境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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土上の下り者

翌日。朝。

 

輸送艦に物資を運ぶため、武蔵が貿易艦を出した。

その理由としては、英国側が武蔵に対し通商会議を設けたいと提案してきたのだ。

 

これに応じる武蔵側は、一先ずの条件として輸送艦への物資輸送を取り付けた。

 

無論、輸送艦の人員に会いたいというものもいるだろう。

 

現に、葵・トーリは真っ先に輸送艦に乗り込もうとした。

牽引帯を歩けばいいのに、わざわざ飛行の符まで使って。

 

しかし、二代の『蜻蛉切』で符が割断され、馬鹿はそのまま海に落ちていった。

 

それを見た正純はため息をつく。

 

「何をやってるんだあの馬鹿は」

「いつも通りだと思うがな」

 

後ろに立つ葉月が正純に同意する。

 

「しかし。補給が届いてよかったよ。今夜は豪勢に食材を使うか」

「でも向こうの艦には先生もいましたわよね? となると――――」

「――――焼肉か」

 

と、肩を落とすように正純は言う。

すると、向こうから浅間が牽引帯を伝ってこちらに渡ってきた。

 

「ミト! 正純! 葉月君! 無事でしたか!」

「浅間! そっちはどうだった?」

「ええ。こちらは何事もなく。そちらは?」

「ああ。こっちも大丈夫だ」

「そうですか。良かったぁ」

 

浅間は胸をなでおろした。

 

と、浅間は視線を葉月に移した。

が、当の葉月は英国のほうを見ていて浅間には気づかなかった。

 

それを見た正純は、浅間に囁く。

 

「ここに来てからずっとこの調子だから。あまり気にするな」

「え、ええ。葉月君の生まれ故郷ですからね」

「知ってたのか?」

「Jud.」

 

正純は頷く。

 

「安心しろ。おそらく愛人とかじゃないと思うから」

「な、何言ってるんですか正純!?」

「大丈夫ですわ智。自信を持ってくださいな」

「ミ、ミトまで。……そ、そりゃあ私だって。この二週間会えなかったことでちょっと寂しいなー、なんて思ったりして、って何言わせるんですか!!?」

「いや。全部自分で言っただけだぞ」

 

正純が事実を指摘すると、浅間が頬を紅潮させる。

と、

 

「はぁぁぁぁぁづきぃぃぃぃぃぃ!!」

 

空から声がした。

見ると、銀髪碧眼の少女が葉月に向かって突撃していた。

 

葉月はそれに気づくが、一瞬遅く、そのまま少女のタックルを食らった。

 

「葉月! 大丈夫ですか!? 怪我はないですか!? そこらの女に初めてを奪われてませんか!?」

「よしOKニル。そこに正座しろ」

 

ガツンッ、と強烈な拳骨が少女に入った。

 

「ふぇぇ。だって心配したんですよー!」

「心配かけたことは謝る。が、それとこれとは話が別だ馬鹿」

 

はあ、とため息をつく葉月。

と、後ろの三人がこちらを見ていることに気づくと、少女を立たせる。

 

「悪いな。コイツは俺の契約精霊の一人だ」

「あ、はい。『闇』を司るニャルラトホテプと申します。気軽にニャル子、とかニルなどとお呼びください」

「さて。これからどうする」

「そうだな。まずは――――」

 

そう正純が言ったところで、悲鳴が聞こえてきた。

しかも輸送艦内からだ。

 

「……トーリだな」

「トーリ君ですね」

「あの馬鹿……」

 

全員が頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

英国。第四階層。海岸。

 

〝傷有り〟は海岸沿いを歩いていた。

海を見れば、そこには武蔵の輸送艦と物資の補給を行うために来た貿易艦がある。

 

ふと。前方から気配を感じる。

 

見ると、そこにはあの時自分を押し倒した武蔵の忍者が歩いてきた。

彼も、こちらに気づいたようだ。

 

「……あ、」

「……あの」

 

 

二人が近づくと、同時に言葉を発した。

すると、慌てるように忍者が言う。

 

「え、ええとで御座るな!」

「――どうして」

「い、いやー向こうの墓所のような場所の地盤がどうも歪んでいるので。地元の方々に知らせようかと」

「どうしてあのとき。私を止めたのだ」

 

純粋に、〝傷有り〟は質問した。

 

「貴殿は武蔵の第一特務と聞く。それほどのものならば、私の術式を理解していないわけではあるまい」

「ああ。いや自分。術式には疎いもので。全く気づかなかったで御座るよ」

 

嘘だ。

彼は、嘘をついている。

 

「どうして損をしようとする!」

「まあ、こちらの不注意で御座った」

「ッ……」

 

不意に、頭を下げられた。

こうなっては、もう何も言えない。

と、彼の前に表示枠が現れた。

 

全裸だった。

 

『おーいテンゾー!』

 

そういう全裸は股間の部分に何故かワカメをつけていてくねくねと踊っているようだった。

 

『ソイツと片付けちまえば、それでいいんじゃね? オメエ言ってたろ。あの墓所は直すか移設が必要でおじゃる、とかって』

「ご、語尾が違うで御座るよ! それ公家! 公家系に御座る!」

 

忍者が否定する。

 

表示枠の者は相変わらずくねくねしている。

どうにも体が濡れている上全裸だ。何かの精霊なのだろうか。

仮に湿った手の男(ウェットマン)と名づけておこう。

 

湿った手の男がこちらを向く。

 

『んでよ。そこの長衣の旦那。アンタこれからどうすんだ?』

 

そう聞かれ、懐から本を出して、答える。

 

「……墓所の確認と。補修、または移設の決定と作業を行おうと思っている」

『じゃあ話は早えな。テンゾー。オメエちょっと手伝ってやれよ』

「え、いや。しかし、で御座るな……」

「Jud.」

 

頷くと、忍者の脇を通り、墓所へと向かう。

 

「あ、ちょっ、待つで御座るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

墓所では、既に〝傷有り〟と点蔵が作業をしていた。

といっても、点蔵は墓標の剣を引き抜き、〝傷有り〟は足元に居る精霊たちに指示を飛ばしているだけだ。

 

名は犬鬼(コボルド)。労働の精霊で、対価を払うことで仕事をする鉱脈の精霊。

 

といってもサイズは本当に小さく、複数の犬鬼で一本の剣を持っている。

 

「うーむ。見事な指示で御座るな」

「犬鬼は単純な命令しか受け付けないが。仕事を割り振ってやれば、大きな業務を担うことが出来る」

「成程」

 

そういって点蔵は近くの剣を一本引き抜いた。

 

「よくそう簡単に引き抜けるものだな」

「何。ちょっとしたコツで御座る。まず真っ直ぐに刺す」

 

と、剣を押すと、地面の穴に広がりが出来る。

 

「こうすることによって。穴が広がるで御座る。あとは引き抜く」

 

ガッ、と音がして剣が引き抜かれた。

それを剣の山に載せる。

 

「ご覧の通りで御座る」

「貴殿なら。あの『王賜剣二型(Ex.カリバーン)』を抜けるかもしれないな」

「無理で御座ろう。メアリ様とやらでも、抜けなかったので御座ろう?」

 

点蔵がそういうと、〝傷有り〟は話し始めた。

 

「〝重双血塗れメアリ〟は不出来な女だ」

「王の器ではなかったので御座るか?」

 

Jud.と〝傷有り〟は頷く。

 

「メアリ・スチュアートとメアリ・チューダー。二人の王女の二重襲名者なら、あるいは、とも言われていたのだがな。その上。彼女の処刑が、アルマダ海戦の引き金になるのだから――――メアリという名は、英国に祟る、としか言いようがない」

「大変で御座ろうな」

 

そう、点蔵は言った。

〝傷有り〟は、顔を上げ、点蔵を見る。

 

「何故だ。その生き様は、英国に必要なのだぞ! それを大変とは――――」

「あらゆる損を自ら引き受けるとは。大変としか。自分。言葉を持たぬで御座るよ」

 

〝傷有り〟はハッとする。

先ほどの問答でもそうだった。

 

彼は自分が損を請け負うことで、こちらへの負担をなくした。

 

「――では。そんな馬鹿なことをするのは、なぜだと思う」

 

と〝傷有り〟は問う。

だが、答えはもう分かっていた。それは――――

 

「自分がやらなければ。誰かが損をするからで御座る」

 

しかし、と点蔵は続ける。

 

「そうだったとしても。辛くなるときや、傷つくときが御座ろう。そんなとき。味方になってくれる誰かが傍にいてくれると、良いで御座るな」

「……」

 

〝傷有り〟が黙ってしまった。

 

……しもうたあああああ! やらかしたあああああ!!

 

と、点蔵は直感的に思った。

 

「ああいや! 過ぎたことを言ったで御座る!!」

 

直後、股間にドゴッ、という鈍い打撃音が響いた。

見ると、犬鬼が石をこちらに投げつけたようだった。

 

『反省するど』

 

鈍い痛み。しかし、忍としての訓練を受けているため。多少の痛みは我慢できる。

……最も、痛いということに変わりはないが。

 

「どうした?」

「いや……なんでもないで御座るよ」

 

不審に思った〝傷有り〟は、点蔵に近づく。

が、剣を抜いた穴に足を引っ掛けて前のめりになった。

 

それに気づいた点蔵は、即座に切り替え、〝傷有り〟を庇う。

その際、剣に〝傷有り〟が纏っていた衣が引っかかり裂けてしまった。

 

点蔵は、怪我がないか〝傷有り〟を見る。

 

 

 

しかし、そこにいたのは、ふんわりとした金髪をした可愛らしい女性だった。

 

 

 

「ど、どうも。ありがとう、ございます」

 

と、透き通るような声でお礼を言われた。

 

(え、ええ!? ど、どういうことで御座るかこれは! 〝傷有り〟殿が女性、しかも金髪巨乳!? 自分、ついに脳内が現実を拒否し始めて二次元が代わりに出てきたで御座るか!! そ、そうで御座るよ! そうに違いないで御座る! ほぉら。確認すればさくっと理想の現実が崩れるで御座るよー!!)

「え、ええっと。〝傷有り〟、殿?」

「あ、はい。Jud.」

 

……本人だった――――――で御座る!!

 

慌てて点蔵は〝傷有り〟から退こうとするが、その腕を掴まれた。

 

……う、腕掴まれたで御座るよ。掴まれちゃったで御座るよ!?

 

「あの。本、落ちてませんか?」

「ほ、本?」

 

点蔵が辺りを見ると、少し離れたところに小さな焦げ茶色の表紙の本があった。

点蔵はそれを手に取り、タイトルを見る。

 

……極東語スラング辞典?

 

それを〝傷有り〟に渡す。

 

「良かったぁ。女だと嘗められるのでいけないので、って。ミルトンが」

『嘗めたらぶちこむど』

 

後ろの犬鬼がやかましい。

 

点蔵は、〝傷有り〟を見る。

 

「それは大変で御座ったな。自分と話すのも苦労したで御座ろう。この点蔵。ありがたく思うで御座る」

 

瞬間、〝傷有り〟は目の端に涙を浮かべた。

 

…………またやらかしたあああああああああ!!

 

「ッ。す、すまんで御座る! 自分、何か傷つくようなことを!?」

「い、いえ。ただその。嬉しくて」

 

そういって涙を拭い、微笑む。

 

ああ、なんと綺麗な顔で微笑むのだろうか。と点蔵は内心思っていた。

 

ウチのクラスは外道ばっかで御座るからな……いや。葉月殿や神耶殿はそこまで酷くないにしても男で御座るし。正純殿も、最近は武蔵の空気に中てられてきてるで御座るし。

 

「あの。私が女だということ。黙っておいてくれませんか?」

「Jud.よう御座る。忍者は秘匿を守る職務故」

「ありがとうございます。えっと……点蔵様、でよろしいんですよね?」

 

……様付けキタ――――――!!

 

心の中で狂喜乱舞していると、表示枠が不意に開いて全裸が映し出された。

 

『テンゾー。ちょっと頼まれてくれねえ?』

「な、ななななんで御座るかトーリ殿!?」

 

点蔵は、〝傷有り〟を隠すように表示枠の前に立つ。

 

……何というタイミングの悪さ。トーリ殿。もしやわざとやっているのではなかろうか。

 

『なんか姉ちゃんが風呂が欲しいとか天才じみたこと言ってさ。だからさ。温泉、ねえかな?』

「温泉、で御座るか」

 

点蔵は〝傷有り〟を見る。

 

しかし、彼女もどうやら温泉の在処は知らないようだ。

 

と、ここで点蔵は何かを思いついたのかJud.と返事をして表示枠を消した。

 

「〝傷有り〟殿」

「Jud.何でしょう?」

「――――ちょっと犬鬼を借りるで御座るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「姉ちゃん! テンゾーがなんとかしてみるってよ!」

「フフフよくやったわ愚弟。あのパシリ忍者はよく働くこと」

「手伝いに行ったほうがいいかなー?」

 

甲板上では、トーリを始めとした梅組の数人が集まっていた。

 

その内、神耶が点蔵のところへ行こうとするが。喜美に止められた。

 

「ダメよ神耶。アンタ髪が傷みやすいんだから。ただでさえ潮風でザラつき始めているのに。あの忍者の手伝いなんかしたら泥まみれよ」

「いやー。別に女の子じゃないからいいよ。そこまで髪質気にしてないし」

「聞いた愚弟!? 気にしてないのにこの髪のツヤよ!! サラサラ具合よ! 賢姉が毎日毎日毎日毎日、髪のお手入れや肌ケアをしてるっていうのにこの完璧男の娘はそれすらしてないのよ! それでいて女顔負けの肌と髪よ!! ねえこれ賢姉の負け? 負けなの!?」

「姉ちゃんいい空気吸いすぎだぜ! あとそれは神耶が特別なんだと思うぜ! なんたって武蔵が誇る最強の男の娘だもんな!」

「……最凶、の間違いじゃないのか?」

「何か言った葉月?」

 

にっこりと、笑顔を浮かべて葉月を見上げる神耶。

葉月は、別にといって顔を逸らす。

 

「ッ、何者ですの!!」

 

刹那、ネイトが背後に向かって銀鎖を投じる。

が、見えない壁に阻まれるかのように、弾かれた。

 

すると、今まで誰もいなかった場所から、人影が現れた。

 

(個人用のステルス術式ッ……)

 

すると、隠れていた人物が出てきた。

 

「やあすまないPeople――――脅かすつもりはなかったと、信じてくれるかね」

「『女王の盾符』の9、ベン・ジョンソン!!」

「覚えてもらえて光栄だLady」

 

黒人の詩人は左にずれる。

 

すると、そこから現れたのは、赤髪の自動人形だった。

 

「紹介しよう。2のF・ウオルシンガムだ。私の護衛役として来ている。そして――――」

 

ウオルシンガムの後ろからさらに一人の男性が出てきた。

眼鏡をかけた背の低い男だ。

 

「彼は7のチャールズ・ハワード。英国の会計であり。英国艦隊の所有者だ」

 

そういうと、彼は甲板上に降り立つ。

ネイトが警戒する中、彼は両手を上に上げる。

 

何かの攻撃か、と全員が思う中、彼は突然、膝を突く。

 

そして、挙げた両手を床に着き、さらに頭を着ける。

 

各国の会計は、そのまま商人である場合が多い。

武蔵も、シロジロとハイディは「○べ屋」という商会の幹部だ。

 

そして、商人であるならば必須のスキルがある。

それが、このDOGEZAである。

 

「お願いします。英国を、救っていただけないでしょうか!!」

 

そういってDOGEZAを継続するハワード。

その場にいたハイディは自分とシロジロの共通走狗、白狐のエリマキに撮影をさせている。

 

その後ろでは、

 

「……ミト。彼の土下座見た瞬間、固まりましたよね?」

「し、仕方ないでしょう! アレだけ見事な土下座。見たことありませんもの」

「私も土下座する人間を見るのは初めてだが。あれほどか……」

「ちなみにシロはもっと凄いぜ! な、姉ちゃん」

「フフフそうね。きっとあの守銭奴が土下座ったら、英国の連中度肝を抜かれるでしょうね」

 

円陣を組んでひそひそと話していた。

 

その中、葉月は『女王の盾符』の一人。ウオルシンガムを見つめていた。

向こうも、葉月を見ていた。

 

葉月は、ふっ、と笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Fine?」

「Jud.久しいな。ウォルシー」

 




どうもKyoです。

さーて。ここから大変だ(何

自分で大変にしておいて今更何を、と思うでしょうが。何かこう、次々とこうしたいああしたいと思っているうちにこうなってしまったので……

ちなみに自動人形であるウオルシンガムさんが出来た日は分かりません。
誰か知っている方が居たらお教えください。ソッコで直します。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回は通商会議。ホライゾンの魅力の一つでもあります。頑張ります。








さあ用意はいいですかー? 皆さん一緒に…………

点蔵モゲろ!!!!!!
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