境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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2013年5月19日。改定


境界線上の集結者達

三年梅組が〝品川〟へ向かうオリオトライを攻撃しているとき、武蔵左舷三番艦〝青梅〟からそれらを見る人影が二つあった。

一つは老人といって間違いない男性。その髪は白く染まり、煙管をふかしている。

一つは侍女服を着ている二十歳前後と見られる女性。無機質な表情を浮かべつつも、梅組の授業を観察しているようにも見えた。

 

「おお、やってるねぇ。アレ、〝武蔵〟さんとしてはどう見る?」

「Jud.」

 

〝武蔵〟と呼ばれた女性は応答を示しながら答える。

 

「去年と比べるなら、住民の観戦度・迷惑度が上回っております――――――以上」

「武蔵全艦を代表するなら?」

「被害等総合的に見て、ここ十年の学生の中では一番かと――――――以上」

 

そういう〝武蔵〟の背後では、デッキブラシが一人でに動いて掃除をしている。

人型の無機物に魂を宿した種族。それが自動人形。

主人や客人に奉仕することを本能とする所謂お手伝いさんなので、女性型が多い。

〝武蔵〟や〝浅草〟もそんな自動人形の一つなのだ。

 

「んー。今のは堕天墜天コンビだね。連射重視の非加護射撃。屋根上一直線なら、それでアリなんだろうけど。相手が真喜子先生じゃぁ、ねえ」

 

と、煙管を咥えながら言う。

彼の名は酒井・忠次。武蔵アリアダスト教導院の学長である。

元は三河にて、松平四天王と名乗る四人衆の実質的リーダーだった者で、かつての字名(アーバンネーム)は『大総長(グランヘッド)』。

だが、今ではとある理由から左遷され、こうして武蔵にいる。

 

「……ん?」

 

と、酒井は目をやる。

そこには、今現在戦闘が激化している前線に向かって、一人の少年が屋根伝いに向かっているからだ。

すると酒井は微笑む。

 

「あれは、葉月かな」

「Jud.背負っている杖からしてそうかと判断できます――――――以上」

「しかし大丈夫かねぇ。あんなに飛ばして」

「アレくらいならば、時間が来たときの反動はそうでもないと判断できます――――――以上」

 

そうだといいけどねえ、と酒井は呟き空を見る。

そこには、赤と白で彩られた艦が存在していた。

 

三征西班牙(トレス・エスパニア)の警護艦と武神が1,2……合計3機。騒いでるのを警告しに来たにしろ、武装の無い武蔵にはやりすぎだよ」

「そういえば、葉月様は体に荷重符をつけられておいでなのでしたね――――――以上」

「Jud.符に設定された荷重を常に身体にかけ続けられる、元は武芸者用の鍛錬符。葉月のはちょっと特殊だったよね?」

「Jud.葉月様のそれは単純な荷重ではなく、疲労といったものも通常の倍近く増やされます――――術符の効果が来たときにそれまでの疲労が一気に倍加されてやってくるため、全身疲労で立つことも出来ません――――――以上」

「やれやれ。難儀だねえ」

 

といって、肩をすくめる酒井。

対する〝武蔵〟は特に反応を示さなかった。

 

「葉月様の背景的に言えば、聖連は恐れているのかと――――――以上」

「そうだねえ。実際、今の葉月なら出来るだろう」

 

ふぅ、と煙管を外し、息を吐く。

 

古代魔法使役士(エンシェント・マギ)。一人で一国を攻め落とせるほどの力を持った者の末裔、だものね。全く、ネシンバラ辺りが好きそうな個人的な背景だよ」

「Jud.――――――以上」

「でも葉月はさ『そんなことより店のメニュー考えるほうが大事』とか言っちゃってて」

「それが葉月様のお人柄なのでしょう――――――以上」

「Jud.出来れば、何も無いまま進めばいいよ」

「ですが、それももう終わりかと。聖譜によれば、そろそろ世界の終わり……末世が近づいているとのことですから――――――以上」

 

そういって、〝武蔵〟は会話を切った。

 

 

 

 

 

「ちなみにさ。建物の被害とかって教導院持ち?」

「既に大工組合から請求が来ています。会計のシロジロ様経由で――――――以上」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

オリオトライは武蔵をつなぐ牽引帯を渡っていると、隣に一人の金髪の少女がやってきたのを確認した。眼鏡をかけて、制服はサイズが大きいのかぶかぶかしている感がある。

 

「あらアデーレ。貴方が一番?」

「Jud.!自分、脚力自慢の従士ですから!」

 

そういうアデーレの手には訓練のために使う刃を潰した従士槍が持たれていた。

二人が牽引帯を渡り終えると、右舷二番艦〝多摩〟に移る。

と、ここでアデーレが仕掛けた。

 

「従士アデーレ・バルフェット。一番槍行きます!」

 

そういうと、彼女の足元に加速用の表示枠(サインフレーム)が現れた。

それにより、加速を得るとアデーレは一直線にオリオトライに特攻した。

 

「はぁっ!」

「直線的よ!」

 

槍を突きの要領で繰り出すが、紙一重であっさりとかわされ、さらには蹴りでアデーレの手から槍が落ちた。

その後ろから、ターバンを巻いたインド系の生徒が来た。

ハッサン・フルブシ。常にカレーを携帯する。その頭上には巨大な皿に盛られたカレーが存在していた。

ハッサンは掲げた特大のカレーを持ってオリオトライに向かっていった。

 

「カレー、どうですカ!」

「ゴメンねー! 今はいいや!!」

 

そういって、突撃したが片手で捕まれたアデーレもろとも吹っ飛ばされた。

 

「ほら! アデーレとハッサンがリタイアしたわよ!」

 

そういうと、地上を走っていたネシンバラが指示を下す。

 

「イトケン君!ネンジ君とで救護して!」

 

ネシンバラの指示に返答しながらハッサンを拾うのは、全裸でにこやかな笑みを浮かべた頭に蝙蝠翼が生えた男だった。

彼の眼下にいる武蔵の住民はやや唖然とした表情でその者を見る。

 

「怪しいものでは御座いません!淫靡な精霊インキュバスの伊藤・健二と申します!」

 

そういって恭しくお辞儀をする伊藤・健二。通称イトケン。

爽やかで好印象なのだが、如何せん全裸である。

すぐに、武蔵住民は窓を閉めた。

が、それをイトケンが気にすることは無い。

一方で、倒れているアデーレの元には一体のオレンジ色のスライムが向かっていた。

彼の名はネンジ。見たとおりの異族で、周りからは「HP3くらいしかないスライム」といわれている。

 

『今向かうぞアデーレ殿っ……』

 

と、そのネンジがぐにゃりと曲がり、やがて飛び散った。

ネンジの頭の上を文字通り踏みつけて、葵・喜美が走っていったのだ。

 

「ごめんねネンジ!悪いと思ってるわ!ええ本当よ!私はいつだって本気よ!」

 

後ろでは、ネンジが飛び散った体を再生させながらイトケンと合流していた。

喜美は一通りネンジへの謝罪を述べる。

と、今度は地上のほうから喜美へと声がかかった。

豊かな銀色の髪を持つ少女。腕章には『第五特務 ネイト・ミトツダイラ』とある。

 

「ちょっと喜美!貴女謝るときはもうちょっと誠意を見せなさいよ!淑女たるもの!!」

「フフフ出たわねこの妖怪説教女!」

「なんですって!」

「にしてもミトツダイラ。アンタ何地べた走ってんの?いつもみたいに鎖でドカンとやりなさいよ。アンタ重戦車系だものね」

「ここら辺は、私の領地なのですよ!それを貴女達ときたら……」

「ククク先生に勝てない女騎士が狼みたいに吠えてるわ!」

「なぁんですってぇ!!」

 

流石に頭にきたのか、今手にしたアデーレの従士槍を投げつけてやろうかと考えてると、後ろから何かが走ってくる気配がした。

そしてそれはすぐに二人と並走した。

 

「おっす。二人とも。朝から元気だな」

「あら葉月。アンタ今まで何やってたの?」

「ちょっと〝浅草〟方面に手伝いに行ってた――――で。これは何? 授業?」

「Jud.〝品川〟につくまでに先生に一撃入れられたら出席点5点プラス、だそうですわ」

「マジ!? よし。ちょっと先に行くぜ!!」

「って、やる気の出しところ間違えてますわよ!」

 

気にするな、と言わんばかりに葉月は軽快に笑う。

ネイトは呆れたようにため息をつく。

 

「大体。葉月は本気、というものが出せないのでしょう。いつまた荷重符の限界時間が来るか分からないですのよ?」

「平気平気。あと四十分くらいは問題ない」

「クククミトツダイラ。そこの杖男の心配はあの乳巫女にやらせておきなさい。かーちゃん気質で乳なんて巫女なのにイヤらしいことこの上ないわね!!」

 

カンッ、と喜美の足元に矢が刺さった。

間一髪、喜美はジャンプしてそれを避けたが、その顔は若干引きつった笑顔になっていた。

 

「フ、フフフ。いいわ、ええもうすごくいいわ! 何がいいって具体的にいえないけどっていうか分からないけどとにかくいいわ! 誰もあのズドン巫女から逃げられないのよ!!」

「葉月。喜美をどうにかする方法ってないんですの」

「怪異の中に放り込んでやればいいんじゃないか――――ああ。分かったから喜美。青ざめた笑顔で気絶しようとするな授業中に」

 

扱いが手馴れている。

葉月が一息はくと、そのまま先頭の集団に向けて屋根伝いに跳躍による移動を重ねていた。

 

「相変わらず人間離れした運動能力ですのね」

「アンタがそれ言う? 鎖でドカンやったり、鉄廃材を持ち上げてバコンやったり、愚弟を掴んでぶん投げたりしてるじゃない」

「に、二番目はやった記憶がありませんのよ!?」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月が前方まで一直線に飛ばすと、そこには背の長剣を手にしたオリオトライと錫杖を構えた神耶が鍔迫り合いをしていた。走りながら。

 

「見つけた!」

 

葉月がそう叫ぶと、背中の杖を抜き放つ。

そして徐々に距離を詰めると、そのまま大上段に振り下ろす。

 

「すんません遅れました! 白百合・葉月、ただいまから授業に参加します!!」

 

が、流石に読まれていたようで途中で長剣で防がれた。

 

「遅刻だよ葉月!〝品川〟に着くまでに来なかったらアンタんとこのメニュータダで食べさせてもらうつもりだったのにさ!!」

「教師なら金払えや!」

「金欠教師に何言うのさ君は!」

 

そのまま弾くと、今度は神耶が攻撃を仕掛けてきた。

それと同時に、体勢を立て直した葉月も即座に仕掛けた。

 

「おっとっと!危ない危ない!」

「チッ! やっぱ避けるか。神耶! 挟撃するぞ!!」

「Jud.Jud.」

「あはは。言うねぇ。でも、そんな簡単には行かせないよ!」

 

葉月の杖が大上段に振られるが、オリオトライはそんな葉月の懐にすかさずもぐりこむ。

が、すぐさま神耶が背後を取り、手にしている錫杖を突き出す。

オリオトライは慌てた様子もなく、身を捻って回避し、回し蹴りを放つ。

流石のオリオトライも、見事に連携の取れた二人を相手にするのは苦戦を強いられるようだった。

しかも後続も追いつきつつあり、尚且つ空からはナイトとナルゼが狙っている。

 

……連携、上手くなったわね。

 

けれども、それで一発食らってやるのは話が違う。

すぐさまその場を離脱した。

 

「他の連中の足止め程度かよ。俺らは」

「まあまあ。でも葉月大丈夫?」

「今のところ平気だ。荷重もただの倍加だし。これが四倍とか言われたら涙目だけどさ」

「うん。まず普通の人間は荷重がいきなり二倍になるの耐えられないから。しかもそれが寝ている最中もとか。拷問だし」

「慣れりゃどうってことないさ」

 

軽く笑い飛ばす葉月を呆れ顔で見る神耶。

〝品川〟はもうすぐだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

最終的に全員が〝品川〟に到着するころには息も切れ切れだった。

対してオリオトライは息切れはおろか汗すらかいていない。

 

「こーら。遅れてやってきて勝手に寝ない! 生き残っているのは鈴と葉月と神耶だけ?」

「はい?え、と。あの、私、運んでも、らっただ、けです、の、で」

 

確認する声に反応したのは、上半身裸で筋骨隆々の大柄な青年、ペルソナ君を仰いでいる少女、向井・鈴だった。

オリオトライはそれでいいのよ、と頷く。

 

「そういうのがチームワークなんだから。生存三名。救助者も上手くフォローできていたみたいね」

「俺らは遂に一撃当てられなかったな」

「むぅ。折角のデートの権利が……」

「お前妙にやる気あるなと思ったらそれかよ」

 

今度は葉月が神耶に対して呆れ顔。

と、オリオトライの背後で扉の開く音がした。

 

「何だテメェら!ウチの前で遠足かぁ!?」

 

そう怒鳴り声を上げるのは、赤い肌に四本の腕に角。

魔人族だ。

 

「あーらら。魔人族も地に落ちたわねえ。って、今は空にいるのか」

「あン!?」

 

魔人族が威嚇するように声を上げながら進む。

オリオトライもまた、全く怯むことなく長剣を携えて進む。

 

「夜警団から言われてるのよ。シメてくれって。個人的には、先日の〝高尾〟の地上げ覚えてる?」

「あァ?んなのいつものことで覚えてねえな!」

「――理由分からずぶっ飛ばされるほうも大変よねぇ」

「っ、このアマ!」

 

脳の血管が切れるのを感じた魔人族はそのままオリオトライに向かっていった。

オリオトライは特に慌てた様子もなく、生徒達に講義を始める。

 

「じゃあまず先生が見本を見せます。いい?生物には頭蓋があり、脳があるの。頭を強く打てば―――」

 

と、向かってくる魔人族の角を長剣で正確に打った。

すると、魔人族はフラつき、あらぬ方向に転ぶ。

 

「……っ!?」

「脳震盪を起こすの。でも魔人族なんかは回復早いから、そんなときは素早く対角線上を、打つ!」

 

ガンッ、と嫌な音が響き魔人族は地に沈んだ。

 

「はい。これが魔人族の倒し方。じゃあ次は実践ね。誰かやってみてー」

「出来るかあんなことー!」

 

まるで「ちょっとそれ取って」みたいな気軽さでいうオリオトライ。

生徒達は渾身の力でツッコミを入れる。

すると、ヤクザの事務所からもう一人、魔人族が出てきた。

 

「テメェら!兄貴に何しやがる!死ぬ覚悟出来てんだろうなぁ!!」

「はーい。じゃあやってみたい人ー」

「じゃあ、僕が」

 

そういうのは神耶。

神耶が一歩前に出ると、魔人族はいやらしい笑みを浮かべた。

 

「へっ。なんだ。詫びの入れ方分かってんじゃねえか。よぉ嬢ちゃん。こっちで―――」

 

その先は言えなかった。

なぜなら、魔人族が床に叩き伏せられていたからだ。

理由は簡単。神耶が一瞬で相手の頭上を取り、そのまま殴りつけたのだ。

とても細身の体から出る筋力ではないが、それでも魔人族を地に伏せた。

 

「…………あ、は♪」

 

そういって怪しさ全開、危険度K点越えの笑みを魔人族に向ける。

次の瞬間、神耶の蹴りによって魔人族は己の所属する事務所に大穴を開けて突っ込んでいった。

 

「……こんな感じ?」

「そう。そんな感じ」

「やりすぎだッ!!」

 

いくら体が頑丈な魔人族といえど、今のは死んだんじゃないかと思われるくらいだった。

すると、魔人族の事務所が建造物用防壁の表示枠を出した。

 

「あらら。流石に警戒されたか」

「あは。ちょっとテンション上がってきた。先生。ちょっとバラしてきていい?」

「ああ駄目駄目。後々責任取るの私になるもの……ヤるのはバレないようにしなさい」

「そこは殺し自体を止めろよ!!」

 

それを近くで聞いていた葉月は頭が痛くなってきた。

 

「……ねえ、なんでこの二人はこう……破壊思考が強いわけ?」

「葉月君。もう諦めましょう。昔からそうじゃないですか」

「というか神耶殿に至っては、もう少し大人しくすれば絶世の美女なので御座るが――――あ、女でないなら問題ないで御座るな」

「よしドンドン壊せ。修繕費にバレない程度に金を盛り込んで多く取る」

「んもうシロ君ってばお金に貪欲なんだから!」

「小生思いますに。あれはもう小悪魔の領域を超えていると思います。まあ小生は断然小さい子派なのでショタ顔といえど同年代の神耶君は……」

 

とここで太った少年、御広敷・銀次がナルゼとナイトに吹っ飛ばされた。

そろそろ止めるかと葉月が動こうとした瞬間、

 

「あれ?おいおい皆。主役差し置いて何やってんの?」

 

そんな声が聞こえた。

振り向くと、そこには武蔵アリアダスト教導院の制服に身を包み、上の制服に飾り紐をつけた少年が立っていた。

 

「俺、葵・トーリはここにいるぜ!」

 

武蔵アリアダスト教導院所属。現総長兼生徒会長、葵・トーリだった。

 




どうもKoyという名のKyoです。
もういっそKyoでいいかな。にじファンからそう名乗っていたので慣れてしまって。

ようやく馬鹿の登場です。なぜここまで掛かったし……

ちなみに神耶、笑顔な破壊狂です。普段は天使、時々魔王。
でもってみんなのマスコットキャラ。あの同人コンビでさえもネタにはしないという。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。
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