境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~   作:Koy

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2013年。8月6日。改定。


日常の終了

トーリの提案で、校舎内幽霊探しが一先ずお開きになってから数分後。事態は急変していた。

夜とは思えないほど赤茶けた空の色。そして――――

 

「何だ、アレは……」

 

誰が呟くでもなく出た言葉。

それは、三河の方面から天へと突き刺すように現れた一条の光。

その光景は梅組だけではなく、武蔵の住人全てがその天に伸びる光の柱を見ていた。

誰もがその光景に釘付けになっている中一人、神耶は葉月に話しかける。

 

「葉月。三河の地脈路が暴走してる」

「はっ? 何だそれ」

「分からない。けど、確かに暴走してる」

 

神耶は手に持った錫杖を握る力を強める。

葉月もそれ以上は追及しなかった。

 

「暴走、か。確か上越露西亜(スヴィエート・ルーシ)で似たような事件があったよな。それと同じことが起きるって事か?」

「多分。でもこの分だと三河全ての地脈路が暴走している――――三河っていう国、それ自体が消えると思う」

「……そういやシロジロ。今日は三河が何も買わないって言ってたが」

 

まさかこのことがあるからか? だとしたらなんの目的が……

元々何を考えてるのか分からない節はあったが。自分のことを「先生」と呼び、自分たちの事を「生徒」と思って行動していた。

ならばこれもその内、なのか……?

葉月が考え込んでいると、神耶が声を掛ける。

 

「葉月。あまり考え込まないほうがいいよ」

「いや。だけど……」

「考えたところで。まだ何も情報がないんだ。あれこれ考えて深みに嵌るより、落ち着いて次のアクションを待っていた方がいい時もあるんだよ」

 

諭すように神耶は静かに告げる。

葉月はそれでもしばし逡巡したが、そうだなといって事の成り行きを見守る。

未だに空は赤く、光の柱は天に昇ったまま。そして三河からの通神などはまだなかった。

 

「……もし。これで三河がなくなったらどうなるんだろうな」

「三河は、松平・元信公が管理しているから。多分……」

「その責任の所在は松平・元信公に行く、か。もしそうなったら、極東は完全に聖連の支配下だな」

「うん。そうなるよね」

 

面倒な、と葉月は呟く。

すると、街中にいくつも点在する神肖筐体(モニタ)から映像が流れた。

そこには、教師帽を被った初老の男性が移った。

この男性こそ、三河の君主。松平・元信である。

 

『はーい! 全国の皆、こんばんわー! 今日先生は、地脈路がいい感じに暴走している三河に来ていまーす!』

 

マイクを片手にそう高らかに告げる。

 

「……あのさ。はっきり言っちゃうけど――――――馬鹿?」

「言った! 言おうか言うまいか迷っていたことをコイツはっきり言いやがった!?」

「えー。だってどう見ても頭おかしい人だよ。アレ」

「お前は一度、不敬罪で切られてろ」

 

呆れるように葉月は神耶に言う。

だが実際。こんな状況下で何をしようとしているのか図りかねる。

そんなことを考えていると、松平・元信の背後から音が聞こえてきた。

それは自動人形たちが奏でる御囃子と、一つの歌。

 

「これって、『通し道歌』?」

 

『通し道歌』

極東ではメジャーな童謡で、おそらく梅組の誰もが知っている歌だろう。

何故なら、

 

「これ、ホライゾンがよく歌ってたよね」

 

それは、かつてホライゾンが存命だったときによく歌っていた童謡だった。

知らず知らずのうちに、梅組の誰もがその童謡を覚えていった。

歌が一通り終わると、松平・元信は再びマイクに向かって喋る。

 

『はい! 今の歌をよく覚えておいてね! 今歌っていたこの歌、これから末世をかけた全てのテストに出まーす!(配点:世界の命運)』

 

テスト……? 映像を見ている全ての者が疑問を思う中、元信は楽しげに話し続ける。

いつもなら、ああまたかと思うほどだ。何しろ元々が派手好きで有名な人だ。

だが、今回は違う。空はまるでこの世の終わり、末世が一足早く来たのではないかと思うほどに不気味で、空へと伸びる一条の光がその不気味さを一層際立たせているのだから。

その光は、徐々に地に降りてきている。

まるで、滅びへのカウントダウンかのように。

 

「……つまり。三河の人払いは、これをするための前準備だった。ってことか」

「じゃないのかな。にしても本当。こんなことして何になるのかな」

 

そう、呆れ気味に神耶が言うと。表示枠の向こうから声が上がる。

見ると、そこには一人の金髪の青年が立っていた。

その身を包んでいるのは三征西班牙(トレス・エスパニア)の制服だ。

 

『元信公! 一体なんの目的があってこのようなことをなさるのですか!?』

『はーい立花・宗茂君。質問があるときは手を上げてからにしましょう!!』

 

すると、律儀に手を上げる。

その手には剣、というにはやや大きすぎる武器が握られていた。

白と黒を基調とした、凡そ武器らしくない曲線を描くような形状をしていた。

 

「大罪武装……」

 

三征西班牙(トレス・エスパニア)、英国、K.P.A.Italia、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)上越露西亜(スヴィエート・ルーシ)M.H.R.R(神聖ローマ帝国)。以上の国に配られた、絶大な威力を秘めた都市破壊級個人武装。

大罪武装はそれぞれ効果は違うが、担い手は総じて「八大竜王」と呼ばれている。

大罪武装は、七つの大罪と呼ばれる人間の原初の罪。その原盤である八想念をモチーフに作られている。

それぞれ、

『悲嘆』『嫌気』『強欲』『淫蕩』『傲慢』『虚栄』『憤怒』『暴食』の計八つ。

立花・宗茂が手にしているのはその中の一つ。『悲嘆』を司る大罪武装『悲嘆の怠惰』

元信は手を上げたのを確認すると満足気に頷く。

 

『うんうん! そう、それだよ。いきなり質問するのはこっちとしても驚くからね。手を上げて意思表示をすることが大事だよ』

『Tes.では元信公。改めて質問をします――――何故、このような真似をするのですか?』

『うん。いい質問だね。じゃあその質問対して、先生は一つこう問おうか』

 

目の前の宗茂を見つめ返し、元信はマイクを構える。

 

『――――危機って、面白いよね?』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『先生、よく言うよね。考えることは面白い事だって――――ならすっごく、すっっっごく考えないと死んじゃったりする危機って、最大級の面白さだと思わないかい? 例えて言うならそうだね――――夏休みの宿題をやってなくて、夏休み終了日になって対策を考える。そんなこと、ないかい?』

 

その言葉を聞いて、トーリが頷く。

 

「確かに。よくあるよな。なあ葉月?」

「いや。俺は夏休み始まる前に終えられる物は全部終わらせるし。始まって大体一週間ほどで全部の課題は終わるけど」

「……よくあるよ、な? 神耶」

「葉月と一緒」

「なんだよオメエら! 揃いも揃って裏切りやがって! いつも楽しそうにしていたのはそれが原因だったんだな! 俺は見損なったぞ!!」

「お前の態度に見損なったよ!!」

 

葉月は呆れるようにため息をつき、神耶は笑いながらトーリを慰めていた。

 

「……だがまあ。元信公が言わんとしていることは何となく、分かるかな」

「どういうことですか?」

「ん? いやなに。単純な話さ。人間ってのは、自分に差し迫った危機があると回避しようと思考するだろ。でも、その危機が明確にならない限りは人間は今ある安寧のままでいいと思ってしまう」

「つまりさ。『生きたかったら今すぐ行動を起こせ』って事なんだと思うよ。何しろ、今年には末世が来る、って言われているから」

 

奇しくもそれは、今現在元信公が話している内容だった。

極東の完全支配より、恐ろしいもの。末世。

すなわち世界の終わりである。

 

『そして! 末世という大問題を解決できた人には、大罪武装というご褒美をあげよう――――正確には大罪武装を全て集めることができたものは、末世を左右できる力を得る』

『ッ、大罪武装は、貴方が各国に配ったはずです! 今更、八つの大罪武装を巡って戦争を起こせというのですか!?』

 

その宗茂の言葉を、元信は否定する。

 

『八つ? 違うよ。九つさ』

 

「……九つ目の、大罪武装?」

 

八想念はその名の通り八つあるからそう言われている。ましてや九つ目の大罪武装など……

葉月はそう考えていたが、ふと。ある事柄に思いつく。

 

「……確か。八想念の『悲嘆』と『嫌気』は後に『怠惰』に。『傲慢』と『虚栄』は『傲慢』

に纏まって。さらにそこに一つ追加されて、七つの大罪になったんだよな」

 

確かその罪の名は――――

 

『九つ目の大罪が司るのはね――――『嫉妬』だよ』

『元信、貴様ッ!!』

 

と、新たに表示枠が出てきた。

そこに映っていたのは、やや老いているものの厳格な雰囲気を醸し出している一人の男。

K.P.A.Italia教皇総長。インノケンティウス十世だ。

 

『答えろ元信! 既に嫉妬の大罪武装が存在しているなら、それはどこにある!』

『おや。聞いたことはないかい? 大罪武装は人間を材料にしている、と――――それは本当だよ』

 

その言葉に、全ての人間が息を呑む。

 

『大罪武装は、とある一人の少女の感情を元に作られていてね。その少女は、十年前。私が乗っていた馬車に轢かれてしまった子だよ』

 

そういう元信の表情は、誰にも読めなかった。

だが、そんなことは最早どうでもよかった。何故なら、その少女は、武蔵の住人なら知らぬ者はいないのだから。

 

『その少女の名前はホライゾン・アリアダスト。今はP-01sという自動人形となって、一年前に武蔵に送った――――今日ね。ホライゾンに会ったんだ。こっちに向かって、手を振ってくれたよ』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

それを聞いた瞬間、トーリは走り出した。

 

「愚弟! どこ行くの!?」

 

喜美が叫ぶがトーリは止まらない。

後を追うように、ネシンバラ・ノリキ・ウルキアガの三人が走り出す。

 

「追って! お願い……」

 

喜美は祈るように手を合わせた。

葉月と神耶は変わらず表示枠を見つめていた。

そんな二人に浅間が話しかける。

 

「追わない、んですか?」

「俺達が追ってどうなるよ」

「今の僕たちより、ネシンバラたちのほうがずっと機転が利く」

 

その言葉は、どこか諦めのようなものを含んでしまっていた。

と、表示枠の向こうで元信は続ける。

 

『さて。立花・宗茂君。君に、先生から一つ聞こう』

『……Tes.なんでしょう』

『家族が離れ離れになるのは、とても悲しい。そうは思わないかい?』

『Tes.その意見には私も同意します』

『うん。だからね。私は彼女を彼の下に送ったんだ。今頃、彼の家で寝ているんじゃないかな?』

 

そういう元信は、表示枠を見る。

否、違う。

葉月にとっては、まるで自分に対して話しかけているかのように思えた。

 

『――――さて。立花・宗茂君。君はこの状況。どうするかね?』

『ここで貴方を止めます!』

『うん。いい答えだ。だけどそれはちょっと困るから――――――おい。ちょっとそこの副長。どうにかしなさい』

 

そういう先には、一人の男性が立っていた。

青を基調とした法衣のような服装に数珠。そして首からは自動人形の上半身だけを下げ、片手には槍を持っていた。

東国無双。本田・忠勝だ。

 

『止めるぜ。学級崩壊!』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

表示枠からは、もう東西の無双の戦いしか映らなくなった。

その瞬間、葉月も走り出した。

しかし、その腕を掴む者がいた。

浅間だ。

 

「どこに、行くんですか?」

 

掠れるような声を、出している。

 

「……家」

「嘘です」

「本当だって」

「嘘ですよ!」

 

浅間が叫ぶ。

 

「だって、だって……また、いなくなるんですか……」

 

葉月は答えない。

浅間は吐き出すように続けた。

 

「十年前も何処かに黙って行って……今度また、黙っていくんですか……」

「浅間……」

 

葉月は浅間を見る。

顔は俯いていて見えないが、肩が小さく震えていた。

葉月はため息をつくと浅間に言う。

 

「俺の部屋に、おそらく元信公の言っていた奴が送られているはずだ」

「……え?」

 

浅間は顔を上げて葉月を見る。

その顔はやはり、涙で濡れていた。

 

「だから家に行くって言ってんだろうに」

「え、あ、だ、だってまた。黙って行っちゃうから……」

「ちゃんと『家』って言っただろ」

「そ、それはそうですけど……」

「いいから」

 

そういって、葉月は浅間の頭に手を置く。

 

「お前はお前の仕事をしてろ。この状況だ。怪異の発生があっても不思議じゃない。それに対処できるとしたら、お前か神耶くらいのもんだ」

「……はい」

「神耶。もしものときは浅間のサポートを頼む。俺はこのまま家に戻ってアイツの封印を解く」

「Jud.気をつけてね」

「おう」

 

そういって、葉月は浅間の手を握る。

 

「今度は、ちゃんと戻る。だから待ってろ」

「……Jud.」

 

手を離し、葉月はそのまま自分の家の方角に跳んだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

同時刻。

K.P.A.Italia所属ヨルムンガント級ガレー『栄光丸(レーニョ・ユニート)』内部では、インノケンティウスが険しい顔で三河の状況を見ていた。

 

「元信の奴。やってくれたなぁ、おい」

「起きてしまったことはもう戻らんぞ。元少年」

 

そういって、背後から魔人族の男が出てきた。

K.P.A.Italiaパドヴァ教導院副長。ガリレオ。

元はパドヴァ教導院の学長だったが、末世対策として身分を学生に戻したのだ。

そして、インノケンティウスとはかつての教え子と教師という間柄。

 

「まあだが。これで嫉妬の大罪武装『焦がれの全域』も手に入る」

「言葉だけ聞くと、まるで悪役のようであるな。元少年」

 

そういうと、コツ、コツという靴音がしてきた。

K.P.A.Italiaの教導院の女子制服に身を包んだ少女だ。

黒い長い髪を後ろで一つに纏め、その澄んだ藍色の瞳は鋭い。

 

「聖下。私が行って鎮圧してきましょうか?」

「いやいい。第一お前の力では武蔵を丸ごと消滅させかねん」

「そ、そこまで未熟ではありません」

 

恥ずかしそうに顔を俯かせる少女。

 

「レベッカ。お前はあの元信の言葉が分かるか?」

「最後に、立花・宗茂に言った問い、ですね」

「Tes.」

「おそらく。武蔵の古代魔法使役士に向けて言ったものではないかと」

「成程。やはりそうか」

「どうするのかね元少年。武蔵には明確な武装はない。が、あの少年一人でそれを全て補って余りあるぞ」

「心配いらん。その時は――――」

「その時は私が出ますので。ご安心を。ガリレオ様」

「……俺の台詞を取るなよなあオイ」

 

苦笑する教皇総長。

そして、その教皇総長の下に一つの連絡が来た。

それはP-01s、ホライゾン・アリアダストを確保したというものだった。

この日。日常は終わった。

 




どうもKyoです。

次回は、臨時生徒総会前までですかねぇ。
鈴さんの回想は入れたいですし。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。
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