「そ、そうだ! だから大人しくハーメルンから消えてくれぇ!」
「あれは嘘だ」
武蔵の輸送艦が、英国第四階層の海に突き刺さるように落ちてから丸一日が経った。
英国では、対策のための会議が開かれることになった。
故に、『
英国。オクスフォード教導院内にて、その『女王の盾符』が集まっていた。
「ででで、では。これよりオクスフォード教導院。生徒会・総長連合会議を始めます」
そう切り出したのは、副長。ロバート・ダッドリーだった。
「ほ、本日の議題は。我が英国に不法滞在を続けている武蔵の処遇について。どど、どう思われますか。女王陛下」
と、ダッドリー以下『女王の盾符』は全員、数段上の玉座に座している女性を見る。
金髪を纏め上げ、豪奢な洋装に身を包み、その顔は常に自信に満ち溢れんばかりの笑顔だ。
彼女こそ。英国の女王を襲名した、エリザベス一世。またの名を、妖精女王。
「諸兄ら。カードは使うべきときに使うのが一番だ。そう――――来るアルマダ海戦のジョーカーとして」
「Lady。武蔵を使うのかい?」
「Tes.まあ、状況によりけり、といった具合か。あれだけの巨大な艦。武装を積めばさぞや強力な武装艦になるだろうな」
ここで、手を上げるものがいた。
それは、全身を糸でつるし、重力操作によって体を動かしている自動人形。
『女王の盾符』の2。F・ウオルシンガムだ。
「どうしたウオルシンガム。珍しいな」
「Sweetheart?」
その言葉に、全員が固まった。
そして、一際早く再起動を果たしたジョンソンが聞く。
「M,Mate? 何かの冗談かね? いや。君が冗談など言うはずもないのだが……というか冗談であってほしいのだが……」
しかし、ウオルシンガムは気にせずエリザベスを見て、
「Good job」
「何がかね!? Mates! ウオルシンガムが壊れたぞ!!?」
ぐっ、と親指を立てるウオルシンガムだが、その意味は他の者には伝わらなかったらしい。
唯一。エリザベスを除いて。
「ふふっ。ああそうだな」
「何が!?」
全員が思わず聞くほど動揺していた。
その中、ダッドリーはゴホンと咳払いをし、場を仕切りなおした。
「えー、ででで、では。本日二つ目の議題に移ります」
チラッ、と自身が敬愛するエリザベスを見ると、続ける。
「ととと、とりあえず。F・ウオルシンガムをメンテナンスに出したほうが賢明だと思うものは挙手を」
ウオルシンガムとエリザベス以外、全員が手を上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「唐突だが正純。一つ提案がある」
英国第四階層に墜落した輸送艦では、既に人員が作業を始めていた。
修復もそうだが、まず何よりも食料の確保だった。
輸送艦にも食料はあるが、いつ武蔵と合流できるか分からないため、無駄遣いが出来ないのだ。
故にサバイバル訓練をしている点蔵などを中心に、海の中にいる魚を獲っていた。
魚獲り筆頭は、二代だった。
彼女は『蜻蛉切』を銛代わりにして、魚を突いては「獲ったどー!」の雄叫びを上げていた。
そして、残りの人員は艦を修復したり、思い思いの行動をとったりしていた。
正純は、葉月の呼びかけに振り向く。
「何だ白百合」
「ああ。思ったんだが。とりあえず俺が片っ端から魔法ぶっ放して、大罪武装寄越せ、って言えばすぐに済む話なんじゃ」
「頼むからお前は常識を見失うな!?」
冗談だ、と葉月は言うと海を見る。
そこでは、二代がまた魚を一匹仕留めていた。
「――――まるで漁師だな」
「二代は昔からああだからなぁ」
そういう正純は、周りを見渡して頭を掻く。
「どうした?」
「ああいや。皆、逞しいなって思って」
「まあ武蔵の住人の大半はこんな感じだよ」
「それはこの一年を通して痛感したよ……」
お疲れ、と葉月は苦笑し、再び二代の漁を見る。
正純は、そんな彼を見る。
「そういえば。白百合。お前は参加しないのか?」
「あー。別にやってもいいんだが。そうすると五月蝿い奴がいてな」
「……浅間、か?」
「いや。違う。英国にいる知り合いでな。そいつ、精霊術師なんだよ」
「……精霊術師と
「微妙に、な。俺たちは精霊と契約を果たすことで力を使える。一方で精霊術師は契約をしないで、その場その場で約束事をとりつけるだけで力の行使が出来る。いうなれば、前者は永続的。後者は一時的な力の行使だ」
「へぇ。そうなのか」
「で。そいつに、精霊の力で漁とか出たら楽だろうな的なことを言ったらさ。『そんなことに力を使っちゃいけません』って叱られてよ。」
と、懐かしげに話す葉月。
その顔は、とても無邪気で、子供のようだった。
すると、意気揚々と二代が海から帰ってきた。
「正純! 大量に御座るよ!」
「そうだな。これで当分食料の心配はしなくていいな。幸いこっちには料理人がいるし」
葉月の事だ。
材料があっても、誰かが調理しなければ食べられない。
二代は食べる専門。正純は出来るが、レパートリーが少ない。点蔵はサバイバル食になる。
となると、必然的に料理が日常になっている葉月に頼まざるを得なくなる。
そのおかげで、輸送艦の人員は毎日『ワグナリア』クラスの料理が食べられることを喜んでいた。
「うむ。葉月殿の料理は真に美味に御座る」
「そりゃ嬉しいね。作る甲斐もあるってものだ」
「一番喜んでいるのはミトツダイラじゃないか? この間の肉料理、凄い喜んでいたし」
「さしずめ。高級な餌を与えられて喜ぶ犬みたいなものか」
「誰が犬ですの!?」
後ろからやってきたネイトは葉月に向かって吠えるように怒る。
「ああ、いたのか。悪い悪い」
「葉月までそういうこと言うの止めてくださいませんこと? ただでさえ総長や喜美に言われているのですから」
「はいはいJud.Jud.」
「聞いてますの!?」
そういうネイトだが、葉月は耳に指で栓をして聞こえないというアピール。
しばらくネイトの怒鳴り声をそのままスルーしていたが、ふと、指を離す。
葉月は、そのまま英国本土を見る。
「どうかしましたの?」
「え、ああ。いや」
そう言ったきり、葉月は英国を見たまま黙ってしまった。
ネイトが何か言いたそうにしていたが、正純がそれを止めた。
「正純?」
「今はよそう。葉月も、英国にはそれなりに思い出があるんだろう」
「――――Jud.」
そういうと、二人は離れていった。
「――――分かってる。すぐに会えるさ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
武蔵。浅間神社内。
浅間・智は、自室にて憂鬱な気分に苛まれていた。
原因は二つ。
その内一つは、もう自室内にある。
茶色のウェーブヘアーをゆったりと流す少女。
幼馴染の葵・喜美。
別に。居ること自体が憂鬱じゃない。今までに何度もあることだからだ。
しかし、
「クククなぁに浅間。この
「うおおぉぉあああ!?」
これだ。
この狂人。こうして人の部屋に来ては、何かしら物色し、一番見られたくないものを発見する。
今回に至っては、トーリのエロゲを毒見しているフォルダである。
無論、プレイ済み。
「フフフ浅間。あんたこういうシチュが欲しいの? 夕焼けをバックに海辺で語り合う、って。一体何年前よ」
「い、いいじゃないですか別に! だ、大体これは種類別に分けているだけであって! 決して、決して! 葉月君に告白するためのイメージトレーニングをしているわけではないですからね!!」
「ふぅーん」
ここまで言ってしまった、と口を覆うが時既に遅し。
喜美はまるで新しい玩具を見つけたような笑みを浮かべる。
「私、別に葉月とか一言も言ってないのだけれど? 浅間はそういう、ふーん。なるほどねぇ」
「な、なんですか……」
「べっつに~」
今この場で撃ち殺してやろうか、と一瞬黒い考えが頭を支配するが、すぐに除去する。
そして、もう一つの憂鬱の原因。それが――――
「……葉月君。大丈夫でしょうか」
「アンタその質問何回目よ。大体向こうには正純やミトツダイラたちもいるんだから。そっちも心配しなさいよ」
「も、勿論ですよ。でも、やっぱり。葉月君は、その……」
それは、自身の想い人。白百合・葉月が居ないことだ。
彼は今、どうしているのだろう。と、そんな考えが頭を支配する。
見ると、喜美がにやにやしながらこちらを見ている。
「な、なんですか一体」
「別に~? ただどうしてコクらないのか不思議なだけよ」
「コ、コクるって……葉月君に迷惑かけたらどうするんですか」
「迷惑って決めるのは浅間?」
「それはその……」
ダメだ。こういう話になると喜美は強い。
無理矢理ではあるが、話題を変えることにした。
「と、とりあえず。英国からの連絡待ちですね。はい」
「ククク無理矢理な話題転換ね。まあいいけど」
そういって喜美は伝纂器の電源を落とす。
「向こうにはホライゾンもいるのよねぇ。無事だといいんだけれど」
「ああ。確かに。トーリ君大丈夫でしょうか」
「ああ。愚弟なら平気よ。ホライゾンの名前を連呼しながら全裸でそこらを駆けずり回ってるから」
「それのどこに平気と思える要素があるんでしょうか」
普段の彼からしたら平気、というかもう武蔵の日常風景に溶け込んで違和感ないのですが。
浅間はしばらく考えていたが、その内。無駄だということを悟り、考えるのを止めた。
「でも何で? 葉月だって、アンタを嫌ってるわけじゃないんだから」
「そ、それをまだ引っ張りますか!」
話題を戻してきた。
喜美は、髪を弄りながら言う。
「私から見て、アンタたちは結構いいと思うわよ。ただお互いにヘタれてる部分があるだけで」
「うぐっ……」
「まあ、葉月に関して言えば。あれは鈍感なのか、それとも気づいててスルーしているのか。前者なら殴り飛ばしてやりたいわね。後者ならもう――――」
と、虚空を引っ掻くような動作をする喜美。
何をする気なのだろうか。
「で。アンタは何でしないの?」
「……笑いません?」
「笑わないから言いなさい。ホラ」
浅間は、言うべきか言わざるべきか悩んだ挙句、言った。
「言ってるんですよ――――――エア葉月君に対して」
「――――は?」
「だ、だから! ここに葉月君が居ると仮定して、その脳内葉月君に告白はしているんですよ!!」
浅間。まさかのカミングアウト。
そして、
「……あー。ゴメン。これにはまさかの賢姉もびっくりだわ。というかそれただの練習よね?」
「い、言いましたね? 言ってはいけないことを言いましたね!?」
「だってそうじゃない。ってかそれじゃあ本当、寂しい人か危ない人のどっちかよ。まあアンタの場合。物理的な意味で危ない人なんでしょうけど」
「な、なんでですか!? 私綺麗な巫女ですよー? 本当ですよー!?」
「とりあえずハナミが色々と困ってるから発言するの止めなさい」
見ると、ハナミの周りには表示枠がいくつか出ていて、それをハナミが片端から消していっていた。
「つまり、アンタの妄想では既に告白が成功していて。葉月と甘々な生活が繰り広げられているのね?」
「な、なんでそのことを!? ハッ! まさか喜美、読心術なんて変な技能を!?」
「あら。適当に言ったのだけど、案外当たるものね」
もうこれは完全に無視ですね。と浅間は喜美に背を向け、表示枠を操作し始めた。
「で。今は何をしているの? エロゲ?」
「トーリ君じゃないんです――――――新規契約ですよ」
「誰の?」
喜美が聞くと、浅間はJud.と頷く。
「葉月君のです」
どうもKyoです。
ということで点蔵出番ばっさりカット!
その代わり葉月の出番が、出番がががががが(ry
とりあえず葉月も爆発したほうがいいと思う人は是のボタンを。
最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
次回は、英国との通商会談ですかね。
ようやく