ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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いよいよ最終局面です


第十四話

 

 

 遂に私達と、ジルさんの激突が始まった。あのファブニールをも超える巨大な悪魔が蠢き、こちらへと殺意を向けているのが伝わる。これが、この一戦が、私たちのこの特異点での最後の戦いになるのだと確信した。

 悪魔の片腕が動き、こちらへと振り下ろされる。言葉にすればそれだけ、だがそれだけでも私達を圧倒的な質量で圧殺できる。

 

【ロード・カルデアス!!】

 

 マシュがその大質量に対して盾を構え、宝具を展開してそれを防いでいる。

 

「くうぅぅぅぅ!!」

(私は、お役に立てたのだろうか?初めての本格的な聖杯探索、ジャンヌさん達に出会わなければきっと……それでも多くの人達に助けられ先輩は、自分にできることを懸命にか探し続けてここまで……私もその背中を追えるのだろうか?違う、必ず自分の意思で選んで追いかけてみせるんだ!そう、教えてもらったから!)

「支えます、お願いします皆さん!!」

 

 マシュが巨腕を防ぎながらそう叫べば、動き出したのはエリザベートさんとモーツァルトさんだ。

 

「いいわ、任せなさいマシュ!」

 

 だけど直後、エリザベートさんの視線が私に向けられる。

 

「そしてぼっち、アンタもやるのよ!」

「え?」

未来の私(カーミラ)を倒せればあとはどうでも良かったけど、ええ今日は特別!最高のギタリストに出会えたことの記念と、そして友達(マリー)の為にサービスで最後まで歌ってあげる!だから、ぼっちも一緒に弾いてちょうだい!」

「え、ぁ、は、はい!!」

 

 そして私は再びギターに手を添える。なし崩し的なのは否めなかったけど、それでも確かにここは私もやらなきゃいけないと思えた。

 そして……

 

「アマデウスも行くわよ!天才なんでしょ、このくらいのアドリブ併せなさい!」

「……」

「も、モーツァルトさん?」

「いやはや、柄にもなくヒーローみたいなのを考えてしまってね、恥ずかしいな。ま、それはともかく……無論合わせるとも、天才だからね僕は!!」

 

 そして重なる二人の宝具と私のギター、星座になれたらのワンパートを響かせて、共鳴する三つの音楽が悪魔の巨腕に向かって放たれる。

 

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!!」

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!!」

「お、おぉぉ!?魔曲と魔音の二重奏!この巨大質量を圧し返すだとぉ!?」

 

 放たれたら音が、悪魔の腕を浮かせた。その結果はジルさんの驚愕を生んだようだ。直後、私の背後から現れた清姫さんの言葉が差し込まれる。

 

「ご苦労様でした、マシュ。次は、私の出番ですね。想い人にこそ巡り会えませんでしたが、友達もできましたし得るものの多い現界でした。」

「……?」

 

 その言葉を放った直後、清姫さんの視線が私に向けられる。だけど僅かに微笑んだ後に正面へ向き直り変貌を始める。

 

「これより逃げたる大嘘吐きを退治します。

 

転身 火生三昧!!」

 

 巨大な火竜へと変わった清姫さんが、口から火炎放射を放った悪魔を焼却し始める。

 

「おのれ小癪なァァァッ!」

【いいな 君は みんなから愛されて

いいや 僕は ずっとひとりきりさ

君と集まって星座になれたら 星降る夜 一瞬の願い事

煌めいて 揺らめいて 震えてるシグナル】

 

 燃え盛る最中、ジルさんの動きが僅かに止まった。もしかしてそれは、私達の奏でた音楽が響いたのかもしれなくて……

 

「ッ!黙れェェェッ!!」

 

 瞬間、ジルさんが絶叫し始めた。

 

【脳裏に浮かぶ一つの光景がある それは紅蓮の炎に灼かれる聖女】

「その運命を憐れみながら、何故誰も手を伸ばさなかった!」

【だが これは私の記憶ではない】

「何故誰も、誰も彼女が報われぬことに怒りを覚えなかったのか!?」

【だって私は 敬愛する彼女の死に際すら】

「何故、何故誰も、彼女を助けようとしなかったのだァァァッ!?」

【立ち会えなかったのだから】

 

 そんな本音を、悪魔に呑まれながらジルさんは叫んだ。そう、彼は救国に身を捧げたジャンヌさんを、助けたいと願っていたんだ。そんな想いもきっと、心を闇に呑まれながらも思い続けたんだろう。

 そんな彼はきっとずっとひとりぼっちだったんだろう……

 

「……」

 

 私は、虹夏ちゃんと出会うまでずっと押し入れの中でギターを鳴らし続けてた自分を思い出す。そうだよひとりぼっちは、寂しいよ……それはきっと、ジルさんだって同じはずで……

 

「信仰ゆえの瀆神、愛ゆえの憎悪。その清廉なる騎士が、この様に堕ちるのは悲しいものです。」

 

 悪魔の前へと歩み寄るゲオルギウスさんが、まるで鎮魂歌を歌い上げるかのようにそんな言葉を紡ぐ。だけど直後、目の前に剣を構え始めた。

 

「それでも、無辜の民を害させるわけにはいきません。守護騎士の役目、今こそ果たして見せましょう。」

汝は竜なり(アヴィスス・ドラコーニス)

 

 ゲオルギウスさんが宝具を発動させると、悪魔に紋様が刻まれた。しかしそれ以外にわかりやすい変化は無いが……

 

「隠してたわけではありませんが、私にも竜殺しの逸話があるのですよ。そして、竜殺しには得てして竜に関する宝具がある。私のソレは、敵対者を一時的に“竜”と定める者。」

 

 それはつまり、この瞬間のみとはいえあの悪魔に竜の属性が付属されたと言うことなんだろう。

 

「そして、彼の大英雄の幻想の剣は。」

 

 そして、私の前に居るジークフリートさんが剣を構え……

 

「“竜”なるモノ悉く滅ぼす、蒼き極光!!」

 

 その刀身に青く輝く膨大なエネルギーが既に凝縮されていた。

 

「……善と悪は立ち位置の問題でしかない、だから俺は決して彼を悪と断じて斬ることはできない。

だが、君は大切なものを失ったにも関わらず進むと言った。それは目に見える分かりやすいものではなく、魂に結びついた無謬の輝きを抱えてそれに恥じぬよう道を外さず未来を歩むと。その果てに彼を悪とせず、己を善とせず、それでも尚として彼の暴走を止めるのだと。」

 

 そしてジークフリートさんは叫び剣を掲げる。

 

「ならば俺はその想いに応えよう、善でなく悪でもなくとも、それが俺の信じる正義だと!」

幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)

 

 振り下ろされたジークフリートさんの宝具、青い光が悪魔に直撃する。それはさっきのように即座な再生は起きず、私の目でもわかる大きな損傷が刻まれてきた。

 

「聖杯を以てしても再生が追いつかない、この匹夫共めがぁぁぁ!!」

「……道は拓いた、後は任せる。」

「ありがとう、セイバー。貴方と共に闘えてよかった。」

「……ああ。」

 

 ジークフリートさんとジャンヌちゃんが、そんなやり取りをする。そして、遂にジルさん本体の元にジャンヌちゃんが辿り着いた。

 

「その旗で私を穿ちますか、だがそれでも止まりませんよ。私が滅んだと同時に、この悪魔に聖杯を明け渡す!!さすれば無限の再生によってコレを止められる者はいなくなる!!」

「……えぇ、ですから。貴方もこの魔も、そして“私”も、ただ燃え尽きるのみです。」

「……え?」

 

 ジャンヌちゃん、今自分を含めるような言葉を……そう思った直後にジャンヌちゃんの前に剣が現れた。

 そしてその剣を見た途端、ジルさんの顔色が変わった。

 

「聖カトリーヌの剣?一体何をなさるつもりで……宝具!?燃え尽きるとはまさか……やめ、やめなさいそれだけはああぁぁぁ!!」

「主よ、この身を委ねます」

 

 その直後、ジャンヌちゃんの場所から悪魔の巨体を包むほどの巨大な火柱が発生した。

 

「な、何が……」

「わ、わかりません!清姫さんの宝具をも上回る炎、これはジャンヌさんの…」

『そう、宝具だよ。』

「!!」

 

 私達の疑問にロマンさんが淡々とそう答えた。

 

『あの炎は彼女の二つ目の宝具、聖女の最期という概念が結晶と化したモノ。そしてその概念ゆえに発動後の彼女は“必ず”消滅する。』

「そ、んな……」

『その種別を“特攻宝具”と名付けられたモノ。』

 

その真名“紅蓮の聖女(ラ・ピュンセル)

 

「そんな、消滅するって知ってたなら……なんで止め」

『止めないさ』

 

 私の叫ぼうとする想いを、ロマンさんは遮るように言葉を差し込んだ。

 

『コレは彼女にしかできないコトなんだから、そして止めさせない。例え君に恨まれようともね。』

「……」

 

 私は、口を噤まずにはいられなかった。ロマンさんはこれまで、可能な限り被害が最小限になるよう指示してた。なら、そんな彼がジャンヌちゃんの犠牲を前提とした作戦を決行させたのなら、それはそうした部分も踏まえての判断なんだと思う。だけど、それでも私は燃え盛るジャンヌちゃんが心配で……

 

「お……ォ、お……こんな、こんな理不尽があってたまるか……!宝具!英雄の誇りたるモノを!こんな忌むべき炎に仕立て上げるなど、神よ!!貴方はどこまで、彼女を穢せば気が済むのだぁぁぁ!!!」

 

 ジルさんの慟哭の叫びが、炎の帳を超えて聞こえてくる。

 

「……笑っておられるのですか?この炎の中、どうして?」

(笑ってる、ジャンヌちゃんが?)

 

 こんな、地獄の業火に灼かれ続ける中、ジャンヌちゃんが笑っていたんだ。

 

「私は、この炎を忌むべきものと思ってませんから……ええ、確かに熱くて苦しいです。しかし、生前でさえこの美しい焔に目を奪われたものです。“絢爛の業火”と。」

「理解できません……何故、そんな風に思えるのです?」

「……信じてましたから。」

 

 ジャンヌちゃんの口から漏れる、その真実。曰く、神の声を聞いたあの日からこの結末を覚悟していたのだとか。だが目を逸らさないと、あの時代に起きる戦争で失われる数多の命、それらを打ち捨てない選択へと手を伸ばした。

 そして彼女は戦地を駆けた、聖女と謳われながらも殺人を許容し罪なき異端の国を敵と見定める。だけど、その罪深い所業の果てに正しい道が開かれると信じていた。

 

「その末路がこの炎だと!?そんな巫山戯た話があるか!こんな……こんなのは間違いだ!

貴女が、報われぬ結末など……!!」

 

 ジルさんの瞳から、血涙ではなく本当に淡い涙が流れていた。彼のそんな顔を見て、ジャンヌちゃんは首を横に振る。

 

「いいえ、それこそ間違いですジル……私の末路がなんであれ、私には救えた命がありました。だからきっと、この道は間違いではなかったのです。

だって道は確かに続いた、この“国”は終わらなかった!私の死後、さらなる悲劇と犠牲を払いながらも……遠く!遠く!あの子達の、ひとりちゃん達の時代まで!!」

「ジャンヌ……」

「だから、もういいんです。貴方はきっと赦せなくても、私達の末路は惨めなままで、その罪が赦されることはなくても、私達は共に、あの穢されぬ光を覚えている。それは如何なる時代においても、夜空にて輝く不変の“星座”の様に。」

「____」

「ありがとう、我が友ジル・ド・レェ。さぁ、還りましょう、在るべき“時代(クロニクル)”へ__」

「ジャンヌ……」

 

 直後、火柱が天へと伸びるほどの大爆発が発生した。

 

「ジャンヌちゃん!!」

「駄目だ、マシュ、マスター!」

 

 思わず駆け出そうとする私とマシュを、ジークフリートさんが止めた。

 そして……

 

 

 火柱がなくなった後に…

 

「先輩……ジャンヌさんは……」

「身体が、軽いんです。ジャンヌちゃんと契約した時から感じてた、重さが無いんです……」

「先輩……」

『……巨大適性体の生滅を確認して、ジャンヌ・ダルクも同様に……え?』

 

 ロマンさんからの通信で、ジャンヌちゃんが本当に消滅した。そう確信するかと思ったら……

 

『この反応は……』

 

 さっきまで火柱があった所に、横たわるジャンヌちゃんの姿があった。

 

「ジャンヌちゃん!?」

 

 私は思わず駆け出してしまった。

 

「どうして私、宝具を使ったのに……」

「あぁ……やっと届きましたな……」

 

 ジャンヌちゃんの背後にいたのはジルさん、だけどその姿はさっきまでの狂気的なものではなくて……

 

「聖杯を使い、貴女の霊基を宝具使用前に戻しました……えぇ、私の負けの様です。ではジャンヌ、私は再び地獄へと。ああ……それでも、やっと貴女を、あの炎から……」

 

 そう、ジルさんは狂気なく純粋な美しい笑顔でそう言った。そうだ、ようやくジルさんは本当の願いを叶えることができたんだ。

 

「ジル!まっ……」

 

 だけど、そう言い残して彼は消えてあった。その最期の姿を見たジャンヌちゃんの瞳から、涙が漏れていた。

 

「ありがとう……」

『……最後の敵性“英霊”の消失を確認、ならびに聖杯の回収を完了……』

 

 そう、そして。ロマンさんのこの通信によって……

 

『第一特異点、修復完了だ……』

 

 第一特異点オルレアン、最後の戦いを終えたのだった。

 




次回でオルレアンは最後となります。
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