ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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グランドセイバーは、アルトリア・オルタにしました。剣スロと悩みましたが、先にカンストしたのと、気持ち的に強かったので。


第二十三話

 

「どうして……」

「突然離脱したと思ったら、あの人…」

「……なんでだい、ヘクトール」

 

 マシュと清姫ちゃんが困惑の声をあげる。そして、黒ひげさんの返り血を浴びながら、船長さんはそう問いかける。だけどその問いかけに応えることなく、ヘクトールさんは……

 

「流石にその女に勝てるとなりゃあ、アンタだろうと周りは見えなくなるよなあ?」

 

 黒ひげさんの胸に突き刺した槍を引き抜くと同時に、彼の手に金色の結晶が現れた。

 

「聖杯、いただいたよ」

「……いつから、裏切ってたんだい?」

「初めからさ、別に上司がいる。その命令で動いていてねぇ、サーヴァントの辛いところだ。

さて、俺の目の前にはもう一つ聖杯がある。それを逃す手もねぇよなぁ。」

「船長!」

「せ、船長さん!」

 

 船長さんに槍の矛先が向けられようとしている。当然私たちはそれを阻止すべく向かうが……ヘクトールさんはまるで動揺する様子を見せない。それどころか……

 

「ひーふーみーよー、慕われてるねぇそっちの船長は。

だがまぁ、手合わせしてみてわかったけど。」

 

 彼の目線は私たちに向けられてない。それは、私達よりも後ろへと向けられている。

 

(っ!もしかして……)

「アンタら全員、俺より遅いな」

 

 その言葉の直後、その僅かな瞬間で一気に私たちの背後に移動。エウリュアレさんのいる場所へとあっさり辿り着いた。

 

「そしてその上、素直すぎる。オジサンの本命は、この“女神”でね。」

(船長さん狙いの言葉はブラフ、本当はエウリュアレさん狙いだったんだ!)

『駄目だ、彼を止めてくれ!!』

 

 完全に場がヘクトールさんによって掻き乱され、ロマンさんの声にも焦りを感じる。

 

「は、な、せぇぇぇ!!」

 

 たまらずアステリオスが跳躍し、ヘクトールさんへと突撃する。しかし……

 

「きゃっ」

「うっ!」

 

 ヘクトールさんは無理矢理エウリュアレさんを動かし、盾のように突き出す。まさに人質、たまらずアステリオスは動きが止まってしまう。

 

「その反応は予想つくし……」

「があぁぁ!!」

 

 そしてすかさず、ヘクトールさんは反撃の刺突を放ちアステリオスの腕を削ぐ。

 

「がぁああああ!!」

「そして次に来る手も読めてるさ。」

「マスター!」

 

 船長さんとアルテミスさんも迫り、射撃を放つ。特にアルテミスさんの声に合わせ、私もすかさず瞬間強化の曲を奏でる。

 

【カルヴァリン砲!!】

汝・速射の白銀(ラピッドファイア・オルデュギアー)!!】+【瞬間強化(ブーステッド)!!】

 

 放たれる砲撃と矢の二連撃。しかしその砲撃を巧みに逸らしつつ、私のギターで強化された矢すらも容赦なく軌道を逸らされてしまう。

 

「マジかい!」

「そ、そんな……」

「面白い魔術礼装だけど、おじさんにとっては許容範囲さ。音を通して強化するんなら反応も容易い、今度は音よりも速い演奏でも目指してみることだね。」

(そ、そんな……)

「ま、流石に直撃はごめんだけどね。さて、おじさんはこのまま君達を軽くいなしておさらばしますか。」

(ま、まさか私のギターが効かないなんて……)

 

 まさに優位、そう感じさせる言動と槍でリズムを刻むように揺らしながらそう言い放つ。まるで、音よりも速い存在を知ってるかのようなそのセリフ。私のギターも通じない、このままどうしようもないと思っていた時だった。

 

「ダラダラダラダラと、人の船で長話してんじゃねぇよ」

「は?」

 

 心臓を穿たれ、死亡してたはずの黒ひげさんがヘクトールさんの横から飛び出してきた。流石に予想外の出来事だったのか、凍りついた表情をして、黒ひげさんに押し倒される。

 

「オイオイオイ、生きてんのかよ!?霊核ごと貫いただろう!?」

「知らねえよ、つかなにエウリュアレちゃんに触ってんだよ!!趣味同じかこの野郎!?」

「黙れよバカが!!さっさと死ねよ!!」

 

 すかさず叫びながら放たれるヘクトールさんの刺突、それが黒ひげさんの体を更に削って倒れてしまった。

 

「ガっ……」

 

 ふわりと体が浮き、そして血反吐を吐きながら今度こそ黒ひげさん倒れてしまった。だけど……

 

「アブねぇアブねぇ……ちぇっ、死に損ないにしてやられたよ。」

 

 結果論とはいえ、黒ひげさんのしぶとさのおかげで私達はエウリュアレさんを守ることができた。陣形を汲んで、彼女の周辺をマシュ達が守ってくれている。

 

「えうりゅあれ…だい、じょう、ぶ?」

「馬鹿!あなたの方がひどいじゃない!それに船長や貴女達も……」

「何言ってんだい、当たり前だろ?」

 

 船長さんがそう答えたら、マシュ達が無言で頷いて肯定した。それを見たヘクトールさんは、呆れたような声を出す。

 

「……やれやれ、サーヴァント一騎に、ご大層なことで……」

「わかってないですなぁ、これが尊みというんですぞ?」

「まだ生きてんのかよ……」

(やっぱ怖いこの人…)

「いやぁ、流石にそろそろさよならですがな!」

 

 また再び起きながら、そんなこと言う黒ひげさんに一抹の恐怖を私は抱かずにはいられなかった。とはいえ、流石に戦闘続行は不可能なようだ。

 

「だが黒ひげは何度でも蘇る!人間に悪の心がある限りなぁ!!なーんて♪ゴホッゴホッゴホッ!」

 

 吐血しながらそんなセリフをいう黒ひげさんを見ていると、となりに船長さんが来た。

 

「みっともないかい?でもちゃんと見といてやんな、アレが海賊の最期さ。何でもかんでも欲しがって、最後には惨めに破滅する。アンタが生まれるずっと前、そんな阿呆がたくさんいた。笑えるだろう?」

「いいえ、笑いません。」

 

 船長さんのそんな言葉に、私は自分でも驚くほど早く鋭く、そう返答した。しかし、そこに不思議と後悔は一つもない。

 

「例え悪い人だったとしても、最後まで自分の道を走り抜いた人を私は見届けます。」

「……そっか」

「ドゥフフ、ゴホッ……ピンク髪の美少女にお見送りされるのも悪くない。BBAもなんか優しいし、もしかして惚れた?」

「バーカ、そろそろ逝けよエドワード。“ヘクトール(ソイツ)”が首を刎ねそうになったら止めてやる。

だからその首きっちり、忘れずに持っていきな。」

「………ハ、ハハハハハ!」

 

 船長さんの言葉に、黒ひげさんは一瞬呆けたような顔になった。けど直後に、いつも通りの悪辣な笑い声を弾けさせる。

 

「ソイツは良い最高だ!それじゃあ、さらばだ人類!さらばだ海賊!

 

黒ひげが! 誰より尊敬した女が! 誰より焦がれた!海賊が!

 

黒ひげの死を看取ってくれる上に、この首をそのまま残してくれるなんてな!

 

……じゃあな野郎ども」

 

 そして、右手の鉤爪を天に掲げ

 

「黒髭は死ぬぞ!!くっはははははははははは!!!!」

 

 その断末魔を大海原に響かせながら、その姿を退場させていった。そして……

 

「ああ……どうせアンタもアタシも地獄行きだ。海賊らしく無様にみっともなく、悪行とやらの報いを受けようじゃないか。」

 

 小波の音共に、船長さんは黒ひげさんに向けてそんな言葉を送ったのだった。

 

 

 

 

 

そして

 

「ヤツの船も消えるか……うまくいかないもんだね。」

「ここまでです、ヘクトール。いくら貴方でも、全員を相手するのは無理な筈。」

 

 私達の視線がヘクトールさんの背に集まる。マシュの言う通り、二人がかりはともかくこれだけの人数相手ならばいくらヘクトールさんでも避けたいはずと思いたい。

 だけど、特に焦りは感じられない雰囲気をしている。

 

「……仲間が揃って図に乗ってるのか、それとも。“二つの時代を修正した”自信が、そう言わせてるのかねぇ?」

(え、私達が二つ特異点を修正したことを知ってる?)

 

 思わず心臓が跳ね上がり、直後に通信が差し込む。

 

『ぼっちちゃん、船長!魔力反応のある船が接近中!これは明らかに……』

「そ、オジサンの上司の船。いやぁ、助かった」

『待った!なんだ……計測値がどんどん上がってるぞ。聖杯があるわけでもないのに、一体何が乗ってるんだ!?』

「いいリアクションだ、紹介する甲斐があるってもんだ。アレはね、ギリシャ神話にて金羊の毛皮を求め、旅立った冒険者達の船だよ。」

『金羊な毛皮だって!?それはまさか……』

「そのまさかさ、神話に輝く数多の英雄が集い乗り込んだ、人類最古最強の『海賊団』さ。かの者達の名は“アルゴノーツ”!!」

 

 

 アルゴノーツ、私達の前に立ち塞がる相手が現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

『船長、撤退するべきだ。あれがアルゴノーツなら我々では敵わない。何せあそこに居るのは、真名なんて探る必要もない。ギリシャ神話最大の、いや人類史においても最大の英雄!その名も“ヘラクレス”!!』

「____!!」

 

 ロマンさんの通信を聞きながら、その船に乗る筋骨隆々な巨体の人物を見ていた。確認するまでもなく、その人がヘラクレスさんだと確信する。そんな風に思ってたら、私はいつの間にか尻餅していた。

 

「マスター!大丈夫ですか!?」

「あ、ごめんなさい……だいじょ」

 

 マシュが駆け寄り、思わず止めようとした自分の手を見て驚いた。震えてる、それをその目に映すまで自覚がなかった。

 

「あ、いや、だ、大丈夫です!!」

(あのヘラクレスさんって人を見ただけでそんな、ファブニールと戦った時よりも恐ろしく感じてしまってる!勝てるの?そんな相手に……)

「さて」

 

 そう考えていると、アルゴノーツの船に乗っている金髪の男の人がこちらへと話しかけてきた。

 

「ようやく顔を見合わせる距離に来たが、随分と見窄らしい連中だな。

こんな奴らに遅れをとったのかい、ヘクトール?」

「ええ、面目ない。」

「まぁいい戻りたまえ、そこの悪党達に改めて自己紹介してあげないとね。」

(……?敵とかじゃなくて悪党?)

「初めまして、世界を修正しようとする邪悪な者達。我々は『アルゴノーツ』世界を正しくあろうとさせる正義の英雄達だ。

コルギスの魔女、メディア

トロイアの守護者、ヘクトール

世界最強の英雄、ヘラクレス

そして彼らを率いるのがこの私、“四海(オケアノス)”の王ある英雄、イアソンさ。」

「正義?王?なんです、あの本音も嘘も『全部最低』みたいな男は?」

 

 清姫ちゃんの苛立ちを交えた問いかけに、船長さんが答える。正直、今の段階での私の感想は清姫ちゃんとほぼ同じだ。良い印象が全く湧かない。

 

「“アルゴノーツ”ってのはね、古代ギリシャの叙事詩“オデュッセイア”“アルゴナウティカ”に語られたアルゴー号き乗った英雄達のことさ。

ヘクトールは違うが、メディアとヘラクレスは実際にアルゴー号に乗っていて、イアソンがリーダーだったのは本当だ。だが、物語以上に傲慢な男だねぇ……」

「傲慢な女達だ、王に対する敬意が足りない。」

「何が王だい、どうせアタシの聖杯を狙ったチンピラだろ?」

「……ハッ」

 

 船長さんとイアソンさんがそうやり取りを繰り広げる中、ヘクトールさんがアルゴノーツの船に戻る。

 

「聖杯など一つで充分さ、私の狙いはヘクトールから聞いたろう?つまり、エウリュアレだと。」

「……態々ヘクトールを使ってまでエウリュアレを拉致ってどうする気だい?妻にでもするんかい?」

「まさか!それは捧げ物、後は『契約の箱(アーク)』さえ見つければ私の夢は」

「キャプテン、優しすぎますよそれ以上は。」

「ハハハハ!王たる者の慈悲が溢れてしまった!」

(エウリュアレさんは捧げ物?彼女を犠牲にして何かを実現しようとしている?)

 

 そう考え込んでいると、清姫さんとアーチャーさんが前に出る。

 

「馬鹿にしてますね、燃やしましょうかひとり様?」

「やめた方がいい、ヘラクレスが構えている。まぁでも、なんとなく目的は分かったよ。

で?ヘラクレスで僕らを一掃すると?」

「私は寛大な王さ、君達が女神を渡すならば見逃してやってもいい!怖いだろう?ヘラクレスは。」

「……」

 

 まだ手が震えている、あの巨体を見ただけでこんな様だ。だからイアソンさんの言うように、彼女を渡してしまうのが賢明なんだろう。

 

「……」

「……ますたー……」

「……ごめんなさい、アステリオス。だけど、大丈夫…」

 

 だけどそれは、私の心を無視した選択だ。そんな選択なんて嫌だ!だから私は顔を上げて言い放つ。

 

「お、お断りします!彼女を渡すわけにはいきません!」

 

 例え怖くても、私はヘラクレスさんから視線を逸らさない。そんな私を見てか、エウリュアレさんから困惑の声があがる。

 

「……どうして?」

「どうしても何も、アンタが好きってことさ。アタシも含めてね。」

 

 その困惑に、船長さんが答えながら前に出る。

 

「よーし野郎共、海の男の誇りある仕事だ!

エウリュアレを守ってこの場を切り抜ける!!抜かるんじゃないよ!!」

「オオオォォォッ!!」

「俺達は撤退準備だ!裏方の意地を見せっぞ!」

「ハイホー!」

 

 船長さんの鶴の一声で、私たちの船の海賊団の人達が声を張り上げた。その様子にヘクトールさんが呆れた声をする。

 

「逆効果でしたね、士気が高まりやがった。」

「ハッハー、そうかそうか。彼らはとても勇気がある!気に入ったよ!まるで英雄のようだ!!ヒュー!カッコイー!

……ったく、塵屑風情が生意気な。諸共今すぐ消えてくれる?」

 

 直後、イアソンさんが手を広げれば

 

「ヘラクレス!!」

「俺たちはいいんで?」

「ああ、先ずは力の差というのを見せつけてる」

 

 遂にヘラクレスさんの巨体が動きを始めた。

 

「ヘラクレス来ます!マスター、私の後ろに下がっ」

「___」

「テ」

 

 気がつけば目の前で盾を構えるマシュの横をすり抜け、私の眼前にはヘラクレスさんの巨体があった。

 そう思った直後、悲鳴すら出す余裕もないまま私の視界は奈落の闇に覆われたのだった。

 

 

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