境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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馬簾田印出ー

聖譜暦1647年。二月十四日。

 

極東。武蔵アリアダスト教導院、二年梅組。

 

「とっつぜんですが! ヴァレンタインデー特別企画ということで、『チキチキ! ヴァレンタインのあの人に籤を引いてもらいまSHOW!!』開催! イエーイ!!」

「イエー」

 

その中では、金の翼と髪を持つ少女がハイテンションに、黒髪で黒の翼を持つ少女が、金の少女に合わせてローテンションでハイタッチを交わす。

 

そして、その二人の少女の目の前には、一人の男子。

 

赤みがかった茶髪をし、今まさに何かが行われようとしている状況で、元凶二人を半目で睨んでいる。

 

「……で。なんだコレは?」

「え? ハヅッち今日が何か知らないの? バレンタインデーだよ」

「知ってる。だから俺はこうしてチョコの商品をお前らに作ってきたんだろうが。ご丁寧に昨日は全員揃って催促しやがって……」

 

周りを見ると、少年――白百合・葉月が作ってきたチョコレートケーキやフォン・ダン・ショコラ。タルトなどを食べる級友の姿があった。

 

「うおおおお。美味しいですよこれ! 毎日がバレンタインでもいいくらいです! というかもう白百合さんのメニュー全品タダでいいですよねコレ!!」

「一応自分、男なので御座るが」

「まあ美味いものを食えたということだから良しとしよう」

「だよなー! っていうか葉月が作ってくんねえと俺らって誰からも貰えねえし」

「フフフ愚弟? 私が毎年あげてるの忘れてるわね?」

「いや。姉ちゃんの当たり外れ激しいじゃん」

「あ、あの。はづ、きくん。美味しい、よ? あり、がとう」

 

マトモな感想言ってくれるの向井だけだなー。

葉月は改めて、目の前にいる二人。マルゴット・ナイト、マルガ・ナルゼの二人に眼をやる。

 

「で。それがどうした?」

「ガッちゃん説明お願い!」

「Jud.

 

この日。二月十四日とは。古代ローマでは女神ユノの祝日であり、「ルペルカリア祭」という安産を願うお祭があったのよ。

 

で。当時の男女は別々に暮らすことが普通で、この日だけは男女がめぐり合うことの出来る特別な日。

 

そして、この祭の前日には女性は自分の名前を書いた紙を桶に入れ、男性は翌日にそれを引く。

そうして引いた女性とその日を一緒に過ごすのよ。

 

まあ、大概それで夫婦になる場合があるけど。

 

参照・MUSASHIペディア」

 

魔術陣を開きながら、そこにある文章を読み上げるナルゼ。

いい仕事をしたとばかりに親指を立てるナイト&ナルゼ。

 

「で? それと俺にどう関係が?」

「はいこれ」

 

そういってナイトが出したのは黒い箱。

立方体のそれは、葉月の机に異様な存在感を示していた。

 

「この中に、様々な女性の名前が書いてある紙が入っていまーす」

「それを、葉月が引く。そしてその引いた紙に書かれている女性と、一日過ごしてもらうわ」

「俺に対するメリットがねえ!!」

「ああ。それと。別に逃げてもいいけど――――」

「なら逃げる!」

 

言うが早いか、ナルゼが言い終わる前に葉月は窓を勢いよく開けた。

普通なら自殺行為だが、身体能力の高い葉月なら余裕の高さだ。

だが――――

 

 

 

「嫉妬の塊がアンタを狙ってるけどね」

 

 

 

眼下には、こちらを見上げる無数の、目、目、目。

その一団は皆、謎の黒い布を被り、目だし帽のようなトンガリの布を顔に被っていた。

何故かその額には「F」の文字がある。

 

「ちくしょう……何故、何故奴だけがぁ…………」

「既に巫女がいるというのにこれ以上誰を落とす気だ……」

「イケメンは滅びろぉ……」

「男の敵がぁ…………」

「我らの何がいけないんだ……」

「羨ましい嫉ましいパルパルパルパルパルパル…………」

「夜道には気をつけろよぉ……」

 

地の底から鳴り響く怨嗟の声と、昼間なのに赤く輝く光る目。

そして何故か一団の連中の手には、武蔵では禁止されているはずの武器が所持されていた。

 

葉月はそれを見て、そろりと教室へと戻った。

 

「まあ、女の子と一緒なら表立って狙われるようなことはないと思うよー?」

「テメェら……」

「嫌ならさっさと引きなさい」

 

そういって、ナルゼが箱を突き出してくる。

 

「……一応聞いておこう。誰の名前が入ってる」

「梅組は大体。あとは後輩や先輩たちね」

「大丈夫だよー。ハヅッちなら――――――多分」

 

その多分が厄介なんだよ。

葉月は恐る恐る箱に手を入れて、一枚の紙を引いた。

 

そして、紙を開ける。

 

「――――」

「何よ。誰が書いてあったの?」

「だれだれ教えて~?」

 

と、二人が聞いてくる。

葉月は黙って二人に紙を見せた。

 

 

 

『二年梅組 マルゴット・ナイト』

 

 

 

「――――さて。アンタの同人誌を書くとするわ」

「地味に嫌な脅しだな!! てかなんにもしねえよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「つかなんで名前書いたんだお前」

「いやー。一応ルールに則って?」

「いらんルールに則るな。おかげでお前の恋人にどんだけ怨嗟の目で睨まれたことか……」

 

荷車を押しながら、葉月はナイトに言う。

ナイトは相変わらずの笑顔だ。

 

そして、辺りからは怨嗟の視線が。

 

「なあ。これ誰が企画した?」

「んー。言っても怒らない?」

「もう怒る気力が湧かん」

「実はねー。喜美ちゃんが『エロイベントの定番ね! だから全員名前を書いてあの不能疑惑の男に一泡吹かせるのよー!』って」

「前言撤回。アイツの体重増やしてやる……」

「そうすると喜美ちゃんの奉納の効果無くなっちゃうから止めたほうが……あ、次そこね」

「はいはい。Jud.」

 

と、ナイトが指示をすると、葉月がそこに荷物を届ける。

判をもらい、再び進む。

 

葉月はあの後、授業が終わると同時に、ナイトの運送業の手伝いをさせられていた。

 

ナイトにしても始めからこうさせるつもりだったらしい。

葉月にとっては別に問題ないことなので、是非もなく手伝っていた。

 

「あとは、っと。ああこれはトーリだな。アイツ、またエロゲ買い漁って」

「あはは。ソーチョーも懲りないね。そんなことしても彼女なんて出来ないのに」

「さり気にお前も結構キッツイよな?」

「でもさ。ハヅッちも色々凄いよね?」

「何が」

「これ」

 

そういってナイトが指差すその先には、先ほどまで荷物で埋まっていた荷車の空きスペースだった。

 

そこには、目算10はあろう数の綺麗なラッピングが施された小さな箱たちが鮨詰め状態にあった。

 

中身は言うまでもなく、チョコレート。

 

ナイトはうんうん、と頷き、

 

「校舎を出るときに後輩達から7個。その次に先輩達から4個。あとは、誰だっけ?」

「……卒業していた先輩達から6個。町で見かけたという理由で3個。計20個」

「モッテモテー」

「止めろマジで。大体この一つ一つにお礼しなきゃならんとなると結構な出費になるからなぁ」

「そういいつつもちゃんと用意してるよね。アサマチなんか本当、毎年ハヅッちにあげてるよね」

「アイツ世話好きだからなぁ。幼馴染連中は一通りやってるだろ」

 

そういって、荷物の配達をする葉月とナイト。

 

ふと、空を見上げる葉月。

 

「なあ、ナイト」

「ん? 何かな?」

「空、飛べるんだよな?」

「Jud.飛べるよ?」

「――そっか。いいなあ本当」

「ハヅッちは?」

「今は無理。でも、やっぱ空くらいは飛べるように交渉すべきだったなー」

「今度乗せたげよっか?」

「いい。ナルゼに本気で殺される」

 

そんな軽口を叩きながら、二人は配達を終えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、浅間神社では。

 

「ふ、ふふふ。なんかもー。どーでもいいです。まさかあそこでナイトが当たるとは……いえ、確率的にはありえますから不思議はないんですけどね…………」

 

 

 

その一方で武蔵では。

 

「ヒャッハー! チョコなんざ甘ったるいもん誰が食うかー!!」

「リア充はこのクソ寒い中外で会ってるんだろうなプギャー!!」

「おお、これが塩チョコって奴か! 食ってる途中からなんかしょっぱくなってきたぜ!!」

「お前それ涙口に入ってないか?」

「ほらよ野郎共! 俺の奢りだ一口サイズのチョコケーキだが食っとけ!!」

「あざーす!! マジあざーす!!」

 

 

 

 

「お、俺今日母ちゃんから貰ったもんね!」

「ハンッ! 俺なんか今日親戚のばあさんからだぜ! 俺は二個だ! 羨ましいか畜生!!」

「お、俺なんか今日一口サイズだがチョコ貰ったぞ! あの男の娘から!」

「畜生! あの大量配布を逃した俺がバカだった!!」

「いやお前ら。あの子一応男だぞ?」

「バッキャロウ! いいか、あの外見で女の子の妄想をすりゃいいんだよ!!」

「ッ、クソッ! 一瞬でも羨ましいと思った俺がいる!!」

「気にすんな。今日は飲もうぜ。俺の家に美味い酒があるんだ。つまみはリア充共への怨嗟だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

怨嗟の声が武蔵を支配した一日。

その夕暮れ時に、ナイトと葉月は『ワグナリア』の前に居た。

 

「手伝ってくれてありがとね。ガッちゃんそろそろ〆切近いから危なかったんだー」

「だからアイツさっさと切り上げたのか」

 

そういって、荷車にあるチョコを店内に運び終えた二人。

と、何かを思い出したように、ナイトは制服のポケットから出した。

 

それは、市販の。何の変哲もない一個十円程度のチョコレート菓子だった。

 

「はいこれ。今日のお礼」

「明らかに貰い物だろこれ」

「うん。なんか食べてて飽きたっていうから貰っちゃった」

「しかも不用品かい。ま、ありがとよ」

「お返し期待してるねー」

「これのお返しに何を期待するんだ何を」

 

にゃは、と笑うナイト。

それにため息をつきつつ苦笑する葉月。

 

「じゃ。また明日学校でね」

「おう。んじゃな」

 

そういって、ナイトは箒に跨り空へと飛んでいった。

葉月も、「CLOSE」の看板をそのままに、店内へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「はーづーきー!! アンタ何マルゴットからチョコ貰ってんのよ!! いい加減調子に乗ってるとマジぶっ殺すわよ! 触手系同人誌で陵辱した後に!」

「随分とクリティカルだなぁオイ!!」

 

ガララララッ、と教室の扉が開く音がした。

中に入ってきたのは、昨日の覆面集団だった。

 

「リア充に死の鉄槌を!」

「お前らどっから湧いてきた!? というか一日遅ぇよ!!」

「あ、あの葉月君!」

「え、何今度は浅間!?」

「あ、あの……これ昨日渡しそびれて」

 

そういって、浅間が出したのは、簡素な。しかし手作りしたという事実がありありのラッピングされた箱だった。

無論、中身は言うまでもなくチョコレートだろう。

 

「ダメ、ですか?」

「い、いや。ありがたく貰うよ」

「死ぃぃぃぃぃいねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ヤベッ! 神耶! 先生には今日は逃げ切るから休むって言っといてくれ!」

「Jud.Jud.」

「浅間、ありがとな!」

「あ、はい!」

 

そういうと、葉月は窓から飛び降りた。

 

この後、「バレンタイン殲滅隊」なるものが組織されたそうだが、風紀委員である浅間に壊滅させられた。

 




どうもKyoです。

というわけでバレンタイン特別編でした。

つーか私は何をやってんだろう。こんな皆様の傷を抉るようなもの書いて。
こんなことをして……楽しいわけないじゃない!(喜色満面

ゲフン。えー失礼いたしました。
本日の小説は、浅間かと思った? 残念ナイトでした。という感じです。

えーでは。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

あ、忘れてた。
この話には、嫉妬成分が多分に含まれております。お読みの場合は気をつけてください。

異端審問に入る場合は、是のボタンを心の中で超速連打してください。
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