ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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いや本当に申し訳ないです、熱が篭って書きすぎました……


第十二話

 

 

 

 

 

 私達が三騎のサーヴァントを撃破し、マシュがモーツァルトさんと合流した頃。ジャンヌちゃんはまだ交戦していたようだ。そこにゲオルギウスさんが到着し、その後にロマンさんの協力申請でフランス兵がこの地に来てくれた。そしてエリザベートさんは既に未来の自分であるカーミラを倒してモーツァルトさんを連れてジャンヌちゃんと合流、そして交代したらしい。そして私の元にマシュも戻ってきた。

 そのおかげで戦況がこちらに大きく傾いた……なんてことはなかった。まだ大きな敵がいる。

 

『ぼっちちゃん、状況は!?』

「き、急に飛竜の攻撃が激しくなって囲まれてます!」

「ファヴニールの影響だ、奴に当てられて攻撃性が上がってる!」

「先輩、大丈夫ですか!?魔力消費量が増えて、体に負担が……」

「だ、大丈夫です!私のことは気にしな…」

 

 本音を言えばすごく辛い、多分倒れてしまったらそのまま寝てしまって二度と覚めない気がするほどだ。だけど、ここで止まってるわけにはいかない……と思ってた時だった。

 

「オォォォォォッ!」

「え、ファブニール!?」

「構えろ、俺たちを狙っている!」

 

 そう、あの黒い巨竜ファブニールが私たちの前に現れた。その大きな顎門に黒炎が漏れ始めた。

 

「ファヴニールが魔力の収束を開始した、マシュ!急いで宝具を…」

 

 マシュの宝具で防御を狙おうとしたら、ファブニールの口により強力な輝きが集まっていた。

 

『じ、自身の魔力だけでなく、大気中の魔力まで吸収しているだと!?こんなのぼっちちゃん達はおろか、オルレアン一体が吹き飛ぶぞ!』

「くっ、マシュの宝具では駄目だ!オレのホウグで相殺スル、ますたぁ!」

 

 気がつけば私の視界が歪んで全身が弛緩し、ジークフリートさんの言葉が曖昧に聞こえたまま地面に倒れた。

 

「先輩!」

(魔力消費が限界値を超えた!)

『強制退去の準備を!!』

『やってます!ですがファブニールによる大源(マナ)の集束で磁場が歪んで……駄目です!間に合いません!!』

『ぼっちちゃん!!』

 

 もうダメだ、ファブニールの黒炎によって私たちは死ぬんだ……そう思った時。

 

「ハアアアァァァァアアアアッ!!」

 

 まるで初めてフランスに来た時、小さい子供を庇った私を守ってくれた時みたいにジャンヌちゃんがファブニールの前へと飛び込んできた。

 そして、握った旗を強引にファブニールの顎門へと叩き込んだ。

 

「!!」

(旗でかち上げて炎の射線をズラす気か!?だが、体格差がありすぎる!)

(無茶だ、ジャンヌちゃん……)

(彼女の力では……)

 

 私もジークフリートさんも、流石に無茶がすぎると考えていた。しかし、ジャンヌちゃんは……

 

「アアアァァァッ!」

 

 右拳を旗の柄に叩き込み、無理矢理旗を動かしてファブニールの顎を上げた。

 それはあまりに驚天動地という言葉が相応しく、ロマンさんやジークフリートさん、或いは竜の魔女すらも驚愕の場となった。

 

『む、無理矢理かち上げたぁぁっ!?』

 

 あまりに出鱈目な出来事で目を奪われたけど、結果として良かった。ジャンヌちゃんのおかげで全滅を免れたのだから。

 

「マスター!」

 

 だから、ジャンヌちゃんも参加したことで私達の戦況が好転する。このまま私たちのファブニールとの決戦に参加してほしい。

 

「ご無事で……ッ!」

 

 そう考えた上で私は、地面に伏せたまま“竜の魔女”の方へと指差した。

 

「____っ!!」

 

 そんな私の考えを察してくれたのか、数秒の間をおいて竜の魔女の方へと移動してくれた。

 

「……君は勇敢だな、後藤ひとり。恐怖に震えながらなお、彼女を行かせるとは。」

「ゆ、勇敢だなんて、そ、そんな事ないですよ……正直今もこの判断に後悔してる部分もあります。だけど、それでもみんなが居るから大丈夫かなって……」

 

 少し回復した体を起こし、私は軽く微笑みながら言った。

 

「ジャンヌちゃんの単独(ソロ)ライブ、間に合って欲しかったので。」

「……あぁ、では仕切り直すとしようマスター。」

 

 私達は立ち上がり、飛竜の大群とその奥にいるファブニールと向き合う。

 

「ファブニールは暫く沈黙だ、最大級の攻撃を行なったからな。そして兵士たちも進軍を開始した。ようやくジャンヌに対する誤解も完全に解けたようだ。」

「つまり……ここからが本番ですね。倒しましょう、私達でファブニールを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 後藤ひとりと別れたジャンヌは、竜の魔女と遂に邂逅を果たした。

 

「随分と、無様に立ち回ってここまで来たものです。ねぇ?私の残り滓。」

「無様かどうかわかりませんが、多くの人に助けられてここまで来れました。とても恵まれてると感じます、ありがたいことに。」

「……あの小鼠と契約して、ようやくじゃない。そんな弱さを抱えたまま、私に勝てるとでも?」

「いいえ、私のマスターはとても強いですよ。」

 

 嘲笑うかのような口調で言い放つ竜の魔女に対し、ジャンヌは優しく同時に強い意志を帯びた口調でそう返した。

 

「強い?ハッ、何寝言ほざいてるのよ!さっきまでの姿見たでしょう。たった二騎の英霊と契約した程度であれだけの体たらく。本人の戦う武器や力なんてなく、涙を無様に流しながら走り抜けるしかできなくて、精々目立つことといえば変な楽器を鳴らすだけ!どれだけ今まで生温い環境で生きてきたか、直接確かめるまでもない!そんな平和ボケした屑に、私達が負ける道理なんてありはしない!!」

「その生温い環境に生きて平和ボケした彼女が動き出したことで、破滅の運命にあったフランスが大きく変わろうとしているのです。ええ、共に戦ったことで確信しました。彼女ならば、必ずや人理を取り戻す旅を踏破できると!」

「ッ!世迷言を……」

「そして、ようやく私の迷いも晴れました。祖国を救うこととは別に、貴女とはどのような感情で向き合えばいいのか?その答えを。」

「……やはり軟弱ですね、そんなザマで……」

「そう、私は私で、貴女は貴女だ。」

「ッ!訳のわからぬことを……私が本物で、貴様が……」

「では聞きます、竜の魔女。」

 

 慟哭するかのように叫ぼうとする竜の魔女、それを制するかのようにジャンヌは続けて言い放つ。

 

「マスターが貴女と初めて会った時、なぜ彼女が怒ったのか理由はわかりますか?」

「_____」

あの街(ラ・シャリテ)で、貴女は誰を殺したのかわかりますか?」

「………何を、お前は……」

「……やはり、そうなのですね。」

 

 竜の魔女は、困惑の表情を浮かべる。それを見て、ジャンヌはある確信に至り、儚い顔を浮かべる。

 そう、あの時の後藤ひとりの怒りに対し疑問しか浮かばなかった竜の魔女。その点こそが、ジャンヌ・ダルクとの決定的な違いになることを彼女は気付いてない。

 

「竜の魔女、私は貴女を倒します。だがそれは怒りからではない。拒絶でも、ましてや憎しみでもなく、私は“哀れみ”を以って貴女を倒します!!」

「……ハッ!哀れみ?不愉快、不愉快だわ。残り滓が訳知り顔で、ならば証明してみるがいい!その哀れみを以ってしても我が殺意、我が憎悪を越えられるかどうかを!!」

 

 その両者の宣誓をもって、二人のジャンヌ・ダルクの激突が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンヌちゃんが竜の魔女へと向かったあと、私達も大きく進んでいた。

 

『おぉ……ワイバーンの数がどんどん減っている。レオナルド、そっちは……』

『あぁ、エリザベート達もよくやっている。ジャンヌと戦っていた不明のサーヴァントは相当手練れだが、三騎でよく抑えている。状況はこちらの有利に動いてる。この調子で推移してほしいが……』

『その為にはファブニールの一刻も早い打倒が必要だ、聞こえてるねぼっちちゃん。ファブニールが近くにいる、今がチャンスだ。一気に決めてくれ!』

「わ、わかってます……ですが!」

 

 ファブニールの目の前には、まるで城壁の様にワイバーンの大群が立ち塞がっていた。これだとファブニールへの攻撃が届かない。

 

「埒が明かない、清姫!」

「はい、風穴を開けます!そのまま距離を詰めてください!」

 

 ジークフリートさんの叫びに応じて、清姫さんが大きな火球をだしてワイバーンの壁へとぶつけた。

 大きな爆発が起き、直後に穴が空いた。

 

(進路が開けた、ここで決める!)

 

すかさずジークフリートさんがその穴に飛び込み、ファブニールとの距離を大きく詰めて宝具を放とうとする。

 

幻想大剣(バル)___」

 

 だけど、それに合わせる様にファブニールも黒炎を放った。

 

(相殺された、読まれてたか!)

(ジークフリートさんの宝具を先読みしてたの!?ファブニールにそれ程の知性があるなんて……)

 

 そしてすかさずファブニールは翼を広げ、私たちの攻撃が届かない距離まで離れていった。

 

『アイツ、そこまで頭が回るのか!?』

「すまない、仕留めきれなかった!」

「ワイバーンに囲まれましたマスター、これではまた振り出しです!」

 

 不味い……どう強引にやって宝具をぶつけても、あんな風にイタチごっこになっちゃう。どうしよう、どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!?せっかくここまで来れたのに、このままだと……

 

『まずいぞ、ぼっちちゃん!』

「!?」

『フランス軍左翼と敵サーヴァントが接触!一方的に虐殺されている!』

「え、そんな……」

 

 助けないと、そう思った直後に背後から光を感じる。次々と絶望が繰り広げられているのを感じる。

 

「ロマンさん、今のは!?」

『……ファブニールのブレスが放たれて、後方の砲兵陣地に直撃して壊滅状態だ!』

「……っ!」

 

 駄目だ!これ以上犠牲者を増やしたらもう……

 

「い、一旦戻りましょう!フランス軍の人たちを助けないと、皆んな死んで」

 

 フランス軍の人達の助けに向かおう、そう言おうとした瞬間だった。炎が僅かに帯びた清姫さんの扇子が、私の目の前に突きつけられた。

 

「き、清姫さん……」

「兵士たちは皆、己の意思で戦ってます。私たちと同じ様に、それを救おうとすることのおこがましさを理解して言ってるのですか?」

「あ、それ、は……」

『彼女の言う通りだ、ここで戦線を下げればそれこそ勝ち目がなくなる。』

「ここまでに生まれたすべての犠牲を、あの子の犠牲を、無駄にしないために私達はいるのではないのですか?」

「……あ、ごめんなさい……」

 

 そうだ、それはジークフリートさんと契約した時に誓ったこと。わかってる、わかってたことだけど……この胸の痛みを、どうしても私は無視できなかった。

 

「わ、私もあの人達も変わらない、そう思ってしまうんです。生きるために戦う、それはやるべきことだと思ったからこうしてここにいる。わ、わかってるのに……」

「先輩……」

「だって、皆んな家族や大切な人がいるはずで……覚悟していたとしても、唐突な別れを悲しむなって、そんなの無理な話だと思ってしまって……どうしても、割り切れなくて……」

 

 自分の無力な手を見つめながらそう呟く。大切な人たちを抱えている兵士たち、それを守れないという焦りと絶望がそんな感傷的な言葉を生み出してしまう。それは我儘な綺麗事だと自覚していて……

 

「割り切る必要はないだろう……」

「え、ジークフリートさん……」

「犠牲のうえに犠牲を重ねなければ勝利はない、その前提に拠って立つのが戦争というものだろう。それでも人は、人の命を尊いと、人との繋がりを守りたいと、失い難いものだと思う。

マスター、後藤ひとり。貴女のその素朴な感情を、俺は間違ってるとは思わない。」

「……っ!」

 

 そんな、私の我儘な綺麗事をジークフリートさんは同意してくれた。その言葉を聞いて、私は涙が少し溢れそうになった。

 

「……何だか私、悪者になった気分です。」

「い、いえ!清姫さんの助言はありがたかったです!」

「うん、うん!」

 

 拗ねた口調で清姫さんはそう呟いた。マシュの言う通り、私の焦りから出た撤退を制してくれたのは凄く助かった。

 今振り返っても、撤退して勝ち目を完全に失うのは本当に致命的な失敗だから。

 

「ああ、その通りだ。結局のところ、俺たちは前に進むしかない。退けば、畏れれば、間違えれば噛み砕かれる。邪竜との戦いはそう言うものだ。

生を渇望しながら、命を投げ捨てる覚悟がいる。マスター、マシュ。」

 

 ジークフリートさんが私たちへと向き合い、決断を迫った。

 

「この状況を変える一手を打つ、俺に命を預けてくれるだろうか?」

「………」

 

 そして私は頷き、ファブニールへの再接近を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファブニールは魔力反応の消滅を一つ認識し、あの男(ジークフリート)が己を追い詰めつつあると確信する。そう考える邪竜に、油断と慢心は無い。

 目を閉じ、魔力を感知する。人が肉眼で蟻を細かく認識できない様に、竜は魔力でその存在感知を行う。

 

 

 無数の魔力(ひかり)が戦場で明滅していた。人間の光、己の眷属たる飛竜の光、遠くにあるのは己の魔女の輝きだろう。

 そして前方に、最も巨きく輝く魔力があった。

 

 己を殺した剣(バルムンク)の真エーテルではない。しかしこの戦場で最も強き魔力を放つとしたら、それはあの男以外にあり得ない。

 目を開く、人の群れが迫ってきているのを視認する。その中に、あの男もいるのだろう。人の大群は奴を隠す木々の如く、視認ではやはり判別がつかない。

 

 

 しかし問題ない、そこに怨敵がいるのならば一掃するまで。故に放つ、滅びの吐息を!!

 これで決着、例え予測が外れたとしても対処の余力はある。そう、そのはずだった。

 

 

「!?」

 

 重ねて言う、油断も慢心もない。なかったのだ、ただ想像を超えた現象がそこにあった。それは未知の驚愕であり、故に動けなかった。迫る人の群れ、己が対峙してきた者は皆戦士だったから。睨む者、滅びの吐息を超える者。

そして最も大きな輝きを放つ者、それが___

 

 英雄でもなく、戦士でもなく、まして魔術師でもなく、ただ勇気を振り絞り奇妙な鉄を弾き音を奏でる後藤ひとり(人間)だと言うことを!

 

 

 

 

 私とマシュは馬に跨り、フランス兵の人達と共にファブニールの元へと駆け出していた。

 その道中、ファブニールから放たれた黒炎を、ギターを鳴らしてサポートしつつマシュの宝具で防いだ。

 

『使用許可は既に出した!魔力出力を対城宝具級まで圧縮、燃焼させる!サーヴァントへの“排気連携(タイミング)”は任せる!』

「ロード・カルデアス、限界出力!止めました、後はお願いします先輩(マスター)!」

 

 

 結局のところ、私は何もできず誰も救えてなかった。私なりに精一杯やってきたけど、結局足手纏いばかりで、みんなに助けられてばかり。

 フランスに来て、何度も頭の中で考えていた、生き残ったのが私でなければ、これほどの被害を未然に防げてたのではと。

 

 

 虹夏ちゃんなら、リョウ先輩なら、そして喜多ちゃんならと………

 

 それでも、と私は思う。恐怖も後悔も悲しみも、全部抱えて私は走り出す。私が死なないため、みんなが死なないため、終わらせないために走り続ける。

 例え、いつの日にか皆んなとのお別れが来て、泣いてしまうとしても。

 

 ギターに添える手の甲、そこに刻まれている令呪。対城宝具級と聞いてもよくわからない、ただそれを発動させたら私の身に激しい痛みがそこにある。留めてるだけでそれ程で、解放したら私の身体はどうなるのか想像つかない。

 

 ああ 本当に怖い すごく怖い だけど

 それを乗り越えて 暗闇を照らす 満月の様にではなくて 僅かな閃光にしかならないのだとしても 私はこの絶望を払いたい

 

 そうだ、これこそが私の“したいこと”だ。エリザベートさん、ようやく宿題の答えが出ました。

 お父さん、お母さん、妹のふたり、そしてスターリーや私のファンのみんな、そして結束バンドのみんな。助けられなくてごめんなさい。そして、これから私は新しく歩き出します。

 

 私は、必ず人類の未来を取り戻します。そのための具体案?どうやってやるか?そんなのがどうした!この期に及んでそんなこと小賢しい、私はギターだってやると決めなきゃまずは始まらなかったじゃないか!

 

 そうだ、その気持ちが鳴り止まなくて何が悪い!

 “ギターヒーロー”が人類(みんな)を救って何が悪いんだァーーーッ!!!

 

「“令呪を以って命ずる”!!!

 

“邪竜を倒せ”!!!

 

“セイバァーーーッ”!!!」

 

 私がギターを激しく鳴らせば令呪が煌めき、直後にファブニールの背後から跳躍して剣を構えるジークフリートさん。これが、私達の真の狙い。ファブニールを仕留める最後のチャンスだ。

 ファブニールの瞳が背後に動くが、もう退避ができる隙は無い。

 

「マスター後藤ひとり、貴女のその優しい覚悟、そして正しき怒り。

我が信念、我が正義にて応えよう!

 

真エーテル 全開放。」

 

 直後、ジークフリートさんの剣から空を貫くほどの巨大で長い光が伸びた。

 

『なんて長大な剣技気!成層圏に届く勢いじゃないか……だが、あの出力!それを手にする担い手は、それを支える令呪の所有者は!』

「あ、あ、アアああああァァァッ!!」

『己の流れる魔力に、灼かれ続けることになる!!』

 

 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃー!!本当に身体から急に剣が生えてきた、内臓を突き刺すして皮膚を一気に剥がしたような痛みが生じるッ!

 だけど、それがなんだ!こんなのただ単純に痛いだけだ!家族も結束バンドのみんなも、燃えてた時これ以上の痛みに巻き込まれたかもしれないじゃないか!!

 

『ぼっちちゃん……!』

「先輩……!」

 

 私がこの痛みを耐えなきゃ、これまでの覚悟が嘘っぱちになるになるんだぞ!だから耐えろ、耐えるんだ後藤ひとり!ジークフリートさんが宝具を発動するために、本物のギターヒーローになってみんなを救うんだ!

 

「痛いなマスター、だからこそ共に越えよう!眼前の敵を撃ち倒すために!」

 

 そしてついに放たれる、ジークフリートさんの最大出力の宝具が!

 

【幻想大剣 最大出力】

「黄金の夢から覚めー揺籃から解き放たれよ……!!」

「オ……!オォオオオオオオ!!」

「邪竜___! 滅ぶべし!!

 

幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)”!!!」

 

 目を覆うほどに、過去最大にして最強のジークフリートさんの宝具が天空から放たれた。それはファブニールの巨体を覆い、凌駕するほどだ。

 

「ガ、ァ、ア、アァ……アアァァァアアア………」

 

徐々に小さくなるファブニールの断末魔。眩い光が晴れていき、邪竜の姿は光と共にフランスから消え去っていった。

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な……ファブニールが倒される!?あり得ない、人間が…‥人間が、どうして人間がここまで……!?」

「終わりです、竜の魔女!」

 

 ジャンヌ同士の激突は、竜の魔女が推されていた。重い一撃を喰らい、地面へとその体を撃ち付けられていた。

 体力も限界に達しており後は、その霊核を貫かれるだけだった。だが……

 

「……だ……とめない」

「!?」

「嫌だ、嫌だ嫌だ!認めない、認めない、認めない認めない認めない!このまま負けるなんて、認めるものですかァァァッ!!」

 

 竜の魔女の慟哭が爆発する、その直後に天空を覆う程の無数の闇黒の槍が展開された。それはオルレアンのほぼ全域を包むほどだ。

 

「貴女、こんな宝具の無茶な展開なんてしたら霊基が……」

「そんなこと知ったことか!私は必ずフランスを滅ぼす、たとえこの身が朽ち果てようとも!お前と、お前の仲間ごと道連れにしてでも成し遂げてやるゥゥゥッ!!」

「そ、そんな……」

(ど、どうすれば……)

 

竜の魔女の妄執からの暴走、それにジャンヌは押されてしまう。このままだと、間違いなく被害が増す。しかし宝具を展開したところで完全に防ぎ切ることは叶わず……

 

 

 

 

 竜の魔女が暴走する数分前。

 

 

「ハッ!?ファブニールは……ツゥッ!?」

 

 ジークフリートさんの宝具を発動した直後、私は気絶してしまってた。しかし意識が戻ると、つい跳ね起きてしまい痛みが走る。

 

「落ち着いてください先輩、邪竜はジークフリートさんの宝具によって倒されました。」

「君の身体に細かい傷はあるものの、令呪による後遺症は無い。散々無茶したおかげで体もなれたのだろう。そう魔術師殿は言ってる。」

『あぁ、本当に無事でよかった。兎にも角にも邪竜撃破!!ぼっちちゃん、君は新たなドラゴンスレイヤー(竜殺し)だよ!』

「え、えへへへ……そ、そんなかっこいい肩書きは身に余るというか……皆さんのお陰ですよぉ。でも、本当に皆さん無事で……」

 

 と、安堵と喜びに満ちていた時だった。頭上から不意に黒い槍が夥しい数で上空に展開された。

 安堵も束の間、一気に氷点下に変わったかの様に冷ややかな殺意が場を包む。

 

『こ、これは竜の魔女の宝具か!?なんてことだ、ファブニールをようやく倒したと言うのに……』

「それにこの数、ファブニールの弩級の息吹程じゃないにしても大規模な被害が出るぞ!」

「ッ!防ぎます、先輩だけでも……」

 

 唐突な展開に、ロマンさんのジークフリートさんも目に見えて焦っていた。私もそうなっていたが、それよりもジャンヌちゃんが視界の端に映った、映ってしまった。

 ジャンヌちゃんも、竜の魔女のこの暴走が想定外だった様で、このままだと犠牲者が出てしまうから……

 

 

『やむを得ない、マシュ、ぼっちちゃん!こうなったら強制退去を……』

「ダメです!」

『な、何を言って……』

「先、輩……?」

「ッ!」

『な、馬鹿な真似はよせぼっちゃん!』

 

 時間が無い、このままだとあの宝具で死人が出てしまう。そうなってしまったら手遅れだ。脳裏に浮かぶ、犠牲となってしまったマリーさん。

 今度こそ失いたくない、助けるんだ。その一心で私は、ジャンヌちゃんの方へと駆け出した。

 

「ふふ、あはははははは!報復の時は来た!」

「だ、だめ、やめなさい!」

 

 狂笑する竜の魔女、ジャンヌちゃんの声が届くはずもなくその宝具が放たれようとする。

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……

 

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)”!!」

 

 降り注ぐ暗黒の槍の大豪雨、それがジャンヌちゃんや私たち全員を射殺さんと迫り来る。

 

(宝具で防ぐ……だけど、竜の魔女が自壊してでも展開したアレを私だけでは防ぎきれない。どうかお願いします、誰か、このひと時だけでも、私に力を貸してほしいッ!)

 

 それをジャンヌちゃんは、同じく宝具を展開して防ごうとするがそれだけでは足りないのか不安げな表情を浮かべていた。そうだ、きっと一人だけでは一歩及ばないんだろう。だから……

 

(ジャンヌちゃん!)

「ッ!?」

 

 ファブニールを倒す時と同じように、令呪を輝かせて私はギターの弦を弾く。それは、初めてのライブ。奏でる曲は“あのバンド”、初ライブが台風とみんなの緊張によって最初は大失敗。このままグダグダになりそうだった時、私が強引にギターソロで切り開いたあの曲。

 そのギターソロをもう一度奏でる。何のために?決まってる、ジャンヌちゃんを支えるために私は二つ目の令呪と共にこの曲を捧げ叫ぶ!

 

「“令呪を以って命じる”!!

 

“みんなを護って”!!

 

“ジャンヌ・ダルク!!”」

 

 令呪から放たれる眩い光、それがジャンヌちゃんの体へと注がれていった。瞠目するジャンヌちゃんと視線が交差し、私は疲弊した体を無理矢理支え、そしてどうにか微笑みで返した。

 

(マスター……)

(みんなに見せてよ、本当のジャンヌちゃんは誰か()を護れるカッコいい聖女なんだっていうところを!!)

「ッ、はい!潰えることはありません、この旗がある限り!」

 

 頷き、そして旗を旋回させてジャンヌちゃんは迫り来る無数の槍と向き合い旗を立てて眩い輝きを放つ聖域を展開した。

 

「ここに祈りを捧げましょう……。

 

我が友、我が仲間を守らせ給え──

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

 あの時、マルタさんと戦った時の様に……だけどその宝具の煌めきは過去のそれを圧倒的に凌駕するほど。オルレアン全域を包み、そして黒い槍を打ち消す輝きが広がった。

 被害は言うまでもなく皆無、今度こそジャンヌちゃんはみんなを守り通したんだ。

 

「え、う、嘘よね…‥嘘でしょ?わ、私の、宝具が……不発……」

「竜の魔女……今度こそ、終わりです!!」

 

そして、無茶な宝具展開をした竜の魔女の隙をつき、ジャンヌちゃんの旗が彼女の胸を穿った。

 

「ガ、ぁ………違う、まだだ!私はまだ…‥」

 

 まだ諦めたくないのか、竜の魔女は声を荒げて抵抗しようとしていた。だけど、急に豹変し……

 

「ジル?えぇ、そうね……」

 

 直後、ジャンヌちゃんの頭上に数本の黒い槍が迫った。

 

「くっ!」

 

 流石に咄嗟に回避したものの、それによって竜の魔女は姿を眩ませた。

 

「撤退しましたか……ジル、と言いましたか。やはり、貴女が……」

「ジャ、ジャンヌ……ちゃん……」

「っ!マスター!」

 

フラフラとしながら私はジャンヌちゃんの元に寄り、途端に限界に迫り倒れ込みそうになった。

 その寸前にジャンヌちゃんに担がれ、地面との激突をせずに済んだ。

 

「まったく、無茶をして冷や冷やしましたよ……」

「え、へへ……でも、ジャンヌちゃんも無事で良かったです……」

「全くもう……本当は軽くお説教でもしたいところですが……」

「先輩、ジャンヌさーん!」

 

そう話していると、背後からマシュの声が聞こえてきた。みんなも無事だった様で、私もホッとした。

 すると、ジャンヌちゃんがさっきまでの雰囲気と打って変わって、神妙な顔で咳払いをして……

 

「では、皆さんも集まったようでまず説明を。」

「説明、とは?」

「竜の魔女は間も無く消滅します。なので話す必要があるかわかりませんが、竜の魔女が何者かわかりました。」

 

 その時私の脳裏に浮かんだのは、ジャンヌのお母さんが殺された時。私は竜の魔女につい怒りをぶつけたが、彼女の反応はまさに空虚なものだった。まるで“自分の母親なんて知らない”かの様だったから。

 

「彼女はやはり“ジャンヌ・ダルク(私の別側面)”ではなかった。マスターの怒りの問いかけに虚な反応だったのも、そもそも私の母の姿を覚えていなかったから。彼女が私の闇の側面ならば、覚えていなくてはならなかったのに。

幸せな記憶があるからこそ、人は憎しみを抱く。だけど竜の魔女には憎しみ以外何もなかった。英霊とはいえ、それが不自然なのです……」

「…‥では一体、彼女は何者なのですか?」

「………」

 

 マシュの問いかけに、ジャンヌちゃんは沈黙で返した。だけどそれだけで、全員がその真実に察した。聖杯を渇望する戦いならば、誰かの叶えたい願望が必ずそこにある。このフランスの戦い、それによって齎された災厄を願ったものがいた。

 そして、その願いを抱いたのは誰なのか、私たちはこれから知ることとなる。

 

「私の別側面ですらない竜の魔女がなぜ生まれたのか、そして竜を使役するほどの力をどこで得たのか、それは一つの答えに集約される。

その答えとは即ち“竜の魔女そのものが聖杯”ということ。ある男が聖杯に願い、そして作り出した彼だけの“聖杯”だったのです。」

 

 邪竜が消え、竜の魔女が潰えた。

 そしてついに、このオルレアンの戦いの最終局面へと至ろうとしていた。

 

 




ようやく書きたいところがかけて、本当にホッとしました。とはいえこれからが真の最終戦、気合い入れて挑みます。
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