境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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朱の場の部員達

 

平穏な日々。

安穏とした世界。

 

小さな集落をいくつも作り、互いに助け合いながら暮らしていた魔法使い。

 

あまり裕福とはいえない。

だが、それでも確かに、そこにはささやかながらもかけがえの無い幸せがあった。

 

暖かい家族。

 

共に遊んだ友達。

 

恋焦がれる異性。

 

彼らもまた、同じ生き物なのだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

三征西班牙側の攻撃は激しい。

だが、葉月の初撃に火が着いたのか、武蔵勢も応戦する。

 

三征西班牙は運動系の部活が多い。

それはつまり、戦闘向きな人材が豊富ということだ。

 

陸上部を筆頭に、野球部やサッカー部までも攻撃に加わっている。

 

本来なら、武蔵の戦力は当然のように学生。

 

しかし、校則法というこの世界の法では、一般市民の財産に被害が及ぶ場合、自衛の範囲内で防衛しても良いとある。

 

故に、町の住人は防御壁を展開し、自分の家屋を守っている。

 

「くっ! 野球部め。ボールはマウンドで投げろ! 人に向かって投げるな!」

「お前らそれでもスポーツマンか!」

「引っ込め借金大国! 無賃乗船すんな! 金取るぞ!!」

「そんなんだから彼女いない暦=自分の年齢……やべ、悲しくなってきた」

 

時折、罵倒を浴びせながら防戦する武蔵。

しかし、三征西班牙も負けない。

 

「我々がいるところがそれ即ちマウンドだ!」

「戦場だろうがなんだろうがな!」

「金なんぞまた作りゃいいんだよ!!」

「彼女ならいたわ! …………先月別れたけど」

 

まるで子供の喧嘩レベルだと、空を飛んでいる神耶は思う。

 

彼は現在、この武蔵に被害が及ばぬように、自身の術で防壁を艦全体に張っている。

本来なら施設の一軒一軒に防壁を張りたいところだが、生憎と急場であるため、全体の三分の一程度しか張れていない。

 

「まあ、常に準備不足が人生なんだろうけど――――おっと」

 

神耶が呟くと、飛んできたボールを軽々と避ける。

 

空中にいるということは、下からの攻撃があるということ。

空を飛んでいるというのはメリットもあるが、自分が攻撃対象にもされやすい。

 

「はいはい当たらない当たらない、っと」

 

神耶はそういいながら建物に防御結界を張っていく。

ふと、神耶は少し離れた空を見る。

 

そこには、赤と白が炸裂して、空を彩っていた。

 

「葉月も頑張ってるなー」

 

まるで他人事のように口にする神耶。

その間にも攻撃を受け続けているが、ひらりひらりと紙一重で避けている。

 

しかし、三征西班牙の生徒も、神耶にのみ攻撃を絞ってはいない。

そのうちに、守りの薄い部分を付かれ、家屋がいくつか炎上し始めた。

 

そして、三征西班牙の艦隊上に二人の人影が現れた。

 

一人は、金髪長身の男。スラッとした背に、端正な顔立ちだ。

もう一人は、金髪細身の女。やや身長が低いが、その顔は自信満々といった風だ。

 

「ヤバイ! あれは三征西班牙の〝四死球〟、ペテロ・バルデスとフローレス・バルデスだ!」

「はぁ!? あのバルデス兄妹!?」

「三征西班牙野球部の最終兵器か!!?」

 

すると、艦上のフローレス・バルデスがにんまりと笑う。

 

「聞いた兄貴? 私ら最終兵器だって。去年ベスト8だったのに有名になったね」

「妹よ。有名になるものは常に有名なのだ」

 

それを聞くと、武蔵の人間が、ああという。

 

「兄のペテロ・バルデスが投げ始めて四球。全て死球(デッドボール)で一点を送り出し。それを笑った妹が再び四球。全て死球で四点入った。が、相手側にもうプレイできる選手がいないため試合終了。相手側の選手は全員病院送り――――――お前ら。ルールっていう言葉と意味を知ってるか?」

 

それを聞くと、フローレスは慌てて否定する。

 

「ち、違うよ! アレは選手を狙ったんじゃなくて、ボールが私の思ってる方向と全然別の方向に行っちゃったんだよ! 私は兄貴と違ってちゃんと狙える子なんだから!」

「妹よ。兄は死球を起こしているわけではない――――兄は死球を狙っているのだ」

「お前ら野球しろよ!!」

 

武蔵からのツッコミを二人は華麗にスルーした。

 

そして、二人は投球のフォームに入る。

 

「――我らが豊後水軍、渡辺家より航海の聖者セント・エルモに祈りを捧げます」

 

それはまるで祈るような言葉と動作。

 

「――走狗(マウス)導きの焔(エル・フエゴ)迎受」

 

瞬間、二人に青白い炎が浮き上がり、やがてそれは全身に行き渡り、祝詞が完成した。

 

「燃えろ、炎!」

「行け、魔球!」

 

そして、投げた。

 

二つのボールが空中で一つになり、それは燃える白球となって武蔵に襲い掛かる。

だが、武蔵も黙ってみているわけではない。

 

「気をつけろ! 垂直だと突き抜ける可能性が高い!」

「傾斜に構えろ!!」

 

言うが早いか、防盾を構える住人達が一斉に斜めに構える。

 

そして、炎の白球が当たると思った瞬間、目の前から消えた。

 

「――――え?」

 

そして直後、真後ろの民家が一軒爆発した。

 

それを見るペテロとフローレスはぐっ、と拳を握る。

 

「ストライク……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「って、おいおいおい。すんげー火事になってんじゃねえかよ!」

 

一方、三征西班牙の生徒達を次々と返り討ちにしていた葉月は、遠く神耶のいる方角を見て一瞬唖然とする。

 

が、それもすぐに振り払う。

 

そして、葉月は呼ぶ。

 

「ウォーティー! シルフィー!」

 

直後、二人の精霊が葉月の背後に現れる。

 

一人は、水色の髪をした、非常に豊満な胸を持つ少女。

一人は、翠の髪をたなびかせている、スレンダーな少女。

 

『水』を司る精霊ウォーティーと『風』を司る精霊シルフィーだ。

 

「御用は?」

「火事に巻き込まれて逃げ遅れた奴の救助優先! 余裕があれば鎮火も頼む!」

「「Jud.!」」

 

すると、すぐさまその場に駆けつける二人。

葉月はそれを見送ると、自分は別方向に向かった。

 

それは、三征西班牙のワイバーン級の艦だった。

 

「一艦くらいは落としておかねえとな!」

 

葉月は空高く舞い上がり、詠唱を始める。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル

 

影の地 統ぶる者(ロコース・ウンブラエ・レーグナンス)

スカサハの(スカータク) 我が手に授けん(イン・マヌム・メアム・デット)

三十の棘持つ(ヤクルム・ダエモニウム) 愛しき槍を(クム・スピーニス・トリーギンタ)!」

 

詠唱が続くにつれ、葉月の周りに巨大な槍状の雷が現れた。

数にして三十。

 

そして、葉月は放つための一言を載せる。

 

雷の投擲(ヤクラーティオー・フルゴーリス)!!」

 

刹那、三十の槍が一斉に艦に向かって放たれた。

大きさからいって、それは艦を貫くのに十分。それが三十。

誰もが、撃沈すると思ったそのとき、

 

「Schlange!」

 

雷の槍に無数の剣が絡みつき、暴発させた。

 

否。それらは剣ではなかった。

 

よくよく見ると、それらは糸のように細い鎖で繋がれた剣の一部だった。

 

連結刃(チェーンエッジ)!? 誰だよんな漫画草子みたいの使った奴!」

 

と、葉月は辺りを見渡す。

すると、一人、自分と同じ空に立ってこちらを見ていた。

 

連結刃はそのままその人物の下に戻っていった。

 

三征西班牙の制服に身を包んだ生徒は、そのまま葉月に向かって飛び出す。

葉月も杖を構えて応戦の体勢に入る。

 

剣と杖。二つがぶつかり合い、拮抗する。

 

「三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス所属。第三特務補佐。アルヴィス」

「極東。武蔵アリアダスト教導院所属。白百合・葉月」

 

ガッ、と互いの得物を押しのけあい、距離を取る。

 

氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)!」

「炎熱加速! Schlange!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月がアルヴィスと接敵する前、火事の家屋を二つの影が縫うように走っていた。

 

ウォーティーとシルフィーだ。

 

彼女達は、逃げ遅れた者がいないか確かめながら、民家の火事を消していった。

 

「負傷者はいるけど。逃げ遅れた人はいないね」

「ですね。あっ」

 

ウォーティーが空を見る。

するとそこから、大量の水が溢れ出て炎を消していった。

 

水の発生源は大型木箱(コンテナ)だった。

大型木箱が釣り下がっている柱に、何かが着弾し、破裂。

中に入っている水が火を消していっているのだ。

 

ついでに、大型木箱に陣取っていた三征西班牙の生徒達も吹っ飛ばして。

 

「えーと……あれ。どうなってるの?」

「あ、多分、あの子です」

 

と、指差す先には、牽引帯の上に乗り、弓を構え狙う少女が一人。

 

浅間・智だ。

 

彼女は再び矢を番え、新たな大型木箱を狙う。

 

「会いました!」

 

矢は吸い込まれるように飛んでいき、大型木箱を破壊する。

 

ようやく事態に気づいた三征西班牙の生徒達が口々に叫ぶ。

 

「げぇっ! 武蔵の対艦砲撃巫女が来たぞ!」

「向こうにも対艦砲撃魔法使いがいやがるぞ! 気をつけろ!」

「総員退避ぃ――!! 武蔵の対艦夫婦が来たぞぉ――――!!」

 

慌ててその場から離れようとする。

が、浅間はあくまで狙いを大型木箱につけたまま、

 

「――もう、夫婦だなんてー! 照れちゃいますよー!!」

 

笑顔で矢をぶっ放した。

その様子を見ていた二人は、顔を合わせて。

 

「――――さーてお仕事お仕事」

「あ、私あっち見てきますね」

 

見なかったことにした。

 




どうもKyoです。

はははー、点蔵の出番見事に削ってやったぜ!

……といってもこの時点じゃあまり出番がないんですよねぇ……
必要なところにこの忍者は出張りやがって……もう少し忍ばないと。

次回はナイトと直政の戦闘をやりつつ、葉月の戦闘も。
そして正純初の滑り……頑張れ。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。








ところで皆さん。側室制度って魅惑の響きですよね。
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