それは、神代の時代に存在した、いわば魔法使い。
歴史の表舞台には上がらず、しかし影ながら人々を助けることをしてきた一族。
そして聖譜は全ての歴史を記している。
無論、古代魔法使役士のことについてもだ。
しかし、その記述は人々を助けたというものではないほど、凄まじいものだった。
たった一つの魔法で海を割り、地を砕き、天を裂く。
果ては強力な治癒能力や召喚能力。
そしてやがて、各国でそのような力を見せる者がいた。
契約を結んでいないのに、流体を一切使用していない術式を使い、彼らは生活をしていた。
だが、このような強力な能力を持った者達を、放っておくはずがなかった…………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
三河での騒乱から二週間。
武蔵は次の目的地、英国を目指していた。
そんな中でも、教導院は通常通り授業を続ける。
そも、学生の本分は戦闘ではなく学業なのだ。
しかし、その中でも例外はいる。
総長連合と生徒会だ。
特務や副長を中心として、全員が武蔵の哨戒と警護に当たっていた。
そのうちの一人。第一特務、点蔵・クロスユナイトは教導院の屋上から空を見ていた。
他の人間から見れば、授業をサボっているようにしか見えないが。
彼の
特務の中でも、実力は高いほうだ。
その彼は今、視認による敵の早期発見をしようとしている――――のだが、現在武蔵はステルス航行中。
故に、ステルス解除されない限りは空を見ることは無い。
よって、現在は半分サボっている状況だ。
と、点蔵の横に表示枠が開く。
『第五特務。ネイト・ミトツダイラ。〝品川〟に着きましたわ』
「Jud.早いで御座るな」
『あ、点蔵はっけーん。ってかサボり?』
「さ、サボりでは御座らんよ……ステルス直後に奇襲が来てもすぐに対応できるようにしているだけで御座る」
『なーる。あ、ナイちゃんとこは異常なし。強いて言うなら――――』
表示枠に現れたナイトが視線を別の方向に向ける。
すると、そこには赤い髪の少女が空中に浮かんでいた。
『アレ、かなぁ』
「確か葉月殿と契約している精霊の一人、に御座るな」
『割り込み失礼ー』
と、いきなり通神に割り込んできたのは神耶だった。
「神耶殿? 今授業中では?」
『Jud.だけど御広敷が御高説で馬鹿やって、今鈴が馬用のカンチョー持ってくるところ』
「それ鈴殿には絶対にやらせてはいけない役ではないので御座るか!?」
『こうしてベルりんは梅組の空気に染まっていくのだったー』
「ナイト殿! 不吉なナレーション止めるで御座るよ!?」
『それはそうと。葉月から伝言。ナイトに』
『ほえ?』
『どっかでサボってる赤髪女がいたらぶっ放していいってさ。どうせ死なないだろうしって言ってたから』
ナイトは先ほどの赤髪の少女、クトゥグアを見る。
その後、硬貨を一枚取り出し、打ち出した。
が、クトゥグアに当たる前にその硬貨は燃え溶けて、蒸発した。
「――――大丈夫で御座るか?」
『後でハヅッちに請求しよー……ってうわっ来た!?』
見ると、ナイトの魔術陣にクトゥグアが割り込んでいた。
『――――何か用?』
『あー。ハヅッちが撃っていいっていうからね。ちょっと試しに』
『サボってない。ただ空に浮かんでいただけ』
「それはサボりなのでは御座らぬか?」
『問題なし』
『というか。葉月がサボっていると言ったことはまだ言ってませんわよね……?』
『昔から葉月はそう言うから。私はサボってないのに』
「つまりはサボり魔なので御座るか……」
そういえば三河で戦っていたときも一人ぼんやりしていたで御座る、と先の戦いを思いだす。
『私はサボってない。ただぼんやりしているうちに皆が私の仕事を取っていく』
『それはもうサボってるって言うんじゃないかな?』
『大丈夫。だって『私は』『悪くない』』
「今喋り方が変に……」
それはそうと、とクトゥグアは点蔵を見る。
『第一特務って、誰?』
「あ、自分で御座るよ。武蔵アリアダスト教導院総長連合第一特務。点蔵・クロスユナイト。よろしくで御座るよ」
『葉月の契約精霊。『炎』のクトゥグア。クー子って、呼ばれてる』
「あ、どうもで御座る」
『武蔵の戦力を葉月から聞いた。葉月のいるクラス。葉月が皆のこと褒めてた』
その言葉に点蔵を含め、ネイト、ナイトが苦笑する。
一番凄いのは、アレだけの大軍勢を相手した葉月だろうに。
『第一特務。点蔵・クロスユナイト。忍。体術や野外での生活訓練等をこなす、万能型の戦力。そう聞いた』
「それは上げすぎで御座るよ。自分は一介の忍者。凄いところなど何も無いで御座るよ」
だが、やはりそういわれると嬉しいものは嬉しい。
クトゥグアは更に続ける。
『気配りなども出来るが、金髪巨乳な女性が好きと公言し、今のところ。フラれた回数が二桁に登った。おめでとう』
「まったく嬉しくないで御座るよ!?」
『そんなんだからフラれるんだとナイちゃん思うなー。同属性として』
『第一特務。貴方……』
「い、いや。好みがあっていけないで御座るか!? 自分、エロゲの攻略担当キャラもそれなので御座るよ!?」
『なんという徹底振り。今度私にも貸して』
「ええ!?」
『うっわクーやんマジ?』
『女性でそのようなものに積極的になるなど……』
あまりの発言に流石の特務たちも驚いた。
すると、また新たに表示枠が開いた。
〝武蔵〟だった。
『皆様。そろそろステルス航行が終了します。ステルス障壁を解除いたしますので。その間の見張りをお願いします――――――以上』
「Jud.」
点蔵以下特務のメンバーは了承する。
すると、展開されていたステルス障壁が解かれ、元の青い空が広がった。
「やはり。空は青いほうが良いで御座るな」
点蔵はそう呟く。
が、その瞬間、
「――――ッ!」
今まで見ていた空に違和感を感じ、即座に立ち上がる。
それは、表示枠越しのネイトも同じようだった。
即座に点蔵は表示枠を開く。
「総長連合第一特務、点蔵・クロスユナイトが武蔵全域に警戒を促すで御座る!
『数は分かるかい!?』
表示枠からネシンバラが現れた。
おそらく、この警戒警報で授業が中断されたのだろう。
相手のステルス障壁も消えかけている。
数は、
「クラーケン級が二! ワイバーン級が六!」
『Jud.!』
ネシンバラが頷くと、ふと、彼の手元に表示枠が現れた。
『皆聞いて! 三征西班牙から、この襲撃の大義名分が送られてきた! 内容は『三征西班牙の領域において、英国への補助物資を積んだ船舶の拿捕を行う』だってさ!』
『まるで子供の言い訳レベルね』
『それだけ向こうも切羽詰ってるってことだと思うな』
『どうせ戦闘して後の会議で発言権ゲットだぜ、がしたいんだよね』
『不知火君はぶった切るねいきなり!』
神耶殿は昔からこうで御座ったなー、と点蔵は思う。
神耶は、さほど気にしていないのか、言葉を続ける。
『言い繕っても仕方ないし。で。どうやって武蔵に来るの? こっちの重力障壁の効果範囲、結構広かったと思うけど』
そういうと、ネシンバラが眼鏡を上げながらいう。
『向こうは壇ノ浦を持つ三征西班牙さ――――八艘跳びなんて夢みたいなもの使ってくるよ!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
三征西班牙の艦隊。その上では、陸上のレーンが敷かれていた。
全部で八つ。
そのうちの一人が、陸上のスタート用の短銃を上空に構えていた。
赤いジャージを着込み、しかし、足元は透けている。
つまりは、霊体。
一度死んで、しかし残念があったためこの世に留まった者。
三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス所属。第二特務、江良・房栄だ。
二重襲名として、アルバロ・デ・バサーン。
陸上部部長だ。
「さーて。皆! 準備運動は出来た?」
「Tes.!!」
うん。いい返事。と、房栄は頷く。
しかし、と頭の中で考える。
対応がちょっと早いのよね、と。
(やっぱり情報が少ないね、と)
武蔵はついこの間まで、戦闘とはほぼ無縁の状態だったのだ。
それがいきなりこれだ。情報不足にもほどがある。
それに加えてこちらの情報は年鑑などで大体のことは調べられているだろう。
まったくもって理不尽。
だが、こちらは武器や経験がある。
向こうにはそれがない。
そこを生かす、と房江は決める。
陸上部の一人が叫ぶ。
「On your mark――――!」
それに続いて、他の陸上部員がクラウチングスタートの体勢に入る。
「――――mark!!」
「Get set!!」
その瞬間、房江は方耳を手で塞ぎ、もう片方を伸ばした腕で塞ぎながら、
「飛ばせ! 八艘!!」
短銃を空に撃った。
直後、陸上部員が走り出した。
綺麗なフォームだ。走り方も完璧。
後はこのレーンから飛び降り、武蔵を攻撃する。
そして、跳んだ。
しかし、次の瞬間、全員の顔が引きつった。
何故ならそこには、
「ああ? 何だオメエら。もう走り出したのかよ――――こっちの準備も待つってのがスポーツマンだろ。だからお前ら全員、フライングだ」
空中で腕を組みまるで寝そべるかのような姿勢でこちらを見ている武蔵の魔法使いがいたのだ。
そして、その周りには無数の光弾。
「とりあえず。不当な侵略に対して、正当防衛だ」
直後、彼らは撃墜された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その様子を、一人の少女が表示枠越しに見ていた。
暗桜色の髪をショートカットにし、豊満な胸が三征西班牙の制服にぴっちりと詰められている。
三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス所属。第三特務。立花・誾。
西国無双、立花・宗茂の妻だ。
その様子を見て、義腕を握り締める。
そして、戦場へと向かおうとした。
が、声をいきなり掛けられた。
「行くのか?」
「Tes.」
誾は声をかけたほうを見ながら返事をする。
そこには、菫色の瞳と髪を持つ少年が壁に寄りかかりながら同じく映像を見ていた。
背丈は、宗茂よりやや低い。が、背負った大剣と鋭い眼光が彼を大きく見せていた。
「宗茂様の襲名解除を取り消すためにも。武蔵副長、本多・二代は私が倒します」
誾は決意堅く、そう宣言する。
三河での戦いで、本多・二代に敗北した立花・宗茂。
西国無双の名を背負っていただけあって、敗北により、襲名解除が決定してしまった。
聞いたとき、誾の中で、何かが崩壊しかけた。
……宗茂様が、宗茂様でなくなってしまうっ…………
そこで、誾は申し出た。
自分は西国無双よりも弱い。
故に、自分が武蔵副長を倒せば、自分より強い西国無双が敗れたのは間違いだったと証明するために。
少年は、一息つくと、壁から離れる。
「俺も行こう。どの道、古代魔法使役士同士は惹かれあい、戦う」
「そうですか。では参りましょう」
「Tes.気をつけろよ。蜻蛉切の割断射程は30メートル。上位駆動はまだ出来ていないようだからいいが。神道の加速術はよく分からん。こちらの常識で図るとしっぺ返し食らうぞ」
「Tes.ご忠告どうも。しかし心配しすぎです。私は如何なる相手でも油断慢心はしませんので」
「――――そうか」
「アルヴィス。貴方も油断なさらぬよう」
「ああ」
アルヴィスと呼ばれた少年は誾の後ろをついていく。
その目は、どことなく寂しげで、また心配そうに誾を見ていた。
すると、アルヴィスは誾の隣に立つ。
「あの無表情無感情三白眼娘がよくもまあここまで育ったもんだ」
「誰が三白眼ですか。そこまで目つきは悪くないです」
「無表情無感情は認めるのかよ」
「自分でも愛想ない女と思っています。が、宗茂様がそれでいいというなら、私は構いません」
「ハッ! ガルシアの奴。どんな口説き方したんだか」
「宗茂様、です。そちらの名では呼ばぬように」
「ガルシア・デ・セヴァリョス、でもあるだろ。アイツは。どちらの名を呼ぼうが俺の勝手だ。アイツもいいって言ってるしな」
と、肩を竦めながらアルヴィスはいう。
誾はその言葉に不満を持ったような顔だが、すぐにいつもの顔に戻る。
「仲間として言おう――――勝ってこい」
「ではこちらも――――当然です」
そして、二人は飛び出た。
一人は、愛する夫のために。
もう一人は、自分を育ててくれた恩人のために。
どうもKyoです。
先に英国編を始めました。
自動人形たちの話を待っていた方。すいません。でも絶対にやります。
前半に点蔵を動かしすぎた気がしますが。第二期の主人公なのでいいでしょう。
その代わり、もげる呪いを今から皆さんでかけましょう。
さあこの五寸釘と呪いの藁人形のセットが今なら超特価!買いだよー!
最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
次回は、ドッカンだったりズドンだったり。色々はっちゃけたりします。