた。
◇◇◇◇◇
「ごめんなさい……先生の服、汚しちゃった」
『"気にしないで、会いに行けなかった私にも責任があるわけだし……シロコは悪くないよ"』
昔と変わらぬ優しさに、シロコは再び涙を流してしまいそうになるのを堪えながら……先程から疑問に思っていたことを訊ねる。
「ねぇ、先生はどうしてここにいるの?……ここは一体どこ?向こうの建物的には百鬼夜行みたいだけど……こんな場所、
『"……うーん、どう説明したらいいかな"』
立て続けの質問に対し、困った様子で苦笑いを浮かべる先生の姿に申し訳なく思いながらも、シロコは疑問を投げかけるのを辞めない。
考えたくは無いけれど受け入れなければならない。先生はあの日、間違いなく──……
(……次、何時会えるかも分からない。もしかしたら……もう二度と、会うことが出来ないかもしれないから)
その後もシロコは、何度も、何度も質問を投げかけたり、最近あった出来事を話し続ける。──決して会話が途切れてしまわないように……もしも途切れてしまったら、次の瞬間には先生が居なくなってしまうかも知れないと、無意識のうちに恐れていたが故に。
……だから、なのだろう。願っていても、口に出すべきではないと思っていた言葉を、口走ってしまったのは。
「……せ、先生……その……もしよかったら…わ、私と……っ」
"一緒に、アビドスで過ごさない?"……決して望んではいけないと思っていた言葉を口にしてしまいそうになったシロコは、慌てた様子で自分の口を塞ぐ。
対する先生は……申し訳なく思いながらも、"それは出来ないよ"と彼女の願いを否定する。
『"私は既に死んでしまった身だからね。……正直、今こうしてシロコと話せているだけでも奇跡に近いんだ"』
「……っ」
『"さっきは会いに行けなかったって言ったけど、本当はちょっと違ってね……今の私は、ここから外に出てしまうと消えてしまうんだ"』
"ごめんね"……と申し訳なさそうに眉を下げながら謝る先生に、シロコは何も言えなくなってしまう。
理解はしていた……この会合が、度重なる奇跡の果てに成り立っていることくらい。だけど、それでも……理解していても、やっぱり悲しくて、寂しくて……再び涙が流れそうになってしまうのを彼女は堪え、ぎこちないながらも笑みを浮かべる。
「そっか……そう、だよね」
「ごめんなさい、先生……会えて嬉しかった」
こちらの世界の先生や対策委員会の皆と共に……というのは、まだ難しいかもしれないけれど──
「先生……私、こっちの世界でも頑張って生きていく。私を信じて送り出してくれた先生の分も、私が」
『"うん、シロコなら大丈夫。──なんせ、私の自慢の生徒だからね"』
「……ッ」
本当に、先生は変わらない……昔も今も、生徒思いの優しい人。
もっとたくさん話したいことはあるけれど……何時までも、こうしている事はできない。
シャアン……シャアン……
──と、この摩訶不思議な世界に訪れた時に聞こえてきた鈴の音が、どこからともなく聞こえてきた。
言われずとも理解した……もう、別れの時間なのだと。
「ねぇ、先生………また、会える?」
『"そうだね。──シロコが望むなら、きっとまた会えるよ"』
「そっか……なら、さよならじゃなくて──」
「──またね、先生」
『"うん──またね、シロコ"』
シロコは名残惜しく思う気持ちに蓋をして、この世界を後にする。誰かは分からないけれど……先生とまた会わせてくれたことに対して、感謝の念を抱きながら。
「先生、私どうやって帰ればいい?」
『"…………あっ"』
……帰り道が分からないシロコは、先生に連れられてこの世界の主である狐のおじいちゃんの元へと案内され、無事アビドスへと帰っていった。
以後、狐を模した飾りを大事そうに眺めては笑みを浮かべる彼女の姿が、アビドスでよく見られるようになったとか。
彼女が微笑む様を偶然見かけた人達は、みな口を揃えてこう言った。
──"とても、幸せそうであった"……と
シロコ
⇒別時間軸から訪れた彼女は、再び大切な人との再会を果たした。以降、度々狐の世界に足を踏み入れることとなる。
後日、三人で海へ釣りをしに行ったらしい。
先生
⇒シロコとともに別時間軸から訪れた先生。訪れた際には既に肉体は死しており、色彩によって生かされていた彼/彼女はこの世界の先生に二人の生徒を託し、その命を終えた。
……かに思えたが、何の因果か、それとも気まぐれか……狐の世界に招かれた先生は仮初の肉体を得て、再び大切な生徒と再会を果たした。現在の寿命は、本来先生が生きるはずだった分の時間。
後日、A.R.O.N.A改め、プラナという名を与えられた少女とも再会した。
狐のおじいちゃん
⇒己の世界に紛れ込んだ魂を見つけた狐は、最期まで生徒のために生き続けた先生がそのまま輪廻の輪にも帰ることなく消え去ることを良しとはしなかった。例え異なる世界の来訪者とはいえ……彼/彼女もまた、狐にとっては愛おしい人の子であるが故に。
狐は先生の魂が世界に馴染み、輪廻の輪に帰れるようにと魂に付随した情報をもとに、己の神秘を注いで創り出した仮初の肉体を与えた。
後日、ハロウィンやお盆等、幽世の扉が開き現世との境界が曖昧になる日に限るが、外の世界に出ることができるようにと先生の肉体を調整。……その結果、三人にものすごい勢いで感謝の意を示された。
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