ギターヒーロー、人理修復へと旅立つ 作:ヘル・レーベンシュタイン
私達は簡易テントを作り、そして焚き火を囲みながらここまでの経緯をジャンヌさんへと話した。そして、日が沈んだため就寝する事となった。
その途中、砦から立ち去る前の出来事を思い出す。
【ジャネット……ジャネットなんでしょう!?待って、行かないで!もう一度、貴女の顔を___】
(呼んでた名前は違っていたけど、やっぱお母さんだったんだよね……)
その光景を思い出すと、胸が痛む。いつも色々なことで振り回されていたけど、それでも私を支えてくれた優しいお母さん。もう会えないと思うと………
「……グスッ、会いたいよぉ………」
毛布を強く抱き寄せ長そう呟き、夢の中へと沈んでいった。
『二人共、起きてくれ!!』
だけど暫くして、少し眠っていたら突如ロマンさんからの通信の声が聞こえて目が醒めた。
『数km先で巨大な生命反応を確認した!!近くにはラ・シャリテという街がある、向かうにしろ退避するにしろ警戒してくれ!!』
ロマンさんの言葉を聞いて、私の心臓の鼓動が高鳴りを始める。待って、確か兵士さん達が向かった避難先はラ・シャリテだったはず。そしてそこには、ジャンヌさんのお母さんもいるはずで……
「ジャンヌさ……ッ!?」
テントから飛び出て、ジャンヌさんに報告しようとしたら、彼女の顔は真っ青だった。何で急に……
「いえ……それより、何が……」
「あ、あの、ラ・シャリテに……」
「ッ!」
私が言い終わるよりも早く、ジャンヌさんは顔色を変えて立ち上がった。マシュさんも私も、すかさず準備を整えて一緒に駆け出した。
「間に合って……お願い……!!」
ジャンヌさんは険しい顔をしながら、先頭を駆け続ける。そして、目的の場所へ到着すると……
「な、アレ……は?」
ラ・シャリテの上空には夥しい数のワイバーンと、その中心に巨大な黒い竜が居た。
『この巨大な竜は……』
ロマンさんの声を閉ざす様に、その黒い竜の口に真っ黒な炎が溢れ出した。
『口腔部に魔力反応……』
「やめ、やめなさい!」
「駄目です、ジャンヌさん!!」
何をしようとしてるのか、もう語るまでもない。だからこそジャンヌさんは阻止しようと駆け出そうとするが、マシュさんがすかさず静止する。
「やめてぇっ!!」
ジャンヌさんの声は無常にも届かず、黒い竜の口から暗黒の焔の塊が放たれた。それが綺麗な放物線を描き、ラ・シャリテの中心部へと吸い込まれ……
(ジャネッ……)
眩い爆発、冬木で闘ったアーサー王の宝具を遥かに凌駕する大爆発を引き起こし、ラ・シャリテの街並みと、そこに居た人たちを燃やし尽くしたのだった。
それを私達は、ただ茫然と見ていることしかできなかった。
「………母さん……っ」
「あ、ジャ、ジャンヌ……さん」
私の隣で、小刻みに震えながら声を漏らすジャンヌさん。目の前で実のお母さんを殺されたこの人が、今どんな気持ちなのか……例え特異点が解決したら無かったことになったとしても。
そして、私もまた……
(ひとりちゃん…)
お母さんの顔を思い出し、気が付けば奥歯を噛んでいた。
『ぼ……ちゃ……気づいてくれぼっちちゃん!!敵が、すぐそこまで来ている!』
だが、その気持ちもロマンさんの通信で醒めた。しまった、気を取られすぎていた。
「まさか、こんなことが起こるなんて。」
「……」
「なんてちっぽけで哀れなの、ねぇ?もう一人の“私”」
「え……」
だけど、現れたのはワイバーンや黒い竜ではなくて、もう一人のジャンヌさんだった。だけどその姿と表情は対照的で、全体的に黒い姿をしていた。ジャンヌさんの姉妹、と一瞬考えてしまったけど、こちら側のジャンヌさんの表情を見るに明らかに違った。
……だとしても、この人は……
「何、その更にちっさいの。ジルの……」
「な、んで……」
「……はい?」
「なんで、お母さんを殺したんですか!?」
黒いジャンヌさんの独白を遮って、私は心のままに叫んでしまった。許せなかった……どんな関係、どんな事情でも、この人が本当にジャンヌ・ダルクなら自分の母親を殺したことになる。そんなことをしたのに、この人が平然と笑った顔をしていられるのが。
「はぁ、何言ってるのこの子は?」
「……え?」
だけど、この黒いジャンヌさんは心底不思議そうな顔をしていた。
「近くにママでもいたのかしら?なら残念ね、もうママのミルクを飲むことは出来ないわよ。」
「………」
そうヘラヘラと、私を嘲笑う様な口調でそんなことを口から漏らす。だけど私は彼女のそんな態度に怒りではなくて、違和感を覚えた。
だってこの人のこの態度、あまりに他人行儀過ぎる。だけど、それを言葉にすることが私には口にすることが出来ない。
「ふん、急にダンマリしてつまんないわね。まあ良いわ、来なさい私の__
「な…」
黒いジャンヌさんが手を上げながらそう言った直後、私たちの周りに数人の人影が現れた。
明らかな敵意を感じられ、即座にマシュさんは盾を構える。
「新たな敵性体に囲まれました、しかもこの反応…!」
『嘘だろ、そこにいるのは全員サーヴァントだ!逃げるんだ、こんなの敵いっこない!!』
私だって逃げれるなら逃げたい、だけど敵のサーヴァントがあまりに多過ぎる。それは冬木の時とは比較にならないし、最悪なことに周りを陣取られてる。これだと逃げられない。
「何、その顔?もう一人の私も、その小さいのも、なんて顔なの面白すぎ。」
黒いジャンヌさんが、優越感に浸った顔と言葉を晒しながら歩み寄ってくる。その間を、こちら側のジャンヌさんが守るために前に出てきてくれた。
「あまりに滑稽で笑い死んでしまいそう、だからその前に……あなた達を殺さなきゃね。」
そう言い放ち、黒いジャンヌさん達が戦闘態勢に入った。ロマンさん達は、最悪を想定して強制退去の準備もしているのが、通信機からの声で聞こえてくる。
だけど、仮にそれを行おうにも敵側がそれを許してくれるとは思えない。だから、まずは私達でこの危機を乗り越えなければならない。
(だけど、どうすればいいの?戦闘になればまず負けるだろうし、下手にマシュさんやジャンヌさんを動かせば、私が狙われてその時点で全てが終わる。ならせめて、逃げなきゃいけないけどそれすら出来そうにも……ダメだ、考えがまとまらない!私、マシュさんのマスターなのに……何も……ッ!)
「ネズミが粋がったところで、その矮小な脳で何か良い考えでも思いつくのかしら?」
「……」
黒いジャンヌさんの言葉が、私の心に傷を刻む。本当にその通りだから、何も言い返せない。悔しい、あんな偉そうなことを言っておきながら、やっぱり私なんかじゃ……
「貴女は……」
悔しさに潰されそうになってたら、ジャンヌさんの凜とした声が聞こえてくる。
「貴女は本当に、私なのですか?私には何故、貴女がフランスを滅ぼそうとするのかわからない。そんなことも考えつかない!もう一度問います、貴女は本当に“私”なのですか?」
そう問いかけるジャンヌさん、それに対して黒いジャンヌさんは溜息を漏らしながら答えた。
「__呆れた、こんなに鈍いだなんて思いませんでした。
この国は私を裏切り唾を吐いた、だから滅ぼすのです。子供でも分かる、当然の帰結でしょう?人類種という悪しき種を根本から刈り取り、フランスを沈黙する死者の国に作り変える。それが私、新しきジャンヌの救国方法です。
そんなことすらわからない貴女こそ“私”ではない。その残り滓の様な不完全な霊基が、何よりの証拠です。」
「……ッ!」
黒いジャンヌさんのその指摘が、ジャンヌさんの顔を歪ませる。私と同じ様に、痛いところを言われて反論できなかったのかもしれない。だけど……
「さて、問答は終わり。田舎娘とそれに縋るネズミはここで死になさい?」
「二人とも来ます!!」
違和感を拭えないまま、黒いジャンヌさんの手に炎が集まっていく。言うまでなく、戦闘が始まろうとした。なんの対策もできてないまま、迎撃しようとした時に……
「
私達の背後から、絵本に出てくる様な綺麗なガラスの馬車が現れた。まさか、更に敵が追加された……
「マリア、何だい今の掛け声?」
「あら、こう言う時って名乗りをあげるものでしょう?さぁ、行きますわよ皆さん。」
だけどその予想に反して、馬車の中にいる人達はこちらに危害を加える様子はなかった。寧ろ、直後に鳴り響く歌声が、黒いジャンヌさん達を私たちから引き離してる様に見えた。
もしかして、馬車の人達は別のサーヴァント?
「呆けてる場合ではありませんよ。逃げます、乗ってくださいませ。」
考え込んでる私に、馬車の中にいた和装の女の子がそう言ってきた。フランスなのに何故和装の人が?と言う新たな疑問が湧いたが、助けてくれる様子なのでそのまま私達は従うことにした。
「逃げる気……ですって?調子に、乗るな!!」
その怒号と同時に放たれる、黒いジャンヌさんの業火が馬車の背後から迫り来る。だけど幸い届くことはなく、そのまま馬車が猛スピードで駆け出して私達は撤退することができた。
そして、ラ・シャリテからジュラという場所に到着した。赤い服に銀髪の綺麗な女性が、馬車から降りて一呼吸する。
「うーん、気持ちのいい空気ね。」
「あ、あ、あの……助けてくれて、ありがとうございます。そ、それで……皆さんは、もしかして……」
恐る恐るそう問いかけると、今度は金髪の男性が答えてくれた。
「お察しの通り、僕たちはサーヴァントさ。ご覧の通り竜の魔女と敵対していてね。それより、君たちのことだが……」
「ノン、ダメよアマデウス。自己紹介もせずお話しなんて失礼です。」
アマデウスという男性が私達の事を聞こうとすると、さっきの女性が間を割って姿勢を整えて自己紹介を始めた。
「改めて初めまして、御三方。私は“マリー・アントワネット”クラスは“ライダー”です。」
「マジか、真名とクラスも明かすのかい?しょうがない。“ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト”。クラスは“キャスター”」
「“エリザベート・バートリー”クラスはアイド………“ランサー”よ。」
「“清姫”と申します、クラスは“バーサーカー”」
と、馬車に乗っていた人たちが全員私達に向かって自己紹介をしてくれた。き、聞いたことある名前や、聞き慣れない名前が混合して混乱してしまう……あわわ、どうしようどうしよう、ひとまず私からも……
「あ、え、あのえと、ありがとう、ございます……わ、私はカルデアの後藤、ひとり……で……」
あれ、そういえば男性の方はなんか特に聞いたことある様な……確か、モー……ツァル、トッテ………
その瞬間、私の脳内には中学の音楽の教科書に載ってた、神童と呼ばれてたあの人物だった。
「モーオツァルトォォォッッ!?」
「せ、先輩がまた急にシャウトし始めました!?」
「あははは、僕の名前を叫び出したね。もしかして結構ヤバい子?」
「あら、なら貴方とは仲良くなれそうね?」
「そ、そういう問題ですかこれ?」
ヤバいヤバいヤバい!こんなミジンコ未満の私では、視界に入れることすら烏滸がましい音楽界の超人VIPと対面することになるなんて!?何かしないと何かしないと、タダでさえさっき、マスターとしての失態を晒したのに、これ以上無礼を働いたら……
【サーヴァントとの戦闘が下手くそだけでなく、ロックなんて低俗な音楽をしてるだと?僕を舐めるのを大概にしろよ、喰らえ音波攻撃!!】
【ギャアァァァァァ!?】
なんて事になるかも!?どうしよう、こうなったら仕方ない。あまり出したくなかったけど……
私は腹を括り、荷物の中から貯金箱を出した。
「こ、この度は下賎な私めに貴方様からお助けいただき誠にありがとうございました。せ、僭越ながら御礼のお品として、こちらの私の結婚費用としてお母さんが貯めてくれたお金ですが、偉大な音楽家である、モーツァルト様にご利用していただければ……」
「先輩それ本当に渡していいお金なんですか!?」
「おや、そこまで身を挺して御礼してもらえるとはね。では、ありがたく貰おうかな?」
「ノン、だめよアマデウス。これはこの子の将来に備えたお金なんだから奪うなんてダメよ。御礼なんて良いから、どうかその大切なお金をしまってくださいな、カルデアのマスターさん。」
「あ、はい……」
と、マリーさんに貯金箱を戻す様に言われ、私は自然とそれに従ってしまった。なんだろう、この人はお母さんと雰囲気が似てるからか、なんだか自然と従ってしまう。
そういえばこの人も、日本では結構有名な人だった様な……もっと貴族らしく高飛車なイメージだったけど、すごく柔らかい雰囲気がある様な。
「まぁ、和気藹々とした話はこれまでにして、僕達の話を聞いてほしい。この聖杯戦争は、色々とおかしいからね。」
と、雰囲気を一変させてモーツァルトさんが話を切り出した。それに乗じる様に、ロマンさんからの通信も入る。
「確かに、彼がサーヴァントなのはこちらでも確認できたが、それにしたって数が多すぎる。」
言われてみればそうだ、黒いジャンヌさん側が5名、そしてこちらも全員で5名。所長さんの話だと、確か7騎で行うはずなのにオーバーしている。
「その疑問には僕らに仮説があってね、まず聖杯戦争は聖杯を求めて行われてるのに、竜の魔女は既に手にしている。矛盾していることなんだけど、ようやく謎が解けた。僕達はその矛盾を治すために“聖杯”に呼ばれたサーヴァントなんだ。」
「聖杯に、呼ばれた?」
『バカな、そんな事があり得ない。」
「あり得るよ、証拠に僕達にはマスターがいない。」
『ええ!?』
そういえぼ、冬木ではクー・フーリンさん以外のほぼ全員のサーヴァントがアーサー王に倒された事で従ってたんだっけ?
あれもマスターという形で成立していたけど、モーツァルトさん達はそう言った存在がいないんだ。だから本来なら、サーヴァントとしての形が成立しないはずだけど……
「だからこそ、そんな真似ができるのは聖杯だけ……ということさ。君もそうなんじゃないかな?もう一人のジャンヌ・ダルク。」
(あ、そうか……そういえばジャンヌさんも……)
「そう、なのでしょうか?すみません、私にはよくわかりません……」
だけど、ジャンヌさんは険しい顔でそう答えた。まだ、不明な部分が多いのかな?
「……まぁいいや、こっちからの話はこれくらいだ。今度はそちらの話を聞かせてもらおうかな?」
そして、今度はカルデア側の事情を話すこととなった。
「なるほど、フランスだけの問題ではなかったのですね。なら、ますます負けられない戦いです!」
『とはいえ、戦力差は変わらない……』
「そう、なのですか?数なら同じくらいですが……」
「数だけならね、だけど僕やマリアは戦闘に長けたサーヴァントではないし、反面竜の魔女側はどれも戦闘に長けている。加えてワイバーンとそれを従えている巨大な竜もいる、まともに正面からぶつかり合えば、勝算はまず無いね。」
「そ、そんな……」
せっかく味方を得たのに、勝算がないのならどうすれば良いのか?そんな懸念が出た途端、マリーさんが手を上げた、
「なら、仲間を探しましょう!」
「な、仲間ですか?」
「なるほど、マリーさん達が聖杯に呼ばれたのなら、他にもサーヴァントがいるのかもしれない。その方達と合流すれば、戦力差を覆せるかもしれません。」
マシュさんの説明を受けて、私は納得した。確かに、それなら戦力的な不安を拭えるかもしれない。
そう思っていたら、マリーさんがマシュさんの手を優しく掴んで声を張り上げた。
「そういうことですわ、マシュさん!それにマリーさんってとても素敵、これからもそう呼んでくださる?」
「は、はい……」
うぐ…教科書の時点で薄々そう感じてたけど、マリーさんはやはり典型的な陽キャ。その輝きはより私の影を強くする……うう、一曲歌って気分を紛らわせたい。
『とはいえ、油断できないよぼっちちゃん。』
そんな気持ちに溢れてる中、ロマンさんの通信が差し込まれる。
『竜の魔女もそのことは承知なのが予想される、だから彼女にそのサーヴァントが倒される前に確保するんだ。そして十分に戦力が揃った時が決戦だ、オルレアン……引いては聖杯を奪還する。』
「あ……はい」
こうして今後の方針が決まったあと、既に夜になっていた。なのでテントを作り、夜明けまで休憩を取ることとなった。
ジャンヌさん……そして私は一抹の不安を抱えながら。