ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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一番の山場なので、気が付いたらすごく長くなってしまいました……


第三話

 

 

 

特異点F 炎上汚染都市 冬木

 

 

 

 声の方へと振り返るとフードを被った妖艶な成人女性がいて、その存在を認知した瞬間に体全身から震えが生じた。

 やだ、やだやだやだやだやだやだ!このままここにいたら、殺されちゃう!

 

『三人とも気をつけろ、この反応サーヴァントだ!逃げるんだ、そいつは敵だ!』

 

 ロマンさんからの通信の声が聞こえるが、まるで動けない。そんな私の前に、マシュさんが盾を持って敵の前に立ち塞がった。

 

「落ち着いてください先輩!ここは私が……」

 

 直後、敵が持つ鎌によって空を切る音が聞こえれば、マシュさんとの盾と激突を果たす。続けて一撃、二撃、私の知る現実とはあまりに乖離した戦況が繰り広げられていた。

 まずい、このままではマシュさんも危険だ!

 

「何してるの後藤ひとり!ロマニの言う通り逃げるの!」

 

 ついその場に固まっていた私を、所長さんが背後から袖を掴んで一緒に逃げ出そうとしていた。確かに逃げるのが一番、だけど何もできない自分を歯痒く思ってしまう。そんな私を察したのか、所長さんが更に話を続けた。

 

「私達が何かしようとしても無駄よ、あの光景を見なさい。ならず者の喧嘩なんて生ぬるいものじゃない、ただの人間が乱入しても死ぬだけよ!それに、貴女は本当は人一倍臆病なんでしょ?私との会話だって、目線を逸らしてたの気づいてたのよ。そしてそんな貴女も、そして私も…….奴を見ただけで、こんなに震えている。念のために言っておくけど、ただの人間が居座ったところで巻き込まれて死ぬだけよ?」

「………」

 

 所長さんは私の手を掴み上げて、震えている様を見せてくる。そうだ、さっきだって髑髏の仮面の人たちから逃げてた私が、敵が変わったからといって何かできるわけないんだ。分かっていたことだけど、私が出しゃばったところで無意味だ……

 

「マシュを信じなさい、同じサーヴァント同士なんだから。勝てないわけじゃないわ。」

「___」

 

 だけど、所長さんの続けた言葉を聞いた時に私の脳裏に別の言葉が浮かび上がった。

 

【もう一度、先輩に会えて……】

 

 そうだ、本当はマシュさんはすごく怖がってて……

 

「ち、違う……」

「えっ……」

「ま、マシュさんと、あの人は……違います!」

「ちょっ、何言ってるのよ貴女!?」

 

 そう気付いた私は、ギターを再び取り出して駆け出した。

 

「グァっ!?」

「弱い、弱いですね貴女。とても同じサーヴァントとは思えない。」

(これが、本物のサーヴァントの力…)

 

 敵に蹴り飛ばされて、マシュさんが壁面へと叩きつけられる。このままでは、彼女が殺されてしまう。そんなのは嫌だ、だから………

 生きて元の時代に戻りたい、まず最初として今の私の本音がそれだ。だけど、それは私だけの気持ちじゃない。マシュさん、所長さん、私達三人でだ。その想いを叶えたい、どうしてもどうしても、何が何でも叶えてあげたいと思ってしまう。

 

「〜〜〜ッ!!」

 

 恐怖を歯を食いしばって抑え、敵の背後からギターを演奏した。演奏する曲は『ギターと孤独と蒼い惑星』を。それは、あの日あの時、ライブに出るためにオーディションで演奏した想い出の曲。

 何の脅威もない?敵を倒せる力ですらない?わかってる、分かってる、解ってるッ!私のできることなんて、結局のところこうやって囮になる程度。だから敢えて、あの時心のままに上げたサビの部分を全力で演奏した。結束バンドを決して終わらせたくないという、かつての気持ちを思い出しながら!

 

「何を……」

「せん……ぱい?」

 

 鎌の女とマシュさん、すごく困惑している。そりゃそうだ、殺し合いの最中にギターの演奏なんてどうかしている。だけどその最中……

 

(え?ギターから……何か、暖かい心地が……)

 

 ふんわりと、朝日の様な爽やかな心地よさが伝わってきた。だけど、それを切り裂く様な冷たい殺意の声が割り込んできた。

 

「不愉快な……ふざけるなぁっ!!」

 

 鎌の女が視線をこちらへと向けて、目から怪光線を出してきた。え、サーヴァントってこんな出鱈目なことできるの?こんな怪物が過去に存在してたの?

 そんな私の疑問を、誰かが答えてくれるわけもないが……

 

「づぅっ……!」

 

 咄嗟の反射、ほんの僅かに体を逸らせば怪光線は私の頬を掠って通り過ぎていった。

 

「なっ……!?魔眼が効いてな……」

「ッ!」

 

 偶然とはいえ避けた私に、鎌の女は驚いた顔をした。その隙をついて、マシュさんの盾の攻撃が叩きつけられる。

 

「そ、んな……どう、して……」

 

 その一撃で、鎌の女の人は消えていった。思わずギターから手を離し、尻餅をついてしまった。

 

「サーヴァント反応消失。か、勝てました……」

「か、勝った……よかった……」

「先輩、すみません……私の不甲斐なさであんな無茶をさせてしまった……」

 

 折角勝てたのに、マシュさんは申し訳なさそうにそう言ってしまう。そんな顔しないで欲しい、私はあくまで勝手なことをしてしまっただけで、ちゃんとトドメをしたのはマシュさんのお手柄だから。

 

「そんな落ち込むこと、ありませんよ……私、マシュさんのおかげで生き残れてる。ありがとう、マシュさん……」

「ッ!そんなこと、ありません……私は、助けられてばかりで……」

 

 マシュさんは、照れくさそうに顔を赤くしながらボソボソと呟く。やっぱマシュさん、可愛いな……そう思ってた時、ふと思い出した。

 そういえば、所長さんを置いてしまってた。なんて呑気に考えてたことを後悔してしまう。

 

「キャアアア!!」

「っ!?」

 

 それは所長さんの悲鳴、声の聞こえた場所へと向けばそこにはサーヴァント二騎が所長さんを囲んでいる。

 最悪、所長さんを明らかに人質にされている。

 

「二騎のサーヴァント、先程のサーヴァントと同等の魔力です!」

「そんな……」

 

 さっきと同等が二騎……私がまた囮になったとしてもほとんど意味がない。人質にされてる所長さんは、いつ殺されてもおかしくない状況なんだから。

 どうしよう……私が勝手な行動をしたせいだ……

 

「マスター。」

「……マシュさん?」

「今度こそ逃げて下さい、巻き込まれたあなたは此処で死んではいけない。」

「え……」

 

 マシュさんはそう言い残して、二騎の前へと跳躍して突撃していった。

 

「だ、駄目!」

 

 私がそう叫んだところで止まってくれるわけもない。マシュさんがそんな背負う様な真似なんてやめてほしかった、私のせいなのに。どうにか止めないと……そう思った時だった。

 

『アンサズ』

 

 その声が聞こえた直後、一騎の敵サーヴァントに火柱が伸びた。それは私、マシュさん、所長さんに驚愕を与える。いや、敵サーヴァントにとっても予想外な様だ。

 

『ベルカナ』

「ッ!?」

「ま、まて貴様……」

 

 直後、所長さんが敵サーヴァントの捕縛から離れる。直様追いかけられそうになるが……

 

「ガハッ!?」

 

 敵サーヴァントの足元から、巨大な木の掌が現れて握られた。直後に私たちの耳に届く、男性の詠唱。

 

「我が魔術は炎の檻 茨の如き緑の巨人 因果応報 人事の厄を清める杜_」

『この反応は魔術?だがこんな大魔術、現代の魔術師にできるはずがない……できるとしたら一人……いや、一騎!』

 

 ロマンさんの通信機越しの声に、困惑の色が窺える。それと並行して、敵サーヴァントが現れた木の巨人の内部の檻に放り込まれる。

 

「焼き尽くせ 木々の巨人」

魔術師(キャスター)のサーヴァント!』

焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!!」

 

 私たちの目の前で木の巨人ごと包み込む巨大な火柱が炸裂し、所長を人質にしていた敵サーヴァントが完全な消滅を果たした。

 

 

 

 

 

 

 そして

 

「……やれやれ、助けてやったというのに随分と不審がられたものだ。」

 

 私達は、助けてもらったキャスターのサーヴァントを前にマシュの盾で警戒しながら向き合っていた。

 とはいえ本人もそんな私達の対応は想定の範疇の様だ。

 

「まぁ、次々と襲われちゃそうなるわな。」

 

 私達は遭遇しているサーヴァントに、何度も襲われているんだ。助けられたからと言って、油断した隙に殺されでもしたらお終いなのだから。

 

「じゃあまぁ、緊張を解すためにも自己紹介と行こうか。俺の真名は『クー・フーリン』、他のと違って話の通じるサーヴァントだ。」

「……クー・フーリン、さん。」

「よろしく頼むぜ、何処ぞの時代の嬢ちゃん達よ!」

 

 キャスターのサーヴァント、クー・フーリンさんはそう屈強な笑みを浮かべながら、私たちにそう言い放った。

 

「冗談じゃないわよ!いきなり現れて、信用できるものですか!一歩間違えれば私も焼き死ぬところだったのよ!?」

「ありゃアンタを助ける為だろうよ……」

「どうしましょう先輩、所長は冷静ではない様です……」

 

 そしてマシュさんの言う通り、所長さんは、クー・フーリンさんに対してすごい剣幕で言い放ってる。確かにこのままの状況だと、話がまとまらない。とはいえ所長さんと同様に、私も安易に信用はできないと思ってるので……

 

「く、クー・フーリンさん……」

「あん?」

「さ、さっきは助けてくれてありがとうございました炎を使った攻撃は怖かったけど綺麗だと思いましたまた次回機会があればお会いしましょう。」

「ド下手な社交辞令ありがとうなお嬢ちゃん!流れ的にアンタがフォロー入れてくれんじゃねぇのかよ!?」

 

 

 

 

 そして

 

「いつの間にかオレたちの聖杯戦争は狂っていてな。ある夜を境に街は炎に覆われ、人間は消えてサーヴァントだけが残され、俺以外の奴らは全てセイバーに倒された。」

「ま、まるでホラー映画みたいですね……あれ?でも、さっきのサーヴァントは生きてた様な……」

「そこも妙な話でな、セイバーに倒された連中は奴の手先になった。それが意味するところはつまり、セイバーを倒さねぇとこの聖杯戦争に終わりが訪れない。で、そのセイバーだが、奴はあそこに引きこもってやがる。」

「………山?」

 

 クー・フーリンが杖で刺したところは、こちらからでも見える緑で覆われた山だった。

 

「ああ、奴はあの山の中にある鍾乳洞の中にいて、そこにある聖杯を守ってる。」

「なるほど、貴方はこの異変の元凶を仕留める為。そして私達は異変の元凶にある聖杯の回収と言うことで利害が一致してるわけね。」

 

 そう、つまりクー・フーリンさんは結論として“利害の一致で手を組もう”と言うものだった。その為に、彼は私たちにこの異変の元凶のいる場所を教えてくれたのだろう。

 

「良いでしょう、貴方を信用します。手を組みましょう、クー・フーリン。」

「ハッ、そいつはどうも。」

「それで、セイバーの正体は判明してるの?貴方ほどの英霊が、私達と手を組まないといけないほどの相手なんてそういないはずよ?」

「………アルトリア・ペンドラゴン。聖剣エクスカリバーを携える、最強の英霊の一騎。それが俺達の敵だ。」

 

 

 

 

 

そして、クー・フーリンさんとの話を終えて私達はセイバーのいる鍾乳洞へと向かい始めた。そこに行く為に、長い階段を歩いている。

 

「ハァハァハァハァハァ……しょ、所長さん……大丈夫、ですか?」

「ゼェ……ゼェ……」

 

 マシュさんとクー・フーリンさんはもう既に、結構先を歩いており、私と所長さんはグロッキーになってた。

 夏休みの終わり、結束バンドのみんなで江ノ島に行った時を思い出すなぁ。あそこでも途中でくたびれて、途中で有料のエスカレーターを使ってたなぁ。ここにも有れば嬉しかったけど、あるはずも無いよね。

 

「………」

「……マシュさん、どうかしたのですか?」

 

 ふと頭上を見上げると、マシュさんの表情に陰りが浮かび上がっていた。

 

「……その、相手があのアーサー王と聞いて、半人前の英霊に過ぎない私が敵う気がしなくてつい……」

「アーサー王が強いのは、私でもなんとなくわかります……ですが、マシュさんのが半人前というのは?」

「はい、先程所長がいってたデミ・サーヴァントのことです。」

 

 そういえば、それについて途中で遮られたんだった。だけど、それがマシュさんの不安の種とどういう繋がりが?

 

「先輩、私は英霊と繋がり融合したのです。」

「ゆう……ごう?」

「カルデアでは、今回のレイシフトに備えて事前にサーヴァントが用意されていました。そのサーヴァントもあの管制室での爆破テロでマスターを失い、消滅しかけていたのです。そして瀕死になってた私に契約を持ちかけて、その果てに融合して命を助ける代わりにこの特異点の原因を排除してほしいと託されたのです。」

「……あの一瞬でそれだけのことがあったんですね。じゃあ……融合したことでマシュさんは、そのサーヴァントの方の力が使えてるということですか?」

「全てではありません、彼は自分の名を告げる前に消えてしまいました。だから、私は自分がどんな英雄なのかわからないですし……英雄の象徴たる“宝具”を使えないのです。」

「……宝具?」

 

 初めて聞く単語、だけどその時私が脳裏に浮かび上がったのはクー・フーリンさんが使ったあの木の巨人だった。もしかして、アレが?そう思った時、最前にいるクー・フーリンさんが振り返って階段に腰を下ろしながら口走った。

 

「なるほど、宝具を使えないサーヴァントってなら半人前だわな」

「そ、そんな酷いことを言わなくても……マシュさんが頑張ってくれたおかげで、私も所長さんも……」

「まあ聞けよお嬢ちゃん、俺は盾の嬢ちゃんを侮辱したいわけじゃねぇ。宝具ってのは……」

 

 そして、クー・フーリンが宝具について説明してくれた。それはサーヴァントなら必ず使える武器や能力であり、その生涯において伝説や功績を象徴するものならしい。

 その全てが、現代における魔術・科学を遥かに凌駕する力を有するとのこと。つまり、現代人の力を使ってもその宝具には敵わないということなのかな?

 

「例を挙げるならそうだな、宝具の種類によるが剣の一振りで街一つを消し飛ばす。そんな宝具も珍しくねぇ。」

「ま、街を!?」

 

 嘘でしょ?あの髑髏の人達がコンクリートを砕いてたり、鎌の女がとんでもない速い攻撃をしていたから、サーヴァントは私達の常識で測れる相手ではないとは薄々解ってた。

 だけど、街一つを吹き飛ばす?確か、図書館に置かれてた漫画で広島に落とされた爆弾が、街を吹き飛ばして被曝を撒き散らしたと言う内容だ。漫画なのである程度誇張表現はあるのはわかるけど、現実にあった戦争被害で、爆弾の威力はほぼその通りだった筈。つまり、アーサー王の宝具とはその爆弾と同レベルの破壊力があるのかもしれないってこと?

 

「…………むむむむ、無理です絶対!」

「あん?」

 

 無理無理無理無理!!!そんなのに立ち向かうなんて、無理に決まってる。私もマシュさんも、あの漫画の被爆者の様にボロボロに……いや、間違いなく死ぬ。ましてやマシュさんが宝具を使えないというなら、そんな……

 

「いや落ち着けって嬢ちゃん、抗う術は……」

「むむむむむむむむむむむむむむむむむ!!」

 

 私はクー・フーリンさんの前に行って、首を振りながら無理だと言った。

 

「あー、いや悪い悪い。ちと驚かせてしまったか………けど組む相手間違えたかコレ?」

「……だからこそ、私は不安なんです。」

「むむむ……ッ!」

 

 マシュさんの呟きに、私はハッとした。そうだよ、私よりも直接闘うマシュさんの方がもっと不安に決まってる!何一人でビビってたんだ。

 

「私はクー・フーリンさんやアーサー王とは始まりからして違う、サーヴァントであっても英雄ではない。だから宝具も使えない、そんな私がかのアーサー王と渡り合えるなんて思えないのです……」

「……マシュ、さん……」

 

 私は、彼女の肩が震えてるのが見えた。宝具が使えない、そしてクー・フーリンさん曰く、最強の一騎であるアーサー王との決戦となれば、不安になるのは当然だ。

 

「……俺が手を貸したのは、アンタがこの嬢ちゃん(マスター)を守る為に戦える英霊(にんげん)だと思ったからだ。」

「え……」

(……守る為に、戦える英霊。)

 

 私は、クー・フーリンさんから出たその言葉に胸の疼きを覚えた。

 

「さっきは間違えたか云々言ったが、ありゃ冗談だ。手を貸そうと思えた時と気持ちは変わらねぇ、だから安心しな。例えアンタが半人前の英霊だろうと、このクー・フーリンは1.5人前以上の英霊だ、負けはしねぇよ!」

「………!」

「あ……ありがとうございます!」

 

 クー・フーリンが不適な笑みを浮かべながらそう言い放つと、マシュさんの顔に明るさが少し浮かび上がった。良かった、少しは不安は拭えた様だ。

 

「よし、そんじゃ休憩は終わりだ。きびきび行くぞ、若人共!」

「は、はい!」

「ぜぇ……ま、待ってよ……」

 

 その後、私と所長さんは違いに最後尾になりながら、目的の場所へとようやく到着した。

 そして、そこは……暗い洞穴となってた。

 

「着いたぜ、この最奥にセイバーと聖杯がある。」

(怖い、まるで深夜の墓場を見ている様な悍ましさが込み上がってくる……)

「言われなくてもわかるわ……ここから漏れる魔力濃度は異常よ……」

 

 私も所長も、その恐ろしさから頭から冷や汗が止まらない。ここを潜り抜けたら、一体どれだけの恐ろしい戦況になるか、想像がつかない。

 それでも進まない事には帰ることはできない、この場の全員が意を決して洞窟に入ろうとした、その時だった。

 

ソードバレル(全投影)フルオープン(連続層写)

「ッ!」

 

 その不意打ちに気付けたのは、クー・フーリンさんだけだった。

 

「ク……」

 

 不意に私はクー・フーリンさんに肩を押され、それを自覚した直後に頭上から放たれた剣が彼の片腕を両断した。

 飛ばされるまま、彼へと手を伸ばそうとしたら……

 

「チッ……先に行けお前ら、後で必ず追いつく。」

 

 その言葉の後に、豪雨の様に放たれた無数の剣の衝撃によって洞窟の入り口に岩雪崩が発生した。

 

「クー・フーリンさん!」

「ダメです先輩!入口が崩壊します!」

 

 マシュさんにそう言われながら、私は洞窟の入り口から引き剥がされた。岩雪崩によって、入口は完全に封鎖された。

 ならばあとは、最奥へと進むしかない。アーサー王と、聖杯の居る場所へ。

 

 

 

 

 

 そして

 

(明かりが……)

 

 鍾乳洞の最奥へと、私達は到着した。そこには遙上部から一条の太い光の柱が伸び、その前に黒い鎧を身に纏った誰かが居た。

 

「……来たか。」

「ッ!」

 

 たった一言、それだけで私は巨人の手に掴まれたかのように体に痺れが走る。いや、違う……私だけでなく、マシュさんや所長さんもその様だ。

 

「……確認しました、マスター。あそこにいるのがセイバー……アーサー王です。」

「ほう……面白いサーヴァントがいるな。」

 

 この声の質は女の子だ。あれ?でも確かアーサー王は男性だった筈……いや、それよりもこの威圧感が私達の呼吸を乱している。

 おかしい、だいたい20m以上……こんなに離れてるのに声を届かせて、私たちを押し殺せるほどの威圧感を出せるなんて。

 

「では……試すか。」

 

その声が聞こえたと思ったら、いつの間にか私と所長の目の前にアーサー王が来た。

 

「………え?」

 

 直後、振り返ればマシュさんが壁面に磔になってた。え……あんなに離れてるんだよね?なんで、こんな距離を詰めるなんてこと、一秒程度で……

 

「マ……」

 

 戦闘素人な私でもわかる、このままじゃ………このままじゃ、マシュさんが殺される!

 

 

 

「あぐっ……!」

「あ、ま、マシュさん……」

 

 まだマシュさんは闘えている。これはデミ・サーヴァント、だからなんだろうか?わからない、わからないけどこれじゃアーサー王を倒して聖杯回収なんて、夢のまた夢だ……どうしよう、どうしよう、私にできる事……!

 

「だめよ…こんなの、勝てるわけない……!ここで死ぬんだわ……!元の時代にも帰れずに……!!」

「………」

 

 側でボロボロと涙を流し、絶望に打ちひしがれながらオルガマリー所長はそう呟く。それを聞いて、死がより現実味を帯びて私も恐怖に身を震えてしまう。そして……

 

「つまらんな、これで終わりにする。」

 

 アーサー王がそう言い放つと、黒い剣を眼前に構える。

 

「魔力反応増大……私の後ろにマスター!宝具が、聖剣が来ます!」

「ヒッ……ほう、ぐ……」

 

 確か、クー・フーリンさんがいってたサーヴァントの持つ切り札。街を一つ消す……多分、広島に落とされたあの爆弾に匹敵する聖剣。それが遂に放たれる。

 

 

 

「光を呑めー約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)

 

 

 

刹那、音を置き去りにして黒い光による津波が私達を襲った。

 

「あ……あ……ぁ……ああ!!」

 

 それを、マシュさんが盾を構えてどうにか防いでいる。それは、どれほどの痛みなんだろう、どれほどの恐怖を抑えているんだろう。それはきっと、私の想像を絶するほどだろうけど……

 

「いやぁ!いやぁ!」

 

 私の背後から、所長さんの声が聞こえる。ただ一つ、わかることがあるとしたら、この黒い光に包まれれば私達は死ぬ。

 そして、今のマシュさんじゃアーサー王の宝具を受けきれない。今にも倒れそうな小さな背中、そして目から涙を流している。

 

「マシュ、さん……!」

 

 気が付けば、助けないとと思って私は立ち上がった。いったところで何が出来る?私に逆転できる魔法の力でも覚醒?ない、あり得ない。私はさっきも今も、ギターだけ上手い唯の女子高生だ。

 だけど、それでも……

 

「せん、ぱい……?」

 

 マシュさんの隣に立ち、目の前の盾を私も支える。それを見て、まるで縋る様な声を出しながら私を見る。

 

「ごべんね、マジュ、ざん…」

「___」

「わだじに、でぎるの、ごれ、だげで……!」

 

 汗を全身から出し、鼻水と涎で口を満たし、マトモな言葉を喋れないまま、マシュさんにそう言葉を返した。

 我ながらすごくカッコ悪い、これでギターヒーローだなんて言えるわけない。だけど、せめて出来ることはやろうと、私は顔面を濡らすものを全て拭って、そして言い放つ。

 

「マシュ…さん…て、てき……」

「……先輩?」

「て、てきは、あ、ああ、あの人じゃ……」

「先輩……私ちゃんと聞きますので、どうか教えてください。」

 

 真っ黒な破滅の光を防ぐ中、盾の女の子……マシュさんは辛そうながらも笑顔でそう言ってくれた。

 自称後輩の同い年、なんて奇妙だけど安心できる子。そう思って私は、かつてお姉さん(廣井きくり)から教えてもらった言葉を、少し変えて伝えた。

 

「マシュさん……て、敵を見誤らないで。目の前の人が倒すべき、本当の敵……ですか?」

「え……敵を……見誤ら、ない?」

 

 マシュさんが私の言葉を繰り返し、動揺する顔をした。目の前のアーサー王が敵と言われれば確かにその通り、絶対に倒さないといけないと私も思う。だけど、マシュさんの戦いとしてそれに囚われるのは、なんか違うと思う。だって今のマシュさん、多分だけど廣井お姉さんと出会う前の私とちょっと似てる気がした。

 

 

 初めての路上ライブ、出会う人全てに勝手に恐怖を抱いて、勝手に壁を立ててた私。そして、初めての戦場で一秒先に死んでしまうかもしれない恐怖に混乱しているだろうマシュさん。それはそうだ、死にたくないのは当たり前の話。だけど、それに囚われてたらきっと前に進めない。

 

 戦闘に関してはど素人以下、ミジンコレベルな私の勝手な勘違いの可能性だってある。だけど、クー・フーリンさんが言ってた『守るために戦える英霊(人間)』って言葉がすごく重要な気がした。だって、バンドもそうだから。ギターが上手い人が、初めての演奏で無理に歌ったところで意味がない。ベースが好きな人が急にドラムを叩いたところでどう考えても無理。そして盾で敵を積極的に殺すなんてやり方はきっと違う。今度はかつてリョウさんが、私に大切なことを伝えてくれた言葉を震えながら叫んだ。

 

「こ、個性を捨てたバンドなんて、死んだも同然、なんです。だ、だから……マシュさんがやりたいように、やらなきゃダメです。マシュさんがいいと思ったから、クー・フーリンさんは私たちに向かわせたんだ……」

 

そうだ、クー・フーリンさんの見立てはきっと正しい。具体的なことはわからないけど、私はそう信じる。

 だから、それを実現するため出来るこに全力を振るうんだ。だって、だって!

 

「バラバラな個性が集まって、それが一つの音楽になるんだから……た、闘うことは大切だけど、マシュさんに合ってる闘い方だってあるはずで……だ、だから、頑張ってマシュさんらしい音をしっかりと奏でてください!」

 

 マシュさんの盾を握る手を、私がそれから覆い被さるように強く握りながら私は強くそう叫んだ。

 

 

 

(私は……)

 

 デミ・サーヴァント、マシュ・キリエライトは絶句していた。だがそれは、呆れや失望の類ではない。それは驚愕、そして己自身への叱咤である。

 

(何を勘違いしていた?この人が勇敢だと、どんな恐ろしい敵でもきっと立ち向かえる人だと。違う、この人はすごく怖がりだけど、それでもなけなしの勇気を振り絞って寄り添っているんだ。

 

音楽……ロックのことはあまり良くわからない。だけどこの人が勇気を絞って伝えようとしていることは分かる、ああ……どうしてこの人に、守るための盾を持ちながら、何故守られようとした?先輩の言うように本当の敵はアーサー王じゃない、護れる力を持っておきながら恐怖から逃げ出そうとしている自分自身だったんだ。

 

逃げるな、恐怖から目を逸らすな、先輩からの信頼を裏切ってはいけない!)

 

 後藤ひとりの独白を聞き、マシュ・キリエライトは涙を振り払う。

 

(立ち向かえ、守られようとする姿勢から、護る姿勢に変えるんだ。たとえ、この身が英雄じゃなくても、私はこの人(後藤ひとり)のサーヴァントなのだから!)

(なんだ……聖剣が圧される?)

(今宝具を使えなきゃみんなが消える、だから偽物でもいい!今だけでもいいから、私が使わないと、みんな無くなってしまう!!)

 

 盾の少女の祈りが頂点に達した直後、覆ってた闇黒の光が祓われた。

 

 

_宝具 展開

 

「バカな……聖剣の光が掻き消されて!!」

 

 

 宝具が展開される最中、クー・フーリンは鍾乳洞の道中を進みながら嘯く。

 

「そうさ嬢ちゃん、アンタの考えは正解だ。そのクラスはエクストラ(例外)、戦う側の英霊じゃないからこそ至れるクラス。故に守る側のサーヴァント、盾の英霊(シールダー)だ。」

 

 その盾の宝具によって、聖剣の犠牲者は無し。マシュ・キリエライト、オルガマリー・アニムスフィア、そして後藤ひとりと……誰一人欠ける事なくこの戦況を乗り越えたのだった。




このストーリーはあくまでも基本ぼっちちゃん目線なので、アーチャーとの戦闘はカットで送らせていただきました。
内容は原作と全く同じなので……
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