トーリの流体供給術式が全員に行き渡ると、武蔵は再び前進を始めた。
「総長の道を開けろぉ!」
「急げ急げ! 時間が無いぞ!」
「総長を姫の下まで送り届けろ!!」
「言われなくても!」
「やってやらぁ!!」
先ほどまでとは違う。全員の言葉一つ一つに力がこもっている。
それを見ているトーリは、声をかける。
「おいおいお前ら。耐えることは出来てもあんまり無理はよくねえぜ」
「しょうがないだろ! 他に方法がないんだからな!!」
そういって、警護隊はにやっ、と笑う。
他の警護隊も同様にだった。
それを見たトーリは口元に手を当て、叫ぶ。
「誰かー! 誰かー? 教皇総長の大罪武装に相対できる方はおられませんかー!?」
誰もが来るはずないと、そう思ったそのとき、
『私がいるぞ!』
と、声がした。
それは、携帯社務からの通信で、相手は、
『武蔵アリアダスト教導院、生徒会副会長! 本多・正純!』
遠く離れたところに、正純が立っていた。
教皇総長はそちらに表示枠を開く。
『K.P.A.Italia教皇総長、インノケンティウスとの一騎打ちによる相対を望む! 聖連の代表ならば、この相対。逃げはしないだろうな!』
正純は、かなり挑発的な文言で相対を申し出てきた。
教皇総長は一瞬考えた。
武蔵の副会長に、戦闘的な能力は無かったはず。だが、自分に相対を申し込むということは何か秘策があるということか。
だが、そんな考えも一瞬で捨てた。
何よりも、聖連代表として自分に相対を申し込んできたのだ。
ならば、
「いいだろう! その相対、受けよう!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
武蔵艦上では、ネシンバラが過去最高速度で鍵盤を叩いていた。
「うおおおおお! さ、流石教皇総長!」
「バッカじゃないの?」
「違うんだよ男らしいんだよ!!」
「つーかアンタ。そろそろ指が死にかけてきてるんじゃないの?」
「い、いやまだ大丈、おがっ!」
妙な奇声を上げてネシンバラが倒れこんだ。
その上を走狗であるミチザネがウロウロとしていた。
「フフ、でも。ここで相対を受けたら大罪武装を解除しなくちゃなくなるわね。あの貧乳政治家。足りないものをちゃんと補ってるわね」
「そういう言い方止めましょう喜美」
と、浅間が戻ってきた。
喜美は顔だけ浅間に向ける。
「あら。お帰り浅間。で。葉月のほうはどうなの?」
「未だ戦闘中みたいです」
浅間が表示枠を開くとそこには空中戦闘を高速で行っている葉月の姿があった。
それを見た鈴は、
「なん、か、葉月、君、楽し、そう」
そして、葉月の攻撃をフォローするかのように時折二人の少女が攻撃に加わる。
「フフフあのハーレム男。いつの間にあんなイイ女を侍らすようになったのかしら。ねえ浅間?」
「な、なんで私に振るんですか!?」
「だってアンタ。あの二人が出てきた辺りからすっごい顔になってたわよ。葉月を取られるかもしれないって感じの」
喜美のそう言われ、ハッと自分の顔をあちこち触る浅間。
だがそんなことをしても分かるわけが無く、表示枠を鏡として使うと、
(こ、これはちょっと……)
喜美からの指摘があったにも関わらず、未だに目じりが心配そうに垂れ下がっていた。
「浅間。取られないうちに早いとこやることやっちゃいなさいな」
「な、なんですかヤることって! み、巫女としてそんなことできるわけ無いでしょう!!?」
「あら。私は告白しなさいって言ったつもりなのだけれど。一体何を想像したのかしらねえこの淫乱巫女はククク」
「え、何を、想像?」
「鈴さんは知らなくていいですよー? いいですからねー?」
慌てて鈴の耳を塞ぐ浅間。
しかし、視線は葉月のほうに向いていた。
「……頑張ってください。葉月君」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いい加減に落ちなさい!
直後、レベッカの周りに待機していた氷の槍が一斉に葉月に向かって降り注いだ。
だが、葉月はそれらを紙一重で回避すると、自身も魔法を放つ。
「
葉月の手から放たれた白い雷はレベッカを襲うが、
「
手に発生させた盾の魔法で上手く雷を逸らす。
だが、その背後には銀髪の少女が迫っていた。
「オラオラァ! 背中がお留守ですよぉ!!」
「クッ!」
だが、それを今度はレベッカが出した黒い人型の精霊が防ぐ。
「ハッ! 格が違うんですよぉ! 格が!」
「……ッ!」
だが、その精霊を葉月の精霊は軽く殴り飛ばした。
レベッカは慌てて自身の精霊たちを呼び戻し、消した。
何度目かの対峙。銀髪の少女が言う。
「アンタ。クラスとしては葉月の下ですね。まったく。駄目駄目なのに葉月に喧嘩売ろうだなんて。何考えてやがりますかまったく」
次いで、隣の緑髪の少女が言う。
「おまけに契約している精霊も中位以下」
「いいのよそれで。大精霊なんかと契約して、操りきれなかったらそれこそ事だわ」
「ハッ! 自分に自身の無ぇ女は惨めですねー」
「ニル。シルフィー。そこまでだ」
挑発する二人を葉月が諌める。
「悪いな。口悪くて」
「別に気にしないわ。主の躾がなってないだけだし」
「あっそ。さて、と」
葉月は杖を背にしまう。
レベッカはそれを見て、怪訝な顔をする。
「……どういうつもり? 諦めたの?」
「いや」
そういうと、葉月は構えを変えた。
それは無手での構えだった。
「お前、魔力もう残ってないだろ」
「……」
沈黙をするということは当たっているのだろう。
レベッカは剣を鞘に収める。
「どうして気づいた?」
「自分の契約精霊を精霊界からこちらに出現させるのは魔力を食う。魔力が多い奴なら特に問題ない量だが、少ないとこれが結構致命的だ」
「……そうね。確かに私は潜在魔力が少ないわ。それは認める」
でもね、とレベッカは片手を葉月に向けた。
「それで弱いと、決め付けないで!」
直後、凄まじい勢いでレベッカの周りに魔力が集まりだした。
魔力とは、この世に存在する流体とはまた別の、この世にある物体が潜在的に持っている力のことだ。
自然の木々。人間。動物。全ては魔力を持っている。
だが、それらを操ることが出来るのは、
彼らは自分の中に魔力炉というものを持っており、これの大きさによって潜在的な魔力量が決まる。
レベッカは詠唱を始めた。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック
『
レベッカの手からは強力な吹雪が暗闇を纏って放たれた。
ニルと呼ばれた銀髪の少女が一歩前に出ようとするが、それを葉月が制する。
「葉月?」
「いい。俺がやる」
そういうと、葉月も詠唱をする。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル
「ただの魔法の射手じゃ、これは撃ちぬけないわよ!!」
だが、今までの魔法とは違っていた。
葉月はそれを打ち出す。
それは、今までの散弾のような弾丸ではなく、一直線に集中したものだった。
「
それは、レベッカの放った魔法とぶつかり合う。
しばらくそれらは拮抗していたが、やがて葉月のほうが押し出す。
「ッ、そんな!」
「魔力量だけで強い弱いは測れない。確かにそうだ」
だがな、
「魔法の種類でも強弱は測れねえよ!!」
そして、完全にレベッカの魔法を飲み込むと、そのままレベッカを襲う。
光の奔流が、レベッカを包み込んだ。
光の奔流が収まると、気を失ってレベッカが地上へと落下し始めた。
だが、
「
葉月が手を横に振ると、突風がレベッカを包み込んで、落下のスピードを遅くした。
あれならば地上に落ちても怪我をせずに済むだろう。
「マスターは相変わらず優しいね」
「別に。そうでもないさ」
安全にレベッカが地上に落ちるのを見届けると、葉月はそのままトーリたちのいる方向を見る。
「俺もすぐに行かないとな。アイツらがいるとはいえ、心配だ」
「ええ。行きましょう。マスター葉月」
「ちゃっちゃと終わらせて、寝ます! 寝るに限ります! あ、でもぉ、葉月が一緒ならなおさら良しで~」
「行くぞ」
「ちょっちょっちょー! 無視ですカー!?」
ニルを無視しつつ、葉月とシルフィーは審問艦のほうへと向かう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
葉月がつくと、そこには倒れたK.P.A.Italiaの戦士団と数人の少女達がいた。
まだ警護隊と拮抗している部隊もいるが、それでもかなりの人数が減っていた。
教皇総長も戦線に復帰したらしく、こちらを見るなり苦汁の表情を浮かべる。
「あー。はーづーきー!」
その中で、黄色い髪の、まだ小等部にそうな少女が手を振る。
葉月はその近くに下りると、辺りを見渡して言う。
「これ、お前らでやったのか?」
「半分くらいはね! あとは皆で!」
といって、少女は極東の警護隊を見る。
彼らは、最後に見たときよりもボロボロになっていたが、それでもやり遂げたという風でこちらにガッツポーズをしてきた。
ふと、教皇総長がこちらを向く。
「貴様。レベッカを倒したのか」
「じゃなきゃ俺はここにいねえだろ。安心しろ。死んでないから」
「……そうか」
と、どこか安堵するような声を聞くと、葉月は自陣の内側に入る。
「んで。俺らの総長は?」
「へ? 総長? ひょっとしてあの馬鹿?」
そういって指差す先にはトーリがいた。
しかし、
「どうして馬鹿だと?」
「だっていきなりウォーティーの胸見て発狂しだすんだもの。有り得ないし」
と、葉月は彼女の後ろで顔を覆っている少女を見る。
ウォーティーと呼ばれた少女はか細い声で言う。
「だ、だってあの。む、胸のこと……コンプレックスです」
「あーはいはい。あの馬鹿には後でよっく言い聞かせておくから。まあともあれ――――よくやってくれた」
葉月は少女達全員を見てそういう。
と、点蔵が葉月に近づく。
「葉月殿。この女性達は葉月殿の知り合いで?」
「後で説明する。状況的にはどうなってる?」
「Jud.トーリ殿がホライゾン殿と接触したで御座るよ。存在忘れられていたで御座るが」
「あ、あー」
「それで現在口説き中に御座る」
「ああ!?」
それでもやるのかよ、とトーリの行動力に驚く葉月。
葉月は、今でもホライゾンと向き合っている親友を見やる。
「頑張れよ。トーリ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
葉月が来る少し前。
トーリはホライゾンの下へと辿り着いた。
トーリは光の壁、分解力場壁の向こうにいるホライゾンに呼びかける。
程なくして、ホライゾンが向こう側からやってきた。
銀髪の無表情な少女。それが、トーリが惚れたホライゾンという少女だった。
「一体、ホライゾンに何のようですか?」
「助けに来たぜ!!」
ぐっ、と親指を立てて笑顔でホライゾンに言うトーリ。
大してホライゾンは無表情で、
「率直に申しまして――――――誰ですか貴方。迷惑なのでお帰りください」
そう告げた。
一瞬、敵も味方もフリーズ状態。
これには、教皇総長も驚きを隠せないでいた。
だが、トーリはいち早く我に返った。
「え、えーと。俺、よく
「Jud.思い出しました。朝食を買いによく来ていたお客様ですね」
「そ、そうだよ! 思い出してくれたか!」
Jud.とホライゾンが頷く。
「お釣りを渡すときに、何故かこちらの手を握ってくるので。店主様と一緒につけた
最早ムードも何もあったものではなかった。
トーリは始めて聞かされた事実に唖然として、周りからは表示枠が開いていた。
『あっはー! ゴメーン。ナイちゃん
『大丈夫よマルゴット。私も
『最低であるな』
更に下では、戦士団が、
「お、お前ら。あんなのを上において、恥ずかしくないのか?」
「いや、まあ、ね。選挙で決まったし」
「そもそも総長として決めたのはそっちだろ」
「くっ! もうちょっとマシな奴を選べばよかったな……」
「いや。お前らは悪くないよ。俺らも悪い部分あったと思うし」
何故か仄かな友情が芽生えつつあった。
「く、くそぅ! 何だよ皆して! 惚れた女に触れようとするのがそんなにいけないのか!? こんな風に……」
そういってトーリはホライゾンへと手を伸ばす。
「言い忘れましたが。この壁、触れると即死するそうです」
「うおおおおおおお!? あ、アブねえよ! 何小等部低学年が考えそうな「ぼくのかんがえたさいきょうのへいき」みたいなもの作ってんだよK.P.A.Italia! やっぱ鬼畜だな! 常識を学びなおせよ!!」
「お前の方が常識を学びなおせよ!!」
ついに敵味方問わずにツッコミが来たトーリ。
芸人としてはアリなのだろうが、如何せんこれが一国のトップだと言うのだから泣けてくる。
と、ホライゾンが言葉を紡ぐ。
「ホライゾンは世界に迷惑をかけぬことを最善の判断で望んでおります」
「世界がどうとか知ったことじゃねえよ。俺が困るんだよ。お前が死ぬと」
「では、世界と貴方。どちらが優先されるのですか?」
「どっちだと思う?」
「率直に申しまして、世界です」
それはそうだろう。
片や世界。片や一人の少年。比べるべくも無い。
ホライゾンのその応答を聞いて教皇総長は笑みを浮かべる。
だが、トーリは、その斜め上の発言をした。
「じゃあ簡単だ!
俺が、世界を統べる王になる!」
どうもKyoです。
え、葉月との決着があっさりしすぎだろ?
これで終わると思っているのか(某野菜人風に
次回はトーリ中心。エロ不注意のところまで行きたいなあ、と。
最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。