ネシンバラが到着して、ある一つの変化が起きた。
それは、今まで沈黙を守っていたシェイクスピアが立ち上がった。
ネシンバラは即座にその動きに対応すべく、シェイクスピアに近づく。
「〝敵は地面に叩きつけられる!〟」
直後、シェイクスピアは地面に再び落ちた。
それに、畳み掛けるようにネシンバラは表示枠の鍵盤を打つ。
「〝文字列は敵に纏わり、やがて爆発する!〟」
そして、その通り爆発した。
これこそが、準上位契約者であるネシンバラの使用する術式。『幾重言葉』
早い話が、自分の打った文章が現実になるというものだ。
ただし、それには奉納として、自分の信奏する神が喜ぶレベルでの文章を奉納する必要がある。
ネシンバラは離れて、様子を見ようとした。
が、それはすぐに起こった。
爆風が去り、その中から無傷のシェイクスピアが現れたのだ。
「――――驚いたね。どんな術式なんだい?」
「別に。君とそう大して変わらないよ」
「そうかい。でも気になるね」
だから、とネシンバラはさらに文字を打つ。
が、それよりも早くシェイクスピアが言葉を紡いだ。
すると、辺りが一転、暗くなった。
「これは――――」
すると、シェイクスピアは読んでいた本を閉じる。
「これが今回用意した脚本――――第二悲劇『マクベス』」
すると、二人をスポットライトが照らし出すように、天から明かりが二人を照らす。
そして、シェイクスピアの足元から流体で出来た人型が生まれた。
「さあ。開演だ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「わけあたえるのー」
「フッ。まだまだ」
セシルはウルキアガと相対していた。
荷重を掛け続けるセシルに対して、ウルキアガはゆっくりだが歩き、セシルに近づいている。
(しかしどうするか。荷重自体は問題ない。問題は、空にいる敵を如何にして落とすか、だな)
「ついかするのー」
荷重が、更に重くなった。
おそらく、ウルキアガにのみ荷重を絞っているのだろう。
他の部分が軽くなる分、ウルキアガにはほぼセシル一人分の重さが乗っていることになる。
「ふ、む。多少、重いな」
やや動きが鈍くなったが、それでも動きは止まらなかった。
が、
「ぶち抜け青春――――!!」
横から強烈な蹴りが飛んできた。
その正体は、ベン・ジョンソン。
ノリキと相対していたが、彼の持つドーピング用シリンダーの効果により、身体能力が向上していた。
ゆえに、ノリキは吹っ飛ばされ、ウルキアガに向かっていったのだ。
「
と、そんなジョンソンに向かって、雷の矢が飛んできた。
ジョンソンはそれを紙一重でかわしつつ、撃ってきた人物を見る。
「You。ダッドリーはいいのかい?」
「見りゃ分かんだろ」
見ると、ダッドリーは聖譜顕装を片手に、葉月の攻撃を凌いでいた。
「ハハッ! Mate! 古代魔法使役士の攻撃を凌ぐなんてやるじゃないか! Ladyからお褒めの言葉をもらえるぞ!」
「ううう、うるさいわね! こっちは凌ぐだけで精一杯なんだから、じじじ、邪魔しないで!!」
「おっと。これはすまないな」
一方葉月は、倒れたノリキの肩を貸していた。
「大丈夫かノリキ」
「解ってることを言わなくていい」
「そうか。無理そうなら、手を貸すが」
「大丈夫だ。それに。もうすぐ英国の周回軌道に入る」
見ると、先ほどより英国が近くなっていた。
ノリキは立ち上がると、肩を回す。
「時間までこちらが踏ん張ればいい」
「仕事と同じだな」
「Jud.」
「よっし。なら俺も。時間稼ぎに徹しようかね」
「葉月が本気出すと武蔵が焼け野原になっちゃうからやめてよね。せめて英国本土でやるならいいけど」
「Jud.Jud.ウッキー! 大丈夫か?」
葉月は、少し離れたところにいるウルキアガに声をかける。
が、心配するまでも無く立ち上がっていた。
「拙僧の心配は無用! そちらのことだけを考えていろ」
「Jud.なら、行くぜ」
葉月は、魔法を繰り出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ネシンバラとシェイクスピアは再び戦っていた。
「〝マクベスよ。汝は王になるであろう――――されど汝。王を殺す簒奪者なり〟」
「うおっ、と!」
流体の人型――マクベスが襲ってきて、ネシンバラは慌てて後ろに飛ぶ。
「〝文字列は打撃され、叩き潰される!〟」
すると、マクベスが粉々に砕け散った。
「〝マクベスよ。汝は死なない〟」
「〝だがそこにもう一撃叩き込む!〟」
再び起き上がるマクベスだが、ネシンバラにより再び砕かれた。
「〝マクベスよ。バーナムの森が動かぬ限り、汝は安泰であろう〟」
しかし、再びマクベスは起き上がった。
「くそっ。キリがないな」
「じゃあ話を進めてあげるよ」
と、シェイクスピアから文章が現れた。
「〝野心に燃え、夫を唆した愚かなるマクベス夫人〟」
今度は女性――マクベス夫人が現れる。
マクベスがネシンバラの手首に掴みかかるが、ネシンバラは間一髪文章を完成させそれを振り払った。
前を見ると、シェイクスピアの背後に森が現れた。
「バーナムの軍勢が君を狙っているよ。マクベス」
「ッ、僕はまだ――――」
「役が潰されたら、誰かが配役されるんだよ」
「演劇空間か……確かに凄いね。でもさ。一体どうやって拝気を確保しているんだい? Tsrihc教譜では、内燃拝気は認められていないはずだよね」
「Tes.だからこそ。これが最大限に発揮される」
と、シェイクスピアはここで始めて、持ってきた紙袋の中身を出す。
それは、紙袋の拡張空間に収められていた、個人用の盾にも見える。
しかし、ネシンバラはそれを知っていた。
「それは、英国の大罪武装!?」
「Tes.『拒絶の強欲』。通常駆動ではただの盾にしかならないけど。超過駆動の時は、持ち主が受けたあらゆる痛みを流体に還元できるんだ」
「――成程。外燃拝気扱いだから問題はないわけだ」
「そういうこと」
「でも僕の与えた攻撃が、それだけの流体を生み出すとは思えないんだけどね」
「何を言っているんだい? 僕は常に莫大な攻撃を受けてるんだよ――――無論。君からもね」
「何!?」
シェイクスピアは顔色を変えずに言う。
「批評だよ。まあ、別に僕はそのことで怒ったりしないさ。逆に批評で怒るのは間違い。つまるところ、批評というのはその本を読んだことに対する感想に過ぎない。むしろ自分でも見つけられなかった穴を見つけてくれるんだから。僕は大歓迎すべきだと思うけどね」
「そこは同感かな。時々アドバイスをくれる人もいるね」
「その人は救いの神だね」
でもまあ、とシェイクスピアは『拒絶の強欲』をネシンバラに向ける。
「その攻撃が、僕に力を与えてくれる」
「くっ……」
「一つ。聞いていいかい?」
「……何」
シェイクスピアが口を開く。
それは、かつて
襲名者を育てる施設。
だがそれは、十三年前に一部の子供達の叛乱によって、崩壊。
その施設の名は――――
「第十三無津乞令教導院」
「――――ッ!!」
「ようやく会えたよ。№13、いや。極東所属を示す漢字で当てられた名前――――トゥーサン・ネシンバラ」
ネシンバラの脳裏によぎる。
それは、第十三無津乞令教導院の頃、共にいた一人の少女。
シェイクスピアは今までと打って変わって、激昂する。
「あの頃も、君は僕を傷つけた!」
刹那、地面からマクベスが現れ、ネシンバラの手首を掴む。
すると、掴まれた部分が術式と化し、ネシンバラと同化しようとしていた。
「くっ! 離せ!」
「行け!」
シェイクスピアが号をかけると、森から大量の軍勢がネシンバラに向かって突撃していく。
(今しかない!)
ネシンバラは、片手で鍵盤を打つ。
「〝彼は己に、衝撃を放った!〟」
ドッ、と撃つように衝撃がネシンバラを吹っ飛ばし、軍勢から離脱した。
そして、間髪入れずに、指示を飛ばす。
「〝品川〟! やってくれ!」
『Jud.』
すると、今まで前進していた武蔵がいきなりドリフト走行を始めた。
これにより、英国の役職者たちは驚きを隠せなかった。
ジョンソンが表示枠を操作する。
「ッ、周回軌道に入っただと?! クッ。時間切れか!」
彼はそのまま他の三人に声をかける。
「Mates! 撤退だ!!」
すると、呼びかけに応じるように、『グラニュエール』が飛んできた。
四人は『グラニュエール』に乗船する。
それを見送ると、葉月はほっと安堵の息をつく。
「ようやく行ったか」
自分はこのまま武蔵にいればいいか、と思っていた矢先。
「――――これはッ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
英国。第四階層。海岸付近。
そこには、一人と一羽がいた。
一人は、濃緑色の衣を纏い、顔は良く見えない。
一羽は、英国の制服を着込んだ、三本足の烏。八汰烏だった。
「〝傷有り〟様。早くここを離れましょう。何か飛んできたら危ないですぞ!」
烏は〝傷有り〟と呼ばれる人物に話す。
だが、〝傷有り〟のほうは気にせず、耳に手をやる。
「ミルトン。聞こえないか?」
〝傷有り〟は続ける。
「武蔵以外の、何か、別の――――」
そういった瞬間、空を翔る三つの光があった。
「ッ、対艦用の低速弾!? ステルス航行できる敵艦が来ていたのか!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
武蔵でも鈴がいち早く気づき、〝武蔵〟が総員に告げた。
『正体不明の敵艦より低速弾飛来。数は三』
それに反応したのは――――
「神耶ッ!!!」
「Jud.!!」
葉月が声をかけると、神耶が武蔵の横全面に防御結界を張る。
さらにそれは、六角形の集まりとなり、その上に更にもう一枚同じのが重ねがけされた。
三発のうち、二発は武蔵に当たるが、神耶が張り出した結界のおかげで無傷だった。
だが、一発は武蔵を逸れ、英国に向かっていった。
「ッ、マズイ!!」
葉月はそれに気づくと、猛然と駆け出した。
そして、武蔵から飛び出すと、そのまま飛行魔法を使い、弾丸を捕捉する。
「これで十分!
と、光の一矢が弾丸に向けて放たれた。
だが、その前に葉月は巨大な流体反応を感じ取った。
「コレは――――まさか!!」
葉月は、英国を見る。
すると、天を貫かんばかりの光の束が伸びているのを発見する。
「『Ex.カリバーン』だと?! 馬鹿じゃねえのか!!?」
すると、その光の束はそのまま英国の周りを一周するかのように振るわれる。
葉月は、何とかそれを避けたが、その余波までは防げなかった。
乱気流が発生する中、葉月が視界に捉えたのは、英国内に入ろうとする『グラニュエール』だった。
だが、気流の影響を受けているのか、ふらついていた。
「くっそマジで馬鹿だろうが!!
咄嗟に、葉月は『グラニュエール』に対し、気流操作の魔法をかける。
徐々に安定した姿勢を取り戻した『グラニュエール』はそのまま英国内に入っていった。
葉月は武蔵と離れずにいたが、それでも気流の影響で武蔵も相当バランスを崩していた。
仕方なく、葉月は輸送艦に降り立った。
「白百合?! お前今までどこにいたんだ!?」
「すまない! あれ? トーリは」
「知らん! なんかさっきからいないんだ」
と、葉月が振り向くと二代がそこにいた。
見ると、二代の視線の先にはトーリが牽引帯に引っかかっていた。
葉月は、二代の近くまで行く。
「ああ。白百合殿――――拙者、まさか第一発見者になろうとは」
「せーの、でどうするか言おうぜ」
「Jud.」
「せーの」
「「放っておく――――よしっ!」」
すると、正純が二代に話しかける。
「二代! 副会長として依頼する! 『蜻蛉切』で牽引帯を割断してくれ! このままだと〝高尾〟にぶつかる。あの馬鹿には後で私が言っておく!」
「Jud.」
一瞬、ちらっ、と全裸を見るが、すぐに牽引帯に向かう。
「証拠隠滅。結べ『蜻蛉切』!」
すると、牽引帯が割弾された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
〝傷有り〟は走っていた。
見ると、武蔵の輸送艦が第四階層の海に突っ込もうとしていた。
だが、その先には、子供達がいた。
「くっ! 間に合わない! なら、艦の軌道を変える!!」
そういうと、右手が光りだした。
迎撃用の術式だ。
〝傷有り〟は艦を迎え撃てる位置で止まった。
「よし、間に合――――」
う、と思ったそのとき、誰かに押し倒された。
そして、輸送艦が海に墜落した。
海の飛沫が雨となり、降り注ぐ。
〝傷有り〟は、上に乗っていた人物がどくのを感じた。
それは、映像で見た武蔵の第一特務だった。
「ふぅ。危ないところで御座ったなぁ」
こちらを見て言う第一特務。
と、
パシィン
平手打ちだった。
「なんてことをッ、あそこにはまだ!!」
「よく見てみるで御座るよ」
促されて、先ほど子供達がいた場所を見る。
すると、
「そちらは大丈夫ですの?」
「Jud.問題御座らん」
「おー。大丈夫だ」
あそこにいた子供達が、武蔵の特務に救われていた。
「いやー。よう御座った」
「あ、ああ」
〝傷有り〟は俯き、先ほど平手打ちをしたことを謝罪しようとしていた。
そして、頭を上げる。
が、そこに第一特務の姿はなく、既に遠くに背だけが見えた。
「あ、待っ――――」
〝傷有り〟が一歩踏み出すと、何かの液体を踏むような感触を得た。
それは、血だった。
だが、〝傷有り〟自身は血を流していない。
となると、
「…………」
〝傷有り〟は第一特務が去った場所を見つめていた。
ふと、子供達を見る。
そして、
「――――葉月?」
どうもKyoです。
さあ次回からはスーパー点蔵モゲろタイム!
皆さん藁人形は買いましたか? 一斉にやれば効果も倍増するはずです!
というかこの時点でもう押し倒してるんですよねぇ……爆ぜてモゲろ。
最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。
さて。執筆執筆。
えーと、あれがこうなってするとこうなって――――――
なんで点蔵に二人目のヒロインが?