ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
第四十九話
「マシュ!?」
第六特異点であるキャメロットを修復し、カルデアに戻った直後にマシュが吐血し倒れた。
私と清姫ちゃん、ヘクトールさん、そしてキャメロットから帰還直後、いつの間にかカルデア訪れていたアルジュナさんもその現場に来た。そしてロマンさんが清姫ちゃんとヘクトールさんと共に私を呼び、マシュの状態を説明してくれた。
「帰還した彼女は出血し昏倒。勘違いをしてはいけないが、これは一時的な宝具の覚醒が原因なのではない。」
それは、キャメロットで突如覚醒したマシュの宝具のことを言ってるのだと悟った。それが原因で倒れたのではないと。
「単純に彼女の活動限界が近付いただけ、端的に言えば……マシュはあと一年以内にその命を終える。」
私の視界は確かにある、けどロマンさんのその報告を聞いて闇に包まれたような心地に包まれた。
そこからロマンさんが、私が拉致される前にカルデアがやっていたことの一つを話してくれた。それは、英霊と人間を融合させる“デミ・サーヴァント計画”があったのだと。
だけど、私がこれまで対面したサーヴァントの人達がそうであったように、英霊って良くも悪くも意志の強い人達だ。カルデアの人達もそれはわかっていて、だから歯向かうことのないように命令に従いやすい無垢な人間に融合させようとしたとの事。
そんな無垢な人間を作ろうと何度か実験を繰り返し、唯一成功した存在が“マシュ”だ。
だけど全てがうまくいったわけではない、融合したサーヴァントがカルデアのそうした非道なあり方を許してくれなかった。だから、力を貸すことはなかった。
……胸が痛くなるけど、そこは私もわかってしまう部分がある。
そして、私の手を握ったあの爆破事件。冬木に行き、その果てにデミ・サーヴァントとなった。
だけどマシュも何もかも無事ではなくて、サーヴァントを受け止める器として……詳しいことはわからないけど、とにかく身体の劣化の速度が速い……だから、マシュの生きられることが許された期間はたったの“18年”だった。
「………」
ロマンさんの説明を受けて、私は自分でも痛いと思うほど手を固めていた。だけどその痛みを無視してしまうほど、言葉にできないモノが頭と心で暴れていた。
「………マシュが悲しむのでいたしません」
清姫ちゃんの声が聞こえた。
「いたしませんが……燃やしてしまいそうです……!!
この場所全て貴方もろとも……!!」
あまりに刺々しい言葉だけど、清姫ちゃんがマシュのことをどれだけ想ってくれていたのか伝わった。
それを感じ取り、暴れていた感情が収まると私は気になった点を聞いた。
「…….ロマンさんは、知ってたんですか?」
「知ったのは融合実験の直前、マシュの存在は秘匿されてたからね。」
そう答えてくれた直後、足音が聞こえた。そこにはアルジュナさんがいた。
「失礼、マシュさんが意識を取り戻したそうです。」
「ありがとう、召喚されて早々申し訳ない。マシュを診てくる、これでも主治医だからね。」
そう言ってロマンさんが行こうとした時……
「待ってください、ロマンさん」
私は呼び止めた、もう一つ気になる点があったから。
「その、マシュと融合した英霊って誰なんですか?カルデアは、あ、あれほどまでの事をして誰の力が欲しかったんですか?」
「……“誰か”じゃなくて“数多”だったのさ。
カルデアの全所長“マリスビリー・アニムスフィア”は、人理保障には多くの英霊の力な必要だと考えた。故に望んだのは英霊個人の力ではなく、英霊を“呼び寄せる”場としての機能。
清姫、ヘクトール、アルジュナ。君たちがカルデアに来れたのはその機能の一端と言える。」
「なら、その機能というのを生み出してるのはなんですか?」
「“円卓”さ、アーサー王が作りし英雄達が集う場。
マリスビリーはそれを加工し、マシュに埋め込んだ。」
「アーサー王…なら、マシュが融合したのもその関係者ですか?」
「ああ、円卓の騎士の一人にして、ただ一人
その英霊の名は……“ギャラハッド”」
マシュが目覚めて一日経ち、もう間も無くして次の特異点へ向かう。その間に、せめて何かしてあげたいと私は考えた。すると…
【ひひひ……青春青春、良いねえ若人は】
私以外居ない廊下の物影から声が聞こえた、それはある日突然現れた不思議な“真っ黒なヒト”の声。その声はきっと、私だけにしか聞こえない。何せ、ロマンさんやマシュ、ましてや職員の人達からも、そうした前例を感じさせる話は一切聞いてない。
最初見た時はサーヴァント?と思った。いや、実際そうなんだろうけど本人は“そんなご大層な存在と同じ扱いをしないで良い、どうせ実戦では役に立たないから。俺はあんたらの旅に、大きく関わる必要はないからな。”と言った。だから私もそれを守って特異点で呼び出すことは一回も無い。そして次の場所でも呼び出す予定もなかった。そんな不思議なヒトの声が私の頭に入り込む。
【大切な人に特別な何かをしてあげたい、或いは贈ってあげたい。良いねぇ、実に人間として尊い行為だ。
けど、何をしてあげれば、何を贈ってあげればあの盾の子は喜んでくれるか、思いつかないんだろう、お前さん?】
そうだ、それが問題。私に一体、マシュに対して何がしてあげれるんだろうって。
【そんな難しく考えることはないんだけどねぇ、よぉしそれなら!
この最弱サーヴァントの俺が、偶にはマスターの役に立つために一つヒントをあげよう!】
ヒント?なんだろう、と私は身構える。
【……マシュが喜ぶ、その前提を一旦忘れること。そして、後藤ひとりの出来ることを考えれば良い。】
え、それ贈り物として破綻してない?欲しくもないもの、渡されたところで迷惑じゃ……と思った時だった。
ギターの演奏……思い付いたのはまずそれだった。アリだと思うけど、せめてもっとカタチとして残るものがいいと考えたら。
「あっ」
【思い付いたな?なら、あとは実践あるのみだ。】
私は黒いヒトの言葉を聞き終えれば、マシュの居る部屋へと駆け出した。
「歌を作る……ですか?」
「は、はい!マシュが思いつく言葉や感動を覚えたワードとか、とにかく出してみるって事で。勿論、私も手伝うので……」
心臓バクバク、どうなるかわからない不安がそうさせる。すると、マシュが一気に近付き手を握った。
「是非、是非お願いします!先輩の知ってる知識、技術、是非語ってください!
お時間は一時間、いえ二時間くらいは不可欠ですよね?ではドクターに……」
「あ、あのあのマシュ落ち着いててててて」
と、マシュは目を輝かせて、昨日倒れたとは思えない程の勢いでバタバタとアレコレと準備を始めた。
ロマンさんからは、死んだ目をしつつも次の特異点出発までには終わらせるようにと言われ許可が降りた。マシュはすぐさま紙とペンを用意し、怒涛の勢いでワードをひたすらに書き出していく。
「あ、これ使えそう…」
「そうですか?ならこれは……」
「うん、少しずつイメージが……あ、でもちょっとこれ入れると盛りすぎかと……」
「そうですか……私としては、気に入ってるんですけど……」
「なら2番か、そのあとに……」
と、色々とマシュと話し、相談しつつ歌詞を作り上げていった。そんな時間が、何度も繰り返され……
そして、次の特異点出発の二日前。
「で、出来た……」
歌詞がついに、完成された。私もマシュも、納得の出来だった。マシュは口を抑えながら、目から涙を流してる。
「す、凄いです先輩……私が並べたバラバラなワードを、綺麗な歌詞にして、一曲に作り上げるなんて……」
「そ、そんな……マシュが沢山の言葉を出してくれたからです。私は、それを少し整理し、整えて、歌詞として溶け込ましただけで……だから、マシュが作った曲として、大事にしてあげてください。」
「はい……はい!絶対忘れません!」
涙を払うと、まだポタポタと溢れる。けどマシュは綺麗な笑顔を浮かべ、頷いて答えた。
「なら、あとは作曲ですね……」
「え、作曲って……これから編曲したりするんですか!?時間足りるんですか!?」
「だ、だ、だ大丈夫!カルデアに来る前にも作った経験ありますし、ちょちょいのちょいですよぉ」
「さ、流石です先輩!私、楽しみにしてますね!」
そして……
私の目の前に広がる大地、そこに牙を鳴らす獅子が群れをなして襲い掛かる。
それよりも早く矢が何本か飛び、同時に並走する槍と炎、それらが獅子の身体を穿ち、燃やした。しかし一匹が撃ち漏れて、私へと迫る。けど、私は動じない。
「ッ!」
私の横にいたマシュが飛び出て、盾を振るって獅子を撃破した。
「戦闘終了です、先輩」
「__はい、お疲れ様ですマシュ。あと、皆さんも……」
マシュが倒れて数日後、私とマシュ、そして清姫さんとヘクトールさん、更に新しく現れたアルジュナさんで第七の特異点へとレイシフトし、今に至る。
「北米同様、レイシフトして戦闘ですか。まあ、マスターとはなれなかった分、マシですが。」
ヘクトールさんがいつものヘラッとした顔でそう言った。実際、前回のアメリカではこれで大ピンチとなったのだから、今回はまだマシと言える。
「確か“うるく”という都市に出ると聞いてたのですが……」
「おっしゃるとおり、ですが此処は……」
「はい、めっちゃ荒野ですね……どうなってるんですかロマンさん?」
清姫ちゃんとアルジュナさんの疑問は私も思ってた事で、ひとまずロマンさんに聞いてみることにした。
『うーん、レイシフトに異常はなかったんだけどね……とりあえず周囲の状況が知りたい、あそこの山まで行ってもらえるかい?』
『よーし、山道の間は私が為になる話をしてあげよう!』
「あ、は、はい……ありがとうございます」
ダヴィンチちゃんがノリノリでそう言ってくれて、歩きながら耳を傾けた。覚えられる自信はないけれど…
『君たちがいる時代は、なんと紀元前2600年代!
魔術世界的には“神代”と呼ばれる時代の末期であり、人類史においてはその始まりとされる時代。
勉強が苦手な君でも、聞いた事がある筈だ。人類最古の文明の一つ、その名を。
ペルシア湾と流れる二つの大河、ティグリスとユーフラテス、その間で栄えた文明。
ギリシア語で“河の間”を意味する名、すなわち……メソポタミア文明!』
マシュが最前に立った、そこには荒野、海原、そして輝く朝日の光が出迎えてくれた。
「凄い……!!」
『古代メソポタミア、シュメル初期王朝時代の光景さ、どうかなマシュ?喜んでもらえたかな?』
「はい……!
はい、勿論ですドクター!4000年以上前の世界の光景、それをこの目で……凄いですよ先輩!」
「………」
瞳を輝かせるマシュ、それを見ながら倒れたあの日にロマンさんが言ってたことを思い出す。
【マシュは自分の寿命を知らない、誰も彼女にそのことを話してない。
だから皆も、このことは黙っていてほしい。】
【………】
【そして、これは司令官代理でも彼女の主治医でもなく、一人の人間としての頼みだ。
どうか、今まで通りマシュと接してあげて欲しい。】
だから……
「はい、私も見れてよかったです。とても綺麗ですね……」
私はそう、普段通りを務めてそう答えた。だけど、それ以外にも一抹の不安があった。それは……
(まだ、全然、作曲作業が終わってない!!)
またカルデアに来る前のように、即身仏になる覚悟を持って作曲作業に集中した。けどまるで、完成できる気がないまま特異点出発日になってしまった。
ああどうしよう……マシュの期待に応えれそうにない……ちょちょいのちょいとか言ったのにぃぃぃ!?
「…ところで、ありゃ何ですかね?割と近場にありますが。」
と、ヘクトールさんが不意にそう言ってきた。気を立て直し、ヘクトールさんの視線の先を見ると、そこには建物があった。
『城壁?にしては長大……ていうかティグリス、ユーフラテス両方にかかるほど長いって、あんな構造物史実にはなかったぞ!
なら、まずはあそこに向かおう!この土地で何が起きてるかを知る手掛かりになる!』
私達は頷き、その城壁の方へと向かい始めた。
「見た印象は人工物です……だとした作ったのは、ギルガメッシュ王でしょうか?」
「ギルガメッシュ王、ですか?」
私には聞いたことない名前のため、聞き返してしまった。
『シュメル初期王朝時代において、ウルクという都市国家を治めていた伝説にして実在したとされる半神半人の王さ。』
(半神半人……)
『彼の生涯は人類最古の叙事詩“ギルガメッシュ叙事詩”にて語られる。
神によって生み出されたギルガメッシュは、力のまま暴君として振る舞う。
だが1人の友との出会いが全てを変える、彼の治世は穏やかに、そして2人は多くの冒険、時を過ごす。
しかし、突然に彼は友の命を失う。
その死を嘆き、同時に死というモノを恐れた彼は不死を求めて冥界を下る。
だが最終的には、不死を手に入れることなくウルスに帰り、国を治めながら人生を全うした。』
(……面白くも悲壮感のある話だなぁ)
『おや、勉強苦手なぼっちちゃんにしては興味が出てきた顔だね。
ではもう一つ言うと、君がいるのは“神話の時代(そういうじだい)”で、今までの特異点との明らかな相違点だ。
想像してごらん?ヘラクレスやカルナ、そしてそこにいるアルジュナが生きている時代に来たと。しかも、彼らは生前故にサーヴァントの縛りがない。』
つまり、あれだけ暴れてた人たちが何かしらの縛りなくほぼ自由に暴れれるも同然で……私は血の気が引いた。
「あ、あのあのそれはヤバいのでは!?」
「お恥ずかしい限りです……アメリカでの件は反省しきりですが、それはそれとして生前の私達と同じと言うなら、それは“ヤバい”でしょうね!!」
と、話題に出た本人は大きく表情は変わらないながらも、キラキラと誇らしげにそう語った。
「まあ、そんな王様があんな壁を作っても閉まってない問題だ。どーせ一筋縄では行かないん
でしょうな」
「先程の敵性体も気になります、もしかしたら関係あるのかも……」
「それはそれとしてひとり様?古代でハネムーンとか素敵だと思います!ぺるしあ湾ででぃなぁくるーずとかいかがでしょう?」
と、みんなで色々と話し込んできた時だった。
「愉快な方々ですね」
聞き慣れない声が聞こえ、その直後に遅れて爆音が響いた。
『ぼっちちゃん!!』
「だ………大丈夫です」
幸い即座にマシュが盾で不意打ちを防ぎ、私たちは無傷で済んだ。だけど、攻撃してきた声の主は落ち着いた声を私達に届けてくる。
「できれば神殿までお連れしたかったのですが、こうも人数が多いと難しい。僕を怪しむ人もいるかもしれない……ですので“ここ”で」
声の主を見る、綺麗で美しい緑色の髪、そして紫の瞳。まさに綺麗が体現したような人が、そこにいた。
「えっ、と……サーヴァント、なんでしょうか?」
『違う、彼からサーヴァントの反応は観測できない!なのにこの強大な魔力はなんだ?
人間じゃない、神というわけでも……まさか!?逃げろぼっちちゃん、彼と戦うのは無謀すぎる!!』
急にロマンさんの語感が強まる、緊張感が強まる。
「ど、どういうことですか!?」
『さっき、ギルガメッシュ王には友が居ると話した筈だ!』
確かに、友が居ると話していた。なら、もしかして……
『その友は人間じゃない、神々がギルガメッシュを戒める為に神の粘土で作った人造人間……ギルガメッシュと同等の力を持ち、神々さえも凌ぐ“意思を持つ宝具”彼の名は』
「紹介ありがとう、カルデアのロマニ・アーキマン。」
瞬間、緑髪の人……曰くギルガメッシュ王の友達と思われる人は、その紫の瞳が私達……いや、その先にあるカルデアすら見通しながら言い放ってた。
私、更には間違いなくロマンさんも震えを感じたと思う。
『な……な……?なぜ、僕の名を……』
「“彼”から聞いただけですよ、驚くようなことじゃない。」
その人は淡々と続けている。
「ええ、そのように紹介されたなら、そのように名乗りましょう。
初めましてカルデアの皆さん、そしてさようなら。
僕は旧き人類を滅ぼすものにして、魔術王ソロモンの協力者。
名を……“エルキドゥ”と言います!!」
ギルガメッシュ王の友達、エルキドゥさんはそう叫び何処からか伸ばした鎖を一気に発生させて私達に襲いかかってきたのだった。