ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
「先輩、起きてください先輩」
微睡む意識の中、そんな声が聞こえる。私の意識が次第に覚醒していき、そして目が完全に見開く。
「マシュ……さん?はっ、アーサー王は!?」
「大丈夫です、アーサー王は消滅しました。私たちの勝利です。」
「そ、そうなんだ……て、マシュさん怪我してるじゃないですか!早く手当を……」
「落ち着いてください先輩、私はサーヴァントだから大丈夫です!」
「……」
などと私とマシュさんがそんなやり取りをしてる中、所長さんの表情が曇りが覆っていた。何かまだ、問題があるのかな?
だけど話してくれる様子はなく、ひとまず私たちは聖杯の近くまで移動した。だけど、やはり気になり….
「あの、所長さん……」
「なんでもないわ、
少し考え事をしてただけよ。」
所長さんは私の問いかけを遮り、視線をクー・フーリンさんに向けながら話を進める。
「確か、サーヴァントが触れることで実体化するはずよね?」
「ああ、だがその役割は嬢ちゃんに譲るぜ。何せ、今日の功労者だ。」
「そ、そんな……というより、クー・フーリンさんがご無事でよかったです……」
マシュさんの言葉に同意し、私はつい頷いてしまう。片腕をを失ったのに、無事にあの状況を切り抜けたのだから。
「ありがとよ、だけど謙遜することはねぇさ。あの聖剣を受け切るなんて、並のことじゃねぇ。嬢ちゃんは立派な一人前のサーヴァントだよ。」
「……ッ!」
クー・フーリンさんの言葉に、マシュさんは照れくさそうに顔を赤らめてた。だけど、その内容にも私は同意する。マシュさんがいなければ、私達は既にここまで来れなかったのだから。
「それに、と……」
「あ、身体が……」
まだ話をしようとしたら、クー・フーリンさんの身体が消え始めていた。サーヴァントは、消える時こんな感じなんだ……
「どうやらセイバーを倒したことで、オレの役割も終わりのようだな。」
「そ、そんな急に……」
「はっ、サーヴァントとの別れなんて急なもんさ。」
そう言った直後、クー・フーリンさんがの手が私の頭に添えられた。
「……え?」
「……嬢ちゃんも頑張ったな。お前はマスターとしてまだまだ新米だ、だが航海者に一番必要なものが備わっている。運命を掴む天運と、それを前にした時の決断力だ。」
(私なんかに……そんなものが?)
「そう戸惑った顔すんなよ、盾の嬢ちゃんを助けようと危険を承知の上で行動に出てサーヴァントに立ち向かった。その向こう見ずさを忘れるな?そういう奴にこそ、星の加護ってヤツが与えられる。」
そう言い残して、クー・フーリンさんの姿は消えていった。言い残した内容は、正直よくわからなかった。だけど、ちゃんと覚えておこう。そう思えた。
「行ってしまわれましたね……」
「はい……あ、それじゃあ聖杯、というのを回収しましょう……か……」
正直やり方がよくわからないけど、取り敢えず私はそう言って見た。その時、ふと視界の端に俯いている所長さんが映った。そうだ、忘れるところだった。
「あ、その……所長さん、ありがとうございます。生き延びれたのは所長さんのおかげです。」
「………え?」
「だって、私聖杯のことやサーヴァントのことよくわからなかったですし。そ、そんな私にどう動けば良いのか、全部所長さんが教えてくれたからです。所長さんがいなければ、ずっと私混乱してたと思います。」
「……グズ」
私がそう言うと、所長さんから鼻を啜るような音が聞こえた。急に泣き出して驚きそうになるけど、直後に所長さんの言葉が漏れる。
「……貴女も、何も知らない臆病な一般人の割には、よく貢献してくれたと思います。」
「あ、あはは……」
「だから認めてあげます、後藤ひとり。カルデア所長として、貴女の功績を。」
「は、は……」
所長さんから差し出された手、それを握って握手をしようとした。その時、私の脳裏に疑問がよぎった。カルデア、そう言えばあの爆発で多くの人が死んだ筈。だから……
【結果としてぼっちちゃんだけがレイシフトしてしまったんだ。】
そうだ、確かロマンさんはそう言ってた筈。短い時間の付き合いだけど、あの人が嘘をつくとは思えない。なら、向こうの機械の故障とかもあり得るんだろうけど、それでも無いのなら……所長さんは……
「……後藤ひとり?」
「……あ、あ、あの……所長さ」
【吐き気が止まらないな】
「っ!?」
突如、私達の耳にそんな威圧的な声が聞こえた。だけど、私はその声は聞き覚えのある男性の声だと悟った。
「嘘、レフ……レフ・ライノール!?」
そう、レフさんだ。あの廊下でマシュさんと会った時と、全く同じ姿をしていた。所長さんは再会できて嬉しそうな顔をしている。だけど……
「良かった、生きて……」
所長さんが駆け寄ろうとすると、マシュさんが静止の手を差し出す。そうだ、明らかにおかしいのだから。
「アレに近づいてはいけません、私達の知る教授と何かが違う。」
「な、何を言ってるのマシュ……ご、後藤ひとりもよ、さっきから様子が可笑しいわよ!」
「そ、それは……」
問いかけられて戸惑う私、それを遮るように通信機から音が鳴った。
『レフ教授……キミ、生きてたんだな……』
「ああ、カルデアからの通信か。しかもロマニ君から、なるほどキミも生き残ってしまったか、まったく……」
生き残って“しまった”とこの人は言った、ああやはりこの人が……
「どいつもこいつも!統率のとれない!クズばかりだ!!」
「ッ!?」
怒号を挙げ、そう罵倒を散らすレフさん。もうこの時点で誰もが察したのだろう、爆破テロの犯人はレフさんなんだと。
そして彼の独白はまた続く。
「何も知らぬからと見逃してあげた、ノロマな小娘!
デミ・サーヴァントとなった、マシュ・キリエライト!
私の言うことも聞かずに生き残った、ロマニ・アーキマン!
全く本当に、予想外のことばかりで頭に来る。
その中でも最も予想外なのは“自分が死んだことにも”気付いていない、哀れな哀れなオルガマリー。」
「………え?」
「あ……」
レフさんの放った言葉に、所長さんは目の光を失った。そして、私の予想が当たっていたことの完全なら裏付けとなった。
ロマンさんはレイシフトできたのは私だけと言ってた。なら、所長さんは?マシュさんと同じようにサーヴァントとなったとは思えないし、そもそも管制室にいた以上は爆発に巻き込まれたのは確実な筈で……
「何を呆けている、死んだことで頭の回転が遅くなったか?まあ、その不愉快さは変わらんがね。
あの爆発は、キミの足元が起点だ。なぜなら、私がそこに仕掛けた。だから君の肉体はもうない、跡形も無く。なら、そこにいる君が何かというと、未練がましく残された“残留思念”に過ぎない。」
「何言ってるの、だって私生きて」
「レイシフトの仕組みを忘れたかい?レイシフトは、人間の魂をデータ化し肉体から取り出し異なる時空、空間に投射する。つまりレイシフトするだけなら、本来肉体は枷でしかない。
わかるかい?レイシフト適正がなかった君が、レイシフトできるとしたらそれは肉体がなかったと考えるのが自然なんだ。」
「ちがう……ちがうわよ……」
「だから、君はカルデアには戻れない。」
「ちがう……」
「だってカルデアに戻った時点で」
「ちがう!!」
「肉体のない君の意識は!消滅するしかないんだから!!」
レフさんの告げる真実を、頑なに否定しようとする所長さん。私も否定したいが、そのための知識も勇気も無いから黙るしかなかった。
「だがそれでは、あまりにも君が哀れだ!生涯をカルデアに捧げた君にも見せてあげよう、これが今のカルデアの姿だ!」
そう言いながらレフさんが両手を広げると頭上の空間が歪曲し、あのカルデアスのある管制室の景色が映り出した。
それを見て、所長さんの顔が青ざめていく。
「な、何よあれ……カルデアスが真っ赤になってる……嘘よね?後藤、マシュ。あれただの虚像でしょう?」
「……」
「……」
私もマシュさんも、否定できるわけがなかった。現場にいて、真っ赤になってたカルデアスをこの目で見ていたのだから。
そしてそれが事実上の肯定となり、所長さんが絶句する。
「よく見たまえ、アニムスフィア。君のために時空を繋げて見せてるんだ。人類の生存を示す青色は一片もない、あるのは燃え盛る赤色だけ。良かったねぇ、マリー。これが君の引き起こした結果だよ。」
「ふざ……ふざけないで!」
「い、いけません所長!戻ってください!」
直後、マシュさんの静止の声を振り切って所長さんが怒りのままレフさんに向けて走り出した。
「私の責任じゃない、私は失敗していない!私は死んでなんかいない!なんなのよアンタ!私のカルデアスに何をしたっていうのよぉ!!」
「アレは、君のではない。」
レフさんが指を掲げると、所長さんの身体がまるで手を離された風船のように宙に浮かび上がった。
「まったく、最後まで耳障りな小娘だったなぁ君は。」
その向かう先は、真っ赤に染まっているカルデアスだ。
「慈悲だ、君の宝物で死ぬといい。カルデアスは高密度な情報体、次元が異なる領域。ブラックホールのようなものだ。触れれば分子レベルで分解される、まさに地獄の具現だよ。」
「いや……」
ゆっくりとカルデアスに近づいていく所長、そんな彼女は必死に手を伸ばしていた。その顔には、涙を浮かべていた。
「誰か助けて!!」
その声を聞いて、私とマシュさんは伸ばされている手を掴もうと走り出していた。
もう少し、ほんのわずか、もうちょっと手で掴める……
「あ……」
だけど、触れそうな直前に、レフさんが指を動かせばその手が弾き離れていた。
「なんで、なんでよぉ!なんで頑張ったのにこんな目に遭うのよぉ!父さんの望みを、人類を守ろうと頑張ったのにぃ!!
やだぁ、やだよぉ!死にたくないよぉぉおおおおお!!いやぁあああぁああああ………」
その断末魔の果てに、カルデアスから蒸発する音が聞こえて所長さんの姿が消えていった。
「あ………ッ!」
あぁ、そうか……また、私は………
「さて、聞こえているなドクター・ロマニ?共に魔道を研究した学友として忠告をしてやろう。カルデアは、用済みになった。未来は見れないままだろう?外部とは通信が取れないだろう?カルデアの外へ様子を見にいった職員は、まだ戻ってこないだろう?
……結末は確定した。お前達人類は、この時点で滅んでいる。」
『……っ!』
「……ふむ、名残惜しいが、そろそろのようだ。」
直後、突然爆音と共に私達の足元が崩壊し始めた。
『なんだ、何をしたレフ!!』
「セイバーが消滅したことで、特異点の崩壊が始まっただけさ。そういうわけだ、マシュと後藤ひとり。私はここで失礼するが、せめてもの慈悲だ。」
レフさんが指を頭上を刺せば、私の背後にある赤面が爆発し岩雪崩が迫ってきた。
「ここで終わるといい、後藤ひとり!」
私にはもう、動く余力がない。だからそのまま岩に呑まれる、筈だった。
「はァッ!」
「!!」
だけど迫る岩を、マシュさんの盾が弾いてくれた。
「マ、マシュさん……」
「先輩、手を握ってくれますか?」
そう問いかけながら差し伸ばされる彼女の手、最初は戸惑ったものの私はあの時のようにその手を握りしめた。
「わ、私は……正直今起きていることが、何かわかりません。所長さんが死んだことや、人類が本当に滅んだかどうかも……だけど、わからないからと言ってこのまま終わりたく、ありません!だから、どうか……力を貸して欲しいです、マシュさん!」
彼女の視線を交えながら、私はそう問いかけた。するとマシュさんは、勇ましい表情で答えてくれた。
「勿論です、先輩。貴女をここで終わらせたりしない!切り抜けますマスター、ご指示を!」
そして私達は、すべての元凶であろうレフさんと向き合った。しかし……
「切り抜ける、か……好きにしたまえ。私はもう、失礼させてもらう。」
「え……」
「何を驚く、言っただろう?結末は確定していると。君たちが仮に生き延びようとも、既に人類は滅びてるのだから。」
その残酷な真実を告げながら、彼は浮かび上がっていく。
「これは人類史による人類史の否定だ、お前達は進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのでもない。
自らの無意味さに!自らの無能さ故に!我らが王の寵愛を失ったが故に!
何の価値もない紙屑のように!!跡形もなく燃え尽きるのさ!!!
私はレフ・ライノール・フラウノス
人類を滅ぼすために遣わされた2015年担当者
それではさらばだマシュ、ロマニ
そして48人目の適正者、後藤ひとりよ」
その言葉を最後に、私の視界はまた暗闇に閉ざされたのだった。