ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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第十話

 

 

 みんなとの食事を終え、もう直ぐ眠る時間となった。私は夜空を見上げながら、ギターの調弦をしていた。その時に……

 

「こちらにいたんですね。」

「あ、マシュ……」

 

 声の聞こえた方へと向くと、マシュが横へと座ってきた。

 

「すみません、急な演奏会だったのでギターの調整をしてて……」

「いえ、此方に来てからは休む時間がほとんどありませんでしたからね。」

 

 そしてギターをケースにしまい、星を見上げながら呟く。

 

「改めて不思議な気分になります……私は今過去のフランスに来て、世界を救うために戦いに身を投げ出している。そして出会う方々は授業で習った人たちがいて、そんな人達と当たり前の様に会話してるなんて、カルデアに来る前には考えられない経験です。」

「……そうですね、お食事前に皆さんとお話を……といっても聞いてただけですが不思議でした。皆さんのことは書籍などで知っていて、知ってる通りの部分もあれば未知なところもたくさんありました。だからでしょうか、皆さんのことをとても近く感じてしまって……」

「そうですね、私もそんな気持ちです。」

「ですが、それはきっといえない事なんです。こんなふうに思うのは、だって今もこの国は危機の只中にあって多くの命が奪われている。だからダメなのに、なぜか私今日は、この日の出来事を……」

「楽しかった、ですよね……」

「___はい!」

 

 確かに、フランスの人達が戦争中で苦しんでるのに自分達だけがこんな風に楽しい経験をしてるのは不平等かもしれない。

 だけど、それを楽しいと思うのは間違いなのだろうか?その真実は分からない、だけどあの時楽しそうな顔を浮かべてたマシュさんを尊く私は感じたから、私は笑いながら視線を交えたのだった。そして、彼女もまた素敵な笑みを浮かべてそう返してくれた。

 

 

 

 そして、夜が明けた。私達は二手に分かれて、ジークフリートさんの捜索をすることにする。

 ジャンヌさんを筆頭とし、マリーさんと清姫さんのチーム。そして私を筆頭とし、マシュとモーツァルトさん、そしてエリザベートさんのチーム分けとなった。

 

「それじゃあ行きましょう!カルデアのマスター……じゃあなんか面倒ね。ねぇ、そういえば通信で“ぼっちちゃん”と呼ばれてたけどもしかしてアンタのこと?」

「あ、はい。そうです……」

「分かったわぼっち、これからよろしくね!アンタの演奏、最高にクールだったわ、これからもっと聴かせてね!」

(な、なんだろゥ……ものすごくエリザベートさんに注目されてるような……)

 

 熱い視線をエリザベートさんから受けて、溶けそうになってる最中、マリーさんとモーツァルトさんの話し声が聞こえてきた。

 

「アマデウス、みんなと仲良くするのよ?」

「もちろんさ、こっちはマシュがいる。彼女は良い音色を奏でるからね。昨日の寝息も最高だった。」

「っ!?ど、ど、ど、どういうことですか!?」

「音楽家だからね、耳がいいのさ。寝息だけじゃない、もっと細かい生活音まで含まれるとも。マシュにマリア、あとジャンヌに……ああ勿論、マスターくんもね。旅の間中、全て“脳内記録(ヴォルフガング・レコーダー)”に録音した。ただ、ドラサーヴァンツは興味ないから対象外だ。」

(セクハラサーヴァント……!!)

 

 何気に私もサラッと対象内に含まれてて、戦慄を覚えた。すると、マリーさんが申し訳なさそうに謝罪してきた。

 

「ごめんなさい、きっと昨日の意趣返しだわりでも許してあげて。彼から耳を取り上げたら変態性しか残らないもの!」

(あれ?これ謝罪なのかな……)

「失礼な、これも音楽活動さ。生き物ってのは活動するだけで汚いものさ。その真実と向き合って、初めて音楽は完成する。ま、僕の持論だがね。とまあ、講釈はいい。それよりもマリア。」

「?」

 

 モーツァルトさんがそう言ってマリーさんへと向く、だけど数秒の間が空いて……

 

「……何でもない、道中気をつけて。」

「ええ、じゃあねアマデウス。帰ったら久しぶりに、あなたのピアノを聞かせて頂戴。」

「____ああ。」

 

 その返事をした時のモーツァルトさんは、何処か儚さを感じ、その後にジャンヌさん達との別行動が始まったのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうした分かれから数日後。

 

「見えてきました、ティエールの街です。」

「よ、ようやく着きましたね……」

「ファヴニールのこともあります、ジークフリートが居れば良いのですが。」

「それよりも休憩したいー!歩くのに飽きちゃったんだもん!」

「道中は君のその不満で煩かったが、同感だ。マリア達とも定時連絡しないといけないし。」

「……あの、モーツァルトさん。」

「何だい?」

 

 それは、戦略とか今後のためとかではなくあくまでも純粋な好奇心だったかもしれない。

 

「あ、マリーさんの事ですが……やっぱ授業とかで何となく聞いた印象とは違うので……もっとこう、我儘な人かと思ってました。」

「ははは、我儘なのはその通りだと思うぜ?でも過去ってのは色んな伝わり方をするからね。」

「それで、なんですけど……マリーさんって、どういう人だったんですか?」

 

 そう問いかけると、モーツァルトさんは驚いたような表情を浮かべた。だけど直後に……

 

「僕にそれを聞くのか、けどいいよ。でも、これは僕とマリアの話じゃない。」

 

 

 

 そうして教えてもらった話は、想像を絶するものだった。マリー・アントワネットという女性が、どのように生き、どのように死んだのか。

 

 

 まず、前に聞いたように14歳で結婚。だけどそれは戦略結婚。それでも夫とは仲睦まじく、子宝にも恵まれていた。

 そして王妃としても国民へ尽くし、飢饉においては宮廷費を削り寄付金として貴族たちに援助を求めるほどだった。

 

 

 だけど、革命の熱狂は残酷だった。現代でも起こり得るように、デマゴーグによって処刑台へと立たされる運命となった。

 息子は虐待の末に殺され、娘はそれによって心に深い傷を負った。

 

 こうして国民に全てを奪われた果てに処刑された。その末期、民が向けたものは絶望と悲嘆ではなく、希望と快哉だった。

 

 

 

「酷い話、私がその場にいたら国民全員血祭りにしてあげたのに。」

 

 モーツァルトさんの話を聞いて、エリザベートさんは赤い殺意を漏らしながらそう言っていた。

 

「友情には感謝するが、色々台無しだよ。で、どうだいマスターくん?君が聞きたいって言ったからこうして話したんだけど。」

「……そんな悲劇に遭っても、マリーさんはフランスを守るために戦ってくれるんですね。そこを、私は凄いと思います。」

「まぁ、本人はそんな目に遭う前の姿だ。そこら辺、実感は薄いんじゃないかな。だけど、凄い人か……どうだろう、僕にはわからないな……」

 

 そんな話をして数分後、ジャンヌちゃん達からの通信が入った。どうやら彼女達の到着した街、モンリュソンでジークフリートさんが居たようだ。ジャンヌちゃん達は民家の一室にいて、そこには見慣れない男性がまず現れた。

 

『あなたが未来から来たマスターですね、私はライダー。真名を“ゲオルギウス”と言います。』

「あ、は、はい。後藤ひとりです……えっと、ドラゴンスレイヤーの方は……」

『ええ、ジークフリートは確かにこちらにおります。そうですね、見てもらった方が早いでしょう。』

 

 そういってゲオルギウスさんが脇に退くとベッドが映り、そこには一人の男性がいた。その身体には、明らかに呪いとわかる模様がほぼ全身を蝕んでいて、それを証明するように苦しそうな表情を浮かべていた。そんな状態で、男性は私と目線を交わし声を出した。

 

『セイバー……“ジークフリート”……すまない、このような姿で挨拶を……』

「あ、そ、その身体……」

『ええ、お察しの通り呪いと呼ばれるものです。彼には複数の呪いがかけられており、これを解呪しない限りはドラゴンスレイヤーとしての力どころかまともな戦闘すら行えません。』

「そ、そんな……」

 

 それじゃファブニールを倒せない……そう絶望しそうになった時にジャンヌちゃんからの声が差し込まれた。

 

『ご安心をマスター、私とゲオルギウスには解呪の力があります。時間はかかりますが、二人でやれば呪いを解くことができるでしょう。』

「そ、それなら……」

 

 良かったと一安心した、時間はかかるようだけどこれならファブニールを倒す力を得られる。

 そう安堵した時、モーツァルトさんからの声が聞こえた。

 

「ちょっと待った、静かに。」

「え、どうしま……」

「なんだか嫌な音が……一旦離れろ!魔力反応も抑えるんだ!ファブニールだ、奴が近づいてくる!」

「ッ!?」

 

 モーツァルトのその叫びの直後、私達は深い茂みの中へと潜り込んだ。暫くすれば、上空にはあの黒い巨体、ファブニールと複数のワイバーンが飛んでいた。

 しかし幸い、こちらに気付くことなく何処かへと飛び去っていって。

 

「……行ったか、またどこぞの街でも灼いた帰りだろう。」

 

 どこかの街、そう聞いてまた犠牲者が出たのか……と、辛い心地になった直後、マシュさんが何かに気付いたようで……

 

「待ってください、あの方角……オルレアンから少しだけ外れています。ドクター、これは……」

「こちらでルートを割り出した、ファブニールが向かったのはオルレアンじゃない。向かっているのは、ジャンヌ達のいる街“モンリュソン”だ…」

「……えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中に、馬の蹄の音が鳴り響く。私達は近場から馬を連れ出して急いでモンリュソンへと向かっている。

 通信で聞いた話では、マリーさんが一人で残って街を守ると言い出したらしい。ジャンヌさんが止めに入ったそうだけど、それでも曲げなかったようだ。だけど……

 

(早く、お願い早く着いて!マリーさんのところに早く着かないと……一人でなんて無茶だ、私たちが間に合えばきっと……)

「いやぁ遠いね、マリアがやられるまでに間に合わないねコレ。」

「ッ!?」

 

 私がそう焦ってると、モーツァルトさんがそんな残酷なことを平然と口にした。それは、あんな話を聞いてたのに……いや、だかるこそ憤りを感じずにはいられなくて……

 

「な、なんてことを言うんですか!?あんなにマリーさんを…」

 

 続けて言おうとした瞬間、モーツァルトの後ろに座ってたエリザベートさんが槍を彼の首元へと突きつけていた。

 

「マリーは私の友達よ、それ以上ふざけたこと言うなら殺すわ。」

「………」

「マリーのこと好きじゃなかったの?あんだけ色々話してたのに。」

「……彼女に対する情熱はもうない、僕にとっては“特別な分岐”ではあったけどね。」

「モーツァルトさん……」

 

 不思議で仕方なかった、モーツァルトはマリーさんのことが好きなのに、死にそうなのになんでこんなに冷静な態度でいられるのか。

 するとモーツァルトさんが呟くように話し始めた。

 

「マリアが現界して、最初に合流したのが僕だった。彼女は少しだけ、この聖杯戦争が歪んでいることを喜んでいたんだ。自分の願望を叶えるための殺し合いではなく、人々を守る命として喚ばれたことに……今度こそ間違えず、大切な人々と国を守るために。正しいことを正しく行うのだと、そう…マリアは誓ったんだ……」

「……生前の死とは違うということですか?」

「さてね?たとえ同じモノだとしても、マリアは同じ選択をするんじゃないかな?」

 

 

……私もきっと、そうだと思う。すると、エリザベートさんは槍を首元から下ろした。

 

「なんだか哀しいわね、恋じゃないなんて。」

「そんなことはないさ、愛ではあるからね。」

「……」

 

 マリーさんは国民を、フランスを今度こそ守るために戦っている。それは単純に、フランスを愛しているから。それが例え、憎しみの果てに殺されたのだとしても。

 愛と憎しみ、それに対する私の答えはまだ出ない。だけどそれでも、私は見捨てるなんてことは出来ないから……

 

「マシュ、馬を走らせてください。」

「っ!ですが、先輩……」

「お願いします。」

 

 躊躇うマシュさんに、食い気味に私は言った。

 

「……はい!!」

『ぼっちちゃん、マシュ!冷静になってくれ!!サーヴァント一騎ぐらいの損害は覚悟……』

【覚悟なんてありません】

『………』

 

 ロマンさんからの通信は聞こえている、だけど私はそれを振り切るようにマリーさんの元へと進んでいく。

 

『アマデウス、エリザベート、二人を追いかけてくれるか?』

「もちろん、ジャンヌ達も同じ方向から来るだろうし。急ぐことは無意味ではないさ。」

「……諦めずに走り続ける、そう言うの嫌いじゃないわよ私。」

「君からそう言う言葉を聞けて、結構安堵しているよ。ただ、僕らはサーヴァント。“境界記録帯(ゴーストライナー)”詰まるところ死者だからね。だから覚悟していた、そのぐらいの違いなんて。」

 

 後ろからモーツァルトさんの声が、そんな言葉が聞こえてくる。いつも通りの口調といえば、確かにその通りなんだと思う。

 

「だけど、うん……確かに残念ではあるんだ。ピアノ、聴かせられなかった。」

「………」

「………」

「………」

「君が7歳、僕が6歳。あの頃からずっとすれ違ってばかりだ、僕達は。」

 

 そうして私達は馬に跨り、走り続けていた。距離にして50km。仮に車で走ってたとしても、すぐに到着する距離じゃない。

 それでも向かう、向かい続ける。

 

 

 

 

 結果、私たちが間に合うことはなかった。

 

 

 

 だけど、その街に流される血はなかった。失った命は、マリーさんだけ。街の人々は無傷で離脱し、ジークフリートさんの呪いは完治された。

 

 そう、彼女のフランスに捧げた愛が希望に繋がった。

 

 

空に輝きを、地には恵みを、そして____

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私達はオルレアンに到着し、決戦を始めようとしていた。

 




次回、いよいよ決戦です
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