ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
私達がドレイクさんの船に乗り、大海原を渡っていた時だった。
「巨大魚だー!!」
船の前方に、それこそ船と同じくらいの魚が現れた。このままでは激突、だけでなく私達が巨大魚に呑まれてしまう!
「姉御を呼べ!」
「飲んで寝てます!」
「アーチャーは!?」
「海水がベタついて嫌だと!」
「女子かよ!?」
と、私と海賊の人達が混乱していたその時だった。
「わたしが行きます!」
「そ、その声は!?」
「マシュ・キリエライト、吶喊します!!」
マシュが盾を構えて、巨大魚へと突撃し始めその姿に見惚れてしまった。
「かぁーっ、こぅいいいいい!!」
「流石マシュの姉貴!俺たちに出来ないことを平然とやってのける、そこに痺れる憧れるゥッ!」
などと、こんな調子で航海を続けていた……
そして、出航から数日経った頃にだった。
(美味しい……)
私とマシュは、海賊の人たちから出された巨大魚を使ったご飯を食べていた。想像以上に美味しく、つい匙が進んでしまう。隣のマシュを見てみると、彼女も美味しそうに食べていた。
「おう後藤」
「あ……はい?」
すると横から、海賊の人から声をかけられたビックリしつつつい返答してしまった。
「それを食い終わったら干物作るの手伝え。」
「え、あ……干物、ですか?」
「あの巨大魚の余った身を干物にするのさ。船の上じゃ、保存食は大事だからな。」
「あ、なるほど……」
海賊だから、割と雑な生活をしてる印象があったけど、実際のところはこんなふうに割と細かい管理をしていたから、思わず私は感心してしまった。
「姉御が聖杯ってのに願えば、飯も下げ困らねぇんだがな。」
「この海だと見たことねぇ魚も撮れてちゃうから、そっちで補えってさ!」
(た、逞しい生活してるなぁ…)
敢えてそんな、サバイバルな生活をこの人達は楽しんでるんだなと私は思ってしまった。実際、あんな風に大変な目にも遭ってるけど、それすら楽しんでる顔をしてる気がする。
と思ってたら……
「お味はどうですか?」
「あ、清姫さん……」
声の聞こえた方を向くと、そこには割烹着を着た清姫さんがそこにいた。
「あ、えっと厨房の方はどうですか?」
「英霊の仕事ではありませんが、ひとり様のためならばこの程度。ですから、ここからの作業を更に頑張るためにも、お褒めの言葉を……」
「どこへ行く気でちか?」
そう話していると、清姫さんの背後から白鬚のコックさんが清姫さんの頭を掴んだ。なんか、語尾に違和感があるような……
「さぁ来い、
「料理長ご無体な!あとその語尾、なぜか逆らえないからおやめ下さいィィィ!!」
そんな感じに、清姫さんは料理長さんに引きずられて厨房へと吸い困るていった。
『サーヴァントもたじろく活力と、未知の海への好奇心。まさに大航海時代の人々だね!』
「あ、ダヴィンチちゃん……この時代について詳しいのですか?」
『私はなんでも詳しいさ、大航海時代とは16〜18世紀のヨーロッパを駆け巡ったある種の“熱狂”。善きにしろ悪しきにしろ、世界を大きく広げた出来事さ。人類の技術の発展により、未知の土地や航路が次々と発見され、それらの開拓が国家に莫大な利益を齎した。奴隷という負の側面もあったが、人々は命の危険すらも顧みずに見果てぬ水平線を目指したのさ……』
「なんだか、凄い時代だったのですね……」
『ああ、中でもフランシス・ドレイクは特筆すべき人物だ。その特異点の時代から7年後の1580年、彼女は世界一周を成し遂げ後にスペインの“無敵艦隊”を破りイギリスが大航海時代の覇者となる道を開く一助となった。彼女の功績がなければ、産業革命もなかったかもしれないね。』
「人類史に欠かせない人なんですね……」
『私と同じ様にね。もし彼女がサーヴァントだったなら、私と同じく“星の開拓者”のスキルを持つかも知れないね。』
(星の開拓者?)
その言葉を不思議に思ってたら……
「腹減ったー!!」
話の中心である船長さんが、私達の食卓へと入り込んできた。そして有無を言わず、ご飯とお酒をガツガツと口へ入れ込んでいく。
………どことなく、きくりお姉さんを連想してしまう。
「……色々聞きましたけど、やっぱお酒が好きなお姉さんにしか見えないですね。」
『アハハハ!ここだけ見てるとね。話が少し逸れるが、君もよく知ってる香辛料の胡椒は、この時代では黄金にも勝る価値を持っていてね。今転送した胡椒瓶を、彼女に見せてごらん?』
(胡椒が?)
にわかには信じられないけど、ひとまず送られた胡椒を食事してる船長さんの前に見せた。すると……
「ヘアッ!?」
「姉御が泡吹いて倒れたぞー!!」
(本当だ……徳川埋蔵金をいきなり見せられたようなものかな?)
なんてやりとりを見ていたら、不意に外から声が聞こえた。
「野郎ども、見えてきたぞー!海図の島に到着だ!」
そうして暫くすると、私達は島へと到着して陸地へと降りた。
「ヒュウ!結構大きい島だねぇ♪特異点ってのは面白いね、たった数日で空気の味が違う
「あ、空気の味ってわかるんですか?」
「陸地ごとに空気の味が違うのさ。」
「……そ、そういうものなのですか?」
『なるほどなぁ、気温や海流が違えば、揮発する物質の種類も量も変わる。空気の成分にもごくわずかな違いは出るだろうね。流石はフランシス・ドレイクだ。』
ロマンさんのその解説が差し込まれてそんな機微が分かるもんなんだ、と思わず感心してしまう。確か、音の違いを色でイメージできる人がいるって聞いたことがあるけど、もしかしてそれに近いのかな?
そう思って船長さんの顔を見ると、まさにドヤ顔という言葉が似合いそうな笑顔を浮かべてた。そして、まだ話が続きそうだと思ってたが……
『そうだね、この………流………似て……としたら……第……異……』
「あ、れ?ロマンさん?」
通信の声が途切れ途切れになり……
「ッ!?」
その直後に大きな地震が起きて思わず私は尻餅をついてしまった。
「地震!?ロ、ロマンさん何が起きて……」
「大丈夫ですかマスター!?」
異変を感じてマシュが合流し、通信機へとの応答を求めた。だけど通信機からの応答は一向に来ず……
「カルデアと連絡が取れなくなったぁ?そりゃ、ヤな感じがするねぇ……」
船長さんが私達の話を聞いて、そんな言葉を漏らした直後。海上の船からアーチャーさんが跳んで私達の場所へと来た。
「船長、大変なことになったよ。」
「はぁ!?船まで動かなくなったぁ!?」
「船自体に異常はなくてね、ただその場に固められたかのようにガッチリ固定されてるみたいだ。」
「マシュ、分かるかい?」
「おそらく魔術による結界かと……」
「あ、カギ爪の男という方の罠ですかね?」
「そこまでは……罠の可能性はあるかもしれませんが。」
「なぁに、仕掛けた奴を探し出せばわかるさ。島を歩いて手掛かりを探すよ。カルデアのマスターとマシュは私と同行、アーチャーと清姫は戻って船を守りな。」
「ああ、了解したよ。」
船長さんの指示に従い、私とマシュは船長さんと共に島のうちへと進むこととなった。
そして、島の森を進みながら船長さんと色々と話をしていた。
「……驚きました、船長もアーチャーさんの真名を知らないのですか?」
「知る必要あるかい?」
「不安ではないのですか?契約、マスターとサーヴァントの関係ではないとはいえ……」
「無いね。本名なり生まれなり、わかんない奴なんて私の船にはごまんといるからね。サーヴァントなんてもんがいるこの海で、味方になれる奴がいるなら、飛びつくしかにいだろう?それに……あー、カルデアのなんて呼ぶのめんどだねぇ。アンタ、名前は?」
「あ、はい……後藤ひとりです。バンドメンバーからは、ぼっちと呼ばれてます。」
「ふはっ、洒落が効いたあだ名だねそりゃ。気に入ったよ。」
船長さんは笑い声を張り上げながら私の肩に手を組み、顔を近付ける。それだけで私は溶けそうになるが、直後に……
「知ってるかい?あのアーチャー、楽器弾けるんだよ?」
「あ、え?そうなのですか?」
そんなことを聞いて、私は驚いてしまう。あの人がまさか、演奏できるなんて。
「いい音楽を流しながらの航海は最高だよ。ぼっち、お前そんな経験あるかい?」
「あ、江ノ島というところの海は見たことありますが、そこで演奏したりとかは……無い、ですね……」
「おいおい、そりゃもったいないね……で、マシュは?」
「私ですか?ありません、外の世界に出たことがなかったので。」
「…………そうかい。」
マシュの返答を聞いて、船長さんは何か思うところがあったのか間を少し開けて口を再び開けた。
「じゃあ、ここに来てからはどうだい?マシュは初めて海を見たんだろう?」
「………?あ、そうでしたね。船の生活で手一杯で、すっかり忘れてました。」
「ふーん…‥なら折角だ、アンタが見る海はアタシが見せるよ。きっととびきり綺麗な海になる、約束さ。」
「____は、はい!」
船長さんのそのセリフを聞いたマシュは、まるで誕生日パーティーを楽しみにしてるような、幼い子供のような可愛らしい顔をしていたと私は思った。
きっと、この特異点での航海はマシュにとって、貴重な体験になりそうだな、と。
そして、森の中をさらに奥深く進んでいったら………大きな洞穴を見つけた。
「いいねぇ、それっぽいのに行き当たった。じゃあ早速中を拝見するかねぇ……っ!?」
船長さんはそう言いながら、洞穴へと一歩足を踏み入れた。続いて私とマシュも入ると、その中は私たちがイメージしてたのは全く違ってた。
(宮殿!?それも明らかに人工の物、なんで洞窟の中に……)
明らかに不自然、マシュもそう感じているようだけど船長さんは……
「滾るねぇ、財宝の匂いがする!早速中に入ろうかぁ!」
俄然やる気が出たみたいで、この洞窟内の宮殿に入ろうとしていた。それをマシュが静止しようとする。
「ま、待ってください!準備も無しなんて危険です、一度戻って……」
「優等生だねマシュは、それアーチャーの清姫を連れて、仲良く全滅したらどうするよ?」
「あ………」
マシュも私も、船長さんの意外にも冷静な考えに呆気を取られた。私はてっきり、そんなこと知るかと突っぱねるかと思ってたし。
「まあ、そうなったらそれまでな人生だけどね。ツイてるよアタシたちは、偶然にもいいバランスで戦力が分かれた。何があっても救援を期待できる。
行くよぼっち、マシュ。アタシと行動するってのはそういうことさ。」
そう言って船長さんは宮殿へと身を潜り込ませ、私たちもついて行くことにした。
そして、宮殿内をひたすら進み続けていて……
「まーた分かれ道かい、じゃあ右行くか。」
「大丈夫でしょうか?明らかに勘で進んでいます……」
マシュの不安そうな声が聞こえ、正直なところ私も同感ではある。だけど………
「なんとなくですが、大丈夫かなと思ってます。」
「え、不安になりませんか?」
「あ、不安な部分はあります。ただ、船長さんって凄くロックで憧れてる部分も、あるのかなと……」
「ロック、ですか?」
「船長さんは、お酒飲んで酔っ払ったり、とても破天荒な人だとは思います。だけど、財宝とか海のことで、小さい子みたいに目を輝かせたり、だけど入る前にちゃんと現実的にことを見据えてたりという部分もありました。そういう、常識に囚われず我が道いくスタイルが凄くロックで、ジャンヌさんやジークフリートさんとはタイプがすごく違いますが、同じくらい信頼できる、そんな人だと私は思います。」
「……先輩」
それが、私の感じたフランシス・ドレイクという人の印象だった。
「またかい!あー、じゃあら左行くかねぇ!」
「……た、多分ですけど。」
「大丈夫です、来た道は記憶しています。」
それはそれで凄いなぁ、と私は感じながら私は船長さんの進んでいった道を追いかけていった。
そして
「だいぶ奥まで来た感じがするねぇ……こういうの
「クレタ島、ですか?」
「ギリシャにある島の一つで、神話ではそこにはかつて“迷宮”が建てられていたと言われてます。そしてその奥には、人の体に牛の頭を持った怪物……」
「待ちな」
マシュの話を聞きながら歩いていたら、ふと船長さんが手を横に突き出しながらそう言い放った。
「あ、船長さん?」
「“当たり”だね。結界を張った本人の手かは知らないが、ここで一悶着あったらしい。足元を見なよ。」
「!」
言われた通り足元を見れば、床にはまるで巨大なハサミで斬られたかのように痕跡が深く刻まれていた。
「こ、これって……」
「誰かがやりあった跡みたいだね。にしても、激しい戦闘だねこりゃ。硬い床がズタズタだ、大した怪力だや。」
(結界も張れて床に深い跡が残るほどの怪力、だいぶ強い人なんじゃ……)
と、私が不安に感じてた時だった。
「ッ!?また地震がッ」
「いえ!これは……連続的な地響き、まるで足音の様な……!!」
その震源はマシュの言ってた様に、私たちの目の前に現れた大きな人影が音源だった。
その姿は私達よりも一回り大きく、凄く筋肉質で両手には大きな斧を握っている。そして顔、と思われる場所には黒い牛の仮面を被っていた。
「まさか、本物かい!?」
「この魔力量、恐らくは!」
「あ、牛の顔って……さっきの」
「先輩も聞いたことあるはずです!クレタ島の迷宮には、一体の怪物が閉じ込められていたと言う話です。“ミノス王の牛”と名付けられた、世界で最も有名な怪物の一体、その真名は“ミノタウロス”!!」
「オオォォォォッッ!!」
曰くミノタウロス、それは確かに私も聞いたことある名前だった。そして、そう言われた彼が不意に雄叫びを張り上げた。
それ物理的な圧力もあった様で、マシュが盾で防いでもまるで突風が起きたかの様に私の体が吹き飛ばされそうになってた。
(そ、そんな……雄叫びだけでとんでもない威力が!?)
「撤退を!ミノタウロスを私達だけで戦うのは……」
「落ち着きな!」
マシュが撤退を提案しようとするのを、船長さんが食い気味に遮る。
「ミノタウロスの迷宮なら、アリアドネの糸も無しに脱出できるのかい?」
「………!」
それは、私達三人では脱出困難を意味していた。その反面、迷宮にずっといるミノタウロスなら地形はおそらく理解しているはず。
つまり、撤退するにしたって、向こうに地の利がありら困難なことだ。
「………スー……」
そして、船長さんが一呼吸入れた直後にすかさず手に握ったピストルでミノタウロスに向かって発砲した。
「………?」
宙を疾走した弾丸はミノタウロスの肩を擦り、小さな擦り傷ができた。それを、ミノタウロスは不思議そうに見ており……
「……よォし!」
その反面、船長はさんは緊張に帯びながらも笑みを浮かべて口を開いた。
「ビビってんじゃないよ、ぼっちにマシュ!弾は当たった、血も出た!なら、アイツは倒せる!」
「船長……」
「アタシはこの海から出たらやることがあんだよ!世界一周、ゴールデン・ハインドで世界を巡る!!それまで死ぬ気なんてサラッサラッにないんだよ!!
ぼっち、マシュ、アンタらはどうだい?ビビって死んで、それで満足かい!?」
「………!!」
船長さんのそんな問いかけは、私の心を強く疼かせた。
「いい、え……いいえ!私のギタリストとしての魂を、ここで終わらせる気はありません!!」
その言葉と共に、私は一歩強く足を踏み出した。
「マシュ、やりましょう!私達の旅を続けるために!」
「……はい!勿論です、マスター!マシュ・キリエライト、ミノタウロスの迷宮を踏破します!!」
「し………ねぇ……っっ!!」
こうして、私たちとミノタウロスの戦闘の火蓋が切って落とされたのだった。