ホライゾンを救出してから、はや三日。
一時期お祝いムードだった武蔵も、次の目的地、英国に向けて艦の補強や、訓練をしていた。
そんな中でも、梅組は今日もいつものように授業を受けて、トーリが馬鹿やってオリオトライにぶっ飛ばされ、戻ってきて再びホライゾンによりぶっ飛ばされる。
そんな日になるはずだった。
だが、今日のこの日に限ってはそれが起こらなかった。
何故か。
「……」
いつも騒がしい梅組が今日に限っては黙りこくっている。
それは、
「あ、あの。葉月君。大丈夫ですか?」
「お前その質問何度目だよ……いやまあ。ちょっと不具合はあるけど、自分のせいだし」
浅間が、隣にいる葉月に声をかける。
その葉月は、
その後ろでは、
「んー。幼児化ネタは新しいわねやっぱ。ちょっと本気で描こうかしら」
「ガッちゃん今のハヅッちにも容赦ないね!」
などと同人コンビが言っていた。
葉月は後ろを振り返り睨むが、今の葉月が睨んでも可愛さぐらいしか残らなかった。
と、ここで授業終了だ。
「はーい。んじゃ、ここまでのこと、ちゃんと覚えておくこと。いいわね!」
「Jud.!」
それだけいうと、オリオトライは教室を出て行く。
その瞬間、ドタッ、という音がした。
それは、葉月が自分の座っていた椅子から転げ落ちた音だった。
「いてて……」
「だ、大丈夫ですか葉月君! 怪我は!?」
「いや、平気だよ」
「フフフこのショタ月とショタコン巫女。何漫才やってんのよ。っていうか浅間。アンタやっぱりそういう趣味あったの?」
「誰がショタコン巫女ですか誰が! あとやっぱりって何ですか! 私にそんな趣味は――――」
と、そこまで言うと、喜美がいきなり葉月を持ち上げて浅間の目の前に出す。
「――――――あ、ありませんにょ!!」
「フフフ噛んだ。噛んだわ! つまるところショタもいけるのねこの無節操巫女! 欲張りすぎじゃないのステキ!!」
「ああもう。なんでこんなことに……」
「自分のせいだと思うんだけど」
神耶が止めを刺す。
白百合・葉月。
現在は八歳児相当の体になっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ことの始まりは、昨夜葉月の経営する喫茶店『ワグナリア』にて起こった。
店を閉めた葉月は、本とにらめっこしながら薬品を弄っていた。
それは、
様々な効果を齎すため、作成には細心の注意が必要となり、また高度な魔力制御も必要となる。
ようやく自分の力が戻ってきた葉月は、昨夜早めに店を閉めて、魔法薬作りに取り掛かった。
初めて作る魔法薬だが、思いのほか上手く作れていた。
飲めば動物に変身できる薬や、飲めばしばらくの間透明になれる薬などだ。
そこで葉月は、本――魔道書の中に載っている中でも特に調合の難しい魔法薬、肉体操作系の魔法薬の調合に取り掛かった。
調合は本当に難しく、調合は夜の十二時を過ぎてもまだ終わらなかった。
だが、苦労の末、ようやく出来上がった。
「で、出来た……」
葉月が掲げた試験管の中には、澄んだ青い液体が波打っていた。
しかし、
「おめでとうございますマスター」
「うぉあ!? ル、ルーキス!?」
いきなり背後に現れた契約精霊、ルーキス。
どうやら、先ほどからいたようで、その手には盆とその上に乗った軽食があった。
「集中なさるのも結構ですけど、あまり詰めすぎないようにしてくださいね」
「あ、ああ。っつかいるならいるって言ってくれよ。心臓止まるかと思ったわ」
「ふふ、すいません」
「はあ。さて。折角出来たんだ。これ誰かで試す……」
と、葉月は手元を見る。
が、そこには試験管は無かった。
「……あれ?」
「あ、マスター上です!」
「は?」
と、上を見ると、そこには中身の飛び出た魔法薬があった。
葉月はそれを避ける間もなく、モロにその薬品を浴びてしまった。
「マスター!」
「……最悪」
その一言が、17歳の葉月の最後の言葉だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、ルーキスに連れられて教導院に行き、事情を説明。
神耶が呆れ顔になり、周りの皆は驚いていた。
そして現在放課後。
再び現れたルーキスは申し訳ないようにシュン、としていた。
「申し訳ありませんマスター」
「いやいい。俺の不注意でもあったし」
「なあなあ葉月。コレってどうなってんだ? まさかの若返り効果とか?」
「若返り!? 葉月! さっさとその薬を大量生産しなさい!」
喜美が子供化した葉月の肩を掴んで前後にゆする。
だがそれを、浅間が止めに入る。
「ちょっ、喜美止めてください! 今の葉月君は子供なんですから!」
「何よ浅間。いいじゃない若返り! 永遠の若さよ! この美貌が永遠に続くのよ!」
「あー言っておくけど。これ時間制限あるから」
「あと大体9時間くらいですかね」
「何よもっと頑張りなさいよ! 不老不死とかないの!?」
「ねえよ馬鹿」
葉月はそのまま教室を出ようとするが、襟首をナルゼに掴まれた。
「おい同人屋」
「何よ。いい同人のモデルがいるんだから協力しなさいよ」
「あはは。それで俺が協力するとでも?」
「ハッ! 今のアンタに何ができるのかしらね」
「
ナルゼが小馬鹿にするように笑うと、葉月は周りに九つの光球を出現させた。
「魔法は使えるんでね」
「ちょっと。危ないじゃないの。さっさと私の同人のために引っ込めなさい」
「お前最低だよ!」
クラスメイトからツッコミを受けながらも平然とするナルゼ。
と、浅間が仲介に入る。
「皆もう止めてください! 葉月君今は子供なんですよ!」
「フフ、浅間。だったらアンタが葉月の面倒見る?」
「そこまでガキじゃねえよ!」
葉月はそういうが、
「でも葉月君。それでお店はどうするんですか?」
「いや。流石に休むから。どうせ今日の夜には戻ってるし」
「ご飯はどうします?」
「……あ」
言われて気がついた。
葉月は自分の食事を厨房で作っている。
その厨房のサイズは大人、つまり17歳時の葉月のサイズになる。
現在の大きさでは踏み台を使っても届かないのだ。
「あー。神耶」
「ゴメン。今日はちょっと先生のとこ行く予定」
「……トーリ。お前のとこでいいか?」
「いや、俺んところは葉月みたいに定食ねえから」
「フフ、愚弟。簡単よ。浅間が葉月の家に行けば万事解決よ」
「え、わ、私ですか!?」
いきなり振られて戸惑う浅間。
葉月としては、トーリに頼むよりか浅間に頼むほうが断然いい。
「まあ、浅間がいいなら」
「お、おい葉月。オメェ今すっげえ失礼なこと考えたろ。俺と浅間見比べて」
「は? おいおい俺がそんなことするわけないだろ」
「そ、そうだよな! 俺たち親友だものな!」
「ああそうだな――――辛友だな」
「辛いほど友達なのかよ! 参ったぜ俺照れちゃう♪」
「いや。友達になるのが辛すぎるって意味だ」
「真逆の意味かYO!」
「妥当な判断だとホライゾンは思いますが」
「ホ、ホライゾンはどっちの味方だよ!」
「Jud.――――皆様の味方です。トーリ様を除く全ての」
「あれ? ひょっとして俺孤立してね? 死亡フラグばっか立ってね?」
「あはは。トーリは馬鹿だなぁ」
「笑顔で酷ぇこと言いやがったよ神耶! く、くそぅ! み、見てろよ! コレが俺の48のボケ技の一つ! 這い寄れ、トーリ君だ!」
そういうと、トーリはいきなり四つん這いになり、床をわしゃわしゃと這い始めた。
その行き先は無論、ホライゾンだった。
「ホラ――イゾ――――ン!」
「ふっ」
四つん這いから一転、どこにそんな膂力があるのかどうか不明だが、ホライゾンに飛び掛るトーリ。
だが、その前にホライゾンは華麗なフットワークでトーリを外まで吹っ飛ばした。
「馬鹿のせいで話が逸れました。で。浅間様に頼むというのはいい選択肢かとホライゾンは思います」
「ホ、ホライゾンまで……」
だがそのとき、くいっ、と浅間の制服の裾を引っ張る感触がした。
浅間が下を見ると、葉月が浅間を見上げていた。
「あの、浅間。出来れば、お願いしていいか? まだ精霊たち、料理に慣れてないから。ルーキスも簡単なものしか作れないから」
そう、葉月は告げた。
さて。ここで思い出して欲しい。
浅間は葉月のことが好きである。
それはもう、四六時中葉月のことを考えるくらいには。
葉月が一時期武蔵を離れて、そして再び戻ってきたときなどは反動が凄まじく。ストーカーもびっくりな所業に出ようとしたとかしなかったとか。
そのときの様子を友人であるネイト・ミトツダイラはこう語る。
『ええと、まあその。好きな気持ちが、お、抑えられないというか。智は普段は割りとそういうの抑えてますの。ただその……外的要因による刺激が強かったりすると――――ちょっと……』
最後は言葉を濁していて不明だが、とにかく葉月に関することなら何にでも反応してしまうのだ。
しかも今回は見た目は子供、中身は大人の葉月だ。
それが浅間の脳内では、
『浅間お姉ちゃん――――ご飯、作って?』
といった感じに脳内変換されてしまっていた。
プツン、と何かが切れる音がした。
ガシッ、と葉月の肩を掴むと浅間は息を荒げて近寄る。
ついでに目が血走りかけていた。
「ええもう分かりましたよお!! 手伝うどころかもう面倒の一切合財を見るような、いえもう見ます! 全てを見ます! さあとりあえずその体に見合う服をどうにかしましょうか葉月君! いえ、葉月ちゃん!!」
「誰か助けて浅間が怖いっていうか壊れた!!」
助けを求める視線を送るが、
「さーて。帰ってペン入れしないと」
「拙僧は姉キャラ攻略せねば」
「あ、俺もまだエロゲやってねーや」
「白状にもほどがあるだろオイ!!」
「智! まず落ち着いてくださいな!」
「えーやだーもうなに言ってるんですかミトは。私すっごおく落ち着いていますよー? さて葉月君。まずはその無理やり合わせたような制服を脱いじゃいましょうかー」
「はいストップ」
ガッ、という音とともに浅間が崩れ落ちる。
その後ろでは錫杖を持った神耶がいた。
「それ以上は流石にねえ。というかハナミがメーターの処理に困ってるんだよね」
見ると、浅間の走狗のハナミが次々に現れる表示枠を片っ端から手刀で砕いていた。
「た、助かった……」
「ククク。あのまま行ってたら確実に食われてたわね葉月」
「テメェ分かってて言ってんだろ」
葉月は喜美を睨むが、喜美はくるくると意味もなく回っていただけだった。
はあ、とため息をつくと葉月はルーキスを呼ぶ。
「ルーキス。悪いが全員分の飯は用意できそうにない」
「ですね。分かりました。何かありましたらお呼びください」
そういうと、ルーキスは光の粒子となって消えた。
葉月は杖を背負うと、そのまま窓から飛び去っていった。
「なんかなぁ……」
幼馴染の意外な一面を知って驚いたというか、知ってはいけない一面を知ってしまったというか、と考える葉月。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
葉月の体は元に戻っていた。
しかし、
「ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい……」
葉月が登校してくると、そこには土下座状態の浅間が呪詛のように謝罪の言葉を繰り返していた。
「あの後意識戻ったら顔が青ざめて「死のう……」って言った後に自殺しようとしてたから。止めるの大変だったよ」
「浅間――! 戻ってこ――い!!」
自決一直線の浅間に何とか葉月は呼びかける。
この日。梅組は通常営業だった。
「成程。あれがヤンデレというものなのですね」
「んー。ちょっと違くね?」
「ではホライゾンもちょっとヤンデレてみようかと――――あ、あの泥棒猫……ッ」
「おいおいホライゾンどこで覚えたんだよそんなすげー一発芸」
「Jud.正純様から借りた本に載ってました」
どうもKyoです。
さて。ここで契約精霊たちの容姿と名前を公開しましょう。
ニャルラトホテプ(通称ニル):まんまニャル子
クトゥグア(通称クー子):まんまクー子
ウォーティー:オリジナル
フルーラ:某電気ネズミを幼く擬人化したもの
シルフィー:DTBのアンバー
ルーキス:GetBackersの朔羅
アーシー:オリジナル
グラキアリス(通称アリス):ネイトに似ている。髪形はストレート
こんな感じです。ネタ分かる人いるのかなぁ。特にシルフィーとルーキス。
次回も日常です。
というかもしかしたらクリスマスネタやるかもです。
現在、葉月と浅間のCPを画策中です。
最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。