〈しろうさぎ〉No.37 Rapid Rabbit   作:電磁幽体

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 少女の頭頂部からは二つの突起物が生えていた。
 変異を来たし頭蓋骨が捻じれ出て表面を筋繊維が覆っている。
 二つの天に伸びた赤黒いそれらに不格好に白髪が絡まっている様子は、見方によっては醜悪なウサギの耳に見えるのかもしれない。

 次いで赤い瞳。
 闇夜の中で淡く揺らめく双眼の光点は、無双の狩人を連想させた。

 少女であり、ウサギの耳に白い髪、赤い瞳を持つ。
 これが知りうる〈しろうさぎ〉についての情報だった。

 何故なら〈しろうさぎ〉は敵対する全てを尽く処理しており、確かな証人は一人として存在しないのだ。
 噂の伝聞という形でしか“こと”を知り得ない。


「〈花〉を売りにきた」

 

 夜の街は不思議な熱気に包まれている。

 人々の欲望が渦巻き、“ひとでなし”の悲しみが憐憫を誘う。

 

 駅広場で、〈首輪〉を付けた少女が歩いていた。

 黒い瞳と澄ました鼻梁、薄紅のルージュで形作られる表情は異国人的な美貌を放っていた。

 

 少女の着飾りは、髪をまるごと隠すような古臭い灰色のキャスケットに、毛皮で覆われた黒色のトレンチコート。

 少女の腰の細さを示すかのように、胴回りを灰色のベルトで二重に締め付けている。

 膝の半ばまで伸びるコートのその先は透き通るような白い肌を成している。

 足元には歩きにくそうな、角度の付けられた黒のハイヒールを履いている。

 

 肌の白さに際立つ瞳の黒と唇の赤、小さな体躯を覆う気品のある灰と黒の装いは、幼さと高貴さがアンバランスに入り交じっている。

 夜の街を歩く少女の出で立ちは、まるで()()()()()()()()()()()()幼い娼婦を想起させた。

 

 そしてそんな想像が間違いではないことは、少女の首元にある〈首輪〉が証明している。

 極悪なる囚人がその身分を示すような、鈍い金属光沢を放つ漆黒の枷。

 人間が身に着けるものにしては、その姿形があまりにも非人道的な〈首輪〉。

 それは最も少女に不釣合いで、あるいは異様に似合っている()()()()()()である。

 

「おい、お嬢ちゃん。まてよ」

 

 会社帰りだろうか、くたびれたスーツを着た壮年の男が少女の〈首輪〉を掴む。

 そして強引に自分の眼前へと少女の顔を持ってきたのだ。

 

 そんな行為を何も気にしてない、何も考えていないような無機質じみた少女の表情を、男は気にせず厭らしい目線で舐めるように見渡す。

 そして〈首輪〉側面に公然と記されていた個人情報を眺めて、

 

「一六歳、サナ。あれれ、フルネーム表記じゃねえのか。珍しいな、初めて見たよ。

 まあそんなことはどうでもいいか、聞いてくれよ、こっちはこないだ女房に逃げられてさ」

 

 勝手に一人語りを始め出した。

 

「ちょっと援助交際がバレてな、家の中が暇なんだ。そんで、おれも暇だ。

 お前もアレが要るだろう? 〈安全保障〉がな。どうだい、こんだけ可愛ければ()()()()でも十分慰み物になる。

 とりあえず一ヶ月は面倒を見てやるぞ?」

 

 スーツの男は劣情を滾らせた顔つきを、美しいサナの相貌へと接近させる。

 サナの表情は人形のように微動だにしない。

 

「おい、聞こえてんのか? 喋れねえのか? ああ?」

 

 そこで……〈首輪〉を掴む腕に誰かがポンと手を置いた。

 

 サナの前を歩いていた三〇代半ばと思わしき男が、サナの顔に数一〇センチまで近づけていたスーツの男の頭部を引き剥がした。

 男はところどころ剥がれかかった茶色いレザーコートを羽織っており、安物のカーゴパンツを履いていた。

 

「ソレは俺のだ」

 

 男はポケットからとある手帳を取り出し、その一ページ目を見せる。

 そこには〈サナ〉という文字の上に〈岸谷誠司〉と記されてあった。

 

 岸谷は冷淡に所有権を主張する。

 未だサナの〈首輪〉から話さない男の手を、きつく握り締める。

 

「イテテテッ! 何しやがる!」

 

 男は手を振り解き怒鳴り込むが、岸谷が一瞬睨みつけると、その凄みに恐れをなしたのか「ちぇっ、先客かよ」と捨てセリフを吐いてすごすごと夜の街に消えた。

 

 その一部始終を見て、サナに声をかけようとした男たちも周りへと散ってゆく。

 ……サナに目をつけた男たちの行動はなんら不自然ではない。

 

 〈首輪〉をつけた少女が、人通りの多い場所をうろついているとなれば()()()()()()()()()()自分を売ろうとしているということなのだから。

 

     +++++

 

 まるで人権を無視したかのような〈首輪〉の存在は、——人の枠組みから外れた人外たる〈化物(キメラ)〉を象徴する証であり、キメラを管理するシステムである。

 そしてキメラに人権など在るはずも無く。

 彼らは定期的な〈安全保障〉無くしては生存できない。

 奴隷か家畜の如き境遇が彼らを待っている。

 

 〈安全保障〉が無くば——〈首輪〉がキメラを殺す。

 

     +++++

 

 それは三年前のある日のこと。

 日本で人間から人外の化物、通称〈キメラ〉への突然変異現象が観測され始めたのである。

 

 キメラの外見は人間のままだが、その内部機構はもはや別物と言って良いほど変わり果て、全てのキメラにはバケモノじみたチカラと、暴走の危険性を付与する。

 暴走したキメラは理性が崩壊し精神を狂わせ、「人をキメラに変容させるウィルス」を振りまく一次感染源となる。

 

 キメラが発生した当初は、生を渇望するキメラと政府命令により駆逐任務を遂行しようとする公安部隊との衝突で日本各地は紛争状態に陥り、経済が著しく衰退した。

 

 キメラ発生騒動から半年後にキメラ関連の法整備が為され、キメラは殲滅対象から管理対象へと扱いがシフトする。

 その理由は度重なる実験と検証の成果で、暴走の予兆だけは解析できるようになったからだ。

 

 この技術により、暴走さえしなければ、キメラは人間以下の扱いを承認することで辛うじて生を享受する権利を保有したこととなる。

 生きる権利を得た代わりにキメラに課せられた義務は、一切の自由が存在しない〈首輪付き(ペット)〉の待遇を受け入れることだ。

 

 それが〈安全保障〉制度。

 

 かつてナチスドイツにおいてユダヤ人に強制した〈黄色いダビデの星(ヘキサグラム)〉のように、この世界では人外の存在と化したキメラに、管理と象徴としての〈首輪〉を強制する。

 

 キメラが生きるためには第三者の扶養者の人間が保証人として必要であり、二週間に一度保証人と共に〈管理局〉での検査を受けなければならない。

 

 暴走の予兆が感知されたキメラ、あるいは〈安全保障〉の最終更新から二週間以内に保証人との契約が途切れたキメラに待っているのは、〈首輪〉による殺害処理だ。

 

 つまりは、不幸にも人からキメラになってしまったモノは、基本的人権を喪失し、奴隷や家畜のような境遇でもって他者から〈安全保障〉を乞い授けられなければ、二週間後のその命が存在しないのである。

 

 老人のキメラはたいていがすぐに〈首輪〉に処理される。

 労働のできるキメラには、まだ仕事がある。

 

 では、労働年齢に達していないような、社会的に無力な子供のキメラはどうか?

 

     +++++

 

 寒空の夜を岸谷とサナは歩む。

 後ろにいる存在を無視しているかのように岸谷は大きな歩幅で歩み、サナはただてくてくと付いて行く。

 

「ここか」

 

 毒々しいネオン光の灯る繁華街を抜けて、切れかけた街灯が点滅する寂れた路地裏の一角で岸谷は足を止めた。

 目の前に地下への階段があり、扉に〈CLOSED〉と立てかけられたバーに続いていた。

 

 岸谷は階段を降り、扉にノックを二回鳴らし、数十秒経ってから今度は五回鳴らす。

 

「……()を売りに来た」

 

 岸谷が新聞受けの間からそう告げると、扉が内側に開かれ、中から店主と思わしき妙齢のマダムが姿を表した。

 岸谷はすぐに〈安全保障〉に関する一切が記された手帳を手渡す。

 

「一応、確認させてね」

 

 マダムは服の上から岸谷の体を上から下に触っていき、怪しい膨らみが無いかチェックする。

 次いでサナの黒い瞳と黒い〈首輪〉を一瞥してから、軽く笑みを浮かべた。

 

「ついてきな」

 

 岸谷とサナは酒瓶がいくつも並ぶ店側のカウンターを通る。

 その奥には更に地下へと続く螺旋階段があった。

 階段を下りしばらくすると、ふと開けた空間に飛び出した。

 

 そこではさながらパーティでも開催されているように見えた。

 

 高さは三階分ほどのぶち抜きで、縦横は目算で五〇メートルほどある。

 等間隔で円形テーブルが設置されており、一目見て高級だと感じるような中華料理やフランス料理などが並んでいる。

 

 ドレスコードでもあるのか、正装姿の紳士淑女がワインの注がれたグラスを片手に華やかに談笑していた。

 空間内の全ての装いが高水準ななか、着飾ったサナはともかく、干からびたブラウンのレザーコートを羽織った岸谷は悪目立ちをしていた。

 

 だが、先客の紳士淑女はそんな岸谷を見ても笑みを崩さない。

 ある意味ではお金欲しさで、()を売りに来るような男の格好は、薄汚いものこそ説得力があるのだから。

 

「どうも、司会者のピエロマンです、お見知り置きを」

 

 顔に趣味の悪い極彩色のメイクを施した青年が岸谷の手を取って恭しく礼を述べる。

 次いで岸谷の後ろに居るサナの手を取り、値踏みする。

 

「雪のように白く、絹のような柔肌。黒い瞳と麗しき唇、ああ、キミは久しぶりの極上品だ、喜び給え、キミの値はもしかしたら今までの中で一番高くになるかもしれない。

 

 ……しかしキミ、怖くはないのかね? キミの待遇はこれから、〈首輪付き(ペット)()()()()()()()()()?」

 

 サナは相変わらず無表情だ。ピエロマンは何かを察し、哀愁のような微笑みを浮かべた。

 

 ピエロマンはサナの手を取って広場中央の高台へと案内する。

 サナを高台の上に1つある背もたれのない丸椅子へと座らせる。

 1つ咳払いをしてから、手を大きく叩いて注目を集めた。

 

「レディース、アーンド、ジェントルメン……お待ちかね、オークションの時間がやってまいりました!

 今宵の()は一六才、サナお嬢様です!」

 

 紳士淑女はテーブルに飲食物を置いて、中央高台に座るサナに拍手喝采を浴びせた。

 

「さて、()()()()の岸谷様から、何か一言お願いできますでしょうか」

「……腹が減った。飯を食わせろ」

 

 会場内は貧乏人の一言でさげずんだような笑いに包まれた。

 

「ユーモアのあるお言葉、ありがとうございます。さあ、岸谷様にご馳走を給いなさい。

 ないふとふぉーくの使い方は分かりますかね? 食べやすければ手づかみでもかまいませんよ」

 

 ピエロマンは饒舌にまくしたてて会場を沸かせ、岸谷をすぐ横のテーブルに案内した。

 

「さて、お話が逸れました。それではまず、お嬢様に自身の花弁をめくってもらいましょう。

 オークショナーの方々も、参考にお眺め下さい」

 

 そういってピエロマンはまずサナに衣服を脱ぐよう指示したが、サナは首を横に傾げただけで何のリアクションも取らなかった。

 

 ピエロマンは困ったような笑みを浮かべ、失礼と先に述べてからサナのトレンチコートに手をかけた。

 襟を肩から外し、なるべくサナの皮膚に触れないようにゆっくりと脱がせにかかる。

 

 次いであらわになった明るいブラウンセーターのボタンを、ピエロマンは前から一つずつ外していく。

 上着は黒いチューブトップだけになった。

 それは背中が大きく開いており、ボディラインに密着して小振りなサナの胸部を浮き彫りにする。

 

 ピエロマンは感嘆のため息を浮かべ、次いでトレンチコートに隠れていた膝丈のスカートに取り掛かる。

 なるべく少女に触れないようにホックを外し、チャックを上から下へと下ろしきる。

 ストンとスカートが落下した。

 太もも半ばまでを覆った薄い黒レギンスが現れ、黒いチューブトップと頭にすっぽりと被った灰色のキャスケットだけになった。

 

 そのキャスケットはこれまでの衣服と違い、干からびた年代モノの風格を放っている。

 

「お嬢様、帽子をお取りしてもよろしいですか?」

 

 ピエロマンがぼろぼろのキャスケットに手を伸ばそうとした時、サナはゆっくりと両手で自らの頭頂を押さえつけた。

 

 顔を上げて、どこにも焦点を合わせていなかった黒い瞳を、ピエロマンの両目に向ける。

 ここに来て初めて意思表現したサナに、ピエロマンは若干たじろいだ。

 

「……なるほど、そこがキミの、キメラとしての()()()()なのかね。見せたくないのかい、これは失礼致しました。

 

さて、オークショナーの皆様、申し訳ありませんがこの続きは、ご購入後にお確かめ下さい」

 

 ピエロマンはテンションを持ち直して饒舌に語る。

 

「さて、お待たせしました。花の可憐さはしかと皆様の目に焼き付いたことでしょう! ここからはオークションのお時間です!

 

 どうぞ、()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 恰幅のいいぴっちりとしたスーツ姿の男性が手を上げ、笑みを浮かべて一言叫んだ。

 

()()!!」

 

 チャイナドレスの年若い美女が叫んだ。

 

()()!!」

 

 髭を蓄えた老紳士が、その横にいる老婦人が、モデルのような顔つきの青年が、会場中の人々が一斉に叫びだす。

 

「「「「ゼロ!! ゼロ!! ゼロ!! ゼロ!! ゼロ!! ゼロ!! ゼロ!!」」」

 

 突然の出来事にオークションそっちのけで料理を堪能し、七面鳥にかぶりついていた岸谷は面食い辺りを見渡す。

 

 ピエロマンはいつになく歪んだ笑みを浮かべ、サナに恭しく述べた。

 

「いやはや、演劇はすぐに終わらせるつもりでした。

 サナお嬢様がなかなかどうして何のリアクションも示して頂かれないから、我々のドッキリもくどいものになってしまいました。

 服を脱がせてしまったご無礼、誠に申し訳ありません。

 

 このような美しいお嬢様を〈首輪付き(ペット)〉にし、感情を閉ざさせてしまった罪深き男には天誅を下したく思います」

 

 次いでピエロマンは、岸谷を一瞥する。

 

「岸谷様、お分かりいただけましたでしょうか?

 私は()()()()()()()()()()()()()()()()と延べました。これは岸谷様、()()()()()()()です。今日ここで、貴方はゼロになりましょう。

 

……私達は〈管理局〉のキメラに対する非人道的扱いに怒りを覚える者達の集合体。〈()()()()()()()()()()からなるレジスタンス。

 

——〈管理局〉への〈仇なす者(アグレッサー)〉でございます」

 

     +++++

 

 いつの間にか銃火器を手にしていた紳士淑女達は、あっという間に岸谷を包囲し、壁の端へと誘導する。

 

 彼等は衣服に隠していた〈変異部位〉を晒し出す。

 それは獣の爪を取るものがあれば、鳥のクチバシをしたものや、虫の触覚じみたものまであった。

 

 ピエロマンもズボンに隠していた〈変異部分〉を惜しげも無く晒した。それは、猫の尻尾に似ていた。

 ……異常発達した背骨が臀部から突き出し、形骸化した小腸が深く絡み付いている。

 

 〈変異部位〉とはキメラの持つ身体的特徴である。

 ウィルスによって人間以外の遺伝子情報が肉体に発現する。

 本来ならば生物の皮膚裏面に在る構造物——それは例えば臓器、白骨、筋繊維——を無理やり引き摺ずり出し捏ね繰り回したかのような露悪的な奇形のオブジェクトであり、人からキメラへの変異を示す悲劇の烙印である。

 

 これは罠だった。

 キメラの売買オークションに見せかけ、〈首輪付き(ペット)〉のキメラを救済し、飼い主の人間を殺す茶番じみた見世物だ。

 

「最近は〈管理局〉の動きが活発であまり動けませんでしたからね。あの〈しろうさぎ〉に我らが同胞が何人も殺され、あるいは捕獲されたか……」

 

 〈しろうさぎ〉という名前が出た瞬間、多くの者が憎しみに顔を歪めた。

 

「さて、岸谷様、最後の晩餐のお味はいかがでしたか?」

 

 前方から銃口を向けられ壁にもたれかかった岸谷は、どこか諦めたような笑みを浮かべてつぶやく。

 

「……料理はうまかったぞ」

 

「不思議ですね。サナお嬢様のようなお方も、岸谷様のようなお方も初めてだ」

 

 ピエロマンは名残惜しそうに言い、ポケットから取り出したリモコンのスイッチを押す。

 

 すると岸谷の背後の壁が駆動音を立てながら下へと消えていった。

 

 岸谷は背もたれの無くなった後ろを見る。

 新たに現れた三〇メートル四方の空間には干からびた人間の白骨が無数に散乱していた。

 

 銃火器を構えた紳士淑女は扇状に岸谷を包囲した。

 

「さあ、どうぞ! 皆様方、盛大なる銃撃を!」

 

 ——ピエロマンが両手で指を鳴らすと同時、無数の銃撃音が閉鎖空間をつんざいた。

 

    +++++

 

 弾薬の炸裂と、銃弾を受け止めた緩衝材の剥離片により岸谷の居る空間は真っ白な煙に包まれた。

 風のない空間で白いヴェールが落ち着くまで時間がかかることだろう。

 

「……おい、あのキメラが居ないぞ!」

 

 獣の爪を蓄えた恰幅のいい男が叫ぶ。

 

 サナのすぐ横に居たはずのピエロマンは、その言葉で横に眼をやった。

 壇上に存在したはずのサナが霞のように消えていた。

 黒のハイヒールだけが、脱がされた衣装の上にぽつんと置かれていた。

 

「——手の込んだ寸劇だなあ、おい」

 

 消えかかった煙の中から銃刑に処されたはずの岸谷の声が聞こえた。

 薄っすらと見える人影は二つ。

 1つは成人男性の大きさで、もう一つは少女の形をしていた。

 

 煙が落ち着き、二つの姿形がはっきりと現れた。

 岸谷を守るかのように、サナが立ち塞がっていた。

 

 サナの伸ばされた右手は、何かを蓄えたかのように膨らんでいる。 

 

 鈍い金属光沢を放つ漆黒の〈首輪〉。

 背中が大きく開いた黒のチューブトップに、太もも半ばまである黒のレギンス。

 さっきまで被っていた灰色のキャスケットは、代わりに左手に握られていた。

 帽子の中に隠されていた髪の色は混じりけのない純白で、耳元で切り揃えられている。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 変異を来たし頭蓋骨が捻じれ出て表面を筋繊維が覆っており、二つの天に伸びた赤黒いそれらに不格好に白髪が絡まっている様子は、見方によっては醜悪な()()()()()に見えるのかもしれない。

 

 サナは握りしめた右手を開放した。

 ()()()()()()()がパラパラと床にこぼれ落ちていく。

 

 会場内の誰かが恐怖とともに叫んだ。

 

「し、〈しろうさぎ〉……!」

 

 ピエロマンは驚愕の表情を浮かべ、それでも言葉尻は変えずに言葉を放つ。

 

「〈しろうさぎ〉の瞳は、赤色だったはずではないのか!?」

 

 岸谷は落ち着いた口調でサナに命令する。

 

「外してやれ」

 

 サナは指を自身の両眼に突っ込み、すぐに手を離す。

 黒のカラーコンタクトを床に捨てた。

 その濡れた瞳はルビーのような輝きを放ち、場所が違えば素直に見惚れていたであろう。

 

 ……少女であり、ウサギの耳に白い髪、赤い瞳を持つ。

 キメラの身でありながら〈管理局〉の忠実なる〈首輪付き(ペット)〉であり、〈管理局〉の支配構造の体現者。

 

 

 ——()()()()()()()()()()()()()

 

 

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