ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回の話は凄く力を込めたので、後書きにて私の考えを出させて頂きます。


第十三話

 

 

 私達はジルさんのいる居城へと向かっていた。ファブニールと竜の魔女がいなくなった事で、飛竜達は纏まりがなくなって弱体化してフランス軍の人たちで討伐しているようだ。更にモーツァルトさん達も支援に回っており、今の所は被害や支障が出ていないようだ。

 あとは、私たちがジルさんを倒し聖杯を奪還すればこの特異点の異変は解決する。

 

「……ジル・ド・レェの居城に辿り着きました。」

『超高密度の魔力反応が確認できる、やはりそこに聖杯があるね……』

 

 目的の居城の前に着き、私達はそれを見上げる。すると、ジークフリートさんが口を開く。

 

「竜の魔女が消滅したにも関わらず、か。ジャンヌ、君の予想は正しかったようだな。」

「………」

「それって……ジルさんが聖杯の魔力で作り出したという話ですよね?」

 

 少し前、竜の魔女撃破後にジャンヌちゃんからそのように聞いた。だけど、私にはとある疑問が浮かび上がる。そう、確かマルタさんと戦う前に竜の魔女と勘違いしてジャンヌちゃんに敵意を向けたフランス兵の人達、それを指揮してた人も確か“ジル”という名前だった、はず……

 

「フランス軍の方にもジルさん、という名前の方がいたはずですよね?これは一体……」

「それは私が(ジル)自身を縁にして、聖杯に呼ばれたサーヴァントだからですよ。」

「!?」

 

 そんな私の問いかけに答えたのは、城から現れた異様な雰囲気を放つ男性だった。そう、彼こそがジル・ド・レェでありこの特異点最後の相手だ。

 

「お初にお目にかかりますな、皆さん。そしてお久しぶりです、ジャンヌ・ダルク。」

「ジル……!!」

「聖杯に呼ばれたと言ったな?つまり、俺達と同じだと?」

「左様、私は我が聖女に喚ばれた狂いし英霊ではなく、この国に、聖杯に最初に呼ばれたサーヴァント。そして最初に呼ばれたが故に、最初に聖杯を見つけ所有した、この国を滅ぼす者……!!」

 

 そう言いながらジルさんが手を差し出すと、その手のひらから小さな黄金の結晶が現れた。あれは……

 

『サーヴァントから聖杯の反応現出!』

『各種パラメータを注視してくれ、聖杯なら何が起こるかわからない!』

 

 通信機からそんな声が聞こえてくる、探してた聖杯が遂に出てきたのだから当然と言える。

 それと並行して、ジルさんと私達の問答が続く。ジャンヌちゃんが、目線を鋭くして問いかける。

 

「それで貴方は聖杯の力で“ジャンヌ・ダルク()”を作った。貴方好みの“竜の魔女(ジャンヌ・ダルク)”を。」

「おお、ジャンヌ。その言い草はあんまりではありませんか、貴方の復活はもちろん願いました当然です。」

 

 ならなんで?私がそう疑問に思った直後、ジルさんが声を荒げて答えた。

 

「ですが叶わなかった!万能の願望機でありながら、それだけは叶えられないと!!」

(……そうか、ジルさんはそれだけジャンヌちゃんのことが大切で好きなんだ。だけどそれなら、なんでジャンヌちゃんが大事に想ってるこの国を滅ぼそうとしてるんだろう?)

「竜の魔女は最後までそのことを知らなかったのでしょうね……それがせめてもの救いでしょう。」

「おお……我が聖女にそのお言葉、我が心に深く沁み入ります。しかし……」

 

 瞬間、轟音が轟いた直後にジルさんの背後から何かが現れた。

 

「!?」

「心配なされるなジャンヌ、彼女は一時の眠りについただけ。貴女方を一掃した後に、再び我が前に降臨されることでしょう……!」

 

 目から血管を浮き出し、まさに狂気的な眼を見開きながらジルさんはそう言い放つ。同時に蠢くその存在に、私は何故か既知感を覚えた。あれまるで……

 

「なんで……飛竜とかじゃない。あれってまるで、タコの脚の様な……」

「左様、私は竜を使いません。あれは我が聖女のモノ。我が聖女の復讐の手段。」

 

 私の不意に出た言葉にジルさんはそう答える。そして彼が本を翳せば眩い光が放たれ、背後のタコのような脚が更に蠢き形を変え始めた。

 

「故に我が宝具にて呼び出したる異界の悪魔がお相手します。ええ、まだ終わりではない。

我が願望、我が聖女の復讐、邪竜百年戦争は未だ終結してないと此処に知らしめましょう!!」

 

 そうして現れた謎の存在、彼曰く悪魔。それはキノコの様な形をしており、更にそれに蛸の足を無理矢理付け加えた様な存在だった。その大きさは、ファブニールに匹敵する大きさと私は感じてしまう。

 それが私たちに襲いかかってくる、かと思ったら……意外にもそれは踵を返した。

 

「それでは皆さん、この悪魔を制御する時間が入りますので、暫し暇を。」

「ジル!」

「逃さん!!」

 

 すかさず放たれるジークフリートさんの斬撃、それはあの異形な悪魔に被弾。確かに当たったはずなのに……

 

「無傷!?」

「いや、これは再生だ……我々だけではこれは倒せない。此処は一旦下がるしかない。」

 

 私は惜しく思うものの、ジークフリートさんの攻撃が通じてないなら仕方ない。ようやく戦いが終わるかと思ったのに、最後にあんな怪物が現れるなんて……

 

「ジル、貴方は……」

 

 ジャンヌちゃんも思うところがあるのか、そう言葉を漏らすものの私達は一度下がる形となった。

 

 

 

 

 

 

 そして、少し離れた場所で。

 

「いやぁ、最後の最後にとんでもないのが出てきたね……ていうかアレ、ファブニールよりデカくない?」

 

 モーツァルトさんが視線を凝らし、あの悪魔を見ながらそう言った。洞窟に入る前にモーツァルトさん、清姫さん、ゲオルギウスさんと合流し此処で作戦会議が行われている。

 

『おそらく彼のクラスはキャスター、召喚魔術なんだろう。』

「だが、あんな強力な怪異をサーヴァントと言えど召喚できるのか?」

「ジル・ド・レェが宝具を用いたとしか考えられませんが……」

『その通りです、しかし呼び出すだけならともかくアレは制御できる代物では……』

「それこそ聖杯の力じゃないか?」

『あっ!そうか、膨大な魔力があればアレほどの魔物も制御できるのか。』

 

 私も納得した、さっきジルさんが立ち去る前に制御と言ってたのはそのことだったんだ。

 

「つまり、現状では怪異は停止しているけど、それはジル・ド・レェが制御するために発生している猶予時間と言えるわけか。」

「あ、えっと……その猶予時間が過ぎるとどうなるのですか?」

「そりゃ決まってる、あの怪異が人を喰う。」

「えっ?」

「それも際限なく、やがてはこの国全てを貪り食う怪物へと変貌するだろうね。」

「___」

 

 私は思わず息を呑んでしまう、そんな……こんなのファブニールを倒したのに何の解決にもなってない!

 

「フ、フランスの人たちが危ないんじゃ……」

『総軍撤退する様知らせてある、とはいえ何処までも逃げれる保証は無い。だから早いうちにジル・ド・レェを始末しなきゃいけないんだけど、方法が……』

 

 ロマンさんからのその報告を聞いて少し安心したけど、問題を先延ばししてるのに変わらない。なら、一体どうしたら……と考えてたら、エリザベートさんが声を張り上げた。

 

「分かったわ、全力ね!私達みんなの宝具をアイツに向かって一斉発射するの!!」

「おバカ、そんな単純な話な訳……」

『その通りだ。』

「!?」

『いやもっと、上手い手があればそれに越したことはないんだけどね……』

 

 意外にも単純な作戦に、私達はどうもくした。だけど、それ以外に策があるかと聞かられば、少なくとも私には思いつかない。周りを見渡すと、他の人たちも同じ様で……

 

「そうと決まれば行こう、これ以上“アレ”を放置しておけない。」

 

 ジークフリートさんが立ち上がりながらそう言い放ち、私たちも頷いて続こうとした。だけど唯一一人。ジャンヌちゃんだけが静止していた。それを見かねたのか、清姫さんが声を掛ける。

 

「気になるのですか?ジル・ド・レェの事が。」

「え……いえ、そんなことは……」

「嘘ですね、私は人の嘘がわかるのですよ。」

「………それは」

「あ、ジャンヌちゃん。私にも聞かせて欲しいです。」

 

 そしてつい、私も横からその会話に入ってしまった。何故なら、どうしても気になってしまったから。

 

「マスター?」

「その、わからないんです。私、ジルさんのこと。勉強が苦手だったから、というのもあるんですが……ジャンヌちゃんのことをあんなに想っていて、なら同じ志を抱いてフランスを守るために頑張ってたはずの人が、なんで今度は滅ぼす側に回ったのかなって……」

「………」

「その、ジルさんの事を知って作戦が好転するとか都合のいいことは思ってないのですが、それでも私、どうしても気になってしまうので……」

「……生者に肩を貸す事が英霊の役目だと思ってましたが、貴女は死者に肩を貸してくれるのですね。」

「え、あ、あの、ジャンヌちゃん?」

「いえ、私の独り言です。では少々時間をとりますがどうか聞いてください。ジャンヌ・ダルク()ジル・ド・レェ()の告解を。」

 

 

 そして私は、ジャンヌちゃんとジルさんお二人の歴史を聞いた。

 やはりイメージしていた通り、ジルさんはジャンヌちゃんと共にオルレアンの奪還のために戦地を駆け抜け、共に救国の英雄として栄光を掴んだのだった。きっとその光景は、二人にとって今でも大切な宝なのだろう。そんな印象を私は抱いた。

 

 だけど、そこから先の未来の闇は私の想像以上の濃さだった。

 

 ジャンヌちゃんは魔女とされ、火炙りにされて死んでいった。そんな事実、ジルさんがどれほどの悲しみを負ったのか……

 その果てに、彼は悪逆の道へと進み始めた。幼い子たちを攫い、加虐する。曰く“神などいない”と証明するために。私は耳を覆いたくなるほどの罪を彼は何度も犯し、その犠牲者の数は数百人に至るとか。それでも神の裁きが、彼に下ることはなかった。

 

 そして1440年、ついにジルさんは処刑された。だけどそれは犠牲者の子供達を報いる為の裁きじゃなかった。

 そこに正義も信仰もない。ただ、ジルさん財産を領地を奪うために。それは即ち、人間の“欲望”という結果に過ぎなかった。

 

 

 それが、ジャンヌちゃんから聞いた、ジルさんの生涯だった。私は何も言えなかった、私の生きた時代では考えられない様な苛烈さ、そして無情さがそこにあった。

 

「私は私の結末に後悔はありません、そして彼の末路を変えるべきだとも思わない。それでも彼が私と出会って、運命が歪んでしまった事を……犠牲になった子らのことを哀れずにはいられないのです。」

 

 粛々と、ジャンヌちゃんはそう語っていた。そして私は………

 

(ああ、そうだったんだ……だから、ジルさんは……)

「先輩?」

 

 私は、ある決断を心に抱く。

 

 

 

 

 そして遂に、私達はジルさんのいる場所へと到着した。

 

「おや……たった今、悪魔を制御し終えたところ。そちらからいらしていただけるとは、手間が省けますなぁ。」

 

 悪魔と体が一体となっているジルさん、彼がその高所からわたしたちを見下ろしつつそう言い放つ。

 

「……私たちを探し殺す手間が省けたと?」

「左様、我が聖女の望みを叶えねば。ですが、我らの邪魔をしないのであれば戦う必要はない。如何ですか?共にこの国を……」

「ジル」

 

 ジルさんが提案を言い終わるより早く、ジャンヌちゃんが言葉を差し込んだ。

 

「貴方は当初、私を蘇らせようとしたと言いましたよね?」

「無論です、私にそれ以外の望みなどない。」

「……っ、でしたらやはり貴方は間違っている!

ジル!たとえ私を蘇らせても、私は決して“竜の魔女”にならなかった!」

「ジャンヌちゃん……」

「確かに私は裏切られた、嘲笑もされたでしょう!あの結末は……無念の最期と言えるのかもしれません!」

 

 生まれの違う私でもそう思えた。だけど、それでもジャンヌちゃんは……

 

「けれど祖国を恨むはずがない、憎むはずがない!この国には貴方達がいたのだから!!」

「ジャンヌ……」

「もうやめなさいジル、私はこんなこと望みません……」

 

そう、ジャンヌちゃんはこの国の人々の幸福を優先し望んでいた。それは、勘違いとはいえフランス兵の人達から石を投げられた時に私はそう感じたから。そんな姿を、私は美しく思ったから。

 

「お優しい、あまりにお優しいその言葉……」

 

 そしてそれを、誰よりも聞き届け喜びに満ちた顔をしていたジルさん。その瞬間だけ、常に感じていた狂気さが鳴りを潜めた様にも思えた。

 

「ジル……」

「ですが、その優しさ故に貴女は一つ忘れております。」

 

 だけど、ジルさんのその語感が一変する。

 

「例え、貴女が祖国を憎まずとも……私は、この国を憎んだのだ!!!

全てを裏切った、この国を滅ぼすと誓ったのだ!!!」

 

 そう、これがジルさんの本音。そして人ならば誰しもが持ち得るだろう感情。“大切な人が報われて欲しい”と、そして同時に“大切な人を傷付けたものを許せない”というもの。

 恐ろしいけど、分かってしまう自分がいる。だって………

 

【私の本当の夢はね、お姉ちゃんの分まで人気のあるバンドになること!スターリーをもっともっと有名にすること!】

 

 初ライブ後の打ち上げの時に聞いた、虹夏ちゃんの夢。私もその夢を叶えたいし、叶えるためにギタリストとして頑張ろうと思っていて。

 だけど、もしもそれが悪意のある誰かによって壊されたら?虹夏ちゃんが……いや、それだけじゃなくて結束バンドの誰かが深い傷を負うような目に遭ったら?私は、その犯人を決して許せないと思う。そんなの、当たり前の話だ。

 

「貴女は赦すだろう……しかし、私は赦さない……!!」

「な、何なのよこれ……」

「み、見なさいエリザベート!」

 

 ジルさんの怒りと共鳴する様に、彼の身に纏う悪魔もまた変貌を始めたのだ。

 

「神とて、王とて、国家とて……!!

滅ぼしてみせる……殺してみせる……それが、聖杯に託した我が願望……!!」

 

 そう言い放つジルさん、彼の目には赫怒と共に濃い血涙を流していた。それ程の怒り、嘆き、羨望が私たちを射抜く。

 

「我が道を阻むな、ジャンヌ・ダルクゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」

 

 まさに悪魔、歪な顔面と翼を広げる怪異のその姿はそうとしか言い表せなかった。それほどまでに、ジルさんの怒りと嘆きが根深いのだ。

 

「ジル……」

「先輩、わかりません。私、あんな怒り、あんな憎しみ、世界を滅ぼせるほどの感情を……」

「…………人間、なんだからだと、思います。」

 

 戸惑いをみせるマシュに対して、私はそう呟いて言葉を返した。

 そうだ、ジルさんはあり得たかもしれない私の姿なんだ。大切なものを理不尽に奪われ、救済の手を伸ばすことすら叶わなかった者の末路。もしも私が、マシュと出会えず、ロマンさんに助けられずどこまで一人で生き延びてたら……もしかしたら、こんな風に悲しみが憎しみに変わっていたのかもしれない。だから……

 

「………」

 

 私は覚悟を決めて、ジャンヌちゃんより前の場所に出ようとする。その姿を見て、ジャンヌちゃんは困惑の声を上げた。

 

「マスター!?ですが、これは私とジルの……」

「……」

 

 ジャンヌちゃんの静止に、私はから元気の笑みで答えた。きっとその問いかけは、あの人の誇りすら傷付けかねないもの。だけど、それでも確認したいことだ。

 そんな不安を隠す様に顔を上にあげてジルさんと視線を交える。すると、不快感を露わにしたジルさんが間を割る様に言葉を挟む。

 

「何のつもりですか小娘、何も知らぬものが私と彼女の間に割っては入るなどと。それとも、よもやその下らぬ楽器で子供らしく音楽で我が憎悪を晴らすとでも?フハ、それならば何とも愉快で夢見がちなことを考えますなぁ!」

「………いいえ、そんなことではありません。」

 

 寧ろ、本当に私にそんな力があったらもっと楽だっただろうなとすら思う。だけど、私自身そんなことできるわけないと自覚している。それどこらか、ここまでの闘いで悲しいくらいの無力さ自覚したことだ。

 そして、それを噛み締めながらジルさんと目線を交える。恐れる気持ちを抑え、そして口を開く。

 

「わ、私は……私は貴方のように強い感情を持ったことありません。だから、貴方のことを理解しているとは思いません。ですが……ですが、私は、貴方が間違ってるとは思えません。」

「先輩!?」

『な、何を言ってるんだぼっちちゃん!?』

「……」

「ほう……」

 

 マシュとロマンさんの困惑の声が聞こえつつ、じっとジャンヌちゃんが見守る視線を感じる。そして、ジルさんは少し感心したような口調が漏れてた。

 

「ならばいかがする?私を見過ごし、滅びを受け入れるか?」

「いいえ、私たちは貴方を止めます!だって、私はジャンヌちゃんのマスターだ。だからこそ、私は貴方に聞きたい!」

「……よろしい、ならば貴女に譲ったジャンヌの温情に免じて、一度だけの問いかけを許しましょう。」

 

 ジルさん直々から、問いかけの機会をくれた。それはきっと、間違いなくジルさんの根幹に関わるものだから、意図して地雷を踏むような真似だ。だけど……それでも私は言わないといけない。

 だって、彼はもしかしたらあり得た私の未来の姿。ならば、それと決別するために闘うんだ!

 

「あ、貴方は……ジャンヌちゃんにもう一度会いたいために聖杯に手を掛けたのですよね?だけど、それは叶わなかったから黒いジャンヌさんを作った、と……」

「然り、ですがそれはもう既に知ってる事だと思うが?」

「だ、だからこそです!ジルさん、貴方は黒いジャンヌさんを作りましたが、聞かせてください!物や形に残るならそれは逆に本物なのですか?」

「ッ、マスター!?」

「………なんだと?」

 

 ジャンヌちゃんから困惑の声が上がり、ジルさんからは嫌悪感を纏った言葉が漏れる。怖い、だけど私は更に言葉を続ける。

 

「目に見えて、手で触れられて、匂いと味が付いていれば満足できるんですか?」

「黙れ。」

「一緒にフランスに復讐さえ出来れば、竜の魔女(あの人)は本当に笑ってましたか!?」

「騙るまでもないことを抜かすなァァァッ!」

 

 赫怒を纏う咆哮が、私達の肌を破壊するかの様に轟いた。分かっていたこと、大切な人を偽者扱いされて怒らない人なんていない。

 だけど、私はそれだけ言うためにこの人と向き合ってるわけじゃない!だから、彼の怒りの顔から私は目を背けなかった。

 

 

「戯言を抜かすなよ小娘風情がァッ!それを私がどれほど望んでいたと思ってる、つまらぬ尺度で我が聖女を侮辱するなんぞ、万死に値すると知れえェェェッ!!」

「……いいえ、さっきも言いましたがジャンヌちゃんの復活を望み、そして彼女を見捨てたフランスを憎む貴方を間違ってるとは私は思ってません。ですが、もっと大事なものが私はあると思います。」

「………なんだと?」

「それは……〜〜〜〜っ!!」

 

 実のところ、私がジルさんに向けた想いを言葉として形を成してたわけではない。出たとこ勝負、この期に及んで形にできなかった。

 だから、私自身びっくりするほど自然にギターに手を掛けてた。どこまで行っても私はギター頼り、何かを伝える手段がこれしかない。そして無意識なまま演奏を始めていた。奏でる曲は文化祭の思い出の曲“星座になれたら”だった。

 

 

 

 

 

 フランスの時代には無く、そして後藤ひとりの生きた時代には“パントマイム”という演劇がある。それは演者がほぼ徒手空拳であるのに、まるでそこに物があるような所作をする芸にして技術。

 無論、ギターの技巧しか磨き上げなかった後藤ひとりにそんな技術力は無い。だが、この場における彼女は、まさにその技術に迫る動きをしていた。そう、まるで“結束(あの)バンド”が不意に此処に現れたかのように。

 

(そうだ、今は居ないけど……虹夏ちゃん、リョウ先輩、そして喜多ちゃんとこの曲を演奏してたんだ……とても楽しかったあの時間、そして二度と来ないもの……)

「何を……」

 

 嬉しさ、悲しさ、そうした複雑な感情を織り交ぜながらも一度も過つ事なくギターを奏でる。そして、それに感化してか、音楽家アマデウスがベースの代わりにバイオリンでサポートし、そしてアイドルを目指すエリザベートが楽譜に目を通し、後藤ひとりのために歌い始めた。

 

「ッ!!」

 

 そして唐突な演奏を行う中、かつては一絃目が切れたことで出来なかった後藤ひとりのソロパート。それを完璧に演奏し切る。

 それを聞き届けた面々、特にエリザベートは目を輝かし、アマデウスは感嘆の声を上げていた。

 

「遥か彼方 僕らは出会ってしまった

カルマだから 何度も出会ってしまうよ

雲の隙間で

 

君と集まって星座になれたら

夜広げて 描こう絵空事

暗闇を照らす様な満月じゃなくても」

 

 旋律を奏でる楽器、そして歌姫から流れ出る凛とした声音。それが聖女すら魅了し、憎悪に染め上げられた悪魔すらこの刹那に時を止めたかの様に見つめていた。

 だが、いずれ終わりは訪れるもの。歌姫が声を止め、至高の音楽家も動きを止めて同時に音楽も終えた。ただ動きを見せるのは、その先陣を走り続けていた、ただ一人の後藤ひとり(ギターヒーロー)だけだった。

 

 

 

 

「ハァ………ハァ……」

 

 我武者羅にギターを弾き、それをモーツァルトさんとエリザベートさんがサポートしてくれた。嬉しかったけど、こんな土壇場のアドリブによく応えてくれたなぁ。

 だけど、ようやく纏まった。胸のつっかえが取れたような気分だ。幸いジルさんも困惑しつつも私を見てくれている、ならば私の本音をぶつけるだけだ。

 

「あ……私は、カルデアのマスターになる前に大切な宝物を失いました。それは、ジャンヌさんを助けられず失った貴方のように。」

「………」

「ですが、それでも失ってないものはあると思います。それは、それ、は……」

 

 戸惑い、迷いながら、私は自分の手を胸元へと添えて叫んだ。

 

「結束バンドを失った今でもそれは有ります!此処()に響くような、そういう輝きが………魂に響くような、そう言う物が大切だと私は思います!!」

「____」

「私が歩みを止めない限り、私の宝物、結束バンドは失っていません!そのためにも、私は貴方を止めて見せます!!」

 

 それこそが答え、だからその宝物を汚さないために私は憎しみに堕ちたりしない。それは生き残ったものとしての覚悟であり、私を助けてくれたカルデアに報いるために。私は、例え険しい道だろうと進んでみせる。

 

「………フハ、単なる夢見がちな小娘かと思いましたが、思ったより熱い心根をお持ちの様だ。よろしい、ならばその熱を抱いたまま死になさい。」

 

 ジルさんがそう言い放てば、すかさず怪異から鋭利な触手が伸びて私を串刺しにしようとした。

 だが、その直前にジャンヌちゃんの旗が煌めきそれを阻止してくれた。

 

「ジャンヌ、ちゃ……」

「ありがとう、マスター……いえ、ひとりちゃん。貴女がマスターで、私は誇りに思います。」

 

 彼女は私に背を向けたまま、だけど私の名前を呼んでくれていた。そして旗を旋回させ、地につけて高らかに声を上げる。

 

「裁定者ジャンヌ・ダルクの名において、あの怪魔に必誅の一手を下す!皆に助力を乞います、全宝具を以って私に道を拓いて欲しい!!」

「無論だ」

「お任せよ」

「オッケー、フィナーレ(終曲)もアタシの声を聞かせてあげる!」

「ふんばるよ、最後の公演だ。」

「勿論です……少々恥ずかしいですが。」

「マシュ・キリエライト、行きます!」

 

 ジークフリートさん、ゲオルギウスさん、エリザベートさん、モーツァルトさん、清姫さん、そしてマシュがそう同意してくれた。みんなが、この最後の決戦のために戦ってくれる。

 

「……ありがとう、皆さん。」

 

 なら、後は進むだけ。私は再びギターに手を添え、前を見据える。

 

「止めます、魔元帥ジル・ド・レェ!!」

「決着をつけよう、救国の聖女ジャンヌ・ダルク!!」

 

 このフランス最後の決戦が、幕を開けた。

 

 

 

 

 




漫画版で藤丸がジャンヌの代わりにジルに語ったように、ぼっちちゃんにもこの様な形で会話させてみました。
当初、ぼっちちゃんがジルとどう向き合おうか悩んでた時に、ふとpixivにある結束バンドが解散したIFストーリーを見て、答えを得ました。
私的にはジルとぼっちちゃんも、どちらも奪われた側の人間でありその理不尽とどう向き合うかが答えなんだろうなと思いました。そしてぼっちちゃんの答えは、ある作品を見直してコレだと思ってこの様な形で出ました。

賛否あるかもしれませんが、皆様からの意見が聞ければ嬉しく思います。
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