ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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新章スタートです。


第五特異点 北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナム
第三十四話


 

 

 数週間のお休み期間が終わり、ついに次の特異点へと向かう日となった。出発前にロマンさんから呼び出された。

 

「今回から新たな装備……というよりも、機能が付いたよ。“無針注射機能”とでもいうのかな?要は君が癒しをイメージしながら演奏すれば、回復効果のある薬液を体内に注入することができる。以前、冬木で使ったスクロールがあるだろう?その簡易演奏型という感じかな?」

「あ、アレが……それを私が回復とかをイメージしながら演奏する、と言う感じで……」

「そう、その通りだ。これはレオナルドと植物科(ユミナ)出身の所員との共同開発でね。『現代の魔術も侮れない』と彼に言わしめた逸品さ。中々痛快だった……」

「そんなことより」

 

 と、ロマンさんがウキウキに語り続けてる途中、彼の肩に手が現れる。それは清姫ちゃんのもので、明らかな不満げな顔が現れた。

 

「私がお留守番と聞きましたが、どういうことですか?」

「あ、あれ?清姫ちゃんは今回来ないのですか?」

「ああ、まだ話してなかったね。実は試したいことがあって残ってもらうことにしたんだ。」

「私は納得してませんが?」

 

 如何にも直後に発火しそうな清姫ちゃんだったけど、ロマンさんが彼女に耳打ちした直後……

 

「…………」

「…………」

「それはもう伴侶では!?」

(伴侶!?)

rわわわわかりました!背力でお留守番いたしまぁぁああああす!!」

(一体何をするんだろう……)

 

 顔を赤らめながらこの場を後にする清姫ちゃんを見届けながら、私はその姿を見届けた。直後、マシュから不安げな声が出る。

 

「ですが、私だけでは戦力不足になるのでは?」

「うん、そこも考えてる。そろそろレオナルドが連れて来るはずだ。」

 

 直後、ロマンさんの背後にある扉が開き、そこからダヴィンチちゃんの姿が見え……

 

「やぁ、みんな揃ってるね。久しぶりのご対面といこうか。」

「なっ……」

 

 彼女の隣に見たことある男性の顔が映った。

 

「ヘクトール!?」

「ストップ!」

 

 即座に戦闘態勢に入ろうとするけど、ダヴィンチちゃんは静止の手が出された。

 

「彼はもう敵じゃない。」

「お三方、久しぶりですなぁ」

「ひ、久しぶりって……」

「まさか……」

「敵じゃないって言ってるだろう、第三特異点の記憶を持ってるのは確かだけどね。」

「あ、じゃあ清姫ちゃんと……」

「同じということさ、どうやって来たかを覚えてないのも含めて。まあ、間接的とはいえレフの手下だったと男だ。入念にチェックはしたよ、その結果は“シロ”だ。」

 

 つまり、今のヘクトールさんはレフとの繋がりはない。なので私達に対する敵意は無い、ということなんだろうけど……

 

「……私達と一緒に戦ってくれる、ということでいいのですが?」

「ええ、お嬢さん達さえよけりゃあね。」

 

 本人に問い掛けると、笑みを浮かべてそう答えてくれた。言葉の上でなら、協力してくれるんだろうけど……マシュの顔を見ると不安げだ。

 当然と言えば当然、何せオケアノスで敵対してた人なんだから。

 

「……先輩。」

 

 だけど、その上で私は決断する。

 

「構いません、よろしくお願いします。」

「………もちろん」

 

 そう言って、私とヘクトールさんは握手を交えた。本音を言えば元は敵だった人を招き入れる人と隣り合うのは嫌だ。

 だけど、同時に戦って守ってくれる戦力も欲しいのも本音だし、ヘクトールさんも言葉の上だけでも同意してくれるのなら否応は無かった。そして、レイシフトの準備が整ってロマンさんが号令を出す。

 

「では行こう!第五特異点へのレイシフトを開始する!」

 

 私とマシュ、そしてヘクトールさんがレイシフトする。

 

 

 場所は『北米大陸』との事。

 1783年、独立戦争末期、誕生の『アメリカ合衆国』とのことで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………えっ」

 

 気が付いたら、目の前には黒と赤の景色で満ちていた。血が、血が、血が、血が飛び出て人が倒れる。

 レイシフト先で一人、なんてことは冬木であったけど戦地に一人なんて初めてで何が何だか分からなかった。だから……

 

「な、何が起きて……」

 

 背後から迫る、大きな火炎が迫ってることに気づけなかった。

 

「え」

 

 死んだ。そう思うことすら間に合わない窮地、炎が地面に落ちて火柱が上がる。

 

「…………」

 

 だけど、私は無事だった。火傷も傷も一つもない。なんで?そう思いかけたけど、すぐわかった。

 

「ぁ、え、あ………」

 

 私の目の前には、大傷で血に濡れた男の人が横たわってた。それが目に映って、何が起きたのかすぐに理解し、体が一瞬で凍った。

 

(現地の人が私を庇ったんだ!)

「あ、ああ、あああァァァッ!!!」

 

 助けないと。助けられた身でありながら、何をと思いながらも放置なんてことはできなかった。

 確か、礼装の新しい機能で回復効果のあるやつがあったはず!なら、それこそ今使わなきゃ!確か、詠唱は……

 

礼装起動(プラグ・セット)! 応急手当(フローリペア)!」

 

 そう言いながらギターを鳴らし、冬木でマシュにされた様にスクロールで傷が癒えるイメージ。そして演奏する曲は『カラカラ』という静かで影をイメージした曲を奏でる。

 日影で体を癒す、そんなイメージをしながらこの人の回復に専念する。同時に何故か、不思議とリョウ先輩の姿が浮かんだ。そして、直ぐにやったことが幸いしたのかこの人の傷がゆっくりと閉じていった。

 

(よかった、傷が塞がって)

「___あ」

(え?)

「あ″ あ″ あ″ァァァッ!痛い痛い痛いィィィィィイイッ!?痛い痛い痛いいたいよォォォッ!!」

 

 男の人の意識が目覚めたものの、直ぐに痛みに苦しみ悶えて傷がまた開き始めた。なんで、どうして!?私は、マシュにスクロールを巻いてもらったら今身も傷も無くなったのに!?

 私、やり方間違えた!?と、とにかくもう一度……

 

「フ、応急手当(フローリペア)!!」

 

 再び癒しをイメージしながら奏でる、だけど出血が止まらない。どうしよう、どうすればいいの?私は傷を塞ぐ方法なんて、それ以外知らない。

 だけど、助けないこの人死んじゃう!私が下手に助けたせいで、苦しませたまま死んじゃう!

 

(私の、せいで!!)

 

その罪悪感でギターを手放しそうになった時だった。

 

 

 

 

「そこの貴女」

 

 女性の声が聞こえた。

 

「医療従事者ですか?」

 

 赤い服を着た、綺麗な女性がそこにいた。

 

「……あ、え、その……」

「落ち着いて、原理はわかりませんがその治療は効いてます。貴女が諦めてしまってはその患者は救えません。」

「あ、貴女は……」

 

 何者か?と聞こうとした瞬間、女性の背後から槍を構えた人が襲い掛かる。

 だけど女性は槍の人を見ることなく、手慣れた動きで裏拳を放って弾き飛ばした。明らかな、常人離れだ威力だ。

 

「これでは治療に専念できませんね、衛生環境を整えます。貴女は隠れてなさい。」

「あ、その、もしかして……サーヴァント?」

従者(サーヴァント)?何を言ってるのです。私は“看護師(ナース)”です。」

 

 女性は手袋をはめ、銃を握りながら言い放つ。

 

「“ナイチンゲール”“フローレンス・ナイチンゲール”」

 

 そして告げた名乗りは、さすがの私でも知ってる名前だった。

 

「緊急治療 開始します。」

 

 そう言ってナイチンゲールさんは、迫る槍兵の人達をに向けて発砲し穴だらけにする。だけど、槍兵の人達は臆することなく彼女へと数を生かして距離を詰める。

 

「清潔!」

 

 そう叫び、すかさず腕を横薙ぎに放てば巨大な剣で斬られたかのよう槍兵の人たちの身体を引き裂いた。

 

(つ、強い……確かナイチンゲールさんってお医者さんのはずだのに……)

「うう″う″ゥゥゥッ!!」

「っ!“応急手当(フローリペア)”!!」

 

 その声を聞いて、再び私は曲を奏でる。次第に私の身体は重くなり、汗が焦りを煽るかのようにたくさん出て来る。

 同時に、ロマンさんからの忠告が脳内に巡る。

 

【礼装による魔術は生体エネルギーを消費する、連続使用は可能な限り避けてくれ。】

 

 体がこんなに重くなってるんなら、もう限界のサインなんだと思う。ロマンさんの忠告通りなら、きっとここが引き際。

 だけど、それでも私は思ってしまう。

 

(私を救ってくれた人がこんなに苦しんでるのに、何もしないままなんて嫌だ!)

 

 幸いナイチンゲールさんが効いてると言ってくれた。なら、限界を超えてでも助け出してやる!

 

「終わりました。そこの貴女、患ジャを見セ」

 

 どうやら槍兵からの脅威は去った。ナイチンゲールさんのその声を聞いているうちに、私の意識が落ちてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

「マスター!起きられましたか!!」

 

 ふと意識が目覚め、私は身体を起こした。幸い身体から痛みは感じないものの、さっきまでとは場所が違ってる。

 

「マ、マシュ!?どうなって……」

「魔術の使いすぎで倒れてしまったのです。すみません、傍にいることができず……」

『謝るのはボクらの方さ。すまない、また君を危険な目に合わせてしまった……』

「だ、大丈夫、私どこも怪我してませんし……それより、ここは何処なのでしょうか?」

 

 

 そう言いながら周囲を見渡し、そして背後を見ると白い建物があった。

 

『君が倒れて程なく合流してね、ナイチンゲール女史に連れて来られるまま、この野戦病院に辿り着いた。彼女はここで負傷者の治療を行なっているそうだ。』

「彼女はやはり、あのナイチンゲールなのですか?」

『おそらくね。フローレンス・ナイチンゲールという“看護師の祖”とも言われるあまりにも有名な人物だ。ただ、戦いに関する逸話も無ければ魔術と関係してたという話もない。』

 

 やはり、私も知っているナイチンゲールさんなんだなと思う。だけど、同時に気になることも。

 

「あの、だとしたらすごく強かったと思うのですが……モーツァルトさんはあまり戦闘に長けてなかったのに、ナイチンゲールさんは槍の人達を戦えてましたし……」

『近代の英霊は少し特殊でね、生前は常人でも英霊になることで戦闘能力を得るケースも多い。』

「“婦長”!!ナイチンゲール婦長!!」

 

 ふと、背後の扉を男性の人が叩きながらそう叫んでいた。開くと、そこからナイチンゲールさんが出てきた。というか、婦長って呼ばれてるんだと思った。

 

「ドクラー・ラッシュ、病院では静かに。」

「君、また負傷者を拾ってきたんだろ!!このままでは病院がパンクする!日に日に医療用のテントが増えてるじゃないか!」

「では、症状の軽い方を退院させます。」

「そ、それはそうだが段取りというものがある!」

「は?病や死か段取りを待ってくれるのですか?」

「ぐ、うぅううう!!」

「ドクター・ラッシュ!」

「わかりましたよぉおおおお!」

 

 と、ドクター・ラッシュさんというおじさんは涙目になりながら病院を後にした。

 か、可哀想だな……と思いながら見てたら、部長さんと視線が交わった。

 

「目が覚めましたか。」

「あ、はい……あの時はありがとうございました。部長さんがいなかったら、私とあのおじさんは今頃……あ、その、あのおじさんは?」

「……一命は取りとめました。それで、話はそれだけでしょうか?」

「あ、その、実は私たちはこの特異点に来たばかりで、ここで何が起きてるか教えて欲しいのですが……」

「は?いやです。治療に戻ります。」

 

 と、その一言で拒否されてしまい病院の扉を閉じられてしまい、私とマシュは唖然としてしまった。

 

 

 

 

 

 そして日が傾き夕方となり

 

「全然話を聞いてくれませんね……」

「何度も話しかけたのに無視でしたね……」

 

 と、マシュと途方に暮れながら話してると……

 

「自分達で調べるしかないんでしょうなぁ」

「へ、ヘクトールさん!?」

 

 彼が私たちの間を割りながら、入り込んできた。

 

「あ、そ、そういえば全然姿を見かけなかったですけど……」

『ボクが頼んだんだ、昨夜の戦場に行って情報を集めて欲しいと。』

「そ、そうだったんですね…」

「“アメリカ”でしたっけ?まずは、この土地がどう歪んでるか把握しませんと。」

『だね、この時代の背景からせつめいしていこう。

 

独立戦争末期のアメリカ、言わずと知れた“アメリカ合衆国”その始まりの戦争だ。

当時イギリスの植民地だったアメリカは、この戦争の勝利を以って独立。以後、比肩するもののない超大国へと発展していく。』

「あ、その、でも私が見たのはイギリスのひとじゃなかったような……」

『ああ、現在アメリカは東西に分かれて戦争しているようだね。西がアメリカ軍らそして東にいるのが……』

「あの槍を持つ兵士、いや“戦士”達か。」

 

 ヘクトールさんがそう呟き、私の脳裏にも婦長さんを襲った槍の兵士をイメージする。

 

「えっと、あの人達は……」

「戦場に奴らの死体は無かった、サーヴァントじゃないが似た何かでしょうね。」

「アメリカの人達と戦っているという事は……」

『“アメリカ合衆国を成立させない”だろうね。』

 

 ロマンさんのその言葉を聞いて、私はその事実の恐ろしさを実感する。流石の私も、アメリカが無くなるヤバさはわかる。

 

「な、なら……私たちはアメリカの人達と協力すべきなのでしょうか?」

『そうだと思うが、彼等にも謎が多い。』

「謎、ですか?」

『兵士の扱う火器が、明らかにこの時代のものじゃないんだ。百年後に生産されるような近代兵器が、しかも大量に。そしてこれも見て欲しい。』

 

 映像に映し出されたものを見て、私は目を見開け。

 

「こ、これってロボットじゃ!?」

「こいつがアメリカ軍の兵士とともに行動してました。」

 

 なるほど、確かに昔のアメリカにあるのはおかしいと私は納得する。

 

「つまり、アメリカの人たちも槍の兵士も怪しいって事でしょうか?」

『有り体に言えばね。だから、そこら辺の情報も含めて現地のサーヴァントに協力を仰ぎたかったんだけど……』

「あぁ…….」

 

 脳裏に婦長さんの顔が浮かぶ。そして一蹴された時を思い出し、無理だと私もマシュも考えてしまう。

 

『おそらく“狂戦士(バーサーカー)”なんだろうね、彼女は。負傷兵の治療に執着しているのが良い証拠というか……敵性英霊でなかっただけよしとして、協力は諦めた方がいいかな……”』

(……だけど、私とおじさんはあの人に助けられて……)

「そこの貴女」

「は、はいィ!?」

 

 ロマンさんの解説を聞いてる最中、不意に背後からナイチンゲールさんの声が聞こえてつい叫んでしまう。しかし、そんなこと関係ないと言わんばかりに話を続ける。

 

「患者が会いたいそうです、ついて来てください。」

 

 そう言って歩みを進めていく。患者、とは多分私を助けてくれた男の人なんだとおもう。そして扉を開き病室に入ると、そこはほぼ全部のベッドに包帯で巻かれた人達だらけだった。

 

「う……うう……」

 

 顔、足、至る所が包帯で巻かれている。

 

(みんな、酷い怪我を……ナイチンゲールさん。ずっとこの人たちを戦場から……」

「連れて来ましたよ。」

 

 そう考えていると、ベッドのカーテンが開く。するとそこには……

 

「___」

 

 私は、その光景に目を奪われて何もかもが真っ白になったような感覚となる。

 だって、あの男の人がほぼ全身が包帯に巻かれて片足しかなくて、両腕が無いのだから。

 

『うそ……』

『………』

「足と……腕が……」

 

 通信機の先の職員さん、そしてマシュが言葉を失う。その間を割るように、ヘクトールさんの言葉が生死を促すように言う。

 

「切らなきゃ助からないこともある、二人とも落ち着いて。動揺は人を傷付けます。」

「ん……お、おお、すまない、視力がまだ完全じゃなくてね……」

 

 すると、男の人がピクリと動いて顔がゆっくりと私の方を向く。

 

「お嬢さん、無事でよかった。座ってくれ、話をしよう。」

「あ、はい……」

 

 声をかけられ、真っ白になってた私はついそのまま従って近くの椅子に座ってしまった。

 

「西部の人間のほとんどは兵役してると聞いたが、君ぐらいの歳でましてや女の子でもか……

「あ、いえ、私は成り行きで巻き込まれたと言うか……だけどありがとう、ございました。助けてもらわなかったら、私今頃……」

「……父が、農業をしていてね。そこで働いてる若い奴ににガールフレンドが出来てな、ソイツにはよく世話になってるから。流石に違うとわかってても、もし彼の未来を見捨ててしまったらと考えたら、足が動いてたんだ。」

「……」

 

 その子のガールフレンドじゃないと分かってたのに、この人は私を……

 

「……だけど」

 

 助けてくれて……

 

「なんで、俺の腕と、足が、ないんだ?」

「____!!」

 

 それは、私を庇ったせいで失って…….

 

「生き延びたところで、この体でどうやって、父さんの農場を引き継いでいけばいいんだ……?」

 

 両手がなければ農業ができないことは流石の私だってわかる。私だって、腕がなければギターを握ることすらできないのだから。

 

「助けなきゃよかったのか……?君を助けなければ、俺は……」

 

 そうだ、私なんかを見捨てればこんなことには……だけどこの人は、同業の人を想ってそうしたから、間違ってるなんて言えなくて……

 

「そんな……」

「……」

 

 マシュが言葉を挟もうとしたら、ヘクトールさんは無言で静止の手を出したようで……

 

「違う…‥こんなこと、言うつもりなかったんだ……」

 

 男の人は、無い腕で目を覆いながら涙を流し、嗚咽の声を漏らす。

 

「すまない……すまない………許してくれ……すまない……」

 

 それは、本当は私が言うべき言葉なのに……

 

 

 

 

 

 結局私は、何も言えないまま病室を後にすることしか出なかった。

 

「その、先輩……」

『気に止む必要はないよ、彼は動転していたし。ぼっちちゃんは全力で治療を行なった、後悔する理由は一つもない。』

「………ロマンさん。」

 

 ロマンさんがそう言ってくれた。確かに、理屈だけならそうと言えるのかもしれない。だけど、あんな不幸な目に遭う人達をもう増やしたくない、そんな想いでいっぱいになったから。

 

「戦争を止めれば、おじさんみたいな人はもう居なくなりますか?」

 

 そう問わずにはいられなかった。

 

「これ以上、あんな不幸な人達を増やしたくありません。」

「そりゃ戦争が止まれば、これ以上の犠牲者は減るでしょうが……」

『最終的には聖杯にたどり着くとは思うが、明らかな遠回りだ。と言っても、ぼっちちゃんはやめないよね……分かったよ、だが今日は休んで明日ここを出発する、ヘクトールも良いね?』

「……へいへい」

 

 ロマンさんからの了承を得て、まずは私達はここで一夜を過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど私は、少しは寝たもののどうしても気持ちに収まりがつかなくて……

 

(何してるんだろう、私……)

 

 みんなが寝る夜中つい私は寝床を出てしまう。そして庇ってくれたおじさんの病室、その外でずっと座ってた。

 

(お別れの挨拶、するべきなんだろうけど何を言えば良いのかわからない……)

 

 我ながら情けない、と思ってたら声が聞こえてきた。

 

「まだ起きてるのですか?」

「ああ、すまない看護師さん。よく眠れなくてね……」

 

 話してるのはナイチンゲールさんと、あのおじそんだった。

 

「あのお嬢さんには酷いことを言ってしまった、とね…‥.自分はなんて酷い人間になってしまったのだろうと……」

「私はそう思いません。」

「え…?」

「手と足を失ったのです、不安からあんな事を言ってしまうのは無理のない事です。

そうなったことに罪はない、あるとすればそれは争いが……“戦争”が貴方にそんな事を言わせてしまったと、私は考えます。」

「だってそうでしょう?貴方は優しい人。自らを顧みず、他人を助けようとした。誉められたことではありませんが、その行いは決して」

 

 そう言いながらナイチンゲールさんは、おじさんの失った腕に手を添えて……

 

「誰にでもできることでは、なかったのですら」

 

 まるで天使のように、優しい口調でそう告げていたのだった。

 

 

 

 再び戻る、婦長さんはそう言い残しておじさんの病室を後にした。私は意を決して立ちあがろうとした瞬間……

 

「なぁ……お嬢さんそこに居るんだろう?」

「っ!」

 

 まさか、おじさんから声を掛けられるなんて思わなくて体がビクついちゃった。その衝撃で近くの小石が跳ね、音を立ててしまった。

 

「やっぱりな……なんか僅かに音が聞こえてもしかしてと思ったが……大胆な事をするなら……」

「あ、あの、あのあの私……」

 

 どうしよう、どうしよう!?と、とにかく謝らないと……

 

「その、ご、ごめんなさ」

「お嬢さん、良ければだが……あの時、俺を治療してた時の曲をしてくれるかい?」

「……え?」

 

 それって、私がおじさんの傷を塞ごうとした時の曲を?あんなに苦しんでたのに聞こえてたの?

 

「……もしかして無理かな?」

「あ、い、いえ出来ます!」

「なら頼むよ、確かそんなに騒がしくない曲だったはずだ。」

「は、はい……」

 

 幸いギターは持って来てたので、言われるまま曲を可能な限り静かに奏でる。アコースティック版風で、鼻歌をしながら奏でていく。

 

「………」

 

 おじさんも気持ちよさそうな声を漏らしている。だけどなんで、急に……

 

「……あんな事を言ったが、本当に君が無事でほっとしてるし感謝してるんだ。何せ、炎に燃えて…‥自分の体の感覚がなくなっていく気がして、本当に怖かったんだ。」

「………」

 

 曲を書きながら、おじさんはポツポツと呟く。

 

「……そうして自分の意識が朦朧とする中、不思議な夢を見た気がしたんだ。笑ってくれて良い、幻覚と言われても構わない。」

「……」

「天使が見えたんだ、それも何故か青い髪をした」

(え、青い髪って……)

 

 脳裏に浮かんだのはリョウ先輩。

 

「俺の知ってる天使とは違う姿だったし、しかもその子は手が震えていたんだ。だけどそれでも、失いかけた俺の身体の感覚を目覚めさせるかのように手を掴んでくれてね……

まるで『大丈夫』と言わんばかりに、無理に笑みを浮かべでくれながら引っ張り出してくれたんだ。そしたら意識が覚めて、同時に傷の痛みが全身に走ってね……」

「……そんなことが……」

「戦場では不思議なことがよく起こると聞いたことあるが、まさかこんな風に体験するとはね……まさか、お嬢さんは天の使いかい?」

「い、いえ……そんな事はありません。ただ、その天使さんは……」

 

 奏でる手を止めて、私は無い頭を絞りながらなんとか言葉にする。

 

「きっと、一生懸命な人が好きで、お、おじさんと同じように……不器用なんだけど、おじさんを助けたくて、つい手を差し伸べたんだと、私は、想います……」

「……そう、か。そう思うと、少し安心した気がするよ……」

「……はい」

「……ありがとう」

 

 そう呟いて、暫くしたらおじさんの寝息が聞こえてきたのだった。

 

 

 

 

 そして、翌朝。

 

「いいですか?患部は清潔に、ベッドは敷き詰めない。貴方が覚えた最新鋭の医療は時代遅れなので、絶対にやらないように。」

「わかってる、わかってるよ。」

 

 婦長はそうツラツラと、必要事項をドクター・ラッシュさんに言っていた。

 

「君に散々注意されたからね」

「そうですか……こちら、診療手順です。これからはこちらを指針に。」

「ありがとう、ここは任せたまえ。

お互い頑張ろう、ナイチンゲール婦長。」

「ええ、お元気で。ドクターベンジャミン・ラッシュ」

 

 お二人は視線を交え、そう言葉を交えた。その一方で私たちは、頂いた馬車に荷物を乗せていく。その最中、ヘクトールさんが呟く。

 

「あの女傑がついてくるとはね……一体どんな魔法を使ったのやら……」

「魔法?そんなものあるわけないでしょう。」

「うぉ!?」

「私はただ、情報提供を受けただけです。

全く、これが普通の戦争でないのなら早く言いなさい。効果的な医療には正しい情報が必要なのですから。さ、早く行きましょう。一刻も早く、根本治療に向かわなければ。」

 

 そう言いながら、婦長さんはマシュとヘクトールさんの腕を掴んで馬車に入ろうとする。 私も乗ろうと思ったけど……

 

「ミス後藤!何をしてるのですか、貴女も」

 

 私は、野戦病院に向かって深くお辞儀をした。

 

「……深入りしすぎじゃないですかねぇ」

「でも、それが先輩の“聖杯探索(グランド・オーダー)”ですから。」

 

 という、ヘクトールさんとマシュの言葉を背中で聞きながら、私は昨晩のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 私はおじさんとの会話の後、再び詳しく私なりに説明して協力を申請した。

 

【わかりました、貴女に協力しましょう。】

【ほ、本当ですか!?】

【ただし、私はあくまで看護師として振る舞います。英霊になろうともそれは変わらない。サーヴァントとしての働きは……】

【はい、構いません。】

 

 私はそう答える。だってそれは、カルデアのマスターとして活動しても変わらないこと。バンドにはそれぞれの役割やできることがあるように、婦長さんができることならそれをして欲しいと私は思う。そして何より……

 

【私はサーヴァントとしてじゃなくて“ナイチンゲール”さんのお力をお借りしたいです。】

【……】

【よろしくお願いします、部長さん。そして改めですが、私を助けてくれたおじさんを助けてくれてありがとうございました。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、部長さんは私達と行動を同行してくれることとなった。私は頭を上げて振り返ると、婦長さんと視線が交わる。

 

「あ、えっとどうしましたか?」

「…いいえ、いずれ貴女にもわかりますよ。」

「な、何がですか?」

「人が助かる、喜びです」

 

 そう微笑みながら語る婦長さんは、まさに天使のような美しさが帯びて私は一瞬目を奪われてしまった。

 

「____は、はい……」

『キシャアァァァッ!』

『どこに潜んでるんだ君はぁ!?』

 

 そしてその光景を、どうやら清姫ちゃんに見られていたようです。

 

「驚いてないでさっさと指示くれないかい?ゆるふわしてんじゃないよ、司令官がさぁ」

『あ、はいすみません……というかヘクトールさん、なんだかボクに辛辣じゃありません?

 

ま、まぁいいや……よし、では改めて……

 

まずは西へ!この大陸の状況を知るため、人間側である西部アメリカ軍中枢との接触を目指す!

 

 

 

『行こう!第五特異点の探索開始だ!』

 

 ロマンさんの号令と共に、馬車が西へ向かって動き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、後藤ひとり達が野戦病院を後にしたとだった。

 

「さて、と……っ!」

 

 後藤ひとりを救った兵士は、痛む体を起こしない腕でペンを掴み紙に筆先を立てたのだった。誰かへと手紙を飛ばすために……

 

 

 

 

 

 

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