境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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交渉場の戦闘者達

三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス。

その中庭に、アルヴィスはいた。

 

逆立ちしながら。

 

アルヴィスはその状態のまま。中庭を歩いていた。

足と腕に重りをつけながら。

 

そのままの状態で、一周、二周としていると、誰かが近づいてきた。

 

「何やってんのー?」

「んー? ああ。フローレスか」

 

位置を調整してみると、そこには、金髪をショートカットにした活発そうな少女。フローレス・バルデスがいた。

 

「まあ。見ての通り自主トレ」

「そんなハードな自主トレあってたまりますか。野球部ですらしないのに」

「この間花火を抱えてランニングしている姿を見かけたが?」

「……ああ。アレはゲーム。花火鬼ごっこ」

「どれだけ命がけなんだよ……」

 

よっと、とアルヴィスは逆立ち状態から腕の力だけで飛び上がり一回転し、見事に着地した。

 

「器用なもんねー。あ、これ落ちてた」

 

と、差し出したのは白いタオルだった。

隅のほうには、アルヴィスの名前が刺繍されていた。

 

「サンキュ。後で取ろうと思ってたんだが。面倒になってな」

「物臭は良くないよ。あとこれ」

 

そういって出したのは、スポーツドリンクの入ったボトルだった。

 

「水分補給も忘れて何時間やるつもりなのか」

「重ねてサンキュ。今度何か礼をしなきゃな」

「あ、じゃあ今度一緒に買い物付き合ってよ。兄貴一人じゃ荷物持ち無理だし」

「荷物持ちね。Tes.んじゃ後で通神文で送っといてくれ」

「Tes.」

 

そういうと、アルヴィスはエナレスの校舎に戻っていった。

 

残されたフローレスは、その場でぐっと拳を握る。

 

「……よし」

「何がよし、なんだ。妹よ」

 

後ろから声がした。

フローレスが神速ともいえる速さで振り向くと、そこには、木に擬態していたペテロ・バルデスがいた。

 

「……何してんの。兄貴。いや。兄木」

「フッ。妹よ。上手いことを言ったつもりでも。兄は兄だぞ」

「――――今の。どこから見ていたの」

「どこから、か。そうだな。確かアルヴィスを遠くからお前が見つめていてドリンクを準備したり、台詞の練習をしていた辺りから兄は見ていたな」

「ほぼ全部、ってか練習試合も見ていた感じかっ!!」

 

ドゴッ、と擬態用の術式模型が破壊された。

 

出てきたペテロに対し、フローレスは常備している白球を兄の股間目掛けて投げた。

直後、一瞬硬直したかと思うと、そのまま白目を剥いて倒れた。

 

フローレスは真っ赤な顔を隠しながら、その場を去る。

 

「……絶対。空振り三振で打ち取ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵。貿易艦上。

 

そこでは、英国と武蔵の会議が行われようとしていた。

が、まずは友好、ということで。武蔵から料理が振舞われた。

 

――――魚の刺身にカレーをかけた、明らかに常識ではかれるような料理ではない料理が出された。

 

それも英国側だけに。

 

「武蔵名産。とれたて刺身のカレーがけです。さあどうぞ。ああ。私たちのことはお気になさらずに。後でいただきますので」

 

どんな言い訳だ。葉月は内心思っている。

 

薦められるがままに、チャールズ・ハワードが口に運ぶが即座に口を押さえる。

 

「――俺も手伝ったほうが良かったかなぁ」

「そのほうが良かったかもしれませんわねぇ……」

 

と、隣に立つネイトがしみじみと言う。

 

「……だからといって肉料理にするとお前が暴走するからなぁ」

「し、しませんわよそんなこと!」

「冗談だ。にしても――――」

 

葉月はネイトの前にある表示枠を見る。

そこには、いつもとは違う、文章と、それぞれの顔がデフォルメされた絵とハンドルネームが表示されていた。

 

通神と違い、文字だけで話す。通称実況通神(チャット)システム。

 

「便利だよな。それ」

「葉月も契約したらどうですの?」

「んー。したいんだけど。ちょっと……」

「……? 何かありましたの?」

「昔なぁ」

 

葉月は懐かしむような、しかし決して思い出したくないような顔をして話す。

 

「昔、契約をしないかって、浅間に誘われて。でも俺。携帯社務だけで事足りると思ってたからさ。でも浅間。結構食い下がってくるから」

「あはは。まあ、昔からそうでしたものね」

「で。ある日勧誘に来た浅間がな。どうやらトーリを撃った後らしくてな。弓矢構えたまま来たから…………ちょっとトラウマになってな」

「……何かゴメンなさいですの」

「そのときの形相は、その…………うん。察してくれ」

「重ねてスミマセン」

 

ネイトが申し訳なく謝ると、鍵盤を操作する。

 

銀 狼:『智……あなた何をやってますの昔に』

あさま:『はい? 昔って何がです?』

● 画:『ひょっとして小等部の乱射事件の事?』

俺  :『もしくは殺害未遂じゃね? 現在進行形だけど』

賢姉様:『ククク馬鹿ね愚弟。そんなの常時エロい姿で誘惑している罪に決まってるじゃないの!』

あさま:『巫女! 私巫女ですから! そういうの禁止ですから! というか私別に何もしてませんけど!?』

銀 狼:『葉月が契約したがらない理由が分かりましたわ……』

あさま:『あ、あれはですね……か、怪異が出てそれを私が祓いに行った帰りなんですよ! 本当ですよー?』

 

どの道それが幼い葉月を怖がらせる原因になったのだろう。

 

と、意識を目の前の会談に戻す。

そろそろ始まるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「さて。では今回の貿易の件についてですが――――」

「Tes! 何でしょう!」

 

ハワードが身を乗り出さんばかりに食らいつく。

シロジロは冷静に、目を閉じてこういう。

 

「無しにしよう。うん。それがいい」

 

その瞬間、ハワードが猛烈な勢いで鼻血を噴いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

白金狐:『出血多量で死んだらこっちの責任かなぁ?』

○べ屋:『平気平気。だって向こうが勝手に鼻血噴いてるだけだもの』

俺  :『つーかアレだけの勢いで鼻血噴けるってすごくね? 俺もやってみてーぜ!』

ホラ子:『ほほう。トーリ様は鼻血を噴きたいと申しますか。ではこちらを向いてください。すぐに噴かせてあげますので』

白金狐:『まあトーリは放っておくとして。今回、英国は武蔵に何を求めてるの? 食料品?』

○べ屋:『Jud.それもお肉なの。今の武蔵には三河で仕入れた食肉が2000トンあるの』

あさま:『2000トン!? そんなにあるんですか』

○べ屋:『そう。ちょうど英国が一ヶ月で消費する量ね』

 

英国の国民は、一年に自分と同じ体重分の肉を食する。

だが、ここで問題が出てくる。

 

煙草女:『ちょっと待ちな。三河って。あれからどれくらい経ってると思ってるんだい?』

 

所変わって、アリアダスト教導院では。

オリオトライ、ヨシナオ、東が表示枠を見ていた。

 

そこで、直政の言の意味に気づいた東が話す。

 

「そうか。賞味期限が近いんだ」

「Jud.そう。術式も含めた冷凍保存でも。あと二週間ほどが限界であろうな」

「腐りかけの肉って、美味しいから先生大好き♪」

「えぇ……」

「味は別として。期限の迫った肉など買い叩かれるのが常。さて。この商談はどう纏めるかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ハワードが鼻血を拭き終わると、シロジロは話を続ける。

 

「貿易をしない理由は一つ。我々は聖連に睨まれている。そんな我々と貿易を行ったら、英国は聖連に逆らった、という印象を与えてしまう。それは、我々の望むところではない」

「T、Tes.しかし。我が英国は、対三征西班牙との戦いを間近に控えています」

「Jud.アルマダ海戦ですな。開始がいつか、聞いても?」

「機密ゆえ、明言は出来ません」

 

しかし、

 

「それまでに武蔵の物資を消費しきれるかどうか。そこが問題ですな」

 

ここで、同席していた正純はハッとする。

 

(武蔵の肉の賞味期限は二週間。それまでに消費しきれるかどうか、ということは――――)

 

と、正純の膝に乗っているエリマキが映している表示枠が新たに更新された。

 

○べ屋:『英国は二週間後にアルマダ海戦を始める気ね』

● 画:『でもそれまでに2000トンの肉を消費できるの?』

金マル:『保存食に加工するとか?』

礼賛者:『英国の処理能力ですと。昼夜問わず、国を挙げてフルでやれば一週間で加工できます』

○べ屋:『ということは。賞味期限二週間の肉を、貿易開始を一週間延ばして、買い叩きにくるわね』

 

シロジロは更に続ける。

 

「武蔵としても。英国の危機を救いたいとは思う。そして、貴国が聖連に睨まれないようにする必要もある」

「そのような方法がありますか?」

「ある」

「それは?」

「――武蔵と英国が合同で行う、春季学園祭だ」

 

ハワードは考え込むように下を向く。

 

「祭りともなれば。武蔵生徒会の屋台では、肉に限らず。多種多様な貿易品目を扱うことになる」

「Tes.では!」

「祭りの期間を、決めようか」

 

白金狐:『でも結局。二週間の賞味期限の肉を売るわけだよね? 売れるの?』

○べ屋:『Jud.祭りとなれば、皆宴会状態になるから。通常の二倍消費も可能。そうなると、一か月分の肉が捌けるのに必要な時間は――――』

 

「二週間だ」

 

俺  :『えーと――――よく分かりません!』

白金狐:『自信満々に言わないの』

○べ屋:『向こうが一週間で備蓄加工できることを隠して交渉してくるなら、こっちは祭りの二倍消費を前提に交渉しちゃおうって話』

 

シロジロの提案。が、向こうは首を横に振る。

 

「三日」

 

白金狐:『短ッ!』

賢姉様:『加工に必要な日数を考えずに、とにかく交渉を有利にするために少ない日数で来たわね』

○べ屋:『利益率を考えると、こっちが赤字にならないギリギリのラインは十一日。譲れるのはそこまでね』

 

「一週間と、準備に七日」

「三日と、準備に一日」

「一週間と五日」

 

ここでシロジロは一気に二日縮めてきた。

一瞬、ハワードが警戒するがそれもすぐになくなる。

 

「三日と二日」

「スコットランドへの輸送はこちらで行おう」

 

成程、とハワードは思う。

……時間を、別の手段で買う気ですね。

 

だが、これでもOKは出さない。

 

「では。祭りに余裕が持てそうなので。三日と準備に三日」

「一週間と、二日。合計九日でどうだろうか?」

 

ここで正純はシロジロを見る。

 

(一気に三日も縮める? 損益分岐を割っても、祭りの副次収入で取り返すつもりか?)

 

と、そんな正純の思考を読んでか読まずか、実況通神に書き込みがあった。

 

白金狐:『大丈夫だよ正純。シロジロは、確実に儲かる策しか使わないから』

 

その書き込みを見て、正純は小さく頷き、相手を見る。

 

「では。そちらの負担を減らすために。上陸許可範囲を広げましょう。第三、及び第二階層までの上陸を認めます。その上で、一日分を譲歩いたしまして――――」

 

ハワードは笑みを浮かべながら言う。

 

「祭りを三日。準備を四日。これで七日ですが。まあもう一日分譲歩しましょう――――――八日。これで同意を頂きたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「状況的に見て、ピンチではないでしょうか」

 

表示枠越しに、交渉を見ているホライゾンが言う。

その隣には全裸が居た。

 

「何で?」

「向こうが勝手に交渉を打ち切ってきました」

 

確かに。

今も向こうはこちらの返事を待っている状態で、おそらくこちらが何か言えば、それを引き金に交渉を終了させるつもりなのだろう。

 

だが、全裸はにやりと笑って交渉の席を指す。

 

「あそこにいるの。誰かわかるか?」

「……? シロジロ・ベルトーニ様ですが」

「そう。シロジロ・ベルトーニだ。そしてアイツは、武蔵の会計だ。向こうに出来て、こっちに出来ないことは無いんだよ」

 

すると、変化があった。

 

シロジロが立ち上がったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

即座に反応したのが、英国の護衛。ウオルシンガム。

だが、

 

「お待ちを」

 

その後ろでネイトが銀鎖を構える。

ウオルシンガムはその場で止まり、ネイトを見て、葉月を見る。

 

葉月は、いいから止まれといった感じのジェスチャーをしている。

 

ウオルシンガムが止まると、シロジロはハワードたちの前に立つ。

 

そして――――空へと跳んだ。

 

空中で一回転し、垂直に立つと両手を左右に広げた。

そして、落下しながら回転を始めた。

 

そのまま地上に降り立っても尚、回転は止まらず、強烈な回転により突風が生まれた。

ハワードは思わず腕で顔をガードした。

 

ハワードが腕を下ろし、相手を見ると、そこには――――

 

「その日数では無理ゆえ、御譲歩を!」

 

菓子箱を掲げ、土下座をしているシロジロがいた。

ハワードの背に戦慄という名の寒気が走る。

 

○べ屋:『やっだもうシロ君ってば! トリプルアクセル土下座だなんて、中学のインターミドルで使って以来だけど、あのときよりも更に回転と精度が増してる! 密かに練習を重ねてたのね! カッコいい!!』

白金狐:『これ、どうなってんの? というかどこから菓子箱を?』

あさま:『多分、ツッコんだら負けだと思います』

 

武蔵勢は誰一人として驚かなかった。

 

しかし、ハワードは未だに土下座のシロジロに感服していた。

 

……これが本場の土下座ですか。見事です!

 

土下座。それは如何なる陳情をも相手に通すことの出来る究極の交渉術。

由来は極東。故に、極東の商人は全員これをマスターしているのだとか。

自分も、英国の会計ではあるが。極東の商人用に土下座は必須科目となっている。

 

全身のバネを使っての、肉体の能力が問われる技能でもあるため。戦闘系ではない自分でも、それなりの筋力や身体能力を要求される。

 

しかも、土下座にもバリエーションはある。

今シロジロ・ベルトーニが行っているトリプルアクセル土下座もその一つだ。

 

しかも。この目の前の商人は、それを完璧、といえるほどの完成度を誇った土下座をこちらに見せた。

 

極東の制服特有の、長い裾や袖を乱すことなく、あまつさえ菓子箱まで。

 

「……面を上げてください」

 

と、ハワードは言うが。シロジロは微動だにしない。

だがそれも。

 

……見事!

 

土下座とは、本来相手の許しによって解いてよいものではない。

土下座を解くとき。それは自分の要求が通ったときだ。

 

如何なる罵倒もその頭の上を通り過ぎる。究極の攻撃であると同時に、究極の防御なのだ。

 

これには、自分は応じなければならない。何故なら――――

 

……この会談を始めるために、自分が土下座で譲歩したからです。

 

ここで相手の土下座を受け入れなければ、自分の土下座はただのファッションになってしまう。

ハワードは意を決する。

 

「九日! 祭りを三日。準備を六日で如何でしょう!」

 

それを表示枠越しに聞いていた東は感動するように声を上げる。

 

「土下座って凄いんですね、先生!」

「素人が真似しちゃダメよー。危ないから」

 

それに、とオリオトライは続ける。

 

「九日? そんなんじゃないでしょ。先生交渉とかは専門外だけど。いつもちゃんと言ってるはずよ――――中途半端はするな、って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

シロジロは土下座を解くと、菓子箱を相手方に置く。

 

「Jud.譲歩、ありがたいことだ」

「Tes.では!」

 

と、ハワードが若干の焦りを見せ始めた。

しかし、シロジロは、

 

「いや。見事な交渉でした。完敗です。ゆえに。こちらから追加譲歩したい」

「お断りする!」

 

ハワードが急いで言う。

が、シロジロは続けた。

 

「いえいえ。これはいわばサービス。無償です。ええ。無料ですとも。極東の商人はアフターケアも万全でなければいけませんので」

 

その中、正純は考える。

 

(だが、損益分岐の最低ラインは十一日。九日だと、祭りの副次収入で取り返せるかどうか、というところだが)

 

しかし、シロジロの発言はまだ終了していなかった。

 

「この交渉で。色々と私共は賢しらなことを言いました。ゆえに、その反省として――――全部ひっくるめて、期間を三日としましょう。うん。それがいい」

 

ハワードの顔が真っ青になって、今度は耳から血が吹き出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

白金狐:『結構愉快な人だね』

貧従士:『いや。あれを愉快と言いますか……』

○べ屋:『いっそ全ての血液噴出すくらい驚かせてやろうかなー』

約全員:『殺害予告するなよ!!』

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

耳から血が吹き出たため、隣に居たジョンソンはすぐさま椅子を引いて避ける。

 

「Mate! 止血だ!」

 

と、後ろにいるウオルシンガムにジョンソンは言う。

 

「This way?」

 

ウオルシンガムがハワードに近づくと、両耳の辺りに水平チョップを加えた。

直後、ハワードが崩れるように机に沈んだ。

 

労働者:『脳震盪だな』

白金狐:『止血方法間違ってるよね』

 

すると、両手を付きながらなんとか起き上がろうとするハワード。

 

「え、ええと。動かせぬためこのままで失礼しますが――――三日!?」

「Jud.」

 

シロジロは相変わらずの無表情。

ハワードは状況を理解しようと、何とか起き上がる。

 

(これは、ブラフの逆用か。三日では英国は肉を加工しきれない。しかも輸送や上陸許可まで取り付けて。この商人コンビは……)

 

凄まじい、と正純が感じる間もなく、ハワードが発言する。

 

「Tes.その譲歩、ありがたく受け取りたい――――しかし。あなた方に今以上の負担をかけること。それは、偉大なる英国と温情ある妖精女王と、その僕である『女王の盾符』は望みません」

 

故に、

 

「祭りを五日。準備を四日では?」

「祭りは三日。準備を二日。余裕を持つにしても。これで十分だと思うのだが」

 

ここが正念場だと、シロジロは喰らいついた相手を離さない。

 

「――――十日。祭りを六日。準備を四日。これで、負担無く作業出来ませんか?」

 

と、ここで表示枠でハイディが打ちこんだ。

 

○べ屋:『交渉の完全撤廃を匂わせてるね。向こうも損が大きいと判断したから、これ以上だと打ち切られちゃうね』

 

だとしたら、

 

「休日を挟んでいないな。祭りを六日。休日を一日。準備を四日。合計十一日でどうだろうか」

「…………Te――」

「もう一声――――向井! 聞いているか?」

 

と、ここで正純はその意図が分かった。

故に、その発言を遮る。

 

「待てベルトーニ。それはお前が決定すべきことじゃない」

「Jud.では副会長。頼む」

「Jud.」

 

ハイディが表示枠を正純に渡す。

そこには、鈴が映っていた。

 

「向井。君を臨時の外交大使として、倫敦に派遣する」

『――――え?』

「通神の自由と、アデーレ。君を護衛につける」

『ほぇ? あ、はい。Jud.です』

『ど、どうして? わた、し、なの? わたし、よく、わから、ないよ?』

『あははは。大丈夫だよ鈴ー。問題ないから』

 

と、神耶が通神に入ってきた。

それと同時にトーリも入ってきた。

 

『ど、どう、して?』

『そりゃ簡単だぜベルさん。俺たちの中で一番物言えて、頑固で、そんでもって。自分を大切にしてるのって。ベルさんだから』

『そうそう。他の連中じゃ、そうはいかないから。トーリじゃ絶対に失敗するし』

『キ、キツいぜ神耶! それに気にすんなよベルさん! 何かあったら貧乳スベリ女が何とかしてぐふぉあ! セ、セージュン、オメェコントロールよくなったな!』

 

正純が空になった手持ちの湯飲みをトーリ目掛けて投げた。

それを見ていた鈴は、正純に言う。

 

『正純、ダメ! ツッコミ、ホライゾン、の、仕事……』

 

……そういう問題かなぁ。

 

やや疑問は残ったが、とにかく、

 

「やってくれるか?」

『だ、大丈夫、かな?』

『平気だって。ベルさんが少しでも違うって感じたら、ダメ、って言えばいいからよ』

『それで、いい、の?』

『Jud.それに。俺がベルさんに頼むって事は、ベルさんのそこがいいってことだぜ』

『じ、じゃあ、やる、ね』

 

正純は内心一息つくと、次の指示を出す。

 

「葵。向井の護衛に二代を出せるか?」

『んお? おお。余裕余裕』

『拙者で御座るか?』

「Jud.彼女は武蔵の外交官だ。意味は分かるな」

 

外交官とはつまるところ、その国の代表の代理だ。つまりこの場合、

 

『極東の代理人。それは、姫ホライゾン様の代理人に御座るな。Jud.了解に御座る!』

 

正純は自分のなすべきことをなした。

それをシロジロに目配せで伝えると、シロジロは再びハワードたちに向き直る。

 

「人質としては、申し分なかろう? 武蔵から主力を引き離せるのだから。商人としては、これ以上ない成果ではないか?」

「Tes.では。祭りを七日。休日を一日、準備を――――そうですね。ここまで来たら、五日の十三日で合意としましょう」

「Jud.」

 

そういってお互いに立ち上がると、表示枠を手に乗せ、握手を交わす。

すると、互いの表示枠が浮かび上がり、そして光となって消えていった。

 

「では。二日の整理期間の後、学園祭期間に入るということで」

「Tes.いい御商売と結果を」

「Jud.いい御商売と結果を」

 

こうして、会談が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ああ。早く会いたい!

ようやく来てくれた。ようやく、ようやく来てくれた!

 

会いたい。

もう何もかも投げ出して、会いたいよ!

 

でも、そういうわけにもいかないか。

投げ出すと、怒られるし。怒ると怖いし。

 

だから、ああ。早く来て。

一緒にお茶をしよう。お話ししよう。

大きくなった私を見て! 絶対に綺麗になったって言わせるから!

 

だから、会いに来て?

 

私の、愛しい人――――

 




どうもKyoです。

いやー。本当に長くなった。
何なんだよ。一万字越えって……

今回は、ほとんど商人会話でした。

そしてようやく実況通神システム解禁……英国に入るまでは使わないと決めてました。
その分。これからバンバン使いますが。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に。無上の感謝を。

次回は、焼肉。そして。東、再び。



あ、一応先に言っておくと。ウオルシンガムは落としません。これ確定。
一瞬、「あ、それもありかな」と思った自分がいるのは秘密。

……次回も点蔵モゲろ回、かなぁ。
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