ここからはプロローグ編です。
楽しんでいただけるのなら……素敵だ。
New Era
「……私のミスでした。」
声が聞こえる。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。」
どこか聞き覚えのある──思い出せない。
誰だ、この声は。何だこの記憶は。あなたは一体誰なんだ。
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……。」
何の話だ。何もわからないのに、どこかでは理解している自分がいる。何だこの感覚は、一体。
「……今更図々しいですが、お願いします。」
「──さん。」
「いえ、これからは"先生"でしたね。」
「きっと私のことを思い出すことはもうないでしょうが、それでいいんです。」
「何も思い出せなくても、おそらくあなたなら、正しい道を選択されるでしょうから。」
「ですから……大事なのは経験ではなく、選択。」
「あなたにしかできない選択の数々。」
「責任を負うものについて、話したことがありましたね。」
「今でさえ、あなたの重責を完全に理解することはできませんが……」
「全てをその手で焼いてしまった、あなたの責任と重罪。」
「しかしそれでもあなたは選択を取り続けた。」
「自由を求めて羽ばたき続ける、あなたの意志。」
「……。」
「ですから、先生。」
「私が信じられる人である、あなたなら。」
「この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。」
「そこへ繋がる道を、あなたは切り拓いていけるはずです。」
「だから……あれ、──さん?」
「もしかして……泣いてますか。」
言われて、意識が呼び戻される。私は強化人間。ACを操縦する為の機能以外が排除された、機械のパーツとも言える存在。そんな私の頬を、次々と雫が垂れていく。
「雰囲気が壊れちゃったじゃないですか。もう。」
「これから生徒たちを導く人が、こんな調子でどうするんですか。」
弱々しいが、しかし目が眩むほどに眩い笑顔で、こちらの頬をハンカチで拭いてくる。丁寧に、丁寧に。どこか懐かしい、まるで"あの人"のような手付きで──。
「……ごめんなさい。」
「あなたの大切な人をまた一人奪ってしまって。」
「それに、再びあなたに使命を負わせてしまったことも……。」
"それは私が選んだことだから。"
誰の言葉だ。これは──自分?
口を開いたつもりはない。声を出したつもりも。
呻き声を上げる程度しかできない私が、こんなにはっきりと言葉を。
"気負わなくていいよ。"
"それに君だって、生徒の一人じゃないか。"
"今まで世話になっておいて厚かましいのはわかってるけど、君は私の生徒第1号だ。"
"だから、あとのことは私に任せて。"
"ここから先の責任は、私が負うから。"
すらすらと言葉が口から出てくる。
同時に、頬を垂れていた涙も止まった。
「……。」
「…………。」
「………………。」
「わかりました。先生。」
「では先生、これは私からの依頼です。」
「どうか……」
待ってくれ、もしかして君は──。
そこで、画面は暗転した。何か重要なことを思い出しかけた刹那、電源が抜かれたように一瞬で。
そして私は再び、あの暗闇に囚われている。
孤独で、誰の存在も認識できない、ともすれば自分の存在さえも知覚できなくなるような、果てしなく長い虚無。
空間と一体化してしまう。
感情も思考も、消えてなくなってしまう。
強化人間未満の、植物人間に等しい存在へと成り変わってしまう。
強烈な不快感と恐怖が私を襲っているが、それすらも消えゆく余燼に過ぎない。
嫌だ。
誰か、助けてくれ。
「……い」
全身が反応したのがわかる。
幻聴、聞き間違いなどでなければ、私は今話しかけられている。
「……ください」
間違いない、私は誰かに接触されている。
もう孤独の空間に取り残されなくていいのだ。
メシアの声のする方へ手を伸ばす。
腰を上げ、足を動かす。
もう私は、ただの脳を焼かれた独立傭兵ではない。
私は──。
「先生!!!!!」
覚醒した私を出迎えたのは、見慣れぬ天井と、見慣れぬ少女。眼前の少女の頭上には、リングのようなものが浮いている。そうか、ここが天国か。
"ここは……天国?"
「とぼけないでください、先生。」
徐々に脳が動き始める。ああそうだ、"この星"の住人は皆こうだったな。寝起きはこれだからいけない。
"あはは、ごめんごめん。寝ぼけてたみたい。"
「……全く、心配させないでください。」
「少々待っていてくださいとは言いましたが、お疲れのようですね。」
「なかなか起きない上に……その。」
言いづらそうに口を何度か開かせたあと、一呼吸置いて私に告げる。
「涙を、流されていたようですから……。」
"え、ほんと?"
頬に手を当てる……までもなく、視界がぼやけていることから、相当涙を垂れ流していたのだろうと推測する。視界のぼやけは寝起きだからだと思っていたのだが。
"見苦しいとこ見せちゃったかな。"
「……悪夢でも見られていたようですね。起き抜けに申し訳ありませんが、目を覚まして集中していただけると助かります。」
"ごめんね。"
「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします。」
「私は七神リンと申します、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。」
"よろしくね、リンちゃん。"
「誰がリンちゃんですか!」
「……話を戻します。」
「あなたは私たちがここに呼び出した先生……ですね?」
"うん、そうだよ。"
「確認が取れてよかったです。」
「先生がここに来た経緯を詳しくは知らないのですが……とりあえず、今は私についてきてください。」
「学園都市の命運がかかった重要な仕事を、先生にはやって頂かなくてはいけませんから。」
そうして私は、案内されるがままに歩みを進めた。ザイレムで見たような巨大な建築物が建ち並ぶ都市。あの時は何も感じなかったが、今はこの景色が美しいと感じる。
青い空、陽光に照らされるビル群、その一つ一つの中で行われる、人々の営み。
「キヴォトスへようこそ。先生。」
今日、私は"先生"として第二の人生を歩み始める。
「ご存知だとは思いますが、キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。」
"そして、これからの私の職場でもあるってことだね。"
「そういうことです。」
「きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っているとは思いますが、もう慣れていらっしゃるようなので、心配しなくてもいいでしょう。」
「それに、あの連邦生徒会長がお選びになった方ですから。」
"連邦生徒会長"
その単語を聞いた時、頭に痛みが走るのを感じた。その痛みはかつて経験したことのある……いや、それとは少し違う痛みだ。だがどうして頭痛が──
「先生?大丈夫ですか。」
"え?ああ、うん。大丈夫だよ。"
「ひょっとして今日は体調が優れないのですか?」
"寝起きはちょっと体の調子が整わないだけだから、全然大丈夫。"
そうこうしているとエレベーターの、チン、という音で目的の階に到着したことが知らされる。
ゆっくりとドアが開き、その先へ進もうとすると、何やら騒がしい様子であるのがわかった。
「誰か来た……あ!」
「ちょっと待って!代行!待ってたわよ!」
私たちを出迎えたのは、長身で黒髪、白髪に赤い目、手触りが良さそうなもふもふ桜色の髪、そして青紫髪の……いや髪しか見てないな、私。
どうやら全員、リンがここに来るのを待っていたようだ。
「……うん?隣の大人の方は?」
だから、見知らぬ私がなぜ彼女と一緒にいるのか疑問を持っている。まぁ、当然だろう。
急いでいないわけではないが、彼女たちを置いていくのも忍びないので、ここで待っているから話をつけてきていいよ、と伝えようと思いリンの方を見ると、すごく面倒臭そうに溜息をつくリンがいた。
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。」
言葉の節々に棘がある。かつてルビコンで出会った、どこぞのヴェスパー第二隊長みたいだ。
「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。」
前言撤回。言い切らないあたりスネイルよりはまだマシだった。
「今、学園都市に起きてる混乱の責任を問うために……でしょう?」
「そこまで分かってるならなんとかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!」
リンもそうだが、この青紫髪の少女も相当頭に来ているようだ。
「数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました。」
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています。」
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000ば……%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」
まるでこの世の終わりのような現状に、頭が痛くなってきた。ルビコンも褒められたような治安ではなかったが、現状のキヴォトスの治安はそれと大差ないように思える。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」
……またしても、頭痛が走る。"連邦生徒会長"というワードを聞くたび、脳を刺すような、締め付けるような痛みがする。私の頭に一体何が起こっているのだろうか。連邦生徒会長、あなたは一体、誰なんだろうか。
「……彼女は今、席におりません。」
「正直に言いますと、行方不明となりました。」
頭痛がおさまる頃には、リンの放った一言に彼女と私以外の全員が困惑している状況になっていた。
「結論から言うとサンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政権限を失った状態です。」
続けて言われたことに、彼女たちの目は絶望を帯びていくのが見えた。行政権限がない。つまり、私たちはどうすることもできませんと言われたようなものだ。
「認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした。」
先ほどまで見つかっていなかった、その言葉に、彼女たちの目に再び希望が宿るのが見えた。そして、黒髪の少女が問いかける。
「それでは、今は方法があるということですか、主席行政官?」
リンはその問いに、はいと答える。そして私の方を指して口を開く。
「この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです。」
皆が、驚きと疑問の視線を私に向ける。
"そうだよ。"
「ちょっと待って。そういえばこの先生は一体どなた?どうしてここにいるの?」
驚きと疑問は視線だけでなく、口からも溢れてくるらしい。次々と私に疑問が投げかけられる。
"私はこれからキヴォトスの先生として働く、鴉飛レンだよ。みんなよろしくね。"
「そして連邦生徒会長が特別に指名した方でもあります。」
投げかけられた疑問には答えた……が、やはりというか、さらに疑問が増幅している様子だ。
「と、とりあえず挨拶をさせてください。」
そういうと青紫髪の少女は自己紹介を始めた。
「私はミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカです。よろしくお願いします、先生。」
次に、黒髪の少女が。
「私はトリニティ総合学園の羽川ハスミです。以後お見知り置きを。」
続けて、白髪の少女が。
「同じくトリニティ総合学園の守月スズミです。よろしくお願いします。」
最後に、桜色の髪の少女が。
「ゲヘナ学園所属の、火宮チナツです。これからよろしくお願い致します。」
「ゲヘナ……」
チナツの自己紹介が終わる間際、ハスミからボソリと呟く声が聞こえた。何か因縁でもあるのだろうか。
「そろそろ話を戻してよろしいでしょうか。」
"ごめんね、リンちゃん。"
「蹴りますよ。」
煽りすぎたらしい。越えてはいけない壁を見極めないと、本当に蹴られてそのまま死んでしまうかもしれない。気をつけよう。
「……先生は元々、彼女が立ち上げた、ある部活の顧問担当としてこちらに来ることになりました。」
「連邦捜査部、"シャーレ"。」
「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを制限なく加入させることも可能です。」
「そして、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことすら可能……」
当の本人である私がいうのもなんだが、この組織、相当な恨みを買ってもおかしくはないのではなかろうか。
私の意思次第では、一つの学園を破壊し尽くすことすら可能な組織。
もちろん私にそんなつもりは一切ない。
が、この権力に私は少し怖気付く。
大事なのは選択。
先ほどの夢で言っていたのは、このことなのかもしれない。
私の選択一つで、このキヴォトスも──。
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、彼女が作ったのかは分かりませんが……。」
本当に、どうして私にこんなものを彼女は与えたのだろうか。星一つを焼き払った重罪人、そんな私に先生としての役目と、このシャーレの大きすぎる権限。……修正が必要なのではないだろうか。
「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に"とある物"を持ち込んでいます。」
「先生をそこにお連れしなければいけません。」
「それでは、暇を持て余した皆さん。私たちはこれからその場所へと向かうので失礼させていただきます。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ユウカの制止の言葉を無視し、リンはスマホを取り出す。誰かに連絡を取るつもりのようだ。
「もしもし、モモカ?これからシャーレの部室に向かうからヘリを用意して欲しいんだけど……。」
電話の相手はモモカというらしい。
「シャーレの部室……?ああ、外郭地区の?そこ今大騒ぎになってるけど?」
「大騒ぎ……?」
何やら、不穏な雰囲気が立ち込めてきた。
「矯正局を抜け出した停学中の生徒がそこで暴れ回ってんの。おまけにその辺の不良たちも唆して、もうしっちゃかめっちゃな状態みたいだよ?」
「……うん?」
「今はもう、その場所は戦場だってこと。なんなら巡航戦車まで持ち出してきてるみたいだよ?」
「それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占領しようとしてるみたい。まるでそこに大事な何かがあるみたいな動きだけど?」
リンの表情がどんどんと暗くなっているのがわかる。青筋も立ってきているような気がする。
「まあ?もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだし別に大したことないんじゃない?」
「あ、お昼ごはんのデリバリーきちゃったからまた電話するね。」
ブツッ
あまりにも無慈悲に告げられた事実と切られた電話。さらにリンの表情が……というか、全身が震えている。相当頭に血が昇っているらしい。
"えっとその……大丈夫?"
「……大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」
深呼吸を何回か挟みつつ、リンが答える。そして視線を、目の前の少女たちの方へと向けている。何か閃いたように反応すると、怒りに震えた顔が悪い顔に変化していった。
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいらっしゃいますね。私はなんて幸運なのでしょうか。」
全員が、えっ、と声を漏らす。まさかとは思うが、ここにいる彼女たちに──
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余して仕方ない、どうしようもない皆さんのお力が必要です。」
「心強い味方も出来たことですし、行きましょうか。」
そういうと全員を置いてリンはつかつかと歩いていく。行きましょうかと言われて行かないわけにはいかないので、まず私から彼女についていく。すると後ろの方から、残された少女たちもついてくる。
──どうやら、愉快な遠足が始まるようだ。
次回からいよいよ戦闘が始まるわけなんですが、戦闘シーンを書ける気がしません。
前回に引き続き誤字脱字、矛盾、その他の問題点が集積したコーラルの如くあると思いますがブルートゥを見るような目で見ていただけますと幸いです。
以下は、次回の冒頭にしようと思って結局ボツになった部分です。
リンについていってからどれくらい経っただろうか。本来であれば輸送用のヘリコプターに乗って到着しているであろう時間なのだが。
「…………。」
"…………。"
戦闘区域上空は危険であるとのことで、ヘリでの移動ではなく陸路による移動を行っている為、目的地に辿り着くまでの時間がまだいくらか残っている。
正直に言おう。気まずいと。
ほぼ全員が互いに面識がないのだ。
思春期真っ盛りの女子5人に加え、一人だけ場違いの成人が1人。
話題を提供しようにも、提供する話題が思い浮かばない。
戦闘を好むわけではないが、今この瞬間だけは、早く戦場に着いてくれと願ってしまう。
ふと外に目を向けると、美味しそうなスイーツ店があるのが見えた。そうだ、帰りはここに皆を連れてこよう。強引に私たちの事情に着いて来てもらっているんだから、お礼くらいはしてあげないと。
そんなことを考えていると、ここで降りてください、とリンに言われる。
車外に出ると、眼前に文字通り戦場と化した風景が広がっていた。
"さて、仕事の時間だ。"