ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ   作:ヘル・レーベンシュタイン

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第三十八話

 

英雄ラーマ

 

 神の化身にして、多くの武勲を立てたインド神話最大の英雄の一人。同時に彼は、インドにおける理想的な“王”の一人ともされている。

 __故に、一つの疑問が残る。サーヴァントは通常、生前の全盛期の姿で召喚される。であるなら彼は“王”としての姿で顕れるのが常であろう。

 

 

 何故ラーマは、その幼き姿で召喚されたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベオウルフさんに、マシュ、ヘクトールさん、婦長さんが三人で戦っている。

 だのに、いまだにまともな直撃がない。

 

(攻めきれない!フェルグスと同様に、戦闘に特化したサーヴァント。だからといって、こちらもマスターと契約を交わした英霊三騎!ケルト軍のサーヴァントは何故こんなにも手強い!?)

「何故も何も、こっちの“女王(マスター)”は聖杯を持ってんだぜ?魔力の供給量が変われば性能も変わる。」

 

 ベオウルフさんが、マシュの内心の疑問にそう答えれば、直後に連撃が放たれて弾け飛ばされる。幸い、盾で防いでいるものの状況は変わらない。

 

「サーヴァントっていうもんの基本だぜ、嬢ちゃん。」

 

 続けて、警戒してか婦長さんが地面を滑りながら距離をとる。直後、ラーマさんの口が開く。

 

「婦長よ、頼みがある……」

「!」

「余を下せ、余がいてはお主は満足に動けぬ。」

「………できません。」

「しばらくなら後藤が癒してくれる、全ては余を治す為だ。」

「………わかりした。」

 

 そういって、婦長さんがラーマさんを下ろした。

 

「……お?死人まがいを下ろすか。そいつは……」

 

 ベオウルフさんの感心したような口調に対し、婦長さんはこれまでとは比較ならない速度で迫り……

 

「………重畳」

 

 轟音と共に、婦長さんの鉄拳が彼の顔面に突き刺さり血飛沫が飛んだ。しかしそれでも、まるでそれを求めていたかのような台詞が漏れた。

 いや、違う!そんなのをみてる場合じゃない!

 

「大丈夫ですか!?い、今治療用の……」

「待て、後藤……お主に頼がある。」

 

 ギターを取りだろうとした瞬間、ラーマさんがそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ナイチンゲールの動きにキレが戻り、より戦況が激しくなる。しかし、その最中でヘクトールは考える。

 

「いいねぇ!歯応えが出てきた!」

(大分、互角にはなってきたが……やはり決めきれん。)

 

ベオウルフにダメージ自体は通している、しかし紙一重、皮一枚程度の成果しか出てない。こう着状態に等しいと言える状況だろう。

 

(俺が宝具を使えば強引に、この状況を変えれるかもしれんがシータ(妃)がどこにいるか分からん以上使えん。)

 

 そして、視線を少しだけ後藤ひとりとラーマに向ける。

 

(となると長期戦、あの王子さんが保つかねぇ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宝具を使う?その身体で?』

 

 呪いで体が動かないはずのラーマくんが、そう言ってきてロマンさんの困惑の声が出る。

 

『無茶だよ、君の霊基が保たない。時間がないのは分かるが、我慢して欲しい。それが“賢い”選択だよ。』

 

 確かに、ヘクトールさんと婦長さん、そしてマシュの3人でベオウルフさんと闘ってる。時間が惜しくても無理にラーマくんが宝具を使う必要は無い。それは私にも分かること、だけど……

 

「構いません、宝具を使ってもらいましょう。」

『ちょっ、ぼっちちゃん!?』

「ロマンさん、やり方を教えて欲しいです。私の負担は無視してもらって構いません。」

『君ってやつは……』

 

 そして一通り説明を受けて、私は演奏を始める。

 

『高出力の魔力供給と、君のギター礼装による治療の同時進行だ。相当しんどいけど、言ったからには頼んだよ。』

「望むところです……」

 

 正直なところ、ライブでギターソロする以上に体が重たい。だけど、ここで踏ん張らなきゃ私がここにいる意味がないのだから。体の悲鳴を無視して演奏を続ける。

 

「……正直、手伝ってくれるとは思わなかった。感謝する、後藤ひとり。」

 

 その中、ラーマ君から感謝の言葉が出てきた。それを聞いて私は、つい白状してしまう。

 

「あ……貴方の記憶を見てしまったので」

「英霊とマスターの、と言うやつか……」

 

 それも、奥さんであるシータさんの不倫疑惑で手を離して、反面に王として素敵な国を作り上げたその記憶だったから……

 

「……余は、どの様な瞳をしていた。」

「……穏やかな顔をしてました。」

「そうか……なあ、後藤ひとり。余は君に一つ問わせてほしい。」

「あ、はい……」

「……国と伴侶、或いは友、或いは仲間。どちらかしか取れない時に君はどちらを取る?」

「え……」

『な、ラーマ!君は……!』

 

 それは、まさにラーマ君があの時、ラーヴァナという魔王との不貞を国民から疑われたシータさん。シータさんとの愛をとるか、国民からの信頼をとるか、その無理難題とほぼ同じものだ。

 

「わ、私は……家族を、いや結束バンドを……いやでも、その、あの……」

『いい、言わなくていいんだぼっちちゃん!こんなの好みや状況次第で変わってしまう、答えのない理不尽な問いだぞ!ラーマ、君だってわかってて聞いてるのだろう!?』

「………」

「………う、うぅ………」

 

 頭の中で堂々巡りを繰り返す。そして私は、意を決して………

 

「その、ごめんなさい……多分、私は家族を取るかと……」

「そうか、いやすまない……意地悪な問いかけを……」

「だけど!」

 

 それでもと、私は言葉を続ける。

 

「そ、そもそもな話になりますが、私はこの問題自体が嫌いです!」

「な、に?」

「だって……その、どっちかに手を伸ばさなきゃいずれどっちも消えちゃうんですよね?けど、天秤に傾きができないくらい同じものが乗ってるのに……どっちか捨てろなんて、あまりに理不尽じゃないですか!状況とか好みとか、そんなごちゃごちゃした理由を言い訳に捨てた事に恥も後悔も無いなんて、そんなの人としてあり得ないと思います!」

「………」

「だって、そうじゃないですか……人の命を救うことってそんな……一人を犠牲にして一人を救えるとか、二人同時に救えないとか、そんな単純なことですか?

私、そう思えません。だって、二人を全力で救おうとしても、どうにか一人しか救えないかもしれないし、一人だけ救おうとしてもその一人すら救えないかもしれないじゃないですか。それでも一人でも多く助けたいと思うなら、みんなを助けるために全力を尽くすものじゃないんですか!?」

 

 だって、今までの戦いがそうだったから。冬木では所長さんも一緒に戻りたかったのに助けられなかった。フランスではマリーさんの犠牲無くて最後まで戦えなかった。オケアノスでは、アステリオスが死力を尽くしてくれなかったら私たちは終わってた。そして出会った人たちみんな、全員が無事で笑顔でお別れしたかったはずなのに、そうした犠牲は避けられなかったんだから。

 ラーマさんにとって、奥さんも国も同じくらい大事な物のはずだ。それを片方決めて見捨てることが“はい、大正解です”なんてあまりに理不尽すぎる。そして、だからこそと思う。

 

「だから、私思うんです。どっちもいずれ消えちゃうなら……どちらも同時に掴めることだって出来たって良いじゃないですか!」

「っ!」

「私は、どんなに無理難題、不可能だと言われても、矛盾してるとしても家族も結束バンドもどっちも助けられる選択を取りたいです!」

 

 我ながら無茶苦茶、頓知なんてものじゃない答えを言った。それを聞いたラーマくんは驚いた様な声を上げるものの……

 

「……全く、愚かだな。答えになってないぞ。余はどちらを助ける?と聞いたのだからな。」

「あ、そうですよね……ごめんなさい、つい……」

 

 そらみろ、冷静に考えれば矛盾してる。そんなこと、私自身分かってたことじゃないか。

 

「だけど、問われてそう答えられる君を、僕は嫉妬してしまうな……」

「……え?」

「ならばこそ、余は戦わねばならんな」

 

 そう言ってラーマ君が立ち上がり、手を頭上に掲げれば剣が浮き出した。宝具を撃つ、言葉にせずとも分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宝具を発動する刹那、ラーマは考える。

 

(言い訳をすれば、余はシータの不貞を疑うことはなかった。それでも彼女を追放したのはひとえにそれが、“王”として『正しく、そして賢い』選択だったからだ。

 

初めは悔やんだのだろう、シータの後を追おうとも考えたやもしれぬ。

 

だが、時が過ぎ………)

 

 彼の脳裏に浮かんだのは、穏やかな自身の国で穏やかな顔をしながらも、後悔に満ちながらも、それすら思い出となってしまった瞳をした晩年の自分の姿だった。

 

(妻への愛情は思い出となり、後悔さえも思い出となった。

さぞや穏やかな国を、賢き治世を行ったのだろう。王となった“余”は。)

 

 しかし反面……

 

(“僕”は、そんな風には思えない!)

 

 現在、英霊として戦線に復帰した彼の瞳には己への怒りに満ちていた。

 

(何が賢い選択か!?良き王でありたいという、保身に言い換えただけだろうに!

その果てに、愛しき者への手を離して……!!

 

もう後悔はいらない、だから……

 

 

例え愚かしい選択だろうとも、僕は剣を執る。

 

今、彼女に会う為に戦わねば、僕はまた“手を離すこと”になるのだから!)

 

 剣が回転し続け、それに魔力の輝きが満ちる。その光景にダヴィンチは感嘆の声を上げる。

 

『すごいね……とっくに霊基が崩壊してもおかしくないのに、愛する少女への想いだけで踏みとどまっている。

見誤っていたよ、幼き姿などなんのハンデにもならない……今の“彼こそ”が……』

 

 それが日輪の如き輝きとなり、宝具として昇化する。

 

『ラーマという英雄の、全盛に他ならない!』

 

 

ラーマの目に、在りし日の刹那(想い出)が過ぎる。

 

「月輪の剣 必滅の矢」

 

 かつて、互いに想い合う少年少女が月輪を見上げていた。ああ、なんと美しいものがあるのだと。

 

「即ち “羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)”」

 

 しかし、二人は向き合い、改めて想うのだった。

 

「この一撃を 我が妻シータに捧ぐ……!!」

 

 ああ、そうだ、本当に美しく、愛おしく微笑む彼女こそが本当に美しい。故に……

 

「いっ………けええェェェェェェッ!!」

 

 その愛を取り戻す為ならば、たとえ限界を超えても惜しくないと……!!

 放たれた月輪の如く円を描いた一撃が、ベオウルフへと吸い込まれ……

 

 

 

 

 

 

 

「あの小僧、随分と奥方に似てたな。」

「あ、え、そ、そうなのですか?」

 

 ラーマさんの宝具を受け、負傷し降参したベオウルフさんがそう呟いた。

 

「つーかお前さん、負けた途端そのやる気のなさなんだい?」

「元からねぇさ、女王の気まぐれで看守役なんざ。」

 

 ヘクトールさんの問いかけに、ベオウルフさんはそう答える。そう、彼はラーマさんの一撃を喰らった途端に降参し、あっさりとシータさんのいる場所を教えてくれた。そして、治療のために婦長さんとマシュがラーマさんに同行して行った。

 さっきまで敵だったのに、こうやってお喋りしてることは、つまりは本人の言うとおりやる気がなかったからという、なんともあっさりした理由だった。

 

「あ、その、それで二人が似てるって一体?」

『推論はあるよ。おそらくラーマが“生前”にかけられた呪いが原因だね。』

「呪い?」

『パーリーという猿を騙し討ちしたことによって、彼の妻にかけられた呪いさ。その内容は「妻と共に喜びを分かち合えない」というもの。

英霊となった際に転じて「共に存在することができない」という呪いになったのだろう。その証拠に観測される二人の霊基は、ほぼ同一。聖杯戦争下であればどちらも“ラーマ”として召喚されるはず。』

「なるほど、同じ英霊が“二騎”召喚されることはない。つまり『出会えない』ってわけですか。」

「ま、待ってください!でもこの場では実際、お二人とも出会ってますよ!?」

『特異点という、不安定な環境故だろうね。本来、起こりうるはずのない再会……まさに“奇跡”のような話だよ。』

「……奇跡」

 

 そうだ、確かにそんな背景の上で出会えたのならば奇跡と言える。実際、会いたくても出会えない二人が、ようやく出会えて私だって嬉しい。だけど、だからこそ私は不安がよぎった。

 だって、奇跡とはまず起こるはずのないことなのだから。だから………その分、きっと辛いことだって同時に起こるのかもしれないと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 そして、暫くして。

 

「お、元気になったが。」

 

 ラーマさんは、婦長さんに背負われた姿で私達の前に来た。その姿を見て最初に迎えたのは、ベオウルフさんだった。

 

「なんで貴様もいるのだ……?」

「あ、その、割と良い人でして……」

 

 ラーマさんのごもっともな疑問に、私はそう答える。そして、後からマシュも来たが、本来なら後一人いるはずなのに……

 

「あれで死なれちゃ目覚めが悪い。ま、無事みたいだし俺は帰るわ。」

 

 ああ、そうだ……やっぱりシータさんが居ない。どうなったのか確認したいけど、その前にベオウルフさんとここでお別れだから、まずは彼と話さないと。

 

「看守はクビだが、なんか仕事あるだろ。」

「あ、その、また会ったら私達は敵対することになるでしょうか?」

「女王に聞け、サーヴァントだからな。」

 

 そう一言残して、ベオウルフさんは私たちに背を向けて去っていった。そして……

 

「皆には感謝しかない、改めて誓わせて欲しい」

 

 婦長さんから降りて、ラーマさんが私達の前に立つ。その胸にはもう、朱槍の呪いの痕跡が全くない。

 

「セイバー・ラーマ。マスター、後藤ひとりよ。余はあなたのサーヴァントだ。」

「あ、はい……だけど」

 

 彼から手が差し出される。だけど、本来隣に居るはずの女性が居ない。そこに隠された真実に、私は胸が痛む。

 

「マスター、其方は余の問いかけに答えたな。厳しい取捨選択そのものが嫌いで、皆を救いたいと」

「あ、はい……」

「……其方の察する通りだ、生憎と其方の希望通りの結果にはならなかった。しかし……」

 

 彼は、かつてそこには呪いが刻まれていた胸に手を添えながら話を続けた。

 

「今の“僕”には、シータから与えられた涙と愛が此処に確かにある。その託された希望の重みを、確かに知ることができた。君の答えを聞かなければ、もしかしたらまた彼女と共にあれ無かった慙愧を背負い己を呪い、その重みを自覚することができなかったのかもしれない。」

「ぁ………」

「先程の感謝には、そうした意味も込めている。故に、その恩義に報いるべく其方のために剣を振るうと此処に誓おう。」

「は、はい!私こそ、改めてよろしくお願いします!」

 

 今の彼には、もう後悔は無いと知れた。だから私は差し出されたその手を握り返してそう答えたのだった。

 

『では東部へ向かおう、ジェロニモ達がどうなったか確かめに行こう!』

 

 ロマンさんの声に頷き、私達は歩き出した。その最中に……

 

「行ってくる」

 

 そんなラーマくんの声が、背中から聞こえたのだった。

 

 

 




少し短めとなりましたが、一括りとして今回は此処までとさせていただきます。
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