ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
私が黙りこくって、数秒経ったと思う。
(ダメ、何も言えない!怖い、否定できない!)
体が震えて、何か言える気がしない。どうしようもない、と考えてしまう。だけどふと……
【貴女は貴女の歩んできたことに誇りを持ち、そして誰も悪くないことで自分を責めないで。】
昨日の夜、婦長さんの言葉を思い出し、そしてその時に思い出そうとしたかつての記憶が浮かび上がってきた。
【とりあえずもう少しお腹から声出したら?】
それは喜多ちゃんと一緒にカラオケボックスに行って、偶然にも大槻さんとも鉢合わせした時だった。一通り歌った後に、そう言われて……
【あとカラオケが上手いからと言って、レコーディングが上手いとは限らない、ライブもね。カラオケ感覚でやってたら、変なのは当然でしょ?バンドのボーカルはフロントマンだから、音程が合ってればそれでいいって訳じゃない。
まぁ、今の貴女には結束バンドのボーカルである必要性は感じられないわね。少し歌える程度じゃ……】
大槻さんのその評価を聞いてる彼女は、すごくすごく居た堪れない顔をしていた。だから私は、我慢できずに……
【あっあの!!
いっ、言ってることは正しいのかもしれないけど、喜多ちゃんじゃなくていいなんて事は、ない……です!】
つい立ち上がって、そう言ってしまった。だって私は本当にそう思ったから。
だって、私は喜多ちゃんともっと一緒にバンドしたいと思ってたから。上手い下手は大事だけど、それだけで彼女を評価して切り捨てる気持ちなんてこれっぽっちもない。
「____」
なら、他から見た私はどうなんだろう?
【その、恐縮なのですが……先輩と再会できたので、安心しています。こういう状況になって、実はものすごく怖かったので……先輩が居てくれて、助かってます。】
【……貴女も、何も知らない臆病な一般人の割には、よく貢献してくれたと思います。】
【ありがとう、その言葉でボク達の運命は決定した。】
【ぼっちちゃん、ここからはキミが中心になる物語だ。英雄ではなく、ただの人間として星の行く末を定める戦いが、キミに与えられた役割だ。】
【ありがとう、マスター……いえ、ひとりちゃん。貴女がマスターで、私は誇りに思います。】
【まけないで ぼくのぎたーひーろー】
【人生ってのは死ぬコトがわかってからが面白い!必ず死ぬからこそ今を楽しく生きたくなる!】
みんな、みんなそう言って私の背中を押してくれていた。そうだ、そうだよ!ここで私が諦めたら、その期待を、想いを、何の意味もないですって捨て去ることと同じじゃないか!
(私は……何を甘えたことを考えていたんだ!?)
【全てを棄て、無意味に死に、その未来を閉じよ
それが残されたお前達にとって、最も楽な生き方だ】
(私が諦めたら、それこそソロモン王のその言葉が正しいことになってしまうのに!)
体はまだ震えている、だけど意を決して私は前を見据えた。視線の先にはクー・フーリンさんがいる。
「技術顧問」
管制室が静寂に染められた最中、ムニエルが口を開いた。ダヴィンチを始め、他のメンバーの視線が集中する。
「ぼっちがこの場面を独力で超えないとソロモン王には勝てない、その理屈は理解できます……だけど、あんなに怯えて放置してたら間違いなくあいつの心が壊れてしまいますよ!俺はそんなの見過ごせない!アイツが怯えながらも頑張って走ってる姿を、俺たち大人が背中を押してたからここまで来れたんじゃないんですか!?」
「………!」
ムニエルの叫びに、ダヴィンチの表情が険しくなる。するとムニエルの叫びに追従するように、他メンバーの声もまた出始めた。
「僕も同感です!確かにこの機会を失うのは惜しいですが、メンタルの強化ならまだ生きていれば後からでも補填できるかもしれません。ですが心も体も死んで仕舞えば、それこそ先がありません!」
「彼女は
「私、あの子に誕生日祝ってもらったのに……心を折られてしまったら恩返しできてないことになります!」
「お願いします!司令官からも何か言ってください!」
「…………ロマニ、どうするかい?」
ダヴィンチが声を掛けると、苦悶な表情を浮かべるも顔を上げて口を開けた。
「………やむを得ない。確かにぼっちちゃんに乗り越えて欲しかったが、ここでメンタルブレイクされては本末転倒だ。司令官として指揮を出す!レオナルド、ミュートを解除だ!ここにいる全員でぼっちちゃんを支えるぞ!」
「………あぁもう、このお人好し共め!こうなったら全員、休暇を返上してぼっちちゃんのメンタル強化に参加してもらうからな!」
ロマニからの指令を聞き、呆れつつもどこか笑いそうな顔をしながらダヴィンチはミュート解除のボタンを押そうとした、その時だった。
『けど、それでもやります。』
「………ぼっちちゃん?」
後藤ひとりが、顔を上げてそう言い放った映像が映っていた。
クー・フーリンさんが不愉快そうな顔をしながら言い放つ。
『……あぁ?なんだ?』
「………そう、ですね。あ、貴方の言う通りだと思います。私が、カルデアのマスターである必要性なんてきっと無いです。きっと、もしも他に生き残りがいれば、もっと上手くやれてたんじゃないかと、思い、ます。」
「っ!」
『はっ、よくわかってるじゃねぇか自分の力不足っぷりをよ。なら……』
「けど、それでもやります。」
『……………は?』
クー・フーリンさんが呆れた声を出した。
『聞き間違えか?力不足なのは自覚してるんだよな?そんな奴が、下手に動き回って迷惑だと思わないのかよ?』
「………そうだとしても、やります。」
『………おい、大概にしろよ。ふざけてんじゃ』
「ふざけてなんかいません!!」
『っ!』
自分でもびっくりするほど声を張り上げた。これからいうことは、間違いなく私の我儘だ、きっと迷惑する人だっているかもしれない。
「た、たとえ迷惑だったり、必要性がなかったとしても、私はこの旅を降りたくありません!」
『…………』
クー・フーリンさんの冷ややかな視線が刺さる、怖くて辛くて、目から雫が溢れて、頬を伝って落ちる。
それでも私は、私の言葉を終わらせない。決意を抱いて私なりの言葉を紡いでいく。全身全霊、限界を超えていく。例え真実間違えていたとしても、私の言葉を止めたりしない!
「例え始まりから終わりが間違いだっとしても……私が、後藤ひとりがこの
『………』
「それが………それが!私の目指す確かな真実です!!」
何にもない、何にも出来ないなんて言い訳にして諦めたくない。だから何度折れても、何度も挑んでやる!
そう、そう意気込んで言い切る。肩で息し、静寂に満ちる。
『………はっ』
すると、クー・フーリンさんの失笑が届く。
『テメェの不甲斐なを承知の上で、それでも続けるってか?餓鬼の我儘と同レベルだぞ。』
「………」
胸がチクリと痛む、それを言われるとその通りだから。だけど….
『が、思った以上に随分と我を張るじゃねぇか。まぁ、その向こう見ずさは、さっきまでの根暗な雰囲気と比べれば嫌いじゃねぇよ。』
(……えっ)
そう言うクー・フーリンさんの顔は、かつて出会った時の彼の顔とよく似ていた。すると……
「お見事です、先輩」
「マ、マシュ……」
「ですが、一つだけ言わせてもらいます。例えどれだけ必要性がなくても、私は貴女のサーヴァントであり、例えいかなることがあろうとも、後藤ひとりという人間を守ると誓っています。だって、貴女があの時に手を握ってくれた恩を忘れません。」
マシュが隣に立ち、微笑みながらそう言ってくれた。
「余もだ。」
更にラーマくんも来てくれて……
「君が支えてくれたから、僕がシータと再会することができた。その恩を都合よく忘れることなんぞ、戦士として……男として恥知らずにも程がある。」
『私も!私もますたぁが立ち去ろうとも必ず追いついて連れ戻して見せます!』
『……すまない、ぼっちちゃん。君がどう答えるか見たくて黙ってしまってたが、辛い想いをさせたね。』
『この旅をはじめる前に言ったように、君が決意したからこそ僕たちの運命は決まった。仮に必要性がなくとも、それでも僕達は君を支えるとも。』
みんなが、みんながそう言ってくれた……その言葉一つ一つが、私の心を暖めてくれて……それがすごく嬉しかった。
『さて、和んだ空気になったのはいいが、実のところ話だけするために声をかけたんじゃねぇ』
そう思ってたら、クー・・フーリンさんの冷ややかな声が割り込んできた。
『空間を隔てた相対、本来なら何であれ届かねぇが……』
その言い草、まるで届かせてみせると言ってるようで……
『聖杯の後押しがあれば“どう”だろうなぁ?』
「!!?」
『クー・フーリンとの通信を全ライン中断!!直ちに多重防壁を……』
『駄目です!原因不明のエラーにより通信を遮断できません!!』
そ、そんな!聖杯の力込みとはいえ、通信の繋がりすら強化するの!?
『逃げろぼっちちゃん!!そこに居たら“殺される”ぞ!!』
何がどんな原理で起こってるか分からないけど、ロマンさんの言うように道理を超えてそのままだと本当に殺されると確信してしまう。
けど、かといって逃げればどうにかなるとは思えなかった。
『蠢動しな、死棘の魔槍 “
ゲイ・ボルグが放たれる、そう思った時だった。
「っ!!」
その槍は私に向くことはなく、背後に居た……
「今のは……カルナさん?」
死にかけていたはずのカルナさんが立ち上がり、クー・フーリンさんの槍を受けて飛ばされていた。
なんで?もう死んでいてもおかしくないはずなのに……
『マスターには……手は出させん』
『うるせぇ死人が、なぜ生きている?心臓、霊核、確かに貫いた筈だ。』
『フ……おかしな事を言うものだ。クー・フーリンよ、お前は……この程度で死ぬのが“英雄”だと思っているのか?』
『テメェ………!!』
そう言って彼は、滅びの運命を歩みながらも果敢にクー・フーリンさんに立ち向かったのだった。
(それに……それにだ、オレにはまだ、果たすべき役目がある!!)
正直なところ、クー・フーリン・オルタとのやりとりにしようか、かなり悩みました。原作におけるぼっちちゃんが自己否定を越える展開はまだされてないのですが、fgoの場合ずっとそのままでいていいのかと悩みました。
なので、もしも越えるならこんな感じと考え、この様な形となりました。そうしないと最終回まで経ってられる説得力がないと感じたので……