葵・トーリ。
武蔵の総長兼生徒会長。そして、現武蔵副王。
特別これといって特筆すべきものはないが、強いて言うなら。
全裸・馬鹿・女装・変態・外道。そういったところだろう。
まったくもって、トップに立つ人間の性格ではない。
そんな色々な意味で最悪な彼だが、今割りと生命の危機に瀕していたりする。
それは――――
「さあトーリ様。ホライゾン。今日のは自信作です」
「お、おう」
現在、時刻は昼食時。
トーリの隣には、ホライゾンが弁当の包みを持ってトーリを見ていた。
「な、なあホライゾン。コレって一人で作ったのか?」
「Jud.さあ。どうぞ」
「え、えーと。だな」
チラッ、とトーリは弁当を見る。
そこからは、この世のものとは思えないほど禍々しいオーラが漂っていた。
「えーと。ホライゾン、味見とか、した?」
「Jud.――――どうにも人間の食べ物ではありませんでしたので、トーリ様に処理をお願いしたく」
「あれえ!? これ俺への弁当じゃないの!?」
「ハ、ハ、ハ。一体誰がそんなことを言ったのですか?」
「そりゃお前自身が――――あ、言ってない! 自信作とは言ったけど弁当とは言ってない!」
「ええ。ささっ。一気に食べてください」
「いやヤバくね!? なんかさっきから『ズォォォォ』って擬音が聞こえてるし!」
「大丈夫です。トーリ様なら食べきれると信じています。さあ」
「よ。よぉーし! 俺はやるぞー! ホライゾン!」
瘴気の出る弁当を一口食べたトーリ。
直後、ぶっ倒れ、葉月の作った魔法薬と浅間の整腸の符の世話になることになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「何故ホライゾンの料理は駄目なのでしょう?」
「いやまず大丈夫かどうか味見しろよ」
「味見はしましたとも」
「それで不味いものを他人に出すな」
放課後、ホライゾンは『青雷亭』ではなく、葉月の店『ワグナリア』へと来ていた。
今日の昼食時、あまりにもホライゾンの弁当の殺人具合が今までにないほどのレベルだったため、流石のトーリもダウン。
ネイトに担がれて、今頃は自宅で唸っているだろう。
普段なら、もう一つの『青雷亭』、トーリと喜美の母親が経営しているほうに行くのだが、今回はそのトーリと喜美の母親からの推薦もあって、葉月のところに来た。
「ところで葉月様。一つ、頼みがあります」
「んー?」
「ホライゾンに料理を教えてください」
「トーリに頼めよ」
葉月は即答する。
それに、ホライゾンは二人の母親から多少なり手引きをしてもらっているはずだ、と葉月は記憶を掘り返す。
「ですが、トーリ様は今日はあの状態ですので。店主様に薦められてここに来ました」
「あー、成程ね」
カウンターに立つ葉月は頷く。
すると、店の扉が開く。
「あら? ホライゾン。ここにいましたの?」
「ネイトに、浅間か。どうしたんだ? つかトーリは?」
「葉月君の薬もありますし。一応うちの整腸用の符を渡したので大丈夫だと思います。で、ちょっとお茶の時間にしようと思って」
「ああそうか。オーライ。オーダーはどうする?」
そういって、葉月はメニュを二人に差し出す。
ホライゾンも、そのメニューを覗き見る。
「……非常に細かいですね。値段、写真、カロリー。どうやって作っているのですか?」
「写真部と広報部に頼んでな」
「……いつ見ても、摂取カロリーとか値段とか忘れて全部食べちゃいたいくらいに美味しそうですよね。特にこの木苺のタルトとか。でも安くないですか、この値段」
「ああそれね。英国輸入で安かった木苺を馬鹿買いしちまってさ。タルトやケーキに入れてんだよ。値段も安くすれば買う人も増えるし。実際、売上もいい感じだしな」
説明をする葉月だが、聞いているのはホライゾンだけだった。
浅間とネイトは既にどれにするか、熱心にメニューを見ていた。否、凝視していた。
「レアチーズの木苺ソース。ホットケーキと林檎のクリーム……」
「バナナとチョコのミックスパフェ。チョコタルト。抹茶善哉……」
「と、お二人が呪文のようにメニューを唱えておりますが。そこは置いといて」
「置くのかよ。まあいいけど」
「どうでしょう葉月様」
「どう、といわれてもなぁ」
思わず頬を掻いてしまう葉月。
ホライゾンは相変わらず無表情だが、どうにもその場を動く気配はない。
「お願いします」
「聞くが、何でそこまでして俺にこだわる? トーリが治ってからでも遅くはないはずだぞ」
「Jud.一言で言えば、
「……は?」
ホライゾンが説明する。
「何の前触れもなく美味しいお弁当を作って渡せば、トーリ様は驚くでしょう」
「ああ、だな」
そういって葉月はふっ、と微笑む。
(なんだかんだ言っても。やっぱトーリのこと思ってるんだな)
自動人形に感情はない、と世間一般では言われているが、葉月はその常識を否定したい。
何故なら、武蔵の艦長式自動人形など神耶の話題で一日終えることもあるのだ。
その被害を食らったからよく分かる。
「――まあそれは建前で」
「は?」
「その翌日に、嬉しそうに寄ってきたトーリ様を再びホライゾンの殺人料理でKILLするのが目的です」
「今自分で殺人料理つったよな!? ってかもう殺す気満々じゃねえか! 感動を返せ!」
「何を仰いますか葉月様。ホライゾンはいい女ですよ――――死ぬ前日に最高の思い出を作らせてあげるなんて。いい女代表になれますね」
「最悪! コイツ最悪!!」
そこまでトーリのことが嫌いかよ。
葉月は内心呆れ返ったが、ホライゾンが料理を学ぶのはいいことだと自分に言い聞かせた。
「じゃあどうする。どういったのを作りたいんだ?」
「Jud.」
そういうと、ホライゾンに渡してあるメニューから、ホライゾンは一つの料理を指す。
「この、フィレ肉のベリーソースがけを」
「難易度高ぇの来たなオイ!!」
思わず教皇総長の口癖を言ってしまう葉月だが、仕方がなかった。
何しろフランベ(肉や魚などの調理の際、最後の香り付けのためにアルコール度数の高い酒をぶっかけること)が必要なのだ。
素人がフランベなどやったらどうなるか、結果は火を見るより明らか。
確実に火災が発生する。
「もうちょいこう、簡単なのないのかよ。弁当だろう作るのは」
「Jud.ですが、以前にトーリ様が葉月様のところのこのメニューを美味しそうに食べていましたので」
「あー。そーいや好きだったなアイツ」
「はい――――駄目でしょうか?」
と、ホライゾンは首を傾げるが、葉月はカウンターを開ける。
「とりあえず教えるよ。そこまでいけるかどうかは別だがな」
「Jud.ありがとうございます」
そういって、ホライゾンも厨房に入る。
「あ、葉月君! 私抹茶善哉で!」
「わ、私はレアチーズのブルーベリーソースがけで!」
「はいはい」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ホライゾン待て! 包丁を持つ手の形が違う! パーじゃない! グーなグー! どっちかって言ったら猫の手だけどさ」
「こうですか?」
「違う!」
「おーいホライゾン。火加減間違いすぎ。焦げっ焦げじゃねえか」
「この方が早く焼けるかと思いまして」
「止めろ。俺の店を燃やす気か。適切な温度ってのがあるんだよ」
「フランベは最後! 今じゃない!」
「そうなのですか。時に葉月様」
「な、なんだ?」
「ツッコミが板についてますね。これでホライゾン、いつでもボケられます」
「ツッコまねえと俺の店がなくなるんだよ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二日後。再びホライゾンが弁当を持ってトーリの下にやってきた。
「さあトーリ様」
「……だ、大丈夫、だよな?」
「Jud.さあ」
そういって、トーリはホライゾンから受け取った弁当の蓋を開ける。
そこには、綺麗といえるほどに調理されたフィレ肉のベリーソースがけがあった。
「え、これって……」
「Jud.葉月様のところで習いました。どうでしょう」
「ホライゾン……」
トーリはフィレ肉を口に含む。
「――――美味ぇよ。ホライゾン」
「Jud.ありがとうございます。さ。どんどん食べてください」
「おう! いくらでも食べられるぜ!」
そういった瞬間、トーリが真後ろにぶっ倒れた。
一瞬にして、クラス内の空気が凍った。
「ふっ。このホライゾンの料理のあまりの美味しさに気絶してしまいましたか」
唯一ホライゾンだけが何故か勝ち誇ったような言い方をしていた。
そして微妙にドヤ顔になっていた。
ひそひそとあちこちで話し合う声が聞こえてくる。
「あれは、美味くて気絶、なのか?」
「泡を吹いているように見えるで御座る」
「小生思いますに。アレはいつもの殺人料理なのでは」
「こういうときこそカレーですネー」
あまりにもカオスになりつつある空間で、浅間が葉月に聞く。
「あの。アレは嬉しさのあまり気絶したんですか?」
「いや。味だろうな」
ああ、やっぱり。
葉月はこう語る。
「やっぱ一日かそこらでアレを完璧にマスターするのは無理。肉を適当に焼いてソースかけるくらいしかな。本当はアレ、結構難しいんだ」
「けど、見た目は美味しそうでしたけど……」
「ああ。見た目の再現率が高いのは俺も認めるよ。ただ、味がなぁ……」
曰く、最初は美味いが直後に一気に来て気を失うらしい。
葉月も実際、食べてみてその威力を思い知ったそうだ。
「それを食べるトーリも凄ぇよ――――まあ、それだけホライゾンのこと好きなんだろうな。きっと」
「そうですね」
そういって、二人は未だに気絶したままのトーリと、そのトーリの口に料理を突っ込むホライゾンを見つめる。
ふと、浅間はあることに気づいた。
「あれ? そういえばミトがまだ来ていませんね。いつもならとっくに来ているのに」
「ああ。それか」
「……? 何か知ってるんですか?」
「ホライゾンのあの料理を成功作と思って食べた狼騎士が一人」
「ああ……成程」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ホライゾンは半ば気を失いかけてるトーリに話しかける。
「トーリ様。何故ホライゾンの料理を食べてくれるのですか?」
「うぇ? あ、うん……」
トーリは意識を取り戻すと、起き上がってホライゾンに向き直る。
「そりゃあさ。まあ、味はまだアレだけど。それでも、ホライゾンが俺に作ってくれたんだ。だったら残すわけねえって」
「……成程」
ホライゾンは頷き、空になった弁当箱をしまう。
「ではトーリ様。帰ったら料理の練習をしたいので、お願いします」
「じゃあ一回につき一オパーイモミングでふぉぁ!」
直後、トーリがホライゾンの強烈なフックにより、再び床に沈んだ。
「フフフ愚弟流石ね。でもそこは普通に教えたほうがいいんじゃないの?」
「ぐっ、姉ちゃん違うぜ! ホライゾンをモミングすることで料理の質が上がるんだよ――――多分!」
「最低ですね」
「ソッコで結論出すなよホライゾン! でもそこにビクンビクンしちゃうぜ!」
そういって両手で己の体を抱きしめるトーリ。
この日も、梅組は通常運行だった。
「ではトーリ様。ホライゾンが作った失敗作も、食べていただけるのですね?」
「え゛!? そ、それはそのぉ……」
「ホライゾンが作ったトーリ様への料理です。失敗作でも、食べていただけますね?」
「うおおぉぉ! ハードルが高いな! 流石だぜホライゾン! でもそれ全部食ったら俺ヤバくね?」
「大丈夫です。トーリ様の胃は最早怪異並と判断できますので」
「おいおいおいおいコラコラコラコラ。人の胃袋を勝手に怪異化すんなよ、ってか浅間お前も何『それなら祓わないと駄目ですよね』的な笑顔で弓俺に向けてんだYO! ちょっ、マジで止めてくださいゴメンなさい」
どうもKyoです。
トーリとホライゾン主体で普通のイチャラブってのもいいんですけど、原作がそういう雰囲気じゃないんで。
というかこの二人はこれでいいんだろうか。
次回はクリスマスになるか。もしくはまた一話挟みます。
そうなったら、自動人形たちの話を書きます。
武蔵の自動人形たちはちょっとおかしいです。
最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。
またコラボとかやりたいなー。
|Д・)チラッ