ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
「さて、なんとかアルゴノーツから逃げおおせたわけだが、これからどうしようか?こちらは戦力を失ったが、あちらの損害は軽微で状況は悪いとしか言えない。」
「だからなんだい、やることは一つさ」
アステリオスのおかげで逃げられた私たち、アーチャーさんがそう言うと船長さんがジョッキを振り下ろしながら言い放つ。
「アルゴノーツをブッ倒して、聖杯もブン奪る!!」
「あ……はい」
「そう言うと思ったけどね、問題はヘラクレスだ。彼の命のストックはまだまだ残ってる。」
確か、12回死んでもらわないといけないんだっけ?改めて振り返ってもそれはあまりにも、反則すぎない?と思えてしまう。
幸い、アステリオスとアーチャーさんが2回やってくれたけど……と思ってたら
「貴方の宝具を使えばいいでしょう?」
と、清姫ちゃんが言った。確かに、ダビデさんの宝具が通るならそれをあと10回くらい繰り返せば……アーチャーさんの負担を無視すればだけど。
「そう上手くいかないと思うぜ?」
「あ、やはり負担が大きいから……」
オリオンさんも私と同じことを考えてるのかと思い、ついそう言ってしまったけど彼は首を横に振った。
「うんにゃ、それだけじゃない。」
「?」
「ヘラクレスの奴、戦闘中どんどん攻撃が効かなくなってたろ?」
「え?」
「確かに、手応えは薄くなってたね……」
それってつまり、私が思ってる以上に状況が深刻になっていることになる。
「多分、一度受けた攻撃には耐性が出来るんだよ。だから、もうアーチャーの宝具じゃ殺せない。」
(文字通り、同じ手は通じないって酷すぎない!?)
「俺の、アルテミスよ宝具でも殺せるだろうがそれで打ち止めだろうな。とにかく、ヘラクレスを殺し切るのは不可能だ。」
そんな、どうしたら……私も含めてみんなが言葉にせずとも静寂さがそれを示唆していた。そんな時だった、風を切る音が聞こえればオリオンさんの頭に何かが刺さった。
「ギャアアアァァァッ!!」
「ヒッ!?な、なにが……」
「僕たちの進んでる方角の、あの島からだね。矢が飛ばされて来たが、二つ目がくる様子がない。」
「それに、矢文がついてる。これを読めってことかな?」
アーチャーさんが、矢に結ばれてる手紙を取る。
「どれどれ……」
「抜いてよぉ!!」
オリオンの頭に矢がついたまま、みんなそのまま手紙を読もうとしてオリオンさんがつい叫んだ。そして……
「あ、これ撃ったのは俺の仲間だわ。そのまま上陸して合流しよう。」
「………えっ」
なんで仲間なのに撃たれたのだろう……と、私は思わずにはいられなかった。けど、気になるのでオリオンさんのいう通りに私達は上陸し島の内へと進んでいった。
その移動中に、私はオリオンさん達に問いかけた。
「あの、仲間というのは初耳なのですが……お二人で行動してたのでは?」
「実は俺達は召喚されてすぐに、縁のあるサーヴァントと出会ってな、そいつと示し合わせて別行動とってたんだ。
俺達はマスター含む戦力探しで……」
「その子には、ある物を探してたの!」
「ある物、ですか?」
「合流すりゃわかるよ、黙ってたおわびじゃねぇが。ま、その分だけびっくりすると思うぜ?」
「は、はぁ……」
オリオンさんとアルテミスさんは、凄くニヤニヤと笑みを浮かべておりまるでとっておきを今から見せるぞ、みたいな雰囲気となっていた。
そして、歩き続けていると洞窟が見えて来た。
「で、この洞窟で待ち合わせかい?」
と、船長さんが言うと直後に声が聞こえて来た。
「その通りだ、今姿を見せよう。」
そう言って姿を現したのは女性であるものの、頭には猫のような耳を生やしていた人だ。
「“
『待ってくれ、何故か記録に残ってる』
「え、それってアタランテさんと私達会ってることに……けど……」
「そこも含めて説明しよう、ついてこい」
初対面なのに出会っている、そんな不思議な状況にアタランテさんは冷静に答えながら先へと進み私たちも従っていた。
話を聞くと、どうやらフランスで召喚されており狂化してたサーヴァントの一騎だったそうだ。だからカルデアに記録されていたわけだ。
「敗れた私は、次にこの海域に召喚された。今度はアルゴノーツの一員として。」
「え、それってイアソンさんの……」
『そうか、アタランテも神話ではアルゴノーツの一員だった。だが、現状を見るに君はアルゴノーツと敵対することを選んだんだね?』
「正確にはイアソンと、だ。二度も世界を滅ぼす手伝いをさせられるのは癪だからな。故に離脱し、奴らを止める術を探す中でアルテミス“様”と出会った。」
「…….様?」
「アタランテは月の女神である“
オリオンさんがそう答え、ついアタランテさんを見てしまう。だって……
「アルテミスさんを信仰して……」
「言わないでくれ……」
「さて、それでアタランテは何を探していたんだい?」
「……これだ」
アタランテさんが導いた先にあったのは、階段の上に飾られている箱が私達の前に示された。
「“
『まさか本当に、この箱とはね……』
「あの、アークってなんですか?」
『旧約聖書に記された聖遺物の一つさ、神の指示を受けたモーセが作らせた“十戒”を封じた箱。開いた者に罰をもたらすという“開けてはならない”とよく聞く逸話に出てくるアイテムさ。』
「あ……玉手箱とか、そういう?」
『そうだね、そう思っていい』
「イアソンはエウリュアレさんを捧げ物と言ってましたね、一体どういうことなのでしょう?」
マシュの言葉を聞いて振り返る、確かにイアソンさんと初めて対面した時にそんな感じなことを言ってた。
「……アーチャー、そろそろ教えてくれるかい?」
「……そうだね、頃合いだろう。」
船長さんがそう言うと、アーチャーさんは観念したかのような表情をする。
「どういうことですか?」
「簡潔に言ってしまうとだね、エウリュアレがこの箱に触れると、この特異点は消滅する。」
「特異点が、消滅?」
「どういう……いえ、何故アーチャーさんがそれを?」
『それは、アークがアーチャーのもう一つの宝具だからさ。』
「もう一つの、宝具?」
確か、ヘラクレスさんを一度殺したあの投擲の一撃を宝具と言ってたけど、アークも宝具なの?
「よく知ってるね、アークは僕の現界とともに現れる宝具。
僕は生前、エルサレムにアークを運んだんだ、イスラエルの王として、ね。」
「……イ、イスラエルの王?」
アーチャーさんは、イスラエルの王様だったの!?そんな唐突な自白に私だけでなくマシュと清姫ちゃんも驚いた顔をする。
「では、貴方は……」
「生前は古代イスラエルの王、今はドレイク海賊団のアーチャー、真名は“ダビデ”さ。」
「_____」
「驚いてるね、でも説明は続けるよ。敵を倒すためにも、情報の共有は大切だからね。
では、じっくりとことの経緯を語ろうか、僕のかわいいアビシャグ達♪」
そして
「なるほど、事情は理解しました。一寸も納得いたしませんが。」
アーチャー、改めてダビデさんは清姫ちゃんの炎で真っ黒焦げとなっていた。それと……
「ひどいなぁ、燃やすなんて」
「黙らっしゃい!散々隠し事しといてその態度はなんです!?
「ずびばぜん……」
オリオンさんまで黒焦げとなっていた。とはいえこのままりでは話が進まないので……
「あ、その色んな事情があったと思いますが……つまりは、ダビデさんとアークは召喚と同時に分かれてしまって、船長さんのクルーになりつつ箱を探していたということですよね?
誰が敵が味方がわからないから、その真名を隠しながら……」
「そう、そして今は敵も味方もわかったから、真名を明かしたというわけだ。」
「敵はイアソン、目的は“特異点の消滅”」
黒焦げ姿から元に戻り、爽やかな笑みを浮かべながらダビデさんはそう答えた。
「消滅してしまえば、聖杯も特異点の修復もあったもんじゃない。それだけは防がないと」
(………あれ?)
その時、ふと思った。
(エウリュアレさんをアークに捧げると、特異点が消滅するということは……イアソンさんの目的がそれ?なんで?
例えば、黒いジャンヌさんとジルさんは、フランスに対する復讐心があったから納得できる。けど、確かイアソンさんは“夢”っていってた。まさか、この特異点を消すこと自体が夢?全部消してしまうことなんて、夢も何もあったものじゃないと思うけど……)
「しかし驚きました、アークにそんな効果があるなんて……」
「バグみたいなものだけどね」
だけど頭の悪い私ではこの疑問の答えを出せそうにない、だからまずはダビデさんの話に耳を傾けることにした。
「アークの本来の効果は“触れた物を消滅させる”という人一人を殺すのが精々の宝具なんだけど、エウリュアレが触れると話が違ってくる。」
『エウリュアレの霊基出力が高くないから失念していたよりゴルゴーン三姉妹とは、ギリシャ神話における三姉妹の“女神達”の名だ。つまりエウリュアレは“神霊”、つまりは本来はあり得ない神霊のままサーヴァントになった存在なんだ。』
「私と同じってことね!」
「バカ、全然違うよ。」
(ち、違うんだ……)
私もロマンさんの話を聞いてすぐにアルテミスさんを連想したけど、直後にオリオンさんに否定されて溶けそうになった。
『前にも話だが神霊と英霊は全くの別物だ、だからアルテミスはオリオンの霊基……ガワを被って無理矢理“英霊”として現界している。』
「だけど私は私のまま現界している、神霊としての格の違いのせいでしょうね。
月の女神と古い土着の神じゃ比べるまでもないもの」
「えっと、これってつまり……」
「そう、エウリュアレがアークに触れると“神”と認識されるということさ。」
もしもエウリュアレさんが、人としてのサーヴァント……つまり英霊ならアークに触れてもエウリュアレさんだけが消滅する。
だけど、彼女が神霊なら話が違ってくるということだ。
「そして大事なのは、その神がアークに触れるという事実。
神に捧げた箱に神が捧げられるんだ、だから機能不全を起こし“箱”は暴走するだろう。」
「ヒッ!?だ、だからエウリュアレさんがアークに触れると特異点が消滅するんですね……」
つまり、消滅する力が触れた人だけじゃなくてそれ以外にまで広がってもおかしくないということ。なら、尚更なんでそんなことをイアソンさんが望んでるのかますますわからなくなってきた。
「さて、それを踏まえた上でこれからの事だが……やる事が一つ増えたが基本変わらない。」
「そうなのですか?」
「イアソンから聖杯を奪う、それに合わせてアークとエウリュアレわイアソンから守り抜く。
そしてその為には……」
「ヘラクレスを倒すしかないのね!」
「…………」
「ア、アレ?」
アルテミスさんが無邪気な声で、とても一番達成難易度が高い真実を口にして、私達みんなが黙ってしまう。
何せ、そのヘラクレスさんをどうにかする手段がないのだから……
「一つだけ、ヘラクレスをどうにかする方法があるよ。」
「えっ」
と思ってたら、ダビデさんが唐突にそう言って来た。
「あ、あの……その方法って?」
「カルデアのマスター後藤ひとりちゃん、君に死ぬ覚悟をしてもらうことさ。」
「…………………………………えっ」
そして、後藤ひとり達の話が終えて暫くして
「アルゴノーツが来たね、それじゃ始めようか」
水平線からこちらへと迫るアルゴー船に向けて、三騎が動きを始める。
【宝具 展開】
「
「
「
ダビデ、アルテミス、アタランテの弓兵三騎の宝具が同時に発動し青空を埋めるほどの狙撃が放たれた。
狙いは……
「な、なんだ……何が起こって、おわぁ!?」
「気をつけて下さいよ、敵の宝具の一斉射です。」
当然ながらアルゴー船。否、正確には……
「しかもですイアソン様、これらの攻撃は全て“イアソン様”を狙ってます!!」
「なんでぇ!?」
そう、正確にはアルゴノーツの船長たるイアソンに向けての狙撃だったのだ。
「ひ、卑怯者め!遠くからなんて……」
狙撃をヘクトールやメディアに防がせながら、彼は指示を下した。
「ヘクトールとメディアは私を護れ!
そしてヘラクレス、お前は奴らを挽き潰してこい!!」
「■■■■!!」
すかさずヘラクレスは跳躍し、島の方へと向かった。それを見届けながらヘクトールは呟く。
「あーあ、ここまでは奴らの狙い通りか。だがヘラクレスはどうする?
“そこまで”する必要があるとは、おじさん思えないけどねぇ……未来のマスター君?」
「………」
アルゴー船からヘラクレスさんが跳び、こちらへと向かってくる姿を見て、エウリュアレさんを抱えつつ私はダビデさんとの話を振り返る。
【ヘラクレスを殺すだけなら簡単さ、アークに触れさせればいい。複数の命があろうとも、この箱は触れたものを問答無用で消滅させる。】
【そ、そうなんですか?】
意外だった、確かにダビデさんはアークの説明の時に人一人を殺す宝具だと言ったけど、ヘラクレスさんの命のストックすら無視できるなんて……そう思ってると、アタランテさんが口を開く。
【だがこの箱の雰囲気は独特だ、これが他の宝具と同じように扱えるとは思えない。】
【いい質問だねアビシャグ」】
(アビ……なんだ?)
ダビデさんの最後に言った変な言葉に、アタランテさんは眉を顰める。私も同じだ、何の言葉で何を意味しているのまるで意味がわからない。
【これは他の宝具のように霊体化できないんだ、しかも触れると死ぬ……故に動かすこともできない。】
【ではこの場所で触れさせるしかないってことですか?】
【ご名答だマシュ、君もアビシャグだねぇ!】
(アビシャグ?)
続けマシュも疑問の表情となる、本当に何を意味する言葉なんだろう……考えてもしかたないので、アークの説明だけに耳を傾けておこう。
【あの、ヘラクレスさんをアークにまで誘導しないといけないってことですけど、どうすればいいんですか?】
【餌で釣る、彼が殺したくて仕方ない奴を付かず離れず側に置く。】
【なるほど、私のことね。】
【エウリュアレさんが?】
【ヘラクレスに私を追いかけ回させるってことね……それができれば、よかったんだけど……】
【え、できればって……っ!】
エウリュアレさんが足元の裾を上げると、彼女の足には何か紋様が刻まれていた。それは物理的なものではないものの……
【メディアの魔術よ、数日経っても歩くのがやっと……】
【そう、つまりエウリュアレの足となる人間が必要となる。】
【っ!貴方、まさか……!!】
【始めに言ったじゃないか、死ぬ覚悟をしてもらうって】
「……!」
爆音と共にヘラクレスさんが私達の前に現れる。
(私がエウリュアレさんを抱えたまま、アークへと誘導する為に走るんだ!)
だけど、そう思った直後に、さっきまでいたはずの巨体が目の前から消えていた。
(え、消え……)
と、思った直後には背後から影を感じ、振り返れば斧剣を跳躍しながらこちらに迫るヘラクレスさんが居た。
「マスター!」
すかさずマシュが間を割って、振り翳す一撃を盾で防いでくれた。
「うっ……」
直撃はしていない、だけど振動し伝わる衝撃が私を大きく飛ばす。
「旦那様!」
「マスター!」
すかさず清姫ちゃんとアルテミスさんが、炎と矢で追撃をヘラクレスさんへと放つ。
「……」
だけど、まるでヘラクレスさんには効いているような様子が見られない。
「変わりな!間断なく攻撃を続けるよ!」
そして今度は船長さんとアタランテさんの射撃……と言った波状攻撃を繰り返していた。
(……みんな戦っている。戦ってないのは私とエウリュアレさんだけど、私たちの役割も大事なことだ。それはきっと、バンドと同じ。みんながみんな、雑に全力で演奏すれば良いってものじゃない。みんながみんな、自分の役割を全うするのが大事なんだ。)
それに、ヘラクレスさんを前進を止めるためには戦えるメンバー全員が必要。これまでの戦いを振り返れば私でもわかること、何せ一番の規格外の敵なんだから。だから、他のメンバーの誰かにエウリュアレさんを抱えたまま戦うか逃げるかなんてことは無茶だ。
だから、私がやるんだ。いいや、絶対に成し遂げなきゃいけない!
「さて、やろうかヘラクレス。今日の僕はかなりやるよ」
『各種礼装最大励起!サーヴァントへの魔力供給を最大限までカット!身体強化と生命維持を最優先とする!
………死ぬなよ、ぼっちちゃん!』
通信から、ロマンさんのそんな声が聞こえてくる。そこから、過去最大級の緊張感がこの場と、そしてカルデアに伝播しているのが伝わる。
「始まったわね、今の内に距離を稼ぐらしいけど行けるのぼっち?」
「……いけます。私は、走らないといけないので……」
「……?ぼっち?」
ギターを背負いつつ、エウリュアレさんを両手で担いだまま全力疾走。礼装の強化込みでも、運動音痴な私には無茶もいいところだ。
普段の私なら、無理を連呼して拒否していたかもしれない……だけど
「彼の勇気のためにも……」
私は、この役目を絶対成し遂げたいと思うから……
「■■■■▲▲▲▲▲!!!」
私は恐怖に震える心と身体を押さえ込んで、全力疾走を始めたのだった。