ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
※一部修正しました
第三十三話
_今日も同じ時間に目が覚めた
(体温を確認する、五感を確認する、客観的にも分かる様に私の名前を口にする。)
「■■■■■■■■■」
(もう随分と、この目覚めにも慣れたと思う。)
わたしはわたしだ、わたしは今日もわたしという自分を感じている。
『おはよう、状態も安定しているしこの分なら“
(したいこと思いついた、一度でいいから外に出てみたかった)
カルデアの外、外の世界を見てみたかった
『無理だよ、君の身体は外の世界に耐えられない』
(彼は申し訳なさそうに、視線を逸らし言った)
わたしは彼を悲しい気持ちにさせたようだ
『でもカルデアなら君は自由だから、その日を待っていてほしい』
(ありがとうございますと返答する、欲しいものは見当たらなくても、こんなふうに気を遣ってもらえるのは嬉しい)
わたしはとても幸せだ、今日も一日なんの変化もなく穏やかな時間を過ごせるのだから
「あ、また………あの………」
そんな夢から覚めて、わたしの目に枕の生地が映り目が覚めたのを自覚した。
「夢、ですか………後藤さん」
顔を洗ってカルデアの制服を着て、私は意を決して中央管制室に行きその事を職員の人に話した。どうやらこの褐色のお姉さん、マシュの元医療スタッフだったらしいのでまずは話してみる事にした。
「ええ、聞いたことありますよ。サーヴァントとマスターには魔力の
「そ、そうなんですね……」
それってサーヴァントとマスターではプライベートも何も無いことになるんじゃ……私の過去の黒歴史は、流石にマシュに見られたくない!それを話されようものなら、精神崩壊どころか壊れてしまう!!
「でも意外ですね、そういう話はドクターにすると思ってたのですが」
「あ、えええ、あー、えええっとそれは……!」
「正直驚いてます、後藤さんは対話が苦手なのは知ってますがこうしてお休みの日に管制室に来るだけでなく、私にも話すとは思いませんでした。」
「あ、あははは……わ、我ながらそう思ってます…….」
視線を逸らしつつ、夢の記憶を思い出す。あの影がかかって黒塗りの男の人は何処となくロマンさんみたいに見えて……マシュの記憶なら間違いなくそうなんだろうけど。
だから、何処となくその話をロマンさんにするのは避けるべきと思ってしまって、こうして話していた。なので、周囲を見渡しながら私は口走る。
「あ、それより……コントロールルームの改修工事で、凄いことになってますね。」
「特異点のデータも増えてきましたから、それに合わせて設備もアップデートしなければ……ということです。それに、マシュも手伝ってくれてるんですよ。」
視線の先でマシュと視線が混じり、笑顔で手を振ってくれた。私もどうにか笑みを浮かべながら、手を振り返す。
「ところで後藤さん、怪我の具合はどう?」
「あ、全然大丈夫です……ロマンさんに念を押されて巻いてるだけですので。で、では診察があるので……お話聞いてくれてありがとうございます!」
「え?ええ……」
お辞儀をしながら私は診察先へと向かい、お姉さんの視線を受けながら管制室を後にした。
そして、廊下を歩いていると……
「キシャアアアアアア!!」
「!?」
裂けるような悲鳴が聞こえ、音の元は食堂からだった。そこを覗いてみると……
「私いつまで鍋振らなければいけないのですか!?カルデアの
あと20人分!?座に帰らせていただきますぅぅうう!!」
(清姫ちゃん、頑張ってください……)
悲鳴をあげるも、結局は鍋を動かす手を止めきれない哀れな清姫ちゃんを見なかったことにして私は廊下を歩きながら、ふと振り返った。
オケアノスから戻って数ヶ月経ち、暫くの療養を経て私たちは第四の特異点へと向かった。
舞台は1888年、魔の霧に包まれた
その霧の解決をする為に私達は、アーサー王伝説を終わらせた騎士でありアーサー王の息子である“モードレッド”さんと共に行動をした。
霧の中で暗躍する者を追い続けると、一騎のサーヴァントと対峙する。
その人は“ニコラ・テスラ”さん。人類に“電気”を齎した科学者であり、ドレイク船長と同じ“星の開拓者”に該当する人とのこと。しかしこのニコラさんは“狂化”を付与されており、私達は戦いどうにか勝利した。
消滅の間際に正気を取り戻したニコラさんから、ある情報を聞いた。
曰く「彼の“王”の秘密を探れ。“聖杯戦争”その元となった儀式こそ、その秘密がある」とのこと。いうまでもなく、王とはソロモンのことで間違いない。
(結局、ロンドンでは何もしてこなかった……)
ふと、オケアノスでソロモンと対峙した事を思い出す。
(あんだけイキったこと言っておきながら、こんだけケガをしていて恥ずかしいなぁ……けど、筋トレとかしても長持ちしないし、ギターの練習は毎日しても結局同じな気がするし……)
と、頭を悩ませていたら診察室に到着し……
「魔術?」
その悩みをロマンさんに相談してみることにした。
「駄目、君の魔術回路じゃ何も出せないに等しいよ。」
そしてバッサリと一刀両断され、私は望みが絶たれたのだった。
「それでは聞いてください“ぼっち戦力外”」
「になりません、君以外にレイシフト出来ないって最初に話したでしょうが」
そういえばそうだった。だけど、何も出来ないのが歯痒い……それを察したロマンさんが優しい口調で話を続ける。
「付け焼き刃でなんとかなる戦いじゃないのは、身に染みてるだろう?」
「そ、それは……そうなのですが……」
(負傷してもボクらを責めるんじゃなく、自力を高めようとするのはぼっちちゃんの良いところなんだけどね……)
「ギターの練習だけしかできないし、体を鍛えられないからどうにかしたくて……」
「それでも魔術の自力取得は反対かな、君にはちゃんと家に帰ってまたバンド活動をして欲しいからね。
忘れてほしくないんだ、君が戦う理由と取り戻したい
その一言を聞いて、思い出すのは家族と結束バンドのみんな……そして私は、診察室を後にしたのだった。
そして場所を変えて
「ということがあったのですが、何をすればいいのでしょうか……」
「うーん……」
「いや、なんで俺の部屋に集ってんのよ?」
ムニエルさんの部屋で、オペレーターの
「俺はね、一人の時間は大切にしたいタイプのオタクよ?」
彼の机には、可愛い女の子のフィギュアやポスターが貼られており明らかにオタクなのは私でも分かる。
けど、可愛い女の子達ですねとコメントしたら『ふっ、まだぼっちには早いか……』的な事を言われた。何が早いのかよくわからなかったけど、他の女性陣からは知らなくて良いと言われたので、取り敢えずこの疑問は保留にすることにした。とにかく、悪い人ではないし話は聞いてくれそうなのでこうして話をしており……
「助けて欲しいです、ムニえもん……」
「おいコラ止めろ日本人、誰が何処ぞの青ダヌキだよ」
などと話してると、茅さんが口を開く。
「でもぼっちちゃんの焦りもわかるよ、ウチの先輩すごいもん。あの人、元々医療スタッフだったのにあっという間に仕事覚えちゃったし。」
あの医療スタッフのお姉さんのことだ、医療スタッフなのにオペレーターの仕事もできるなんて凄い。それも茅さんよりもってなら、もうオールマイティじゃんと私なら思ってしまう。
そして続けて、ソリアさんも話しだす。
「それで言ったら、僕なんか上司があのレオナルド・ダ・ヴィンチよ?天才すぎて仕事のスピードが段違いで、もう……」
そして、そのオールマイティのさらなる上位互換そのものな存在、ダヴィンチちゃんが上司なのは私でも苦労がなんとなく分かる。
私だったら何もできる気がしなくで今頃病んでそうだ。何はともあれ……
「皆さん悩みがあるんですね……」
「本当にね〜」
「全くだ」
「帰れよ!!」
とツッコミを入れて、咳払いをしてムニエルさんがコメントしてきた。
「やっぱ続かないにしても、筋トレしといて損は無いんじゃないか?礼装の強化があっても、元がしっかりしておくに越したことはないからな。特にぼっちは体力あまり無いし、ヘラクレスの時はそれで相当ヤバかったからな。」
それはまさにごもっともで……続けてソリアさん
「それ以外だと知識でしょ、資料室で英霊の生前を勉強しておけば有利に働く局面もあるんじゃないか?」
確かに知識に関しては、マシュやダヴィンチちゃんに頼りきりだから私も知っておく必要性はある気がする。私が勉強下手なのに目を瞑れば…と、そして最後に茅さんが
「シミュレーター訓練はどう?ぼっちちゃんは、ほぼどんな時でもギター弾けるのは強みだけど、いろんな場面を想定して反復しておけば……」
確かにヘラクレスさんとの時みたいな極限状態を慣らしておいた方が良い気はする。
だけど、あーだーこーだーと皆さんと話していき、そして……
(結局、ピンと来る答えが出なかった……)
気がつけば就寝時間となり、ムニエルさんの部屋を後にした。廊下を歩いていると、何か落ちた音が聞こえる。
(アレ?上着には何も入れてなかったけど……)
床には手帳があり、ハッと気がつく。この上着は私のじゃない。
「あ、これ茅さんのだ!マズイマズイマズイ!?どどどどどどどうしよう!?」
取り敢えず拾って部屋に向かおう、そう考えて中を見ないように目を瞑って拾おうとするも……
(あ、駄目だ見えてしま……え、これってばーすでー……って)
「誕生日……」
ふと、記憶に蘇るのはMV撮影の時。撮影を終えた後に、虹夏ちゃん達からサプライズでケーキを貰って、すごく嬉しかった。
(あ……そうだ!)
ふと思い立ち、わたしは食堂へと向かった。
「えっと、確かあの時はこうして………」
そして私が、色々と四苦八苦してる最中……
「先輩?」
「イギャアアア!?」
まさか誰か入ってくるとは思わず、自分でもびっくりするほどの絶叫が出てしまった。
「ま、ままままままマシュどうしたの?」
「い、いえそれよりも……えっと、それは餃子、ですか?」
「あ、はい……」
「先輩、もしや中華がマイブームですか?」
「い、いえそうじゃなくて……その、オペレーターの茅さんいるじゃないですか?」
「はい。」
「その、偶然ですが茅さんの誕生日を知って、でも何日か前に終わってるんですよ。ちょうど私たちがロンドンから戻りバタバタしてて、その後に改修工事も始まって凄く忙しくなって……だから、祝う余裕なんてなかったと思います。きっと、茅さん本人も忘れてしまうくらいに。」
だから、と私は思ってしまった。
「それって、やっぱ寂しいと思うんです。世界を失いかけてるこの状況で、忙しいからそんな余裕はないにしても、誕生日は誕生日で変わらずあるのだから……せめて、祝える時に祝った方が嬉しいでしょうし。」
「………」
「た、ただ……ケーキの作り方はわからなくて、どうしようかと悩んでたら、そういえば結束バンドのみんなで餃子を作ったことがあったから、その時のことを思い出しながら作ってみてたんです。」
「……先輩は本当に凄いですね。」
「……へ?」
凄い?私が?こうしてケーキを作れなくて、誕生日とは割とイメージがズレてると思う餃子にすら悪戦苦闘してるのに?
と、考えながらもマシュの言葉に耳を傾ける。
「先輩の色んな凄いところを見てきました。優しいところも、逞しいところも……でもそれは、ただの結果だと今思ったんです。
先輩がそういうことをできるのはきっと、人のことをちゃんと見ている人だからです。貴女が私たちのことを見てくれるから、私達は貴女のサーヴァントでいられる。そう、私は思ったのです。」
「____」
微笑みながらそう語るマシュを見て、私は診察室でロマンさんが語ったことを思い出す。
【それにねぼっちちゃん、僕は君がグランド・オーダーを受けた時から思っていることがあるんだ。
君が今の君のままでいること、それがきっとグランド・オーダーを果たすことに繋がるって】
(ああ、そうか。ロマンさんが言ってたことってそういうことなんだ……)
そう静かに納得し、つい無意識に私は口走る。
「二人とも、ありがとうございます。」
「え、二人?」
「あ、いえなんでもないです!そ、それよりも……その、良ければケーキ作ってもらえますか?」
「はい!先輩の頼みとあれば是非とも!」
そう心地よく承諾してくれて、結果として餃子もケーキも綺麗に出来上がった。
そして翌日、茅さんにサプライズで渡すと……
「ありがどうぶだりどもォォォッ!なんで餃子もゼッドなのがわがらないげどオイジィょォォォォッ!」
大号泣しながら食べてくれて、困惑はしたけど嬉しそうでよかった。
そして、次の特異点へ向かう日が近づいていく中、ふとダヴィンチちゃんの工房へと呼ばれた。その前に私のギターを解析したいと言われ、預けてから数日経ちその報告とのこと。
私はマシュと一緒に入ると、そこにはロマンさんとダヴィンチちゃんが居た。
「えっと……」
「やあ二人とも、よく来たね。まずお茶でも……といきたいが時間は無駄に出来ないからね。先に結論から言おうか。」
そう言いながらダヴィンチちゃんは、傍に置いてた私のギターを持ちながら話を進めていく。
「一口で言えば、そのギターには無数の魂が入っている。約十万人近くだね……」
(あ、私のアカウントの登録者数と同じ……もしかして……)
「その全てが、無念、疑念、怒り……などなど、人理焼却の理不尽からくる怨念、つまり呪いによって結びつけられてる……」
「ッ!」
心臓が高鳴りを始める。それは当然だ、ある日突然人理焼却なんかに巻き込まれて死んで、生き残ったのが私なんかで……ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私なんかが生き残って、見殺しにしちゃって……
「なんてのが、頭の固ーい解析班や魔術師がそういう答えを出すんだろうね!」
(……え?)
そう考えてたら、ダヴィンチちゃんが急にそう叫びながらレポートをビリビリと破り捨てていた。その光景にロマンさんの目が飛び出てしまってる。
「ちょっ!?何やってんの大事なレポートがァ!?」
「落ち着きなよ、それは偽物。本物はこっちさ。さてぼっちちゃん、さっきはジョークだったがギターに十万人近くの魂が入っているのは本当さ。」
「あ、はい……」
私の顔を見て、ダヴィンチちゃんは微笑み返す。普段から中身がおじさんとは思えないほど綺麗な顔だけど、そこから普段以上の優しさを感じる気がする。
「だけど、怨念で結びついてるんじゃあない。でなきゃ、こんな綺麗な色をした輝きを出すものか。
特に結びつきが強い桃色の魂はご家族で、赤青黄はおそらく君のバンドメンバーかな? ぶっちゃけ推測の域は出ないが、私は確信している。
それは、君への想い……ギターヒーローとしての奏でる音、その未来を見たいという願いの結晶によってこれが出来た。それは未来を無にする人理焼却の楔から逸脱するほどに。どうやってそれを成したか原理は分からないが、結論としてそれは確信している。そして、その魂達の意志がカルデアの魔術礼装と交わり、ギターを奏でることでブーストとなって君に力を授けているのだろう。君に生きて欲しい、その想いだけで。」
「え、そ、そ、それって……つまり?」
「……誇りたまえ後藤ひとり、そしてギターヒーロー。十万人、全人類の総数にすれば砂粒程度の数かもしれないが、約十万人の魂を地獄から救い出したんだぜ?」
そう言いながらギターは渡され、私に馴染み深いその重みが掌から伝わる。
だけど、その重みは今までのそれとは違った感触だ。だって、ずっとこのギターの中で、お父さんにお母さん、妹のふたり、そして結束バンドのみんな、虹夏ちゃんにリョウ先輩、そして喜多ちゃん……それだけじゃなくて、店長さんにPAさん、きくりお姉さん、もしかしたらシクハックの人達や、SIDEROSの人達、そしてファンの人達や登録者の人達が……ずっと、ずっと、私を見守ってくれてて……そう考えると、瞳に涙が溢れて、それが手元のギターに落ちていた。
「わ、私は……なんで私なんかが生き残ってしまったんだろうて、みんなを見捨ててしまったと思ってたけど……この中にずっといて、私を見ていたんですね……」
そう、自分でも止められない言葉が溢れてしまい、胸が張り裂けそうな気持ちになってしまう。だけどそれは悲しみからだではなく、嬉しさからで、こんな私でもここまで歩み続けていたことは間違いじゃないと知れて……
そう考えていると、マシュが私の背中に手を添えてくれていた。
「先輩、よかったですね……ご家族やバンドの皆さん、そして先輩を敬っている方々がその中でずっと居たと知れて。私も同じくらい、嬉しく感じてます。」
「マ、マシュ……」
「やはり先輩は、どれだけ臆病でも大事なところで決して逃げず挑んでいる。そんな姿を知ってるからこそ、そのギターにしがみついてでも見守りたい、それだけ先輩を思ってるからこそ成せた軌跡なのだと思います。」
自分にそれだけの価値があるとは思えないけど、それでもずっとギターを倒して応援してもらったり、支えてもらったと思えることは沢山あったから納得できた。
それを知れて、まだ闘うことは怖いけどそれでも前に進もうと思えたから。このギターで見守っている、みんなの想いに応えたいというそんな意志がより固まった。
「ダヴィンチちゃん、ありがとうございます。このギターにみんながいると知れて、とてもよかったです。」
「なに、君のギターがどうしても不思議だったから解明しただけさ。案外とんでもない厄ネタがあるんじゃないかと思ったが、とても綺麗なものが見れて安心したよ。」
「君な、そんな失礼なことを考えて……まあ、何はともあれいい報告が聞けてよかったよ。ぼっちちゃんも良かったね、これだけの人々から慕われてるなんて本当に君はギターヒーローだな。」
「えへへ、うへへへへ……このままもっと登録者数を増やして更に力を高めちゃいましょうかね?」
「うん、その為にも人理焼却を解決しないといけないけど、それが実現したら君が魔術を使う必要性なくなると思うけどね。」
「あぐっ……」
と、そんな残念なやり取りをしつつ私達は工房を後にした。大事なみんなが集う、大事なギターを握りしめながら。
というわけで、ぼっちちゃんのギターにはこんなカラクリがありましたという話でした。