境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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番外編の教師と狐

 

浅間とトーリがあれこれしているとき、『ワグナリア』は少し早い閉店を告げた。

 

「神耶ー。もう上がっていいぞー」

「はーい」

 

葉月は厨房から出てきて、テーブルを拭いている神耶に声をかける。

 

その神耶は最初のミニスカサンタコスではなくなっていた。

 

人孤の特性である尻尾と耳を生やし、白のフリルがついた薄青色のメイド服を着ていた。

ご丁寧にヘッドドレスまで装備して。

 

実はコレ。神耶が密かにこの『ワグナリア』に隠していたものなのだ。

いつかコレを着て接客をしてやるという、女装癖が疑われる野望を秘めて。

 

そして、今日それが実現したのだ。

 

「しっかし。相変わらず女装のクオリティが高いな。トーリ以上だ」

「えへへ。そう?」

「……悪いが俺にその手のおべっかは通用しないんで。ほい。コレがケーキとチキン」

「ケチ」

「裏表激しいんだよお前」

 

頬を膨らませながら、葉月の出す箱を受け取る。

 

「いやー。でも助かったよ。何しろ普段の三倍の客が来てたからさ」

「うん。まさか僕も男の人から恋人役求められるとは思ってもなかったよ」

「俺なんか料理中だぜ? しかもキス要求って。ねえよ」

 

そういいながら、葉月は扉を開ける。

 

「んじゃ。お疲れ様」

「うん。お疲れ。それじゃ」

 

神耶はそれだけいうと、走り去っていった。

葉月は、その方向を見る。

 

「――――ははっ。アイツ、先生のとこ行きやがったな」

 

葉月は笑うと、そのまま店の中に入っていった。

 

「頑張れよ。神耶」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

神耶は武蔵を走っていた。

といっても、その走る速度が尋常じゃなく、速い。

 

しかし、手に持ったケーキとチキンの入った箱は決してブレなかった。

辺りの景色が流れるように去っていき、あっという間に教導院についた。

 

「ふぅ。よし」

 

神耶はそのままある部屋へと向かった。

そこには「宿直室」と書かれていた。

 

「先生いる?」

「ん? あれ? 神耶じゃない。どうしたの?」

 

そこにいたのは、神耶たちの担任でもある教師、オリオトライ・真喜子だった。

彼女はいつもの青いジャージに傍にいつも背負っている長剣を置き、酒瓶を片手に飲んでいた。

 

「ちょっと葉月の店のバイトしてたら贈り物」

「肉ある?」

「鶏肉でいい?」

「Jud.十分!」

 

オリオトライは眼を輝かせる。

元々肉食タイプの彼女は、肉には目がない。酒もあれば最高だと豪語する。

時折、神耶がオリオトライに料理を作りにいったりしている。

 

そうしないと、常に酒とつまみしか食べていない食生活なのだ。この女教師は。

 

無論、その材料費は流石にオリオトライが出している。

曰く「いやー、ね。流石にこれじゃあちょっと」らしい。

一応の良心は残っていたようだった。

 

神耶は笑いながら宿直室に上がる。

が、

 

「あ。ちょっと冷めてる。温めなおす」

「んー。そんなの気にしないけどなー」

「温めたほうが美味しい」

 

そういうと、箱からケーキとチキンを取り出し、チキンだけを別の更に載せ、加熱用の符を張る。

 

「しばらくケーキでも」

「甘いものは酒のつまみになり辛いのよねー」

「疲れた体にはちょうどいい」

「まあね。ってか本当に便利よね。神耶のその符。自作でしょ?」

「Jud.独学で、コレだけうまく出来た」

 

神耶は普段の授業では寝ていることが多い。

だが、座学での成績は学年でもトップクラスに入る。

 

特にカンニングなどの違法行為はしていない。(ちなみに神耶のいるクラスには常習犯が一人いる)

それでいて手がかからない。まさに理想の生徒だろう。

クラス内のごたごたを纏めてくれればさらに好評価なのだが。

 

あとはこの女装癖が微妙に困る。

時々二人並んで歩くときがあるが、こうなると自分が男の位置についているように噂されているのだ。

おかげで後輩の三要には「性別の交換したらいいんじゃないですかね?」などといわれる始末。

 

「ねえ神耶」

「……?」

「あー。なんでもない」

 

純真無垢な瞳を向けてくる神耶に対して、オリオトライは何もいえなくなった。

そして、ちょうど加熱符の時間設定が来たのか、神耶は符を外し、オリオトライに渡す。

 

「いいの? 神耶何も食べてないんじゃないの?」

「あはは。僕一ヶ月くらいだったら断食出来るから。それに、先生の目。凄いから」

「あらら。やっぱり分かる?」

「うん。すっごく」

 

肉を見た瞬間、完全に獲物を見つけた獣の目だった。

神耶は立ち上がって、宿直室の台所に向かう。

 

「先生。また食器出しっぱなし」

「片付ける気が起きなくてねえ」

「もう」

 

そういうと、神耶は袖をまくって、食器洗いを始めた。

その音を背景に、オリオトライはコップに酒を注いで、チキンを食べ始めた。

 

「んー。葉月の店の肉は美味いわねえ」

「今度余りの肉貰ってきて何か作ってあげる」

「あ、じゃあ牛肉ね牛肉! ぶん盗ってきちゃって!」

「先生それ犯罪」

 

と、神耶は苦笑しながらいう。

 

テキパキと洗い物を終えると、再びオリオトライのところに戻る。

すると、目の前には数本、チキンが残されていた。

 

「あれ?」

「流石に何も食べてない人の前で全部食べちゃうような真似はしないわよ」

「……ありがとう」

「ん。ほら食べなさい」

「Jud.いただきます」

 

神耶は上品とも取れる行動で肉を食べる。

オリオトライはそれを見ながら酒を飲んでいた。

 

すると、オリオトライが急に、神耶の髪の毛を梳きはじめた。

 

「どうしたの?」

「ん? いやー。喜美がさ。神耶の髪がサラサラしてて羨ましいって話してたからどんなんかなー、って」

「そっか。で。どう?」

「よく分かんないや」

「先生も綺麗な髪だよ?」

「あはは。ありがと」

 

すると、いつの間にか神耶は肉を全て平らげていた。

 

「ご馳走様」

「早いわねー。それでいて太らないのは先生、ちょっと羨ましいわ」

「先生も太らないでしょ?」

「さー。どうだろうね」

 

それからしばらく。二人で他愛ない話をしていた。

 

最近、後輩の三要がまた見合いに失敗した。

 

点蔵のパシられ回数が1000の大台を超えた。

 

セクハラされかけた。

 

ちょっとソイツ殺してくる。

 

など。

 

そんな話をしていると、いつの間にか夜の八時を過ぎていた。

 

「あらら。時間経つの早いわねえ。どうする? 今日ここで泊まってく?」

「……いいの?」

「Jud.それに、久々に神耶の尻尾枕が堪能できるし」

「うん。じゃあ、いいよ」

 

すると、ふわりと九本の金色の尻尾が現れた。

それらは宿直室の畳の上に綺麗に並んで倒れる。

 

オリオトライはそれに寝転がる。

 

「あー。気持ちいいわ。自分の家の枕より断然いい」

「持って帰る?」

「尻尾を?」

「僕」

 

そういって、神耶はちょっと顔を赤くする。

すると、オリオトライは苦笑する。

 

「ちょっと。それはいくらなんでもマズイわよ」

「えー」

「えー、じゃないの。ちゃんと学生らしい生活しなさい」

「先生が先生みたい」

「だって先生だし」

 

そっか、と納得する神耶。

 

「でもここでこうしてるのはいいの?」

「いいの。私が許可したから」

「先生だから?」

「そう。先生だから」

 

すると、神耶も少し疲れが出てきたのか、うつらうつらとしてきた。

 

「んみゅ……」

「アンタ本当に仕草が女の子っぽいわよね。喜美が羨ましがるのも分かるわ」

「…………そうでも、ない」

「いやいや褒めてないから」

 

オリオトライがそういうが、神耶からの反応がなかった。

見ると、完全に寝ていた。

 

オリオトライはそれを見ると、神耶の髪の毛を撫でる。

 

「おやすみなさい。いい夢見なさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日。

オリオトライが神耶より先に起きた。

 

見ると、正座した状態で寝ていた。

無論、尻尾は自分が枕にしていたため動いていない。

 

「まったく。こういうところで手のかかる子ね」

 

そういうと、オリオトライは起き上がり、近くにあった毛布をかける。

 

寝顔を見ると、時折バイオレンス発言や行動をする神耶とは思えないほどだった。

 

「はあ。私って結構過保護なのかなー」

 

すると、どうやら毛布をかける感触でなのか、神耶が起きた。

 

「あら? 起こしちゃった?」

「ん……ふわぁ…………へーき、です」

「寝惚けてるわね」

 

神耶は若干焦点の合ってない目でオリオトライを捉えると、ほにゃ、と笑う。

 

「おはよう。先生」

「はい。おはよう」

 




どうもKyoです。

まさかの一日に連続投稿。
人間の限界に挑戦した日でした。片や一日。片や三時間弱の製作時間。

内容薄いの勘弁してね!

というわけで神耶と先生でした。

何この熟年夫婦みたいなの。

しかし難易度の高い先生ルート。
あえて言うなら、ネイキッドギル様にウェイバー君が挑むようなものです。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。

次回は英国か、予告していた自動人形編を。
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