境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

35 / 61
It's a TENZO MOGERO time!


風呂場の捥がれ人

英国。第四階層海岸。

時刻は夜。

 

そこでは、盛大な焼肉パーティが行われようとしていた。

 

そして、音頭を取るため、シロジロが前に出る。

 

「では。武蔵アリアダスト教導院会計の、シロジロ・ベルトーニが代表して。明後日からの春季学園祭の準備と。両国における友好と――――私の金と私腹のために!」

「お前少しは本音を隠せよ!!」

 

あんまりといえばあんまりな音頭の取り方だ。

周りのものはそんな彼に対してツッコミを入れるが、当の本人はまったく気にしていない。

 

「シロ君シロ君。本音は最後まで隠しておいたほうがいいと思うの」

「むっ。それもそうか。よし。ならば改めて――――表向き、英国と武蔵の春季学園祭の成功を一応、祈って乾杯ー!」

「――――乾杯」

 

最早ツッコむことを諦めたようだった。

そんな中、既に麦酒を飲んで顔を赤くしているオリオトライが酒の入った杯を持って、

 

「他人の金で焼肉開始――!!」

 

声とともに、焼肉パーティが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

正純は困惑していた。

 

元々、彼女は肉よりも野菜重視で摂るタイプなのだ。

そも、あまり焼肉を食べたことが無い。

 

生粋の極東人である正純としては、食卓に三品ないと、とか、汁物はないかな、とか。思ってしまうのだ。

 

ふと、自分の隣に座っているネイトを見る。

 

すると、その皿には大量の野菜が乗っていた。

 

はっ、として鉄板の上を見ると、そこには先ほどまであった野菜類が全部消えていた。

唖然として再びネイトを見ると、もう野菜は消えていた。

 

「ふぅ。さて。野菜全部食べてしまいましたので。後はお肉だけですわね!」

 

……まさに狼。

 

というか、

 

「野菜が……」

 

驚きすぎてて忘れてた。

別に、肉を食べることに忌避は無い。

だが、野菜が好きな正純としてはないというのはどうも落ち着かないようだ。

 

と、肩を叩かれた。

振り向くと、そこには野菜の大皿を持った茶髪の少女がいた。

 

「――――(あげる)

「あ、ああ。Jud.ええっと……」

 

おそらく白百合の精霊なのだろうな、と正純は思うが名前が分からない。

 

すると、こちらの疑問を察知したのか、向こうから自己紹介をしてきた。

 

「――――『土』司(つちをつかさどる)。アーシー」

 

随分と独特な話し方をするんだなぁ。

 

思えば精霊には結構驚かされる。

 

銀髪の精霊は、事ある毎に葉月にアタックしかけているし。

赤髪の精霊は、銀髪の精霊にアタックしているし。

黄色の髪の精霊は、御広敷が近寄るたびに誰かにぶっ飛ばされている。御広敷が。

 

そもそも、精霊というカテゴリ自体。異族には無い。

近いもので妖精か。

 

そんなことを考えてると、向こうから全裸がやってきた。

 

「おーい! ネイト用だって。ハイディから」

 

その手には、大量の焼肉用の肉が乗った皿があった。

隣にいるホライゾンも同じだった。

 

ネイトは、それを銀鎖で受け取り、隣に置いた。

 

「そんなに肉が好きなのか?」

「獣人の性質ですの」

 

と、やや恥ずかしそうに言うネイト。

すると、ホライゾンが皿を持ち、焼けた肉をネイトに差し出す。

 

「ちょっ、ホライゾン!?」

「さ、あーんと口を。慰労の儀式です」

 

そういって、差し出したままの状態で待っているホライゾン。

その隣で全裸が、

 

「ホ、ホライゾン。実は俺もちょっと疲れてて、お、俺にもそれを――――」

「Jud.では、後ほど焼けた鉄板の上においてさし上げます」

「俺が食べられるのかよ! しかも物理的に!!」

 

相変わらず狂っていたので無視した。

だが、ネイトもいつまでもホライゾンを待たすわけには行かないと思い、目を閉じ、口をあける。

すると、香ばしい香りと肉の旨みが一気に口の中に広がる。

つけられたタレもマッチして絶品だ。

 

頬が緩み、ネイトはホライゾンに与えられるがままになっていた。

 

(……なんだこのノリ)

 

一方で、正純は少々ついていけなかったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

少し離れたところでは、点蔵と〝傷有り〟が静かに食べていた。

が、点蔵はあっちこっちにパシられていて、あまりゆっくりとは行かなかった。

 

するとそこに、葉月がやってきて、〝傷有り〟の向かいに座る。

 

「……今なら誰にも聞かれないぞ」

「あ、Jud.」

 

そういうと、元の女性の声に戻った。

その声は、嬉しそうに弾んでいた。

 

「久しぶりですね。葉月」

「Jud.元気そうだなメ――――っと、ここじゃ〝傷有り〟のほうがいいのか?」

「はい。しばらくはそう呼んでください」

「Jud.Jud.――――で。どうよ」

「どう、とは?」

 

にやりと、葉月は笑う。

 

「ウチの第一特務だよ」

「点蔵様、ですか?」

「Jud.惚れたのか?」

「ち、違いますよ!」

「おーおー」

「か、からかわないでください!」

 

〝傷有り〟は顔を紅くして言う。

 

葉月は未だに軽く笑っている。

 

「ああいや。悪い悪い」

「そ、そのですね……決して、決してお嫌いではありませんよ? むしろ好き――――」

「好き?」

「――――ああうぅ……」

 

〝傷有り〟はさらに顔を紅くし、俯いてしまった。

そんな様子を見て、葉月は愉快そうに笑う。

 

「ククッ。いっそ告白でもしてみたらどうだ?」

 

そういう葉月。

〝傷有り〟はそれを聞いて、一気に顔の熱が引いていくのが分かった。

 

「無理ですよ。だって私は――――」

「そうやって一手に引き受けようとするから。お前は周りが見えなくなるんだよ」

「ですがッ――――」

「戻ったで御座るよ、っと。葉月殿?」

「おう。パシりご苦労さん」

 

そういって戻ってきた点蔵に皿を渡す葉月。

 

「そういえば。お二人は知り合いなので御座るか?」

「Jud.昔馴染みさ。まさかここに来てすぐに会えるとは思ってなかったがな」

「それは私もですよ」

 

〝傷有り〟は微笑を浮かべる。

すると、葉月が突然、空に視線を向ける。

 

『めー! 〝傷有り〟様めー! まったくこの男は一体なんですか先ほどから馴れ馴れしい!』

 

一羽の烏が舞い降りてきた。

三本足の八汰烏。ミルトンだった。

 

「でかい九官鳥に御座るな」

『違うであります。こう見えて男ミルトン立派な烏であります!』

「ほーれキューちゃん。焼肉に御座るよー」

 

そういって、点蔵は箸で肉をミルトンの前に出す。

 

『いや。敵の手から焼肉など、ミルトンを甘く見てもらっては――――んー、美味ですな!どこの肉で?』

「皮で御座ろうな――――三河コーチンの」

『ぬぉぉぉ! それ近親食でありますぞ! ――――しかし美味。デリシャスコーチン』

「いや。まず躊躇い無く鶏肉渡すなよ」

 

葉月が呆れていると、ふと、隣の卓から浅間が声を上げる。

 

「八汰烏!? どうして英国に?」

 

それを聞いたミルトンは、足を一本隠すようにする。

 

『や、八汰烏ではありませんぞ! 九官鳥のキューちゃんでありますぞ!』

 

しかし、浅間は誤魔化されなかった。

 

「ハナミ! お父さんに連絡して。八汰烏が英国で焼肉食べてるって。きっとヨゴレ満載だから、ガンコ宮司のゲンコツクリーニングが必要だって」

『ひいぃぃ! それだけは無しであります!!』

「つうか。詳しいな浅間」

「Jud.八汰烏は極東の熊野系神社所属の霊獣型の走狗なんです。本来なら神社で労働奉仕しているはずなのに――――あ、コラ!」

 

余所見をしている隙にミルトンは脱走していた。

が、そこで逃がすような浅間ではなかった。

即座に弓を形成。直後に発射。

 

遠くで、烏の鳴き声のような悲鳴が上がった。

 

「流石ズドン巫女……」

「ちょっ、誰ですか今言ったの!? ズドン巫女とか不名誉極まりない綽名止めてくださいよ!」

「無理ね。もう武蔵の共通認識だし」

「三征西班牙の人たちも射殺巫女で呼んでたし」

「いっそ芸名にすればよくね?」

「ナルゼに神耶君にトーリ君! そういうのが私の、ひいては浅間神社の名前を貶めてるんですよ!」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ傍ら、点蔵の傍に一匹の犬鬼がいた。

 

『出来たど』

「犬鬼じゃねえか。どうしたんだ?」

「Jud.温泉作りを手伝ってもらっていたので御座るよ。犬鬼は鉱脈に住む精霊。ならば、温泉が湧き出る場所も知っていると思ったので御座る」

 

そういって、点蔵は懐から硬貨を一枚犬鬼に渡す。

 

それを犬鬼は一度地面に叩きつけてから、もう一度抱える。

 

『もらっといてやるど』

 

……あ、なんかムカつく。

 

点蔵は拳を震わせるが、すぐにそれも収まる。

 

と、点蔵と犬鬼の話を聞いてトーリがやってきた。

 

「おっ、温泉出来たの?」

「Jud.すぐにでも入れるで御座ろう」

「そっか。なら点蔵と長衣の旦那。一番風呂やるから入ってこいよ。確認の意味も込めてさ」

 

と、ここでトーリが〝傷有り〟を向く。

 

「そういやよ。長衣の旦那は聞いたことねえかな。二境紋」

「ニキョーモン?」

「こういうので御座るよ。『公主隠し』と呼ばれる神隠しに現れるもので御座る」

 

そういって、点蔵は地面に丸を書き、その中心を絶つように線を一本引いた。

 

それを見た〝傷有り〟は考え込んだ。

 

「それは、英国でも調べられていることですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その言葉を聞いた正純は不審に思った。

 

……ですね?

 

それに気づいたのか、〝傷有り〟はさっと顔を背けた。

 

「……調べている、というのは。どこで?」

「そ、それは――――もし。上層部の者達に接触できたなら、『花園(アヴァロン)』という場所について聞いてみるといい」

「『花園』?」

「――すまない。私最早部外者なので。多くは語れないのだ」

 

そういって、フードを深く被る〝傷有り〟。

正純は、それ以上は追及しなかった。

 

「よーし! じゃあ二人で風呂入ってこいよ!」

「え゛! い、いやしかし……」

「何してるんだよ。早く入ってこいよ」

 

点蔵があたふたしていると、〝傷有り〟が点蔵の腕を掴んで引っ張っていく。

 

「の、覗きは無しで御座るぞ!」

「誰がお前の風呂を覗くんさね」

 

直政が呆れたように呟く。

そんな離れていく二人の背を見て、アデーレが一言。

 

 

 

「あの二人――――怪しいですよね」

 

 

 

瞬間、場の空気が凍った。

 

しばらくその空気のままだったが、やがて御広敷が自分が言わねばと思い言う。

 

「小生あまり考えたくもないことを、アデーレ君はズバッと……」

「まあでも。英国は改派だし。いいんじゃないかな」

 

ナイトがそういって、ナルゼが頷く。

すると、東がナルゼを向く。

 

「そういえばナルゼ君」

「何?」

「セックスについて。もうちょっとよく教えてほしいんだ」

 

その瞬間、浅間は全行動を停止させ、直政は酒を呷り、神耶の瞳の光が消え失せた。

 

「この間教えてもらった通りにミリアムに言ったら。ものすごい怒られて。余の解釈が間違ってたんじゃないかな、って思って」

「あ、え、えぇと……」

 

ナルゼは慌てて隣のナイトを見るが、いやちょっと無理、みたいなジェスチャーをされた。

誰か適任はいないかと辺りを見る。と、

 

「あ、ええっと。私の説明だと不足だし……葉月に聞いて!」

 

と、肉を食べていた葉月にナルゼは話を振る。

 

それに反応したのは、ほかならぬ浅間だ。

 

「な、ナルゼ何を言ってるんですか! は、葉月君にそんな言葉の意味を言えだなんてこと……」

「あら。別に意味だけ教えるならいいじゃない」

「ひ、開き直りましたね!?」

「クククこのエロ巫女。別に口頭でも意味は十分伝わるのに何を焦ってるの?」

「い、いや焦ってるわけではなくてですね!!」

 

しどろもどろになる浅間を横目に、東は葉月のところへ行く。

 

「白百合君。そういうわけなんだけど。いいかな?」

「……まあ。別に変なことではないんだがな。ただ、あー……」

 

チラッ、と葉月は神耶を見る。

 

神耶はナルゼの背後に近寄っていた。

 

「ナ・ル・ゼ♪」

「ッ――――」

「何教えてんの? いや。別に教えてもいいけどさ。どういう教え方したの? 僕すっごい気になるなぁ」

「じ、神耶。え、えっと……」

「普通に教えたらこんなことにならないよね?」

「――――」

 

そういって、神耶はナルゼの羽に手をかける。

 

「ちょうど肉もなくなりかけだし――――手羽先、かな」

「葉月! アンタしか神耶抑えられないんだから何とかしなさいよ!」

「羽捥がれてろ」

「何とかしてください」

「ハァ…………神耶。ストップだ」

 

そういうと、葉月は神耶を諌める。

神耶も、葉月の声を聞くと、羽から手を離す。

 

「…………羽毛…………手羽先……」

 

不吉すぎる言葉を残しながら。

 

「で。話戻すけど。自分で調べるって気はないのかよ。東も通神帯は使えるんだろ?」

「あ、うん。Jud.でも解釈が色々ありそうで。ナルゼ君に教わったのは、人と人が深く仲の良い関係になることだって」

「おいそこの堕天」

「何よ。間違ってないでしょ」

「肝心の内容の一割も触れてねえよ」

 

すると、ホライゾンも近づいてくる。

 

「ホライゾンも知らない言葉なので。出来ればお教えください」

「え、何ホライゾン知りたいの? だったら俺が直接ぐべはぁ!!」

 

全裸が吹っ飛ばされたが無視。

すると、それに便乗して二代も自分も教えてほしいと申し出てきた。

 

「お前ら自分で調べろや……」

「そ、そうですよ! 通神帯もあることですし、ね? ね!?」

「Jud.ですが浅間様。ホライゾンは契約を結んでいないので通神帯が使えないのです」

「あー。そういやそうだったな」

「ですので。葉月様。お願いします。あ、トーリ様は結構です。なにやら不穏な空気が漂ってきますので」

「ち、ちくしょう! 俺は負けねえ、負けねえぞ!」

 

と、三人が葉月に向き直る。

 

「……とりあえずお前ら本でもなんでも自分で調べろ。それで分からなければ俺のところに来い」

 

何の拷問だこれは。葉月は空を仰ぎ、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

点蔵は今、人生の中でも最大の岐路に立たされていた。

 

自分は忍。それに見合うだけの訓練はしてきたつもりだ。

耐久力も特務の中では高いほうだと自負しているし、戦闘能力も負けてないだろう。

 

いざというときの思考や、サバイバル知識などもある。

たまーにエロゲをやるくらいだが。それは息抜きとしていいだろう。

実際、学校の成績はそこまで悪くはないはずだ。

 

だが。そんな点蔵でも、今の状況は予想外だった。

それは――――

 

 

 

 

 

 

 

「どうかされましたか? 点蔵様」

 

 

 

 

 

 

 

金髪巨乳の美人女性と風呂に入ることに御座る。

 

現在点蔵は、〝傷有り〟と共に、犬鬼たちと作っていた温泉に入っていた。

本当は、最初は〝傷有り〟が出たら入ろうと思っていたが、〝傷有り〟の誘いを無碍に出来ず(紳士三割、ヘタレ七割の割合)、こうして今に至る。

というよりも、実際は自爆して退路を自ら絶ってしまっただけだが。

 

「あの。お風呂の中でも帽子とスカーフ。外さないんですね」

「Jud.自分。忍者故」

 

自分の顔を見られること。それ即ち忍として死を意味すること。

如何に心を許した相手とて、顔は見られない。

 

しかし今は〝傷有り〟の方は向けない。

何故なら、豊満な肌色の二つの丘がこれでもかとばかりに自己主張し、湯に浮かんでいるためである。

 

落ち着け。落ち着くで御座るよ点蔵・クロスユナイト。

この状況、落ち着ければ何の問題もないで御座る。

 

そう。まずは状況を整理してみる。

 

1・金髪巨乳の〝傷有り〟殿

2・おっとり系

3・視線をまっすぐにしているのに右下に見える肌色の球体

 

……視覚情報しかないで御座るよ?

 

これはマズイ、と点蔵は考える。

だが、その前に〝傷有り〟から話しかけてきた。

 

「あの、点蔵様? 先ほどから前ばかりを見て、どうなさったのですか?」

「え、あ、いや! これはで御座るな――――」

 

女性と風呂に入った経験など皆無。故に、恥ずかしさが先行してしまっている。

おそらくこれがトーリだった場合、遠慮なく裸を見るだろう。

 

その場合、ホライゾンによる打撃制裁が待っているだろうが。

 

……改めて思うで御座るが、梅組には外道しかおらぬのでは?

 

今更ながらなことを思いつつ、〝傷有り〟の疑問に答える。

 

「え、ええっと、これはで御座るな」

「はい」

「……自分。混浴というか、女性と風呂に入ったことなどないので」

 

そう正直に吐露する。

それを聞いた〝傷有り〟はまあ、とくすくす笑う。

 

「別に。見ても面白い体ではありませんよ? 傷だらけですし」

「い、いやそんなことは! 真に美しいで御座るよ!」

「え、あ、はい……ありがとうございます」

 

〝傷有り〟は顔を俯かせた。

 

……し、しもうた――――! やらかしたぁ――――――!!

 

ふと、先日読んだ忍者雑誌の内容が頭を過ぎる。

 

・本音を言う忍者は忍者に非ず。てゆーか滅べ。

 

つまり自分は忍者失格というより人類失格!? い、いやまだ取り返せるはずで御座る! まだセーフ、セーフで御座るよ! タイム連打すれば避けられるで御座るよ!!

 

と、〝傷有り〟が顔を上げた。

その顔は、湯気で熱くなったのか、紅くなっていた。

 

「あの、点蔵様」

「な、なななななんで御座るか!?」

「私を見るのは、嫌、ですか?」

「め、滅相も御座らん! ただその……」

 

言いよどむ点蔵に〝傷有り〟は言う。

 

「傷ばかりのこの身。別に見ても大丈夫ですよ? つまらないでしょうし」

「そんなこと、ないで御座るよ」

「そうですか?」

 

Jud.と返事をする。

 

「……その。失礼ながら。〝傷有り〟殿の傷は、体の前面にしか無いで御座る」

 

体の前部分にしか傷が無い。

それはつまり――――

 

「〝傷有り〟殿は、相手と真正面から相対したので御座ろう」

「これは――――」

 

〝傷有り〟は、右手の甲についた傷を見ながら言う。

 

「これは、私が望んで自分につけたようなものです――――死んでも、構わないと。そう思って」

「ならば。御自身が満足されるまで、そうされるが良いかと。しかし。自分にはもう十分に見え申す。何故なら」

「……何故なら?」

 

何故なら、

 

「貴女が誇り高い御仁であることは。既に自明に御座る。これ以上、新しい傷は不要で御座ろう」

 

点蔵はそういう。

真正面からの相対。それは、正々堂々とした戦いをしなければならないものだ。

 

〝傷有り〟はきっと、そういった戦いをいくつも経てきたのだろう。

 

ふと、〝傷有り〟を見る。

すると、おそらくは泣いているのだろう。肩を震わせ、顔を両手で覆っていた。

 

……しもた――――!! またやらかした――――で御座る!!

 

「す、すまんで御座る! 自分、何か気に障るようなことを!?」

 

点蔵はいうが、〝傷有り〟は黙って首を横に振る。

その際、二つの巨大な丘が動きに合わせて揺れる。

 

流石にこれ以上はマズイで御座る。

 

「――――じ、自分。先に上がるで御座る」

 

まるで敵前逃亡のようだが。いや、これは勇気ある撤退に御座る。

 

そう言い聞かせながら、点蔵は湯船から上がる。

 

〝傷有り〟は点蔵が出るのを感じると、そっと両手を取る。

その顔はいまだ涙に濡れていた。

 

と、目の前に小さな木片が流れてきた。

 

(輸送艦の外壁材……?)

 

かなり鋭利に尖っていたので、取ろうと触れる。

しかしその瞬間、ピリッと軽い痺れが伝わってきた。

 

これは、

 

(対術式用の加工。それも反発式の)

 

術式に反応して、その術式を跳ね除けようとするタイプの術式加工だ。

ふと〝傷有り〟は思い出す。

 

それは、武蔵の輸送艦が墜落してきたときの事。

 

(あの時。私は術式を使って艦の軌道をズラそうとして。それで、点蔵様が止めに入った。――――でもあの時。私が早く術式を使っていたら。点蔵様が来なかったら……)

 

〝傷有り〟の術式はきっと艦には届くだろう。

だが、反発式の加工をしている外壁により、その術式は別の場所へと外向きに反発する。

そうなった場合。あの場にいた子供たちは。

 

直後〝傷有り〟の背に寒気が走る。

〝傷有り〟は点蔵を見る。

 

すると、その背には真新しい傷跡があった。

おそらく、こちらを庇ったときに出来た傷だろう。

 

〝傷有り〟は立ち上がり、点蔵に近づく。

 

そして、自分の顔の正面に来るように、後ろから抱きしめた。

 

「ッ――――――!?」

 

点蔵は声にならない叫びを心の中であげた。

 

……オパ――――――イ!!

 

いかん。まるで喜美殿のような叫びに御座る!

そう思うのも、束の間。〝傷有り〟が訊ねてくる。

 

「点蔵様。この傷。治療してもよろしいですか?」

「お、おおお、お願いするで御座るよ」

「Jud.では」

 

そういうと、〝傷有り〟は傷口に口付けのように唇を押し当てる。

 

「動かないでくださいね。術が逸れてしまいますので」

「……Jud.」

 

最早何も言うまい。

点蔵は観念したかのように、その場に立ち尽くしていた。

 




どうもKyoです。

最早何も言うまい。点蔵モゲろ。地味忍者風情が。

どうやったら皆さんの嫉妬心を煽れるか試行錯誤して書いてみましたが、一番最初の被害者が私という笑えない事態になりました。

誰か……誰か私に新鮮な境ホラ二次をください……
実を言うと当初は転生キャラ(境ホラ初期の頃のようなチート。つまりは扱いのいい宗茂砲)で書こうと思ってました。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回はデートの約束と正純の契約になりますかね。

では。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。