ネイトは困惑していた。
何故なら、自分の相対相手が葉月だからだ。
梅組なら全員知っているが、葉月は体に疲労符という特殊な符を貼られている。
これのせいで、時間が来ると今までの疲労が四倍になってやってくる。
そのため、葉月は普段から力をセーブしている。
その葉月が自分の相対相手なのだ。
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
「いえ……本当にやりますの?」
「Jud.とりあえずここは狭い。場所を市街に移す。まだ障壁防護は効いてるよな?」
「Jud.なんか機関部が張り切ってくれちゃってて」
「それならいいさ」
それだけいうと、葉月はネイトの横を通りそのまま〝後悔通り〟を走り抜けた。
ネイトはしばし呆然と見ていたが、我を取り戻し、葉月の後を追った。
「……勝てますかね。葉月君」
「なぁに。心配いらねえって。ネイトだってそこらへん分かってるだろうし」
「でもミトって熱くなると加減忘れますから」
「フフフ浅間。アンタ葉月が心配なのは分かるけど、ミトツダイラの心配はないの?」
「も、勿論ありますけど……疲労符がある分、葉月君が不利です」
「ああそこらへん問題ないよ。浅間君」
と、ネシンバラは表示枠を操作しながら言う。
「白百合君。別に無策で行ったわけじゃないから。戦法としては……試合に勝って勝負に負けた、ってところかな」
「フフこの厨二眼鏡。勿体ぶってないで早く教えなさい」
Jud.というと、ネシンバラは眼鏡を上げ直す。
「ま、勝たなくてもいいんだよね。コレ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、民家の屋根の上に降り立つ二人は、既に相対を始めていた。
葉月が杖を大上段に振るえば、ネイトはそれをかわして距離を取る。
ネイトが蹴りを放つと、葉月はそれをいなして次の攻撃に繋げた。
結果、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「やっぱ強ぇなネイト!」
「葉月こそ! よくそこまでの技量がありますね!」
「俺だからな!」
「意味分かりませんわ!!」
と、ここでお互いに距離を取る。
「いつもの鎖は使わないのか?」
「Jud.銀鎖まで使ってしまっては、葉月の身の安全が保障できません」
「……言ってくれるなぁ」
と葉月は言うが、実際出されなくて本当によかったと思っている。
銀鎖とは、彼女の持つ神格武装。
彼女の力を伝播するというシンプルだが、彼女の種族を考えるとこれ以上に相応しいものはない。
「ネイトと戦うのは、これで二度目だっけ?」
「三度目、ですわ」
「……ああそっか。滅茶苦茶くっだらねえことで喧嘩したっけ、ね!」
ダンッ、と葉月は屋根を飛び越えネイトに攻撃を仕掛ける。
「結局お前とは一勝一敗一引き分けだな!」
「なら、この相対で勝負決めませんこと!?」
「ハッ! それも、アリだな!!」
葉月の杖による攻撃を、腕をクロスさせて防ぐことにより、杖の進行を止めるネイト。
だが、葉月はそのまま自分の方にある杖を真下に押す。
すると、てこの原理でネイトが抑えていた側の杖の先端が上に跳ね上がる。
そして葉月は跳ね上がった先端を掴むと、今度は反対の側の杖をネイトに向けて繰り出す。
これには流石のネイトも驚いたようで、葉月から距離を取る。
「上手い、ですわね」
「どうも」
「それが今の貴方の全力ですの?」
「Jud.久々にやるからな。ちょいちょい慣らしていくけどよ」
葉月は足に力を溜めて、一気に開放する。
それはまるで弾丸となり、一直線にネイトに向かう。
「それでも、制限時間がありますのよ!?」
ネイトはそれを半身をずらしかわす。
葉月は、ブレーキとして杖を突きたてその勢いを殺さずにネイトに蹴りを放つ。
が、ネイトもそれは予測済みだったのだろう。そのまま葉月の足首を掴む。
「おぅわっ!?」
「飛びなさい!」
そしてその勢いを逆に利用し、葉月をブン投げた。
ネイトは半人狼だ。
人狼という種族は頑健で膂力なども人間の比でない。
ネイトは半分人間の血が混ざっているとはいえ、人狼。故にその力は強大だ。
普通なら男一人を持つのにも苦労はするが、人狼の血がそれを可能とする。
結果、葉月はそのまま後方数百メートル飛ばされた。
そしてそのまま何かにぶつかった。無論、障壁が発動しているため威力はやや緩和されるが。
葉月はその何かの天辺を掴んだ。
葉月がぶつかったそれは、湯屋の煙突だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれって、鈴さんの家の湯屋の煙突ですよね?」
「あ、うん。Jud.」
浅間は鈴に訊ねる。
見ると、葉月のぶつかった煙突には白い文字で「鈴の湯」とあった。
「しかし凄いねー。白百合君もミトツダイラ君も。いい資料になるよ。白百合君。君の犠牲は忘れないよ」
「いやー。でもあれ。ミトっつぁん本気になってない?」
「大丈夫よマルゴット。銀鎖も出してないから――――――出してなくても、素手で人肉ミンチくらいは出来そうね」
「フフフ。ミンチにした後はやっぱり肉料理にするのね! ハンバーグかしら!」
「姉ちゃん姉ちゃん! あえてここはステーキかもしれないぜ!」
「皆葉月君の死亡を前提に会話するの止めなさい。それと喜美とトーリ君。後で説教です」
相変わらず外道会話を繰り広げていると、神耶が呟く。
「そろそろかな」
「え、な、何がですか神耶君」
「葉月の疲労符の時間」
疲労符というのは、運動量によって疲労が来る時間が変わる。
葉月は今、全開の状態でネイトと戦っている。
「まあ、五分程度が限界だよね」
「ちょっ! ミ、ミト相手にそれは拙いですよ!! ミトはっちゃけやすいんですから!」
「ククク詰んだわね葉月! そしてそのままミトツダイラの餌になるのね! 素敵!」
「き、喜美も煽らないでくださいよ!」
「浅間。平気だから」
「じ、神耶君……」
神耶は表示枠の向こうの葉月を見る。
その顔はふっ、と笑っていた。
「そういえばさ。ネシンバラ。さっき言ってた勝たなくてもいいって、どういうこと?」
「ああそれ? なんてことはないよ。言葉のまま」
ネシンバラが眼鏡を上げる。
「多分さ。ミトツダイラ君は負けに来たんだと思うよ」
「負けに?」
「Jud.この相対。ミトツダイラ君には損しかない。なのに出てきた。それに対する結論は一つ―――革命を促すことだね」
「革命?」
「所謂一種の人民革命を促すのさ。騎士が己の身分を捨てるということは、極東の市民革命を世界各国に知らしめることなんだよ。自分達では守りきれない。騎士を捨てて民に力を貸そうってね」
「でも、それってさ。ネイト、危なくない?」
神耶が聞くと、ネシンバラは笑う。
「そうならないように。白百合君が今頑張ってるんだよ」
「ミンチにならないように?」
「神耶君もお願いですからそういうこと言わないでください!」
「ククク神耶。そこらへんにしないと、葉月の妻(仮)が怒り狂って辺り一面にズドンの嵐を巻き起こすわよ!!」
「な、何言って、ってつ、つつつつっつ妻ぁ!?」
喜美の言葉に顔を真っ赤に染める浅間。
余裕だなぁ、と思う神耶の傍ら、そろそろ決着がつきそうだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
葉月が湯屋の煙突の上に立つ。
「いやー。やっぱり強いよお前は。騎士を名乗るだけある」
「お世辞はいいですわ。早くそこから降りてきてくださいな」
「ははっ。まあそうだな」
そういうと、葉月は膝を着く。
「ッ! 葉月、貴方まさか……」
「どうやら、疲労符の限界みたいだな」
「早くそこから降りてください! でないと……」
ネイトは必死に葉月に降りるように促す。
葉月はそれを聞いて、薄っすらと笑う。
「ああ。なんだ。やっぱりお前、俺らの味方じゃんか」
「そ、それは……」
「クハハ。ま、どの道さ」
ぐらり、と葉月の体が傾く。
「この相対。お前の勝ちだ」
そして、そのまま葉月は地面に向かって落下した。
「葉月!」
ネイトは一目散に駆け出した。
そしてそのまま葉月を空中でキャッチし、見事地面に着地した。
「葉月! しっかりしてください!」
「……ぁ、ぉう」
どうやら意識はあるようで、葉月は弱々しいが、返事をする。
その声に、ネイトは安堵する。
そんなネイトに葉月は話しかける。
「なあネイト。お前、負けるつもりでここに来たんだろ」
「知ってましたのね。やはり」
「Jud.」
「……ハァ。でも、こんな方法で以って負けを選ばなくても……」
「いいんだよ。お前、向井とかだとソッコで負け認めるつもりだったろ」
「べ、別にそのようなことは……」
「やっぱな。だから俺が一番適役だったんだよ。疲労符のおかげでもあるがな。正直、今ほどコレに感謝したことは無いな」
苦笑する葉月にネイトは呆れ気味にやはり苦笑する。
「この相対、私の勝ちですわね。騎士の立場は変わってませんもの」
「Jud.まあ、なんだ。とりあえず降ろしてくれ」
「Jud.」
そういって、ネイトは葉月を降ろす。
そして葉月は、最後の舞台があるほうを見つめる。
「次が最後の相対。正純と誰だろうな」
『俺だぜ葉月!』
そういって葉月の隣からいきなり表示枠が出てきた。
そこに映っていたのはトーリだった。
「……トーリ。ちょっと皆のほう移してくれ。ああそう。そんな感じに――――――お前らこの馬鹿を何故行かせた!? 負けが目に見えてるじゃねえか!!」
『こ、この野郎もう負け前提で話してるぞ』
「お前と正純じゃ圧倒的に脳の要領が違うんだよ! 成績でも負けてるしな!」
『バッカオメェ。こういうのは学業には関係ないんだよ!』
そういうと、トーリは正純に向きなおる。
『俺、馬鹿だから助言とかアリだよな?』
『ああ。私も必要なら助言を貰う。専門的な立場からなら、よりよい討論になるだろう』
『じゃあ。先攻後攻決めてねー』
『んじゃ俺先攻ー』
と、トーリは片手を勢いよく上げながら言った。
その言葉に、全員が沈黙した。
『……あれ? 何この沈黙』
唯一トーリだけが状況を分かってないらしい。
ため息を一つつくと、正純が説明する。
『討論では後攻の方が有利なんだ。基本だぞ』
『え、ええ!? そうなの!?』
『馬鹿が。商人は値を決めるときに最初から値段を言うわけがない。それと一緒だ』
『お前の基準は商売かよ!』
トーリの背後でシロジロが全員からツッコミを受けているが、トーリは先攻を譲らなかった。
『んじゃ行くぜ。元総長兼生徒会長、葵・トーリが宣言する!』
そういって、トーリは片手を頭の後ろに回して、こういった。
『やっぱホライゾン救いに行くの――――――止めね?』
どうもKyoです。
臨時生徒総会終わらせるの無理だったー!
ネイトVS葉月の相対はこんな感じになりました。
え、わざわざこうした意味?
意味なんてねーよゴメンなさいでしたー! by井ノ原真人
最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。
うわー。次回どうしよ……(考え無し