ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
『星の開拓者』
そう、ダヴィンチちゃんは語り始めた。
『それは一部の英霊のみが持つ、特殊なスキル。世界一周を成した彼女は、間違いなくそのスキルを持つ一人だろう。そして、その効果だが……』
『待ってくれ!たとえそうでも、英霊になる前の彼女に、スキルなんて使える筈がない。』
『……その効果はね“あらゆる難行を”“不可能なまま”“実現可能にする”という、そんなおかしなスキルを持つに至る人間が、人のまま宝具を使う“程度の難行”を……』
そう語るダヴィンチちゃんは疑うことなく、そして自信満々に語り続ける。
『できたって何も不思議じゃないさ』
「野郎共!!時間だよ!!」
そして、その期待に応えるようにドレイク船長が叫び始めた。
「な……ゴールデン・ハインドが飛び始めた!?」
「先輩、それだけじゃありません!」
漂流物が集まって船になり、そこにさっきまで私達を襲ってた髑髏が海賊の格好に変わりながら乗っていく。まるでこれから海賊として戦うかのように。
(凄い、だけどそれ以上に凄いのは、それをまるで当たり前の現象のように従えている船長さんのカリスマ性!)
「ふざけるな!怨念が何故生者の味方をする!?」
レフの疑問の声に、ダヴィンチちゃんが通信越しに答える。
『ヨーロッパの伝承“ワイルドハント”亡霊達の群れが嵐となって災いをもたらす。イギリスでは、ドレイクこそ亡霊達の王と信じる者も多い。海で死んだ怨念なら、進んで彼女に従うさ。君、英霊のこと知らなすぎじゃない?もしかしてぼっちちゃんより歴史の成績悪い?』
「……!」
しれっと私も巻き込まれて粉微塵になりそうになったけど、それよりも船長さんの様子が気になり……
「あ、せ、船長さん!」
「ぼっち、マシュ」
船長さんは、駆け寄る私達に振り返ることなく言葉を続ける。
「よく頑張ったね、後は任せな。」
黒い外衣を揺らし、ドレイク船長が宣言をする。
「“嵐の王 亡霊の群れ”“ワイルドハントの始まりだ!!!”」
宝具“
直後、膨大な船が広がり展開していく。そしてドレイク船長が手を掲げ、そして降ろされる。
「砲撃用意!藻屑と消えな!!」
そして無数の船から怒涛の砲撃が、魔神柱へと放たれていく。
「キャッ!」
すかさずメディアさんが砲撃の一部を、防壁を張って防ぐものの完全には防げない様子だ。
(今までの砲撃と比べ物にならない、このままじゃイアソン様が!)
「……っ、出てきて下さい!」
メディアさんが叫べば、海面により巨大な竜牙兵が現れた。
「な、なんて巨大な!」
「火船隊用意」
しかし臆することなく船長が呟けば、上空の幾つかの船が着火し突進を始めた。そしてそれが竜牙兵に直撃し、砕いていく。
『ドレイク船長の“海軍時代”の戦術、彼女は……』
「そんな、でもまだ……」
「もういい、メディア」
直後、アタランテさんがメディアさんの元へと一瞬で近付き強烈な一撃を叩き込んだ。
「……甘やかしすぎなんだ、汝もヘラクレスも。汝はまだ、恋してない汝だろうに。」
「………ふふ、でも知ってるの。たとえ呪いでも“
そして、私の目にメディアさんが消失していく姿が見えたのだった。
(………駄目だな。)
レフがメディアの消失を認識し、そう考える。
(メディアも倒れた。御柱も時間の問題だ、仕方あるまい……彼の方の神殿へと戻ろう。何、特異点一つ修復されようが、問題は……)
そしてレフが踵を返そうとした瞬間……
「ん?………は?」
レフの右脚が消失し、血が流れて動けない状態となっていた。困惑の声を上げた直後、追撃が顔面、そして体全身に刺さる。
「ん〜貴方を殺しても、何も意味なさそうだけど」
その攻撃の主はあるてちすだった。
「アタランテって私を信仰しているでしょ?その子にあんな顔させるの個人的にアウトっていうか……そもそもギリシャの英雄をあんな風に使うの、オリュンポスの神々的にもアウトだと思うの。
というわけで、裁定!月女神直々のおしおきでした!!」
そう語るアルテミスの言葉に明るさはあるものの、その瞳には無くまるで機械のような冷たさが纏っていた。
そして
「○○○○■■■■■!!!」
「全艦突撃ぃ!亡者だろうが生者だろうが、アレを倒した奴が昨日一番の海賊さ!!」
無数の戦艦の怒涛の砲撃が、肉柱へと集中方がされ次第に崩壊が始まっていく。
(ああ………うるせぇ……くそ………いてぇ……)
その内部にいるイアソンは、朦朧とする意識中でそう考え始める。
(どうしておれが、こんなめに……いてぇ………かすどもがおれをころそうと……くそ、なおせ、なおせ“めでぃあ”、きこえてるんだろう……さしたのはゆるしてやるから、はやくなおせ………)
しかし、ふと馴染みある繋がるが無いことを察する。
(……?なんだ、くたばったのか?さきに、おまえが?)
その察した真実にイアソンは鎮まりかけた熱意が浮上し始める。
「はは、ははははははは!!!」
愉快、愉悦、そんな感情が燃え盛り笑い声を上げる。しかしそれは、ドレイク達には苦し悶える肉柱の姿にしか見えない。
(ざまぁみろ……ざまぁみろ!!うらぎるからだ!こんどはうらぎらなかったのにうらぎるから!!)
しかし直後、彼の胸裏を動かしたのは慙愧の想いだった。
(……結局のところ、アイツを裏切りの魔女にしたのはオレだ。国や家族を裏切った事じゃない)
彼の脳裏に浮かぶのは、メディアとの記憶。かつて国を追われ、彼女を裏切って捨てたこと。子供がいたにも関わらず、己の夢のために。
その果てに生まれた“裏切りの魔女”によって、国も王も花嫁も、何もかもが燃え盛り彼は全てを失った。
(そこで終わり、その後のオレのことなんて語るまでもない。
そんなつもりはなかった、そあするつもりもなかった、そうさせるつもりもなかった。
そんなことだらけの人生で、だから“次”が欲しかった。
だから…‥次はちゃんと!もっとうまく!大事に、大切に、やってみせると!!)
だが、その思いを途絶えるさせるかのように砲撃が砲撃を浴びて血が溢れる。
(それがこの様、怪物になって英雄ですらない悪党共に駆逐される……)
「ちくしょう、ちくしょう!王になりたいだけだ!自分の国を取り戻したかっただけで!
真っ当な正しい夢だろうが!
それがなんで、こんな取るに足らない悪党共に!!
なんで!!そんな!!」
その慟哭な叫びを彼は散らす。
「あ、い、イアソンさん!」
肉柱が崩壊する最中、後藤ひとりは叫んだ。その声に、その中にいるイアソンは僅かに反応する。
「あ、わ、私はあなたの事は嫌いですが……それでも、レフ・ライノールが貴方の夢を侮辱したけど、そんな事ないよってどうしても言いたかったです。 貴方の国を作りたい夢、とても素敵だよって……それだけです。」
「___」
その後藤ひとりの言葉に、イアソンは胸の疼きを覚えて口走った。
「今更都合いいんだよ小娘風情が!!」
ただ言葉のままに叫ぶ、しかしそれは魔神柱の悲鳴にかき消されて彼女達に届かない。
「身内に裏切られる痛みを知らないくせに、戦争の悲しみも味わってないクソガキ風情が俺を語るなよ!! 勝ったからって粋がりやがって……クソがクソがクソがこんな取るに足らない小娘に、こんな、こんな……」
しかしその最中に、彼の瞳に雫が滴り落ちる……
「こんな小娘に、俺の夢を賞賛されて……こんな気持ちになるなんて……クソ、が……名前くらい、聞いておけばよかった………」
その言葉を最後に、魔神柱と共にイアソンもまたオケアノスの海から消え去ったのだった。
私はずっと、どこかでぼっちちゃんの活躍を見ているだけだった。気がつけば全てが燃やされて、残されていたのはぼっちちゃんただ一人。
多分、ギターを通して見ることができたんだと思う。理屈はわからない、だけど私なりに奮闘する彼女を応援したし、時には何故か手にあったドラムを叩いて届けと何度も願った。それが叶った気がしたし、やっぱ意味ないかなと何度も考えていた。あの子の頑張る姿が、孤独な私の心を少し埋めてた気がする。例えどんな逆境でも、怯えながらもカルデアの人たちに支えられながらも走れる子なんだなと。
【カスの夢など、知るか】
だけど、このオケアノスでの最終決戦。レフ・ライノールのその一言が私の心を打ち砕いた。だって、よく考えれば私は夢を叶えられなかったのだから。
私が幼い頃に居なくなったお母さん。そのお母さんに、私達の音楽を届かせるためのスターリー、それを大きくするという夢は私の手ではもう叶わない。イアソンって人と私が同じなつもりはない、だけどどうしても通ずる部分があると思って思考がグルグルする。
【個人的な事情だったり、ウチと方針が合わなかったりと離れていった理由はさまざまです。】 【音楽だけでも食べていけるようになるだけでも厳しいのに、人気の低下やメンバーのやらかし、不仲、落とし穴は沢山あるから保険は大事だ。】
司馬さん、そしてお姉さんがそう言ってきたことを思い出した。音楽で夢を叶える、それだけでもとても大きなハードルなんだと痛感する。そして……喜多ちゃんのお母さんのことも思い出した。
【だか郁代には私みたいに夢を食い潰されるような目にあって欲しくなかった、私と同じ道は絶対にたどってほしくないの……】
かつて小説家になろうとした夢を利用されて、詐欺に騙されて借金まで作らされた過去があった。夢を追いかける人を騙す、そんな人はごまんといるのだと。
そう、ぼっちちゃんの前に立ち塞がるレフ・ライノールがイアソンを利用したように。だから、私の夢は最初から無謀だった。意図してってわけじゃないにしても、現にこうやって大きな力に巻き込まれて……そう考えると目から涙が溢れてきた。
【人の夢をバカにする人を、私は決して許しません!!】
何か反論できたわけじゃない、単に嫌だと叫んだに等しいその言葉。だけど、ぼっちちゃんのその一言が、私に光を与えてくれた。 だから、例え届かないと分かっていても、私は叫ばずにはいられなかった。 「やっちゃえぼっちちゃん、レフ・ライノールなんてやっつけちまえ!!」 我ながらなんて大人気ない、まるでヒーローショーに熱中する子供みたいだと恥ずかしくなる。だけど、彼女の勇気あるその一言でみんなが奮闘している。
そして、遂に成し遂げた。ぼっちちゃん一人の力じゃないにせよ勝利したんだ。
【虹夏、夢はね】
ああ、お母さん。やっぱり言ってたことは正しかったんだね。
【どんな辛い時も、道を照らしてくれる光になるんだよ】
ありがとうぼっちちゃん、私や夢を追いかける人のために怒ってくれて。頑張ってくれて、本当にありがとう。
【ありがとう、私のギターヒーロー】
私、伊地知虹夏はそんな気持ちで胸がいっぱいになってたのだった。