境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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2013年6月20日。改定。


月夜の集合者達

 

不知火・神耶は寮生活者だ。

アリアダスト教導院の寮に一人で住んでいる。故に、寮生とはそれなりに仲が良く、時折神耶にお菓子をプレゼントする生徒もいる。

餌付けされている感じをひしひしと感じながら、神耶はある部屋の戸をノックする。

西洋式の遣り戸だった。

中から返事を貰うと、神耶はそのまま入る。

 

「やあ。これが今日の分のノートだよ。ミリアム」

「ええ。いつもありがとう神耶」

 

そこにいたのは、車椅子に乗った金髪の少女。

ミリム・ポークウ。梅組の生徒だ。

ただ、教室には来れず、在宅授業になっている。

ノートを神耶から受け取ると、ミリアムは少し訊ねた。

 

「ねえ神耶。さっき来た子なんだけど。知ってる? こう、長い黒髪で、ちょっと女っぽい顔してる……」

「ああ。東ね。そっか。一緒の部屋になったんだ」

「東、っていうのね。あの子」

「うん。梅組になんでいるんだろうっていうタイプだから」

 

へえ。ミリアムは考える。

あのクラスはどう控えめに見ても変態と馬鹿と外道の集まりだ。この武蔵に外道が多いことを除いても、あのクラスの濃さはハンパない。ひょっとしたら武蔵の外道成分を濃縮したのがあのクラスメイトたちなのではないかと疑ってしまうほどに。

まともといえる人物もいるにはいるが、どうにも頭のネジがどこか外れてしまっている。

そんな外道集大成のクラスに、神耶曰く常識人が来るとは――――

 

「いつかネタにされるわね」

「真っ先にそういう結論が出てくる辺りミリアムも大概だと思うけどね」

 

しまった。つい本音が……

そう思ったが、目の前の相手は武蔵の中でもトップの純粋人なので問題なし。

……まあ、良くも悪くも。だけど。

 

「でも男と女。一つ屋根の下って。何考えてるんだろうね」

「あの子はそういうことする人?」

「ううん。全然」

「じゃあ問題ないわ」

 

まず自分に会って部屋を間違えた、といって即座に出て行く。そしておそらく今は部屋割りを変えてもらうように頼み込んでいるだろう。

まあ彼の評価が後々自分が決めればいい。

 

「ありがとね神耶」

「どういたしまして。でも多分今日で最後じゃないかな。これからは東に頼むといいよ」

「ええ。考えておくわ」

「じゃあね」

 

そういって神耶は部屋を後にした。

しばらくしてからふと。立ち止まる。

 

「……そういえば。東が東宮だって、知ってるのかな」

 

まあ一緒の部屋になるし。どうせ東から切り出すか。

神耶は自分の部屋へと戻る。その際、他の生徒達からお菓子などを腕に抱えるほど貰って幸せ顔だったのを、偶然そこを通りがかった自動人形〝奥多摩〟が撮影していたのは知る由もない。

 

『フフフ、羨ましいですか皆様――――――以上』

『ぐぬぬ。しかし。神耶様の行動範囲は広いですので。私のところにも来る可能性はあります――――――以上』

『何故、何故私は〝奥多摩〟ではなく〝青梅〟の担当なのですか……――――――以上』

『総員。仕事に専念してください――――――以上』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

トーリが吹っ飛ばされた後、皆は告白前夜祭ということで今夜教導院にて幽霊探しをするということで、明日の分と今日の分の食材を買っていた。

さて。ここで白百合・葉月について触れておこう。

 

白百合・葉月。現在年齢は17歳。過去に武蔵から離れていた時期があるが、現在は武蔵在住。親が経営していた喫茶店『MAHORA』を継いでいる。

それもあって、料理の腕は誰もが認めるところとなっており。葵・トーリがバイト兼店長を務める店『青雷亭』と双璧を成している。〝多摩〟にある『青雷亭』も有名だが、学生が店主をやっているという点でこの二店舗が上がる。

 

葉月は自宅兼喫茶店の厨房に入る。

その姿はいつもの制服や私服ではなく、料理人らしくシェフコートとサロンに身を包んでいる。目の前には、先日仕入れたばかりの良質の牛肉が置いてあった。

葉月がいつものように手を洗い、器具を洗い、そして調理に取り掛かる。

薄く均等に牛肉を切っていく。その隣では、水の入った鍋が湯に変わろうとしていた。

しばらくすると湯が沸き、そのまま肉を湯に通す。数秒泳がせるとすぐに取り出して氷水の入っているボウルに突っ込む。

葉月はすぐさま次の工程にとりかかる。

用意していた野菜を水洗いし、食べやすい大きさに切り、時には千切っていく。

盛り付けようのボウルに野菜を放り込み、先ほど湯通しした肉を同じく入れる。

最後に。葉月は自製の胡麻ベースのドレッシングをかけ、よく混ぜる。

 

「……よしっ」

 

かなり簡単なものだが、夜に食べるものなのだ。そんなに胃に重いものを作っていく必要もないだろう。

葉月はクラスメイトから集めたメモを見ながら、そのまま次の作業に取り掛かる。

 

「えーっと何々――――全員量多めって何だよ! 俺が聞きたかったのは何が食いたいかって話だよ!! つうかアイツらマジで容赦ねえな! 量多めってドンだけ時間掛かると思ってんだよ!! あと材料費も馬鹿にならねえんだよ!!」

 

思わずメモを地面に叩き付けそうになる。先ほど作ったサラダでも足りるかどうか分からない。というかまず間違いなく足りない。

まあ確かに梅組にはエンゲル係数高い連中が跋扈しているが。

はあ、と一際大きくため息をつく。

 

「……アデーレは好き嫌いないし。ナイト・ナルゼはそれなりに肉挟んだモノがいいよな。点蔵とウッキー――――まあ肉系統か。男だし。って喜美のこれは……太らなくて美味い物って。欲張りすぎだろ」

 

ややげんなりしながらも葉月は調理に取り掛かる。

ふと、メモを見ながら葉月は気づいた。

 

「……浅間と向井のがないな」

 

……書き忘れたのかな。

そう思って葉月は一度厨房を出て自室で着替え外に出て行った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

〝多摩〟商店街。

武蔵住人もよく利用する店なんかは、ここに集中している。

その商店街にひときわ目立つ集団がいた。

誰もが両腕一杯に買い物袋を持ち、その袋は積載量限界にまで膨れ上がっていた。

 

「流石に。ちと買いすぎたかね?」

 

そう話すは片腕義腕。口に煙管を加えている直政。

それにアデーレが頷く。

 

「白百合さんも、今日はお店を閉じて軽食を作ってくるって言ってましたからねー」

「は、葉月、君の料理。美味し、い、もんね」

 

アデーレの言葉に同意するは、前髪で目が隠れている盲目の少女。向井・鈴。

武蔵の中でもトップクラスの癒しの存在である。

 

「鈴さんは何かリクエストしました?」

「え、う、ううん。何も、して、ないよ?」

「なんだい。折角だから色々作らせてやりゃいいのに。葉月は鈴に甘いからねえ――――おっと。もう一人いたさね。アサマチ」

「な、なんですかマサ」

 

そして、三人の先頭を行くのは長い黒髪の少女。浅間・智。

直政はにやけつつ、話す。

 

「何かあったんですか?」

「ああ。アデーレは知んなかったね。この間。ひな祭りでアイツ、浅間神社にチラシ寿司を持っていってねえ。そのとき受け取ったのがアサマチなんだが。その時のにやけ顔がねえ」

「ぶっ! な、なんですかそれどこから、っていうか誰から……ッ!?」

「トーリと喜美が葉月の後つけてこっそり盗み見ていた」

 

あの外道姉弟……ッ!

幼馴染の付き合いでよく知っている。あの二人の変なところで発揮される行動力を。

そしてそれの被害は主に自分に来ることを。

一度脳内を禊したほうがいいかもしれませんね。ええ。ズドンです。

 

「あ、あのですね。別ににやけてませんよ? ただ葉月君の作る料理はどれも美味しいので頬が緩んでしまったんです。皆さんもあるでしょうそういうこと」

 

当たり障りのないことを言って会話を逸らそうとする。

……完璧です私。

 

「……巫女が食欲旺盛ってどうなんさね。太って葉月に嫌われないようにしな」

「そっち!? そっち行きますか!?」

 

まさかの誤爆。ついでの心を抉るような一撃。これぞ会心の一撃。こちらにとっては全然嬉しくないことである。

直政は呆れ気味に、アデーレは何故か恨みがましそうに、鈴は……あまり表情は分からないがおそらくこちらを心配しているのだろう。やはり天使だ。

 

「よう。ここにいたのかお前ら」

 

と、後ろから聞き覚えのある声。

浅間はまるで壊れた機械のようにゆっくりと後ろを振り返ると、そこには件の白百合・葉月がこちらに来ていた。

 

「ちちちち、違いますよ!? 別にあれが美味しくて八割方自分で食べちゃったとかそんなことないですからね葉月君!!」

「ゴメン浅間。何を言ってるのか分からないんだが」

 

しまった。結論が早すぎましたか。

 

「あのですね。白百合さんが浅間さんにこの間――――」

「それよりどうしたんですか葉月君こんなところまで!!」

 

聞かれたくないことの答えを率先して答えようとするアデーレを牽制するかのごとく、まさに電光石火の速さでそれを遮った。

 

「ん? いや。お前と向井。何食いたいかの希望書いてないだろ。書き忘れかと思ってな」

「あー。成程」

「さて。ではお二人さん。何かご希望は御座いますか?」

 

そういって、メモ帳とコークスペンを取り出す葉月。

その姿はまるで、というか注文をとるウェイターだ。

 

「……完全に接客モードさね」

「これが地だ」

「ええっと。無理しなくていいですよ? 他の皆の分もありますし」

「う、うん。私は、何でも、いいよ?」

「んー。それはそれで結構悩むオーダーなんだがなー」

 

苦笑しながらメモをしまう。

 

「ああ。そうだ葉月。暇ならアサマチの荷物持ってやりな。男なんだからそれくらいはしなよ」

「ちょっ、マサ何を……ッ!?」

「俺、まだ調理の途中なんだが……まあいいか」

 

そういうと、葉月は浅間の持っている荷物を一つ取る。

慌てて浅間が荷物を取り返そうとするが、葉月に止められる。

 

「い、いいですよ! 私持てますから! 伊達に巫女名乗ってません!!」

「巫女と関係あるのか、コレ」

「いえその。は、葉月君に迷惑かけるわけには……」

「この程度軽い軽い。別に構わないさ」

「んじゃあそのまま『青雷亭』まで行くさね」

「Jud.」

「すいません本当に……」

「そんな謝るなって」

 

葉月は苦笑しながら浅間の隣に立つ。

浅間もまんざらではなさそうにやや頬を緩ませる。

そして――――残りの三人は二人の五歩くらい後を歩いていた。

 

「……あれ。完全に夫婦ですよね」

「言わないでやりなアデーレ。本人たち、特に葉月の方は自覚ゼロなのさ」

「夫婦で、お買い、もの?」

「はいはい! 聞こえてますからね!?」

 

あ、でも鈴さんの台詞はちょっと良かったです。

その後、葉月は『青雷亭』まで荷物を届け、向こうからやってきた別グループと合流したあと、店の仕込みで帰っていった。

無論、葉月と浅間が並んで歩いていたことに関して、思い切り弄られたが。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

夜。

クラス全員分の料理を作り終え、バスケットを持った葉月が教導院に着くと、そこには既に梅組のクラスメイトが揃っていた。

 

「ん? 俺が最後?」

「いや。まだ来ていない奴もいる」

 

そうシロジロが表示枠を見ながらそういう。

葉月はそうか、と返事をしながら持ってきた大量のバスケットを全員の前に出した。

その途端、全員の顔つきが変わる。

 

「……なあ。材料費。経費ってことで落ちないか?」

「一応、生徒会活動の一環として行っているから問題はないだろう」

「でもあまり高いとダメだよー?」

「お前らが量多めって言ったからだろうが。夕飯くらい済ませて来い」

「他はどうか知らんが我々は違うぞ――――きっちり保存して売る」

「お前らー。コイツらの分も食っていいぞー」

 

葉月が言うと、皆一様に目の色が変わる。慌てたハイディがその中に入り自分とシロジロの分を確保すべく掻き分ける。

 

「あと来てないのって誰だ?」

「ああ。東が少し遅れるそうだ。ミリアム・ポークウは無理。ミトツダイラは夜間外出禁止で無理」

「そうか。となると――――」

「今来ていないのは神耶と正純。そして言いだしっぺのあの馬鹿だ」

「正純は多分来ないだろうな。まだ皆とどう接していいか分からんみたいだし」

「となると。あとは神耶とあの馬鹿待ちか」

 

そういいながら葉月の作った軽食を食べるシロジロ。

葉月は全員を見渡しながらふと、呟く。

 

「そういや。座敷わらしとかって、こういう多人数の時に湧くんだっけ?」

 

直後、喜美が低カロリーのフルーツサンドを食べながら気絶した。

 

「あ、あの葉月君。喜美が怖い話苦手なの知ってるんですから。もう少し手加減をしましょう?」

「いや。まさかこの程度でぶっ倒れるとは思わなかった」

「うわー。綺麗に白目剥いてる」

 

ナイトが喜美の状態を確認しながら言った。

とりあえず頬でも引っ張って起こそうかと考えたその時、校舎の扉が思い切り開け放たれた。

 

「オッケー遅れた!! っておいおいおい! なんだよ皆! 主役を差し置いてよ!」

「ああ。悪いなトーリ。お前が来るのが遅かったからな。ちなみにもうない」

「こ、コイツ悪びれる様子が一切ねえな!?」

 

葉月はトーリに空になったバスケットを見せる。

 

「つーかトーリ。お前校舎から出てくるって――――何を仕込んできた」

「ああ!? お、オメエはそうやってすぐに俺を疑う!! そういうのいけないと思います!!」

「今までのお前の行動を思い出してみろ馬鹿野郎」

 

葉月はため息をつきながら、別に持ってきた小さなバスケットを取り出す。

 

「ほら。これやるから。食ったら始めるぞ」

「なんだよー。ちゃんとあるじゃんか。もう葉月のツ・ン・デ・レ・さん!」

「今ここでぶっ殺されるのと後で殺されるの。どっちがいい?」

「む、無表情で聞いてくるなよコエーんだよ!! あ、ちょ、やめ、あひん」

 

トーリはしなを作りながら葉月が突き出す杖を避けていた。

無論、トーリは夜食にはありつけなかった。

 




どうもKyoです。

自動人形たちェ……なんでこうなったんだろう。

私が書くとクールなキャラが変貌する不思議。

次回は出来れば三河のところまで書きたいです。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。
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