ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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急ですが、筆が乗ってるのでいつもとは違う時間に更新させていただきました。


第十一話

 

 

 決戦の地、オルレアンで私達は戦況を繰り広げていた。周囲をワイバーンの大群に囲まれており、その対応に追われている。

 

「いや、ちょっと多すぎるな!」

「弱音は言ってられません!」

 

 損傷は軽いものとはいえ、キリがない。いつまでもこの場で足止めを喰らっていたら終わりが訪れない。なら、消耗が大きくなるけど一度宝具で強引に……そう考えた時だった。

 

『気をつけろみんな、サーヴァント反応複数!高速で飛来する!』

 

 ロマンさんからのその通信が差し込んだ直後、モーツァルトさん、エリザベートさん、ジャンヌちゃんが三騎のサーヴァントの突撃を喰らって分断された。

 

「み、みなさ……」

「追いかけましょう、マスターさん!」

「あ、は、はい!」

『まだだ、更に三騎来る!マシュ、ジークフリート!』

 

 更に追加で突撃してきた三騎のサーヴァント、その同時攻撃をマシュとジークフリートさんが防いでくれた。余波で衝撃が放射状に広がる。

 

(凄い衝撃だ……)

「任せろ。」

 

 そう呟いた直後、ジークフリートさんがただ一度の剣の一振りで三騎のサーヴァントを弾き飛ばした。

 凄い、数の不利をまるでモノともしない。これがジークフリートさんの実力……

 

「……気をつけろ。皆、一線級の英霊だ。」

「え、あ、知ってるんですか?」

「リヨンで戦った、他の場所でも……しかし……」

「訝しむことはない、竜殺し(セイバー)

 

 眉を顰め、決して油断した様子を見せずにそう呟くジークフリートさん。その様子を見てか、敵側の白髪の男性がそう言い放った。

 

「真っ当な英霊であれば、己の行いに耐え切れず歪みもする。」

「____」

「このセイバーなぞ、いくら殺そうと変わらなかったが、敬愛する王妃が消滅した途端この様だ。」

 

 王妃、つまりマリーさんのことだと察する。詳しくは知らないけど、恐らく縁深い人なんだろう。

 敵側とはいえ酷い、そんなの悲劇でしかない……

 

「貴方は平気そうだが、ランサー。」

「余も落ち果てた、正に“悪魔(ドラクル)”だ。」

「そうか、では俺が終わらせよう。戦闘再開だ、闘えるなマスター?」

「……」

 

 剣を再度構え直し、私にそう問いかけるジークフリートさん。そうだ、私はあの夜に彼と契約して………

 

 

 

 

 

 

 それは、数日前の出来事。まず、エリザベートさんと色々と話していた。

 

【未来の自分と、ですか。】

【そ、敵のアサシンって私と同一人物なの。そいつのと決着は、必ず私自身の手で始末をつけるわ。】

【そう、なんですね……】

【それでぼっち、アンタは何のために戦うの?】

【ッ!】

 

 エリザベートさんにそう問いかけられた瞬間、私は私自身でもびっくりするほど体を震わせていた。

 

【マリーの消滅したこと、まだ気持ちの整理がついてないんでしょう?】

【……………はい。】

【無理もないことよ、闘いは残酷と何となくわかっていても実体験となると訳が違う……けどそれだけじゃなくて、闇雲に走ってる部分もあるんじゃない?】

【え……それは、どういう?】

【義務感、っていえばいいのかしら?それだけのために動いてる、私から見た貴女はそんなイメージ。】

【それは……】

 

 そう言われるとそうかも?なんて思ってしまう、だけど同時に本当にそれだけなのか、という疑問もまた生まれてしまう。

 つまり曖昧、答えが出せない状況だ。

 

【別にそれ自体、悪いことじゃないわ。生きるために美味しくないご飯を食べないといけない時があるし、お腹が苦しいから臭い便所に行かないといけない時だってある。そして、生きるためにやりたくもない戦争に身を投げないといけなくなる。生き物が生きるってことは、そういう義務に付きまとうことだもの。そこに好き嫌いはあっても、良し悪しは出るものじゃないわ。】

【は、はぁ……】

【だけど、それだけだと納得もできないことだってあるものよ。義務感だけで闘える奴なんて、きっとほんの一握りだわ。】

【そ、そういうものですか?】

【少なくとも、私から見た貴女はそんな気がするわ。多分このままだと、きっと事故って死んでしまうと思う。だから……】

 

 サラッとそんな恐ろしいことエリザベートさんは言いながら立ち上がり、そして私の額にピンクの爪を突きつけながら、少し笑顔を見せながら続けて言い放った。

 

【だからアンタが何を“するべきか”ではなくて、何を“したいのか”をまず決めることね。これ、この特異点が終わるまでの宿題よ。それじゃあ、また後でね。】

 

 そんな宿題をエリザベートさんは、私に突きつけて行った。まだ、その宿題は果たせていないまま。

 

 

 

 

 

 そしてその後に、今度はジークフリートさんと話をした。歴史におけるジークフリートさんのことは、マシュからある程度聞いているけど、それでもどんな話をすればいいのか迷っていたら……

 

【……俺は、この地に召喚されたのは比較的早い方でな。】

【あ、はい……】

【放浪してたところ成り行きでリヨンという街を、守護することになった。】

【あ、リ、リヨンって確か……】

【あぁ、最終的に滅びた。俺は守り切れなかったのだ。相手は複数のサーヴァントなのに対し、俺は魔力供給の無い体故に敵わず。幸いその中の一騎が匿ってくれることがなかったら、そのままやられていただろう。】

(あ、それがあのマルタさん、だったのかな?)

 

 始めての契約で、ジャンヌさんと戦った時のあの人。それを脳裏に浮かべる。

 

【その後、呪いを受け動かずにいた俺は鎮魂に赴いたゲオルギウスに救出された。情けない話だ、守るべきものを守れず、己の正義をやれたはずのことをやれなかった……】

【あ、その……もしかして、ジークフリートさんは後悔、して……】

【……呪いを受けてさえいなければ、あの少女を犠牲にすることもなかった。そう思うよ。】

 

 なんだか、ジークフリートさんは今の私と似ている。事前にダヴィンチちゃんに、契約できる英霊は後一人と言われていた。

 その重圧に圧されて私は契約をしなかった。それを後悔していた。

 

【だからこそ、力を取り戻した今、俺は俺自身の願いとしてこのフランスを救いたい。】

【……】

【後藤ひとり、君はどうなんだ?】

【あ、え?】

 

 不意にジークフリートさんが私と視線を絡めながら、そう問いかけてきた。

 

【言われるがまま、正しい理屈として俺と契約するのもいいだろう。それ自体は俺も臨むところだ。】

【あ、えっと………それは……】

【だが、それだけでいいのか?言われるがまま戦い抜いて、だというのなら君が抱いた悔いと迷いは、何のためにあったんだ?】

 

 それは直前にエリザベートさんにも言われたことと、似ていた。つまるところ、私自身の決断が迫られてる、そういうことなのかもしれない。

 それをうっすらと振り返り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王妃よ……我が過ちを許したまえ……」

 

 私達の損害が出ないまま、敵側のセイバーが撃破された。

 

『敵セイバー撃破、狂化を受けている敵をああも簡単に……これがジークフリート。』

 

 その圧倒的な実力に、私も思わず見入ってしまってた。残り二騎、この調子で切り抜けようとした時だった。

 

『残り二騎から魔力反応、宝具が来るぞ!』

 

 宝具、もはやいうまでもなくサーヴァントの持つ奥の手。なら、こちらも選択する手は一つのみ。

 

「ジークフリートさん!」

「わかってる“マスター”、宝具には宝具で対抗する。」

 

 直後、ジークフリートさんの剣から空へ届きそうなほどの光が迸る。

 

『これは、嘘だろ!?真エーテル!?だけど……』

闇天の弓(タウロポロス)!」

極刑王(カズィクル・ベイ)!」

 

 上空から無数の黒い矢、そして地上から赤黒い荊が迫り来る。どちらも直撃すれば死は免れず、そして纏めてこちらを殺し尽くすだろう。

 

【私もみんなも、マリーさんのことが好きだったと思いました。決して長い時間ではなかったけど、マリーさんのおかげでこのフランスで楽しい時間を過ごせた、マシュも楽しそうな顔をしてましたし。】

【そうか……】

【だから、ジークフリートさん。どうか契約をお願いします。これは義務感だけでなく、誰かに言われたからだけじゃありません。犠牲が生まれたのなら、その犠牲を無駄にしないためにも……私は私の意思で、この戦いを駆け抜けたいです!】

 

 きっとこの答えは、エリザベートさんの出した宿題の中では未完成だと思う。だけどそれだけでも、ジークフリートさんは応えてくれて契約を結んでくれた。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今、洛陽に至るー撃ち落とす!!

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

暗黒の矢と紅蓮の薔薇が、青白い大剣の輝きに纏めて飲み込まれた。そしてそのまま進んでいき、敵のアーチャーとランサーも巻き込まれていった。

 

 

 その刹那、アーチャーは悲しげな目を……ランサーはほんの少し笑ってたような気がしたが、私はそれを振り返る余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 三騎を撃退し、私達はそのまま進み続けていた。

 

『分断された三騎はそれぞれ交戦中だ、ジャンヌとエリザベートはそうやられはしないだろう。だが、アマデウスは心配だ。彼は戦闘力に乏しいから……』

「……」

『とはいえ助けに向かう余裕はない、竜の魔女が更にサーヴァントを召喚しないとは限らないからだ。』

「わかってる、この闘いは長引けばそれだけ不利になる。このまま進むぞ、マスターもそれでいいな?」

「あ、は、はい!」

 

 そんなロマンさんからの通信が入り、ジークフリートさんに問いかけられて私はそう答えた。

 だけど、その直後に……

 

「…マシュ?」

 

 マシュが不意に、走る足を止めて身体を震わせていた。こんな姿を見せるのは、何だか珍しい気がする。

 

先輩(マスター)……お願いが、あります……わたし、その、アマデウスさんの事が、心配で……救援に行っても、よろしいでしょうか?」

 

 精一杯、まるで初めてお小遣いをねだる小さな子のような表情をしながらマシュはそう言った。

 ああ、そうか……ずっと私の専属サーヴァントとしての使命と義務に全うしていて、それでいて初めて自分の本当の気持ちを口にしたんだ。なら、私が返す言葉は決まっている。

 

「はい、行ってください。」

「あ、え、良いんですか?」

「はい……寧ろ私の分もお願いします。モーツァルトさんは音楽の大先輩ということもありますし、色々と教わりましたから……あ、えっと、もちろん戦力が減るのは不安ですが……」

「その間、俺が彼女を守る。思うまま行ってくるといい。」

「……あ、ありがとうございます!行ってきます!!」

 

 そう言ってマシュは、モーツァルトさんのところへと駆け出していった。その直後に通信が入り……

 

『……ぼっちちゃん、ありがとう。』

「あ、いえそんな……え、えへへ……」

 

 通信越しにロマンさんに感謝され、私は何だか照れ臭くなった。そして、昨夜のことを思い出す。

 

 

 

【君たち、何か悩んでるのかな?】

【ま、またヴォルフガング・レコードですか!?】

【いやいや、ただの勘だよ。例えばだがマスターくん、君は集団で演奏するのが苦手だろう?】

【うっ……】

 

 さすがは偉大な音楽家、加えて耳も良いらしいのだからもはや言い訳なんてできない。いや、そもそもこの件に関しては今更言い訳して誤魔化すつもりはなかったのだけど……

 すると、マシュが身を乗り出して口を開いた。

 

【そ、それなんです。先輩、普段単独で演奏する時は素人の私ですら上手いと感じさせる程なのに、アマデウスさんとの演奏会の時は、上手いことは上手いのですが、なんだかノリに乗れてない感じがして……】

【あ、はい……私、人見知りだから、うまく周りと合わせられなくて……】

【そうなんですね……ですがそれでも不思議で、みんなと演奏している時、先輩はすごく楽しそうでした。それも、一番輝いてたというか……】

【そ、そうでしたか?】

【その“気持ち”が、私にはわからなくて……】

【え、わ、わからない、ですか?】

【………続けて。】

 

 マシュのその疑問に、私は戸惑いを覚えた。気持ちがわからないとは、どういうことだろう?一緒に聞いていたモーツァルトさんは、神妙な顔で続けていうように促していた。

 

【マリーさんが亡くなったのは確かに悲しいです、ですが他に選択肢がなかった……その中でそれぞれ正しい選択をした。だから後悔なんて生まれるはずがないのに、正しいのに悔やむなんて変なはずです。そして逆に、先輩のように苦手だからやる必要もないことを無理にやって、それでいて楽しくて、讃えられるなんて……どうしてもおかしいはずなのに、笑っていて不思議なんです。私はそんな風に教わらなかったから……】

【みんなと同じようにマリーのことで悔やんで、マスターくんのように困難な事を楽しんでいる自分がいる、そんなところかな?そんな非合理的な部分を許容することに躊躇っている、って感じだろう。】

【っ!どうして……】

【やれやれ……マシュ、君は本当に自由を得たばかりの人間なんだね。】

【自由を、得たばかり……】

 

 マシュが自由を得たばかり、そう聞いて私はハッとしてしまった。思えばマシュの生い立ちとかは特に聞いた事がなかった、だけど確かに話を聞いているとそれっぽいところが何となく見られる気がする。

 

【そう……かもしれません、外のことをあまり知らずに生きてたので……】

 

 その言葉で察するに、もしかしたらカルデアから一歩も出られなかったのかもしれない。あの吹雪だらけの環境だからかもしれないが、それ以外にももしかしたら……

 

【……だから戸惑っているんだ、教わってきた価値観から外れた感情を抱いてしまったから。】

【でも、ソレは私に要らないはずです。だって、私に何かを選ぶ資格なんて……】

【マシュ、たとえ君がサーヴァント、戦うだけの人間だったとしても……何かを好きになる義務はある。自由はないかもしれないけど、義務はあるんだ。】

【………義務?権利や資格などではなくて?】

【そうさ、それこそ君のマスターを見ればわかることだろう?】

【あ、え……】

 

 マシュとモーツァルトさんの視線が、私に集まる。不意なことで萎縮してしまったけど、ここは私が言わないといけない。

 

【わ、私は……昔から運動も苦手で、勉強もダメダメで、話す時必ずあっていってしまうダメ人間で……それでも、ある日見た番組で私みたいなダメ人間でも、バンドなら輝けるかも?って思って初めて見たんです。】

【先輩……】

【も、もちろん初めは大変でした。慣れないことも多かったけど、それでも毎日練習して、楽しいと思えて……だからギターとバンドは、私にとって掛け替えのないものになったんです。】

 

 そういうとマシュは戸惑いながらも感心したような表情をしていた、思えばマシュに私のことを詳しく話したのはこれが初めてだった。

 

【こういうことさ、マシュ。人間にはその責任がある、考える知性が有るのだから。何を好きと感じて、逆に嫌いと感じるか。そして何かを尊び何かを邪悪と判断するか。それはマスターくんがギターを好きになったように、君自身が決めることだ。誰かからの言いなりでも周りに無理に合わせることでもない。だからマシュ、君は選んでいかなきゃいけないのさ。恐れても不安になってもいい、それでも自分の意思で__】

 

 そうだ、マシュは自分で選んで行動できる。きっとマシュは“誰かを守りたい”という願いがあるはずだから。冬木でクー・フーリンさんが言ったあの言葉が、よりそれを強くさせたんだと思う。

 

【まぁ、選んだ末にろくでもない人生を送るヤツだっている。僕みたいにね。】

【そ、そんなことないと思います!たくさんの名曲を残したじゃないですか!】

 

 自虐するようにそういうモーツァルトさんに、マシュはそうフォローする言葉を投げる。私もそれに同意するように頷くが、本人は苦笑を浮かべてた。

 

【いや、実際ろくでもない人生だったよ?音楽のために多くの人間を狂わせた、まさに悪魔だ。何より、彼女より先に死んでしまった。たった一人の初恋の女の子の、死に際にさえ立ち会えなかった。】

 

 そう、間違いなくマリーさんが亡くなったことはモーツァルトさんの心に影を刺している。

 

 

 

 

 

「………」

 

 だから、マシュが自ら出向いてくれた事が嬉しかった。そんな風に影を背負って欲しくなかったから。あの二人なら勝てる、私はそう信じている。マシュの後ろ姿が見えなくなったのを見届けて……

 

「行きましょう。」

「ああ」

「はい」

 

 ジークフリートさんと清姫さんにそう言い、私達は前進していった。

その道中で美しくも儚いピアノの音が聞こえ、暫くしてロマンさんから敵のアサシンの消失が確認され、それを私は誇らしく思うのだった。

 

 




なるべく早めに次を出せるように努めます。
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