境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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広間の語り部

 

「…………んっ」

 

ナルゼは、目が覚めた。

 

……ここは。

 

どうやら医務室のような部屋だった。

辺りには薬品の匂いが漂っている。

一瞬、何故自分がこんなところにいるのか分からなかったが、段々記憶が戻ってきた。

 

(……ああ、そうか。あの狼男にボコられたんだったわね)

 

記憶が蘇ると同時に、受けた負傷によるダメージが体に鈍い疼きを与えていた。

しかし、体のどこを見ても傷などは見受けられなかった。

 

「あ、ナルゼ気がついたんだ」

 

ふと、自分に掛けられる声に気づく。

声の主を見ると、神耶がそこにいた。

 

「神耶。アンタが運んでくれたの?」

「ううん。運んだのは喜美。僕は治療しただけ」

「そう。ま、ありがと」

 

ナルゼは礼を言うと、立ち上がろうとする。

が、どうにも体が重く、上手く力が入らない。

 

「無理しないほうがいいよ。まだ本調子じゃないんだから」

「平気よ。このくらい」

「駄目」

 

強い語調で、神耶はナルゼに詰め寄る。

 

「ちょっ、と……」

「半狼の咆哮に、あの膂力での攻撃を食らったんでしょ。ナルゼの体が持ったのが不思議なくらいだよ」

「……」

「勿論、半狼は人狼ほど膂力があるってわけじゃないけど。それでも、ナルゼくらい、片手で捻れる」

「……だから、何よ」

「今はイヤでも体を癒すのが先だってこと」

 

そういうと、神耶は錫杖を掲げる。

すると、遊環から涼やかな音色が響き、ナルゼの体を白く薄い膜のようなもので包み込んだ。

が、それもすぐに止み、神耶は錫杖をしまう。

 

「ま、僕が治すなら一瞬だけどね」

「なら説教なんて止めてよ。まったく」

「やーだ。だってナルゼ。自分の事全く考えてないんだもの」

「はあ?」

 

コイツ何言ってるんだというような目で神耶を見る。

神耶は、ナルゼと正対しながら言う。

 

「ナイトに心配かけたくない。でしょ?」

 

その言葉に、ナルゼは一瞬言葉につまる。

ここで虚偽も出来るが、そんな事をしても、目の前のこの男もどきには通用しないことは、ナルゼが一番よく知っていた。

 

「――だから、何」

「ほら。そんなだから。逆にナイトが心配するんだよ」

「何がよ。別に私、白嬢なくても、普通に戦えるわよ。ただちょっと相手が悪かっただけで――――」

「それ、今後の戦闘にも言うつもり?」

「ッ、うるっさいわね!!」

 

ナルゼは、神耶の言葉を振り払うように怒鳴る。

 

「そうよ! 私は負けたわよ! 立花・誾が割って入ってこなきゃ総長への相対権限与えてたわよ!!」

 

でも、

 

「一人でも戦えるって、大丈夫だってところナイトに見せたかった! 安心させたかった!! それなのに……」

「負けた自分が悔しい?」

「……Jud.」

 

そういうナルゼの顔には、涙が流れていた。

神耶はほう、とため息をつく。

 

「あのね。そうやってナルゼが傷つくことが、ナイトを一番心配させてる要因なんだよ?」

「だから、それは私が弱いからッ――――」

「誰か、ナルゼが弱いって言ったの?」

 

率直な疑問を、神耶は口にした。

ナルゼは押し黙る。

 

「ナルゼは強い。だって特務になるくらいなんだから」

「……特務だからって、必ずしも強いってわけじゃ――――」

「うん。知ってる」

「アンタねぇッ……」

「でもさ。じゃあナイトは強いの? 傷一つなく、たった一人で敵を何人も倒せるくらいに」

「そんなこと――――」

 

ない、と言おうとして、神耶に言葉を遮られた。

正確には、神耶が顔の近くまで接近してきたから言葉を出せなかった。

 

「……皆強くない。ナルゼも、ナイトも、皆。何かしら短所があって、長所がある。それなのに、ナルゼのしていることは、ナイトの心配の払拭だけ」

「なに、よ」

「もし死んだら、どうするつもりなのさ」

「……」

 

神耶の目からは涙が流れていた。

涙を拭うこともせず、神耶は続ける。

 

「もし、ナルゼが死んだら……一番悲しむのはナイトなんだよ。それだけじゃない。皆そうだよ。特に、トーリなんかはもう悲しめない。泣くことは、許されないんだ」

「……神耶」

「それでもまだ。自分が弱いとか、そんなくだらないこと抜かすつもり? もしそれで死んじゃったら、ナイトが自分を責めるんだよ?」

 

涙が流れていても構わず、神耶の表情は厳しい。

 

その表情の押されたのか、ナルゼはため息を一つつく。

 

「……ゴメン。頭に血、上りすぎてた」

「じゃあ、冷えた? 少しは」

「Jud.ありがと」

「どういたしまして。体は平気、だよね?」

「ええ。何処かの御節介な狐さんのおかげでね」

「誰だろうねー」

 

と、神耶は涙を拭い、いつものように笑った。

ナルゼは苦笑し、ベッドから降りる。

 

「あー、そうだ。今何時?」

「えと……あー。多分皆会議に向けて着替えてるよ。さっき点蔵斬られてたけど」

「……は?」

「なんか両肩斬られてた。実を言うとさっきまで点蔵のこと看てた。まあ、すぐに気づいて会議に参加するっていって行っちゃったけど」

 

さらっと爆弾発言する神耶。

それでいいのか、とも思うが、昔から自分のペースを崩さなかった神耶を知っている身としてはこの程度では驚かなかった。

 

ナルゼも式典用に着替えようとして、ふと思いついた。

 

「ねえ神耶。ちょっとこっち向いて」

「ん? 何――――」

 

と、神耶の頬に何か柔らかいものが触れた。

それは一瞬で離れていった。

 

「じゃ、私先に行くから。ああそれと。それはお礼的な意味ね」

 

そういって、ナルゼは去っていく。

 

数秒後、柔らかい感触はナルゼの唇だということに気づく。

 

つまり――――

 

「……うゅ」

 

神耶を赤面させるには効果覿面だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月は若干、苛立っていた。

それというのも、今現在葉月が手にしている一通の手紙が原因だ。

 

そこに書かれているのは、この後開かれる英国と武蔵の会議に参加せよというものだった。

 

本来ならば、国の代表たちである特務や生徒会の役員のみが参加するはずのものを、何故一般生徒である葉月に出席を促すのか。

心当たりは、ある。

 

というか、こんなものを出せる人間となると限られる。

 

英国はオクスフォード教導院総長兼生徒会長、妖精女王エリザベス。

 

葉月は、過去に彼女と面識があり、その際〝傷有り〟、メアリとも面識を持っていた。

 

大方ここに呼んで昔話に花を咲かせようとしているのだろうが、生憎とこれは全国中継。

もし、英国の妖精女王と武蔵の人間に接点があると分かると、他国が五月蝿い上に、両国に迷惑が掛かる。

 

それだけは避けたい葉月。念のためここに来ていた。

しかしまだ妖精女王は居ない。

 

彼女のかつての性格を思い出し、自分の取り越し苦労かと葉月は考え、隣を見る。

そこには一人、女性用のドレスを纏った人物が居た。

 

「…………何してるんだ。トーリ」

「あれ? おっかしいな。俺の女装は完璧なはずなのになんか一発で見抜かれちゃ芸人失格じゃね?」

「だったら顔を変えろ顔を。俺の角度からだとお前の顔が丸見えなんだよ」

 

トーリだった。

本来ならばもっと格式ばった格好で来るはずなのだが、着ているのは女性用の式典ドレス。

葉月の記憶では、こんな服は持っていなかったはず。

 

となると、

 

「お前……まさかとは思うが女子控え室に入ったのか?」

「ああ!? お、オメエはすぐそうやって俺を疑う! いいか? 俺は入ったんじゃないんだよ。ちょっと迷って行き着いた先が女子控え室で、そこにあったドレスをチョバっただけなんだよ! 俺は悪くねえ!!」

「その寝言。女子全員の前で通じればいいけどな」

「へ、へーんだ! 皆オメエと違って優しいから信じてくれるもんね!!」

「そのガクついている膝を何とかしてからもう一度言ってみろ」

 

ダメだコイツ。早く何とかしないと。

 

頭痛がしてきた葉月を余所に、トーリは何かを発見した。

 

それは、英国の護衛兵士だった。

彼らは会議が始まれば外の警備の任に就く。

 

だがそれまでは彼らもフリーだ。故にこの交流の場が持たれている。

 

トーリはにやついた笑みを浮かべる。

 

「なあトーリ。頼むから外交問題だけは起こすなよ」

「おう! 任せろよ! なんたって武蔵の総長兼生徒会長の俺だぜ? 信用しろって!」

「今世紀一番信用ならない言葉をどうもありがとう……」

 

葉月が肩を落とし、トーリが意気揚々と前に出る。

その際、葉月に言われた顔の角度は完全に調整してある。

 

すると、彼らは女装したトーリを見つける。

どうやらカツラの黒髪を地毛と思い込み、正純と間違えているようだった。

彼らは次々にトーリの手の甲にキスをしていく。

 

すると、葉月の後ろから浅間たちがやってきた。

 

「あれ? 葉月君なんでここに?」

「ちょっと呼ばれた」

 

そういって、葉月はひらひらと招待状の手紙を見せた。

するとアデーレが、英国の男たちに囲まれているトーリを見つける。

 

「あのー。総長は何をやってるんでしょう?」

「知りたいのかアデーレ?」

「いえ全く」

「可哀想に。まさかアレが女装したソーチョーなんて、気づかないよねー」

「というか本当に葵は何がしたいんだ……」

「楽しいからしてんだよアレ……」

 

と、壇上の奥からコツッ、コツッという音が聞こえてきた。

妖精女王エリザベスが現れた。

 

彼女は場を一瞥すると、武蔵勢を向く。

 

「武蔵の総長兼生徒会長は何処だ?」

 

アナタのとこの教導院の生徒が口付けしている女装野郎がそうです、とは流石に言えなかった。

 

「……流石にバレても国際問題には発展、しませんよ、ね?」

「……止めてくれ。ただでさえ頭が痛いんだから」

 

頭痛が更に酷くなってきたが、反対側から喜美たちがやってきて、トーリの正体をバラす。

トーリは陽気に被っていたカツラを脱ぐ。

その瞬間、泣き崩れる英国生徒。

 

「ちくしょう……なんで俺、男なんかに……」

「気にするな。俺もだ。今夜は飲もうぜ」

「すまん。それに俺も混ぜてくれ」

「姉ちゃん姉ちゃん! 俺どうしよう! すっげー求められてるよ!!」

「ククク愚弟? あんまりキめすぎると英国の連中が愚弟の元に馳せ参じることになるわよ。これで私に貢ぐ男がわんさか確保できるわ素敵!!」

「……とりあえずトーリ様。何故そんなドレスを? しかも聞くところによれば、それは本来正純様が着るはずだったもの――――――まさかトーリ様」

「あ、ああ!? ち、ちげえよ! 何疑ってるんだよホライゾン! 俺ほど真面目な人間が女子控え室に忍び込むと思ってんのかよ!――――――正面から堂々と入ってやったさ!!」

「お前ほど不真面目な人間を見たことねえよ!!」

 

エリザベスはその様子を見ていたが、すぐに見なかったものとしたようだ。

今度は葉月に視線を向ける。

 

「――――フッ」

 

自信満々に、そして意味あり気に不敵に笑う。

それに対して葉月は、

 

「――――チッ」

 

苦虫を万年潰しているかのような顔で舌打ちをした。

またしてもエリザベスの表情が固まったが、すぐに再起動する。

 

もうすぐ、武蔵の今後を決める会議が始まる。

 




どうもKyoです。

うん。普通に難しい。
この後は、あー。どうしよう……といった感じです。
ぶっ壊れ女王様はあと二話くらい先です。

ちなみにこんなこと考えてたり。

・魔力回復する効率いい手段ねえかなー。
・Fateの方法を取ればいいじゃない? サーヴァントとマスターのアレ。
・そ れ だ !

……うん。やったらとんでもないことになるので自重。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

では。










話は変わりますが、現在絶賛無気力虚脱状態ですので。かなり更新が空いたり短かったりします。ご容赦を。
モチベーションを保つためATMな某カードゲームをやったりしています。
聖刻作るかなー……無理か。
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