621先生概念   作:脳を焼かれた一般AC乗り

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またしても2週間近く期間が空いてしまいました。
許してください、ご友人。

銀行強盗の話までの繋ぎまで含めて書いてたら思ったより文量が増えてしまったので、レッドガン迎撃ミッションを思い出しながら読んでください。



そうだ、銀行行こう。

 

 

 

 アビドスに来てから数日が経った。

 最初の二日間こそとても忙しかったが、その後はヘルメット団や便利屋からの襲撃を受けることもなく、平和な日常を送っている。

 校舎の清掃や設備の修理、借金返済の為に不用品を売り払ったりする等、対策委員会の生徒達と穏やかな時間を過ごした。

 定例会議で皆が突飛な案を出した結果、アヤネがちゃぶ台返しの如く机を放り投げ、丸一日口を利いてくれなかったのは傑作だったなと思いつつ、今朝アビドス高校へと足を運んでいた時──。

 

「あ、先生。おはようございます。」

 

"おはよう、アヤネ。"

 

 現在時刻は午前6時55分。始業時間まであと1時間以上はある。こんな朝早くに、どこへ行くつもりだろうか。

 

「今日は利息を返済する日なので、早めに登校して準備をしようと思いまして。」

「それに、今後の計画も見直さなければならないですし……。」

 

"頑張り屋さんだね。"

 

 アヤネがすこし微笑んだ。

 

「あ、そういえば。先日襲撃してきた方々の情報を調べたので、後ほど学校で詳細をご確認いただけますか?」

 

 ゲヘナ学園の──と、アヤネが言いかけた時、横から人影が視界に入り込んだ。

 

「あっ、先生じゃん!おっはよー!」

 

 噂をすればなんとやら、突然私達の間に割り込んできたムツキに、アヤネは困惑している。

 そんなアヤネをよそに、小悪魔的な笑顔を浮かべながら「偶然だね〜」なんて呑気なことをムツキは言い、遂には私に体をくっつけ始めてきた。

 

 そんな彼女の頭に、思わず手を置いてしまった。

 その手を左右にゆっくりと動かしていく。花弁に触れる時のように、寝ている犬を優しく撫でるように。

 

《621、ゆっくり休め。》

 

 無機質で肌寒い空間の中、包帯越しに伝わる感覚と温もり。いつも片手で何かをしていて、残ったもう片方の手で、私が寝付くまで頭を撫でてくれた。

 成程、あなたもこんな気持ちだったんですね。

 

「な、何してるんですか!離れてください!」

「それに先生も!いつまで撫でてるんですか!?」

 

 アヤネが怒鳴りながらムツキを引っぺがす。

 感傷に浸っていた為か、私の手が何度か空を切った。

 

「誰かと思えば、アビドスのメガネっ娘ちゃんじゃーん?おっはよー!前にラーメン屋で会ったよね?」

「その後の襲撃でも会いました!」

 

 先日襲撃してきた際の態度とは打って変わり、馴れ馴れしく振る舞うムツキに対しアヤネはご立腹の様子だ。

 

「だって私達、別にメガネっ娘ちゃん達のことが嫌いなわけじゃないし。」

「ただ、部活で請け負ってる仕事だからさ。仕事以外の時間は仲良くしたっていいじゃん?」

 

 予想外の返答に、アヤネが困惑する。

 傭兵……いや、便利屋というものはその職業柄、昨日は敵でも今日は味方なんてことはザラにある。

 仕事をしていく中で親しい関係となる事も無いことはない。が、ルビコンではそのケースは少なかったと記憶している。

 

"まぁ、そういうこともあるよね。"

 

「お、先生わかってるね。」

「えっ、ええっ!?」

 

 こうした関係に慣れていない為か、ただ一人この状況に納得がいかないアヤネが孤立する。

 彼女が異常なのではなく、こんな特殊な関係をすんなりと受け入れる私達の方がイレギュラーなのだろうが。

 

「今更公私を分けて考えるなんて……。」

「別にいいじゃん。それに"シャーレ"の先生は、あんたたちだけのモンじゃないんでしょ?だよね、先生?」

 

 確かに、私はアビドスだけの先生ではない。

 シャーレの先生、つまり全ての学校の"先生"である(これは事実だが、やはりなんというか、驕りすぎているような感覚がする。)。

 なのでアビドスの先生でもあり、ゲヘナの生徒でもあるのだが、私について争って欲しくはないので仲良くするように二人に伝えた。

 

「あはは、それはムリかなー。こっちも仕事だからね。アルちゃんがモチベ高くてさ、てきとうにやると怒られちゃうから。」

 

 要望はキッパリと断られてしまった。

 

「ま、いつかうちの便利屋に遊びにきてよ、先生。アルちゃんもみんなも、きっと喜ぶからさ。」

 

"うん、いつかきっと。"

 

 ムツキはくるっと後ろを向いて、私達の元から去るため、歩き始めた。

 

 

 

 その時、発砲音と共に彼女目掛けて無数の礫が命中した。

 

 

 

"ムツキ!"

 

 被弾した箇所を抑えつつ、ムツキは弾丸が飛んできたであろう方向を睨みつける。

 

「カタカタヘルメット団……!?」

 

 数日前に壊滅させたはずのカタカタヘルメット団。何故彼女達がここにいるのか、理解ができなかった。

 前哨基地が他にもあったのか、先遣隊と鉢合わせただけなのか、或いは。

 兎に角、今はそんな事を考えている暇はない。

 相手は少人数とはいえ、此方よりも数は多い。特に、私とアヤネは支援役なので、実際に戦えるのはムツキただ一人。

 ここは左右を塀に挟まれた一本道な上、遮蔽となり得るものも体が隠せるかどうかの電柱があるだけで、とても撤退できそうにない。

 

「先生!」

 

 アヤネが私を突き飛ばし、そのまま覆い被さる。

 青空が視界を埋め尽くす中、いくつもの弾頭が通り過ぎていった。

 

『先生、聞こえますか!』

『先生のことは私が守りますから、生徒さん達と逃げてください!』

 

 シッテムの箱からそう告げられる。

 どういう原理なのかは分からないが、成程、確かに"アロナ"は私を守ってくれているらしい。何もない空間に弾が衝突し、軌道が逸れていっている。

 仕組みは違うだろうが、おそらくパルスアーマーのようなものがシッテムの箱を中心として展開されている。

 ということは──。

 

"二人とも!私にくっ付いて!"

 

 アヤネとムツキはこの言葉に目を丸くした。

 奇襲を受け、危機の真っ只中にあるというのに、大の大人が突拍子もない発言をしたのである。

 アヤネは正気を疑うような目を私に向け、ムツキは笑顔で飛び付いてきた。

 

「先生、一体何……を。」

 

 ──やはり、思った通りだ。

 アヤネやムツキの体のすぐ横で、銃弾が全て弾き飛ばされている。

 

「あはは!すごーい!」

 

"とりあえず逃げるよ!"

 

 こうして女子高生二人を自分の体に密着させたまま、その場から逃げることに成功した。

 

 

 

「いやー。危なかったね〜。」

「どうなるかと思いましたが……先生、ありがとうございました。」

 

"二人が無事でよかった。"

 

 なんとか追っ手を振り払い、安全な場所まで避難することができた。アロナには後でケーキでも買ってあげよう。

 ふと腕時計を確認すると、長針が数字の6を指そうかとしている所だった。

 

「も、もうこんな時間……!?」

 

 アヤネもそれに気が付いたようで、私の手を引いて歩き始め、半ば引き摺られるような形でアビドス高校方面へと進んでいった。

 去り際にムツキに手を振って別れを告げると、彼女は屈託のない笑顔で私に手を振り返した。

 

 

 

「……ほんと、危なかった。」

 

 撃たれた後、相手の顔を睨んだ時に、私は見てはいけないものを見てしまった気がする。

 ヘルメットの赤いシールド越しだった上、ちょうど日光が反射するような場所に立っていたから、はっきりとは言い切れない。

 でもやっぱり、私にはアイツらの目が。

 

 紅く光ったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「来月も宜しくお願い致します。」

 

 ジェネレーター……いや、エンジンの音を鳴らしながら、黒塗りの車が走り去っていく。

 カイザーローン──先程走り去った車に描かれていたエンブレムには、そう書いてあった。

 ルビコンには信用がどうとか言って金を返さない人間もいたが、やはり借金は返済すべきものだろう。ただ、年端もいかない少女達がそれを行なっているというのは、私にとっては気に食わない事実だ。

 自分から借金のしたのならいざ知らず、かつての生徒会が残した遺産に縛り付けられ、負う必要のない責任を押し付けられている、その事実が気に入らない。

 ──だが彼女達は、自らそれを"選択"して、たった5人で借金を返済し続けている。

 その"選択"を私が否定していい理由など、どこにもないはずだ。

 

「今月もなんとか乗り切ったねー。」

 

 しかし、"選択"には必ず代償を支払わなければならない。

 利子のみとはいえ、788万円以上の金額を返済した対策委員会の面々の表情は、重く疲弊し切った顔をしている。

 

「……ところで、カイザーローンはなぜ現金しか受け付けないのでしょうね?わざわざ現金輸送車まで手配して……。」

 

 ノノミが疑問を呈した。

 電子決済でも返済は返済なのだから、わざわざ現金に限定する必要など無いはずだ。

 考え事をしながらふと目をやると、現金輸送車が通った道路をシロコがじっと眺めていた。それを見たセリカが「あの車は襲っちゃダメだよ。」と念を押す。

 「わかってる」とシロコは返事をするが、依然として視線は道路の方を向いている。再びセリカから念を押され、ようやくシロコは道路から視線を外した。

 

「とにかく教室に戻ろっか。」

 

 ホシノの一言で、私達は対策委員会の部屋へと戻った。

 

 

 

「全員揃ったようなので始めます。」

 

 対策委員会の定例会議が始まった。

 今回はアヤネの表情が普段よりも硬いので、いつもの会議よりも真面目な話し合いが行われるのだろうということを、その他の面々は悟った。

 

「まずは2つの事案についてお話ししたいと思います。」

 

「最初に、先日の襲撃の件です。」

「私達を襲ったのは【便利屋68】という部活で、ゲヘナではかなり危険で素行の悪い生徒達として知られているそうです。」

「現在はアビドスのどこかのエリアに入り込んでいるようで、今後は時々鉢合わせることになるかもしれません。今朝も会いましたし……。」

 

 「次はとっ捕まえて取り調べでもするか」、とホシノが言う。いつもの軽い口調ではあるものの、その発言の内容は物騒なものだ。

 

「……続きまして、アビドスに度々襲撃を行い、セリカちゃんを攫おうとし、今朝も奇襲を仕掛けてきたヘルメット団の黒幕についてです。」

「ええっ、今朝もですか!?」

 

 ノノミを始め、皆が心配そうな目でアヤネを見る。

 私のおかげで助かったとアヤネは言ったが、正直、その言葉は私ではなく"アロナ"に向けられるべき言葉のはずだろう。

 今朝の件の話が長引きそうになり本題から逸れそうになったのを、アヤネが咳払いをして修正した。

 

「先日の戦闘で手に入れたヘルメット団の戦車の破片を調査した結果、現在は取引されていない型番だということが判明しました。」

 

 取引されていない。つまり、もう生産されていないということだ。

 当然、そんな代物をどうやって入手したのかという話になる。

 

「生産が中止された型番を手に入れる方法は、キヴォトスでは【ブラックマーケット】しかありません。」

 

 ブラックマーケット──何かしらの理由で学校を辞めた生徒達が集団を形成し、連邦生徒会の手の及ばない範囲で様々な非認可の部活動が活動している、キヴォトス内でも非常に危険なエリアだ。

 昔聞いた話だと、ブラックマーケットに入り込んだある学園の生徒が不良生徒たちに集団リンチに会い、最後はピラニアや人喰い蟹や黒豹が跋扈する川に投げ込まれたという噂がある。

 

「また、先程お話しした便利屋68もブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしていると聞きました。」

「では、そこが重要ポイントですね!」

 

 【カタカタヘルメット団】、【便利屋68】、一見関連性のない二つの集団からの襲撃。その二つが、【ブラックマーケット】という一つの場所で結びついた。

 アビドスを中心として渦巻く数々の陰謀を感じながら、ホシノの呼びかけの後、私達はアビドスを出てブラックマーケットへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここがブラックマーケット……。」

 

 ごくりと固唾を飲み込み、セリカは言った。

 いくら大規模の場所とはいえ、所詮はならず者達の溜まり場だと思っていた。しかし実際には、並の学園の自治区かそれ以上に発展しており、対策委員会の皆は驚きつつも悔しそうな表情をしていた。

 

「ん、小さな市場を想像していたけど、街ひとつぐらいの規模だなんて思わなかった。」

「うへ〜、普段私達はアビドスにばっかりいるからねー。学区外は変な場所が多いんだよー。」

 

 知ったような口ぶりのホシノに、以前ここに来たことがあるのかとシロコが問う。

 

「いんやー、私も初めてだねー。」

「でも他の学区にはへんちくりんなものが沢山あるんだってさ〜。」

「ちょーデカい水族館もあるんだって。アクアリウムっていうの!」

 

 ──初めて、ホシノの年相応にはしゃぐ姿を見た。

 私を問い詰めた時の鬼気迫る様子とも、普段ののんびりとした様子とも違う。自分の好きな物に無邪気に興奮してしまい、自然と笑みが溢れてしまうような、そんな様子だ。

 ほんの僅かな瞬間だったが、あの素敵な笑顔がまた見られるように、彼女を守りたいと思った。

 

「今度行ってみたいなー。うへ、お魚……お刺身……。」

 

"いつかきっと、みんなで行こう。"

 

 その時、近くから銃声が鳴った。

 音が来た方向を見ると、遠くからこちらへと走ってくる生徒と、それを追いかける複数人の不良の姿が目に入った。

 

『あれ……あの制服は……。』

 

"アヤネ、何か知ってるの?"

 

『はい、あの制服は確か』

「わわわっ!そこどいてくださいー!!」

 

 走っていた生徒がシロコに衝突する。が、しかしシロコはそれを受け止めた。

 

「大丈夫?」

「ご、ごめんなさい!」

 

 そこへ、生徒を追いかけていた不良達が割り込んでくる。

 

「何だお前らは、どっか行け!アタシ達はそこのトリニティの奴に用事がある。」

『やっぱり、トリニティ総合学園の制服でしたか。』

「キヴォトスのマンモス校の中でも由緒あるお嬢様方が挙って通うトリニティ。このキヴォトスで、最も金を持っているのはそこだ。」

「だ・か・ら、拉致って身代金をた〜んまりと頂いちゃおうってわけなのさ!」

 

 なかなかいい考えだろうと、笑みを浮かべる不良達。年頃の女子が、何の罪悪感もなしに悪事を働こうとしている。

 やはりブラックマーケットというだけあって、気性の荒い生徒が多いようだ。

 

「どうだ、お前らも興味が湧いて来たか?計画に乗せてやってもいいぞ、身代金の分け前は……。」

 

 不良達が何かを言いかける前に、シロコとノノミが彼女達に近づく。

 そしてそのままシロコは銃床で頭を殴りつけ、ノノミはガトリングの銃口を思いっきり相手の腹に叩き込んだ。

 シロコはともかく、複雑な機構のガトリングで直接相手を殴って壊れはしないのだろうかという疑問が湧いた。

 

「悪人は懲らしめないとです☆」

「うん。」

 

 突然の出来事に、追われていた生徒は状況を飲み込めず困惑している。

 が、その原因であるシロコとノノミはやり遂げた顔をし、二人揃ってガッツポーズを決めている。

 

『先輩達、何やってるんですか!?』

 

 アヤネのツッコミにより、二人のおふざけは終わりを迎えた。

 

「え、えっと……ありがとうございました。皆さんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……。」

 

 学園に内密で抜け出してきたらしい少女は、阿慈谷ヒフミと名乗った。トリニティ総合学園所属の2年生だそうだが、何故お嬢様学校とまで言われるような学園の生徒が、このような危険な場所にいるのだろうか。

 同様の質問をホシノが投げかける。

 

「えっと、ヒフミちゃんだっけ?どうしてトリニティのお嬢様がこんなところに来てるのかな?」

 

 するとヒフミは少し恥ずかしそうな様子で答えた。

 

「あはは……実は、探し物がありまして……。」

「もう販売されていないものなので買うこともできない物なのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて……。」

「もしかして……戦車?」

 

 シロコに続き、ホシノとノノミが物騒な名称を口に出す。

 ブラックマーケットで取引されている物品であるから、それらが候補として上がるのはおかしくはない。のだが、ヒフミの探し物とそれらは大きくかけ離れた物であったようで、驚いた様子でそれらを否定した。

 

 「えっとですね……探しているものはペロロ様の限定グッズなんです。」

 

 聞き慣れない単語に疑問が浮かんだ。

 それはシロコ達も例外ではなかったようで、ペロロ様とは何かをヒフミに尋ねた。

 するとヒフミはバッグの中から何かを取り出して、笑顔で話し始めた。

 

「はい!これです!ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」

 

 その瞬間、この場に強烈な雷が落ちたような衝撃が走った。

 デフォルメされた白い鳥の口にチョコミントアイスが突っ込まれたそのぬいぐるみは、見る者が見れば不快感を呈してもおかしくはないような物だった。

 言い方はアレだが、正直言ってアイスを強引に突っ込まれて窒息死した鳥の死体にしか見えない。

 

「限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ。」

 

 ぬいぐるみを大切そうに両手に抱えながら、可愛いでしょう?とヒフミは同意を求めてくる。

 これを可愛いと思える感性が、残念ながら私にはなかった。

 

"う、うん……そうだね……?"

 

 微妙な空気が流れる。

 

「わあ☆モモフレンズですね!私も大好きです!」

 

 その気まずい静寂をノノミが破った。

 その後しばらく二人でモモフレンズについて話し合っていたが、全く話がわからない私達は蚊帳の外からそれを見物するしかなかった。

 

「……というわけでグッズを買いに来たのですが、先程の人達に絡まれて……。皆さんがいなかったら今頃どうなっていたことやら。」

「ところで、アビドスの皆さんは何故こちらに?」

「私達も似たようなもんだよ。探し物があるんだー。」

 

 その会話にアヤネからの通信が割り込んだ。

 

『皆さん大変です!四方八方から武装した人達が向かってきています!』

 

 話に夢中で忘れていたが、先ほどシロコとノノミが気絶させたはずの不良の姿がない。

 ……仲間を呼ばれたか。

 

「あいつらだ!!」

「ようもやってくれたのう!?首ば置いてけ!」

 

 一向に手掛かりを探すことすらできない状況にもどかしさを感じつつも、皆が戦闘体制に入った。

 

……結果だけ述べるなら、常日頃からこういったチンピラを相手にしていた対策委員会の前に、不良達は無力であったということだ。

 

「待ってくれ!降参だ!」

「アタシは仲間が言った通りにやっただけだ!もう負けでいい!戦う意味もない!」

「ノーカウントだ、ノーカウント!」

「ん、今更遅い。」

 

 シロコが不良の額に銃口を突きつけ、引き金を引こうとした時。

 

「ま、待ってください!それ以上戦っちゃダメです!」

「ブラックマーケットを管理している治安機関に見つかってしまいます!」

 

 治安機関まで存在しているとは知らなかった。

 様々な不法者が集う場所で、そこを管理する治安機関が存在する。最早ここは第二のルビコンと言っても過言ではないだろう。

 それにしても、そんな情報を知っているとは、ヒフミはよほど周到に準備をしてここに来たのだろう。

 

「なるほど……ここはヒフミちゃんの方が詳しいだろうから、従おう。」

 

 ホシノの判断に従い、ヒフミについて行くことにし、私達は裏路地などを使いその場から離れた。

 去り際にシロコが発砲し、その弾が命中した不良が絶叫を上げたのを聞き、何かデジャヴのようなものを感じた。

 

 

 

「……ここまで来れば大丈夫でしょう。」

 

 ヒフミに連れられ、騒動を起こした場所からかなりの距離を歩いた。

 やたら曲がりくねった場所を選びながら逃げた為、治安機関の追手が来ることはないだろう。慣れたような足取りでヒフミは迷う事なく逃走経路を素早く移動するので、私達はそれに追随するので精一杯だった。

 

「ん、ここを危険な場所だって認識してるんだね。」

「と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所のひとつですから……。」

「ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと……。」

「それに様々な【企業】が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。」

 

 やはりどこに行っても、企業というものはそう変わらないものらしい。

 利益の為ならば辺境の場所にさえ赴き、搾れるだけ搾り取ろうとする。その為の犠牲を、必要なものだと云う。そして、その犠牲によって取れた甘い蜜を、なんの危険もない安全圏からストローを伸ばして吸い続ける。

 企業というものはつくづく私を苛立たせる。

 

「それだけじゃありません。ここ専用の金融機関や、さっきも言った治安機関なども、ここにはあるほどですから……。」

「銀行や警察があるってこと……!?それってもちろん、認可されていない違法な団体よね!?」

 

"そういうこともあるものだよ。"

 

 想像と現実のスケールの差に、対策委員会の面々は圧倒される。

 

「中でも特に治安機関は、とにかく避けるのが一番です。騒ぎを起こしたりでもすれば、まずは身を潜めるべきです……。」

 

 治安機関に喧嘩を売るほど面倒な事はない。

 かつて惑星封鎖機構に目をつけられた際も、企業勢力以上の量と質で何度も苦戦を強いられる事になった。

 彼女の判断は正しい、そんなことを考えていると、何やら生徒達の会話が弾んでいるのが聞こえた。

 

「なるほど、誘拐だね。」

 

"!?"

 

「はいっ!?」

「誘拐じゃなくて、案内をお願いしたいだけでしょ?もちろんヒフミさんがよければ、だけど。」

 

 物騒な単語が聞こえて驚いたが、どうやらここの事に詳しいヒフミを案内役として手がかりを探そうという話だったようだ。

 ヒフミは心配しつつも、案内することを承諾してくれた。

 

「よーし、じゃあちょっとだけ同行頼むね〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 明かりの一つもない暗闇の中で、受話器の置かれる音が響く。

 受話器を置いた大柄な機械の男は、表情変化に乏しい顔で、不満そうな気持ちを表現している。

 

「やつらのデータ自体は正確な物だったはず。」

 

 独り言を何度も呟き、自らの仮説と実際の結果の差に疑問符を浮かべる。

 

「……お困りのようですね。」

 

 そこへ、黒のスーツを着た男が寄って話しかけた。

 男は青白い炎の様な、銀河系の様な顔面で、口角の上がったその口は笑っているように見える。

 

「……いや、困ってはいない。ただ、計算に少しエラーが生じただけだ。」

「アビドスの連中が、データより遥かに強かった、ただそれだけのこと。」

「……データに不備はありませんよ。」

 

 自分のミスではないことを告げ、スーツの男は続けて言う。

 

「これは単に、アビドスの生徒がさらに強くなった、と解釈すべきかと。」

「それは一体……何を意味する?」

 

 疑問に満ちた顔で自分を見てくる機械の男に、スーツの男はネクタイを触りながら、眼の炎をゆらっと動かす。

 

「アビドスにどのような変化要因があったのか、確認してみましょう。」

 

 それだけ言うと、スーツの男は別れの挨拶を端的に済ませ、その部屋を後にする。

 

 

 

「アビドスに例の物が来ていないといいのですが……。」

 

 男は不気味な笑い声をあげながら、暗い道の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「おいしい!」

 

 セリカが美味しそうにたい焼きを頬張る。

 それに続き、皆もたい焼きを食べ始めた。

 たい焼きというものは知ってはいたものの、実際に食べた事はない。だからどう食べればいいか分からず、私は腹の方に齧り付いた。

 

「あれ、先生はお腹から食べるんですか?珍しいですね。」

 

"そうなの?"

 

「普通は頭からでしょ!頭を良くしたいし!」

「私は尻尾。自転車をもっと速く漕ぎたいから。」

 

 珍しいと言われ、自分のたい焼きと彼女達のそれを見比べる。確かに、腹から食べているのは私ただ一人だった。

 

"食べ始める箇所に、何か意味でもあるの?"

 

「うへ、先生知らないの?」

「頭から食べると頭が良くなる。尻尾からだと、足が速くなる。胴から食べると体が丈夫になる、って意味があるんだよ〜。」

 

 ホシノの雑学は一般常識のような物らしく、キヴォトスに来てある程度常識は身につけたつもりになっていた自分にとって為になるものとなった。

 

 

 

「それにしても、ここまで情報がないなんてあり得ません……妙ですね。」

「お探しの戦車の情報、必ずあるはずなのに……販売ルートに保管記録、それすら見つからないなんて。」

「誰かが意図的に隠しているとしか思えません。」

 

 やはりそう簡単に手掛かりを掴ませてはくれないらしい。

 ヒフミによると、ブラックマーケットを牛耳る企業でもここまで徹底して統制する事は不可能だという。

 そして、ここは不法者が集う場所。わざわざ商売を隠したりする必要はない。

 

「あそこにビルがありますよね。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です。」

「ブラックマーケットで最も大きな銀行の一つで、聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているんだとか……。」

 

"そしてそれによって得た金で、また犯罪が発生する。"

 

「そうです。その悪循環がここでは続いているのです。」

 

 あまりに腐敗しきったこの場所に、皆が口々に物を言う。

 正義感の強い彼女達だからこそ、アビドスの外に於いても悪事を許す事はできないのだろう。

 

『お取り込み中失礼します!そちらに武装した集団が接近中!』

 

 そこにアヤネからの通信が入る。

 遠くの方で車の音が聞こえ、見るとそれこそが彼女の言う武装集団であった。

 

「あれは……マーケットガードです!」

「ここの治安機関の中でも最上位の組織です!今すぐ隠れましょう!」

 

 すぐ近くにあった物陰に全員で飛び込み、その車の行方を目で追う。

 何両かの現金輸送車が走っている、その中に一両だけ見覚えのある車が見えた。

 

「闇銀行に入りましたね?」

 

"アロナ、拡大できる?"

 

『任せてください!』

 

 シッテムの箱を車の方に向け、様子を確認する。

 先程の見覚えのある車に注視し続けていると、その車のドアが開いた。

 

"やっぱり、今朝の銀行員か……。"

 

 何故ただの銀行の現金輸送車が、このブラックマーケットに入る必要があるのか。

 意外な穴から出ている紐、それこそが、私達の仕留めるべき鼠の尻尾だったのだ。

 

「……先生、さっき誰に話しかけてたの?」

 

"え?"

 

 不意にシロコから声をかけられる。

 

"誰って……このタブレットの中の子に……。"

 

「何も映ってない。」

 

 そんなはずはない。

 今現在進行形で私は画面を見ている。その画面の向こうには、アロナがいる。

 しかし画面の先のアロナは、気まずそうな顔をしている。

 まさか、アロナは私だけが知覚できる存在なのか?

 

「……先生?」

 

"えっ?あ、あぁ。いや、アロナっていうのはこのタブレットのAIでね、話しかけると反応してくれるんだ……はは。"

 

「ん……そう。」

 

 少し冷たい目で見られたような気がする。

 まさか、アロナを生徒が知覚できないとは思わなかった。咄嗟の嘘で誤魔化したが、今後は使用する場合を考えることにしよう。

 

『あの車って……カイザーローンの車じゃないですか!?』

「か、カイザーローン!?」

 

 ヒフミが驚いた様子で声を出した。

 

「カイザーローンといえば、かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者じゃないですか……。」

「有名……何かまずい所なの?」

 

"カイザーはキヴォトス内でも有数の大企業。そんな企業が、黒幕に絡んでいるってことだよ。"

 

「カイザーグループ自体は犯罪を起こしてはいないのですが、合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振る舞っている多角企業でして……。」

「トリニティでは生徒への悪影響を考慮して、【ティーパーティー】でも目を光らせています。」

「……あのトリニティの生徒会が、ねぇ。」

 

 キヴォトスに先生として赴任した際に会ったハスミから、ティーパーティーについては聞いている。トリニティ総合学園を治める生徒会で、現在はゲヘナとのエデン条約締結に向けて活動している。

 長年憎み合っていた両校の和平条約ともいえるエデン条約を、企業によって邪魔されたくはないのだろう。

 

「ところで、みなさんの借金とはもしかして……アビドスはカイザーローンから融資を?」

「借りたのは私達じゃないんですけどね……。」

「話すと長くなっちゃうから、また後で。アヤネちゃん、さっきの車の走行ルート調べられる?」

『先程から調べているのですが……ダメですね。全てのデータをオフラインで管理しています。全然ヒットしません。』

 

 だろうね、とホシノは呟く。

 わざわざ現金で返済させていたのは、徹底的に証拠を残さない為。

 このやり口は私達の探す手掛かりについても同様だ。絶対に証拠を掴ませないようにしている。

 

「私達ずっと、犯罪組織に資金を提供してたって事……?」

 

 皆の間に、僅かな沈黙が流れる。

 今まで汗水垂らして稼いだ金が、全て悪事に使用されていた。これ以上に彼女達の努力を否定する事実は存在し得ないだろう。

 

『ま、まだハッキリとは言えません。証拠も揃っていないですし……。』

「証拠……あ!さっきサインしてた集金確認の書類、それを見れば証拠になりませんか?」

「ナイスアイデアだね〜ヒフミちゃん。」

「でも考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし……無理ですね。」

 

"いや、一つだけ方法がある。"

 

「え?」

「うん、他に方法はない。」

 

 シロコが皆に目を配らせる。皆が縦に頷く。

 ただ一人状況を理解できていないヒフミは混乱に陥る。

 そして、皆がバッグの中から【ある物】を取り出す。

 

「えっ、ええっ?」

 

 

 

「ん、銀行を襲う。」

 

 

 

「はっ、はいいいい!?」

 

 突如として覆面を被り始めた対策委員会に、ヒフミがさらに困惑する。

 

「ヒフミちゃんの分の覆面はないからこれで勘弁してね。」

「ちょちょちょっと待ってください!待って!待ってください!」

 

 あうぅ、と声を漏らしながら、ヒフミの頭に先程までたい焼きが入っていた紙袋が被せられる。

 穴を二つ指でぶち抜き、額に当たる部分にデカデカと5という数字がマジックで書かれた即席覆面。

 こんな物で、大丈夫なのか。

 

「先生、例のセリフを。」

 

"銀行を襲うよ!"

 

 ──こうして、対策委員会+αは闇銀行の中へと突入していった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「無理なものは無理で

 

ドガァーン!!

 

 銀行員が融資の不可を陸八魔に伝えようとしたその刹那、ジゴクめいた爆音が店内に響き渡り、全ての電気が消灯した!

 そしてさらに、暗闇の中から無数の銃声と共に鉛玉がセキュリティガードに直撃!

 

「アバーッ!」

「ナムサン!」

「なっ何が起きて……おあーっ!?」

 

 全てのガードが撃破された時、ようやく部屋の電気が回復した。

 そして姿を現したのは、覆面と紙袋を被った5人の怪しげな人物達であった。

 

「全員その場に伏せなさい!武器は地面に捨てて!」

「言うこと聞かないと痛い目に遭いますよ☆」

「あはは……みなさん、ケガしちゃいけないので……伏せててくださいね。」

 

 突然銀行強盗に巻き込まれた陸八魔アル。

 あまりの出来事に理解が追いつかなくなった彼女は、喉元まで出てきた言葉を抑える事はできなかった。

 

 

 

なっ、なんですってー!!!???

 

 

 

 これ、本当に大丈夫なのか。

 

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございます。

前回銀行強盗するって言ったのに最後の方にちょろっとだけしかやってなくてすいません。我々の計画が……。

次回は今度こそ銀行強盗ガッツリやります。
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