ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
虹夏ちゃんとリョウさん、二人は私たち結束バンドの中で一番付き合いが長く、身長差があり、よく喧嘩してよく仲直りするコンビ。
【いい加減にしろー!!】
それはある日、虹夏ちゃんの誕生日をサプライズで祝おうとして私、喜多ちゃん、リョウさんの三人でケーキのためにお金を集めていた。
しかし当たり前ながら、虹夏ちゃんが事情を知るわけもなく、ライブまで一週間前ということもあってだいぶピリついてて遅れたリョウさんに怒っていた。けど、気にすることなく私からお金を借りようとして、ついに本気で怒らせてしまった。
【分かった……ごめん……】
その時、リョウさんはかなり落ち込んでしまってた。その後に、喜多ちゃんがケーキを持ってきて、虹夏ちゃんの誕生日と被ってて前倒しで祝おうとしてたという事情を話した。
日頃の行いの悪さもあったとはいえ、誤解が解けてどうにか仲直りしてくれた。けど……
ふと、その事を思い出して気付いた。虹夏ちゃん、リョウさん、二人とも辛い過去がある。きっと、とても辛くて涙を流したのだろうけど、それでも前に進んで結束バンドを組んだ。
もしも他の道に進んだのが正解だとしても、私はその選択を尊く思った。
私の中でリョウさんの問いかける声は、どこか寂しく悲しそうな顔をしていたと思う。だけど、まずはと気持ちを切り替えて前を向く。槍が婦長さんに迫り、マシュが防ぐ。そしてその隙に婦長さんとラーマくんが左右に分かれ、クー・フーリンさんに迫る。そして剣と拳が振るわれるも、その巨体には似合わない巧みな動きで避け、時には防いだりする。
しかしそれでも果敢にラーマくんが剣を振るうも、それを強引に左腕で止め、そして返しの拳のラッシュが放たれる。
「っ!」
だけど、それはかろうじて届かせない。マシュのスキルによる防壁でラッシュを防ぎ、婦長
さんの貫手が背後から刺さり遂にクー・フーリンさんに流血が流れる。
それでも尾が婦長の腕を縛りつつ、傷を刻む。すかさず婦長さんが尾を掴み、近くの壁面へと投擲した。そして……
「“
「“
ラーマくんが遂に宝具を発動させ、私は同時にギターの弦を叩いた。
事前にラーマくんは言ってた、機会は一度きりだと。
「っあああああ!!!」
クー・フーリンさんの野獣の如き咆哮、ラーマくんが放った円刃を迎撃した。とはいえ渾身の宝具なのだから、相当なパワーが振られているはず。
つまり、隙がある。
「マシュ!!」
そう、私が強化したのはラーマくんではなくマシュ。ラーマくんはこちら側の最高戦力なのだから、一番警戒される。
なら、警戒の薄いマシュで渾身の一撃を叩くのが最適だと、作戦会議で話していたこと。そうだ、例え
それは正しく、狂王が想像し得ない攻撃だった。理に合わない、意表を突く為とはいえ、最も打撃力の低い英霊に勝負を託す。
冷徹な戦闘機械からは導き出せぬ、ただ一つの正答。故に本来生まれ得ぬ間隙が、狂王との間に生まれ……だが、その正しい答えさえも
「………フッ」
噛み砕いてこその、狂王。
即ち、その間隙すら想定内、攻撃に意識を削いだ盾の乙女の腹を朱槍にて穿ち、終わらせる。
「____」
その筈だった、しかし登場として情熱を具現化した紅蓮の輝きを纏う盾の乙女が閃光が煌めく。それは狂王だけの目に映る光、それは強化によって溢れた魔力の影響か、恩人に決死の一合を挑む少女の想いか。
形成される一振りの剣、それは担い手すらも自覚せぬ覚醒。それ故に生まれた、もう一度の間隙。
順々した王と、迷わぬ少女。瞬きほどの差、だが英霊同士の戦いにおいてそれは、致命な一撃となる!!
「ぐっ………!!」
強化されたマシュの攻撃が叩き込まれ、クー・フーリンさんは鈍い音を散らしながら倒れ込んだ。
『霊基の拡散を確認!!霊核に届いたんだ!』
「や、や、やった!」
「ハッ、ハッ……」
ロマンさんのその報告が、私たちの勝利を確信させた。これでリョウさんの想いに応えれたかな?
「………病………病か……」
と思ってたら、その空気を割くようなクー・フーリンさんの呟きが聞こえた。
「見事な一撃だった、別の俺なら讃えるところだが、生憎何も感じん。
なるほど、病と言うならこれは“病”だ。」
「クー・フーリン……!!」
「………」
「これを治すか……お前には無理だ、看護師。」
すると、クー・フーリンさんの前に黄金の結晶、聖杯が現れた。
「足りねえなら、“
(えっ)
冷たい空気が私たちを包む、直後にラーマくんと婦長さんが駆け出す。
「“聖杯よ”“願望を叶える究極の器よ”」
それは、オケアノスでメディアさんが唱えた詠唱とよく似たものだ。
「“顕現せよ”“牢記せよ”“転身せよ”
“これに至るは”“七十二柱の魔神なり___”」
剣と拳がクー・フーリンさんに刺さる、けど彼の口が歪に歪む。
「治せねえよ、この世にはあるんだろう?
“
直後、クー・フーリンさんから爆破と白煙が発生しラーマくんと婦長さんを飛ばした。
そして、それが晴れて現れたのは……
「七十二柱の魔神が一柱ハルファス……否、魔神クリード・コインヘン」
黒い外殻と朱色に伸びた角、そして外殻から覗き込む魔神柱の魔眼。そして本人曰く……クー・フーリンさんだった人は、魔神クリード・コインヘンへと転身しそこに居た。
『クー・フーリンと魔神柱の反応が融合している……あの個体に収まる魔力量じゃないぞ!!』
「莫迦な……!!」
「もう私達に余力なんて……!!」
「はっ………はっ……」
私はもう、言葉を失った。クー・フーリンさんに勝利し、リョウさんの期待に応えることができたと思った。
その直後にこれだ、マシュの言う通り私にも戦う力も気力もない。
(………もう、諦めるしか……)
魔神の瞳がこちらを向いた、容赦なく災禍を齎すだろう。
「“我は全て 毒あるもの害あるものを 絶つ”」
その絶望を祓うべく、ナイチンゲール婦長の凛とした声が私の耳に聞こえた。
「“ナイチンゲール プレッジ”!!!」
発動した婦長さんの宝具、それが放つ淡く心地よい光が、私たちを包んだ。
「傷が!」
「恐怖が…落ち着いていく……」
「……」
その光が私たちの傷、恐怖、そして絶望が薄れていった。
「恐ろしい理不尽、恐ろしい絶望です、この期に及んで。
ですが、それを踏破するために私は此処にいる!」
そして、婦長の優しい瞳が私達に向く。
「皆さん、手伝ってくれますか?」
そう聞かれたら、応えるのは決まっている。
『もちろん!!!』
私達三人の答えは、同じだった。
「___よろしい、では参りましょう“皆さん、ギターヒーロー”
さぁ、救命の時間です!!!」
そうだ、今度こそ私達は勝利するんだ!
三人が顕現した魔神に向けて駆け出す、まず当たったのはラーマくんの剣。直後、婦長の拳が当たる。
しかし効いた様子が無く、黒く巨大な手のひら、そして赤く伸びた角爪が襲い掛かる。
「っ!」
それをマシュが防ぎ、すかさず婦長さんが発砲。しかし被弾前に跳躍し距離を取られる。
更に、魔人の身体にある無数の魔眼が煌めけば、鋭い音の直後に爆炎と火柱が三人を包んだ。
『っ!!』
ロマンさんの悲鳴が通信機越しに聞こえる、けど白煙から少し火傷傷が刻まれたラーマくんと婦長さんが現れる。
マシュが宝具で防ぎ、損傷を抑えたんだ。婦長のトスによる支援でラーマくんが一気に跳び、魔神との距離を一気に詰めた。振り上げる剣、同時に私がギターを弾いて瞬間強化を施す。
「っ!」
振るわれた剣で、魔神の片腕を切り飛ばすことに成功した。直後、すかさず婦長さんの放つ弾丸が魔神に刺さる。
マシュと婦長さんがならび、魔神に向けてラッシュを放つ。再び魔眼が煌めき、発火現象が二人を包む。
「
爆炎が二人を包む前に、私は清姫ちゃんの影を呼び出し、宝具で焼き払った。同時に痛く、鼻から鼻血が垂れる。もうこれが限界、私は誰の影も呼び出すことができない。
しかしその隙でラーマくんが魔神の背後に回り、正面は脅威の去った婦長さんとマシュが迫り、三人の怒涛の攻撃で魔神を包み込んだ。
「
だけど、絶望が再臨する。
切り離された筈の魔神の左片腕が肥大化し、魔神柱の魔眼と朱角が伸びていく。
「
爆炎、朱角が爆発するように暴発し、暗黒の太陽が具現化したように三人を包み込んで血染めに地へ伏せさせた。
私は巻き込まれなかったものの、三人の反動が身体に来て、片膝をついた。
「……もう諦めな」
絶望を齎した魔神がそう呟く。確かにその方がいっそ賢いのかもしれない。けど……瀕死の身体に鞭を打つ。
「令呪を以って………私は誓う……」
無理やり右腕を動かす、視線は血染めの大地に向いたまま。けど、私は残りの二つの令呪を煌めかせて声を張り上げる。
「“私達は負けない”!!!」
その輝きの直後、復帰したラーマくんとマシュがすぐさま魔神へと駆け出した。
「余の名はラーマ!シータの夫、後藤ひとりのセイバーである!!」
そう高らかに言えば手を上空へ
「
それが魔神を地面へと縫い付ける。が、すかさず魔神が片腕を地面に突き刺し、分裂した朱槍が枝のように別れ地面から生えてラーマくんへの迫り来る。
「
それをマシュの仮装宝具が侵攻を防ぐ。
「マシュ・キリエライトは!!この盾は!!貴方には破らせません!!」
そして婦長さんが跳躍し、魔神の首元へ座りしがみつく形になった。そして拳を振るう、振い続ける。
「っ!」
が、魔眼から伸びた朱角が婦長さんの片目を潰した。けど、すかさず引き抜くも再び朱角が婦長さんの両腕を貫いた。
(……聞かせて)
その最中に、リョウさんの声が脳裏から聞こえた。
(どんな答えでもいい、ぼっちの声、聞かせて)
だけど、その傷を癒すべく私はギターの弦を弾こうと痙攣する腕を動かす。
【でもリョウがそこまで結束バンドを思っていたなんてね、素直じゃないじゃん。いっつもどうでもよさそうにしてるのに】
それは未確認ライオネットに向けて活動してる時、不安に押し潰されて自宅に引き篭もって曲作りにリョウさんが苦しんでいた時のことだ。
もしも結果がダメだったら、結束バンドが解散するかも知らないと思い込んでいて、そんなことは無いと虹夏ちゃんが言ってくれた後の会話。
【そうだよ、知らなかったの?】
その時には普段見せない笑顔が咲いて、それは光り輝いて見えていた。
「……私達は、絶望を前には無力……だけど」
もしも彼女が、このクー・フーリンさんの様に心の喜びすら置き去りにして、バンドのためだけの歯車になってたら成功した未来はあるかもしれない。
けど…‥それでも彼女は、別れ、不安、苦しみを味わって、一度挫けても、それでも虹夏ちゃんや喜田ちゃん、そして私……多く人と出会ってあの笑顔を咲かせた。たとえ、それが正解じゃ無いとしても……何度も光に向かって立ち上がる彼女を……
「
あの笑顔が間違ってるなんて、言わせない!!その叫びと共にギターを激しく鳴らし“カラカラ”を奏でる。
その瞬間、リョウさんも一緒に奏でてくれるイメージが脳裏に入る。そして、私の中で…‥違う、きっとリョウさんも同じ言葉を連想したと思う。それは……応急手当(フロー・リペア)改め……
【
群青色の光が、婦長さんを包む。私とリョウさんの音が重なり、今までの応急手当とは何かが違う気がしたが、まだわからない。
(社会に蔓延るあらゆる“
すると、磔になってた婦長さんの顔が上がる。少しずつではあるが傷が癒えていきつつも、片目から血を流し、まだ見えてる眼からは涙を流していた。
(わたしはそれが許せない、だから___!)
けど、頭を大きく振り翳し
(病よ去れ!千度万回死のうとも私は)
轟音と共に魔神の頭蓋に、ヘッドバンドが叩き込まれる。
(諦めるものか!!!)
すると、黒い外角に亀裂が入り、破裂した。同時に婦長さんの銀髪が舞い、倒れ込んだ。それを私は咄嗟に走り、抱き止めた。
「ふ、婦長さん!だ、だい……」
前を見た。すると、外郭が崩壊しクー・フーリンさんの姿が透けていた。つまり、霊基が拡散している。
「な、んで……まだ、決着は……」
「既に霊核は砕かれている、消滅は時間の問題だった。」
そう言われるとそうなのかもしれないけど、本当なのかな?クー・フーリンさんにしては、妙に諦めが良すぎる気がした。
(嘘を吐く、封じたものを思い出した。であればもう邪悪な王ではいられない。
いつ思い出した?コイツらとの戦いでか?それとも、向こうみずで楽器を奏でる事以外無能のはずな小娘が何をするか、一瞬でも待ってしまった時か?
いいや、おそらくはそのずっと前……)
「まったく、帰るならそこも変えておけ。おまえいがいに目を奪われるなんぞ、我慢ならんだろうに。」
そう語る彼に、もはや邪悪な色や口調は感じなかった。どこか懐かしさを感じる。そして、彼の語っている相手が誰か、なんとなく察しはするが追求する気にはなれなかった。
(お前を失って現れた女があまりにも、同じ在り方の遠い同胞があまりにも……)
「……はっ、なら仕方ねぇ」
彼の頬が、穏やかに歪み
「美しいな お前は
血染めの婦長さんに、そう語った。
「愉しめたぜ、シールダー、マスター、ソルジャー、そして、ナース」
その感情は、歯車や機構に徹した存在では決して口に出来ないモノだ。
「クー・フーリンさん……!!」
「お主、そんな顔を……」
「……はいっ!」
困惑するマシュとラーマくん、私はそう呟き頷き返した。
そして、クー・フーリンさんの霊基が光となって散った。
「………ええ、治ったのなら何よりです。
さようなら、クー・フーリン」
そして婦長さんが、病の癒えた彼を慰撫するように微笑みながら手を伸ばし、そう呟いたのだった。
これにて狂王戦、完全決着。しかしリョウをここまで活躍させる気は無かったのですが、気が付いたらこうなってました。我ながら、ここまでヒロインしてくれるとは思わなかったです笑