保健室探偵と可哀想な人たち〜お布団から出ないボクっ娘ロリ巨乳がえらそ〜に推理する日常ミステリ〜   作:電磁幽体

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第一章;少年少女のアムネシア

寝台探偵、本領発揮



⑤「謎と事件と犯人と、」

夜子さんの記憶——数秒間と四つの証拠。

たったそれだけで、おれの記憶を推理する。

あらゆる謎を余すことなく解き明かす。

あまりにも大胆不敵な物言いにおれが固まっている間も、夜子さんは話を続ける。

 

「さて、先に〈証拠〉を提示しておこうか。

あの日の出来事で見知った、キミに関する固有の推理材料(ヒント)

 

——要(・)す(・)る(・)に(・)ボ(・)ク(・)の(・)記(・)憶(・)だ(・)」

 

少しだけ、声が震えていた。

 

「ちなみに言っておくと、この証拠の正しさをボク自身が証明する事は出来ないよ。録画をしていた訳ではないからね。

あくまでも、ボクの記憶でしかないんだ。

そんな不(・)確(・)か(・)で(・)曖(・)昧(・)な(・)も(・)の(・)を頼りに、記憶(キミ)の欠落を紐解く。

 

……それでも、良いかい?」

 

——ボクは、記憶(ボク)を信じてない。

 

言葉だけじゃ、ダメだと思った。

 

「おれの目を見てほしい」

 

伏し目がちだった視線が、上を向く。

 

「夜子さんなら見(・)抜(・)け(・)る(・)だ(・)ろ(・)?」

 

——それでもキミには、記憶(ボク)を信じて欲しいんだ。

 

「ぜんぶ、信じるよ」

 

くっきりした目が、じっとおれを見つめている。

大きな瞳のなかに、初めて出会ったときの怯えた記憶(おれ)が映りこんで、

まばたきと同時にかき消えた。

 

「…………では、列挙していこうかね」

 

こころなしか、声が張りを取り戻したような気がした。

あとは証拠を受け入れるだけ。

 

「一つ――キミは旧校舎の旧保健室に訪れた。

二つ――キミは腫れた左側頭部を手で押さえていた。

三つ――キミは入室の際に左手を使い、一度引き戸を開けそびれている。

 

四つ――キ(・)ミ(・)は(・)泥(・)だ(・)ら(・)け(・)で(・)室(・)内(・)に(・)入(・)っ(・)て(・)き(・)て(・)、『熱(・)中(・)症(・)に(・)罹(・)っ(・)た(・)』と(・)自(・)己(・)申(・)告(・)し(・)た(・)」

 

「うん……うん……うん……、

……………………へ?」

 

最初の二つは理解できた。

三つ目はぱっとしないがまだわかる。

しかし、四つ目が意味不明すぎだ。

泥だらけで、熱中症?

コレ、ただの脳震盪なんだけど……いや、そんなことよりも——

 

「——ボクを信じてくれる、と言った口はどこだい?」

 

不満げに口を尖らせる夜子さん。

脳内アラートがけたましく鳴り響く。

 

「夜子さんを疑っているわけじゃない!ちょっと混乱しただけなんだ!気にせず話を進めてほしい」

「本当かね?……次、同じ事をしたら即刻追い出すよ」

 

やると言ったらやる人だ。

おれは全力で首を縦に振る。

 

「ではこれらの証拠と、当時の状況を元に推理を進めていこう。

……と言っても、あとは消化試合なのだけれどね」

 

さっきまでの張り詰めた態度はどこへやら。

お腹まで包んだかけ布団をポンポンと手で整えると、「ふうー」と長い吐息とともに背中を倒す。

ささやかな体重を預けられた柵がギシリと音を立てた。

証拠を提示したタイミングで、夜子さんのなかでは峠を越したらしい。

 

……普通、逆だと思うんだけどな。

 

「言いたいことがあるなら口にしたらどうだい?」

「いや、夜子さんらしいなって……」

「随分と馴れ馴れしい物言いだねえ。たった二回の来訪でボクの何が理解出来ているというのかね?」

 

少なくとも、しゅんと萎れたような夜子さんより、えらそうな物言いの夜子さんの方がしっくりくる。

 

「まあ、好きに解釈すればいい。どうせ今日限りの関係性

——次はキミのターンだよ。

ボクが紡ぐ言葉は、最初から最後まで決まっている」

 

 

「最後は……練習試合中の脳震盪は、〈事故〉ではなく〈事件〉であり、〈犯人は二人〉いる……で、合ってる?」

 

 

「ほう、前のように慌てふためかないのかい?」

「これ以上驚きようがないというか……」

「だったら遠慮は要らないね。それに、少し前フリに時間を掛けすぎた。

 

 

——ここからはノンストップで謎(・)と(・)事(・)件(・)と(・)犯(・)人(・)と(・)、

 

そしてそ(・)の(・)真(・)相(・)を(・)語り尽くそうではないか!」

 

 

夜子さんは不敵に笑う。

 

このときの俺は、こ(・)れ(・)以(・)上(・)があるだなんて知る由もなかった——

 

+++++

 

「順番通りにいくよ」

 

 

①【キミは旧校舎の旧保健室に訪れた】

 

 

「まずキミは新校舎の保健室ではなく、この旧保健室に訪れた。

そしてそれは、キミにとって意図しない訪問だった」

「ああ、間違いない」

「ならばそれで、当時のキミは〈平衡感覚を消失していた〉という事が分かるね」

「……ん?どゆこと?」

「まあまあ、少し待ちたまえ」

 

夜子さんはスマホの画面に、指で地図を記した。

 

「皆空高校の新校舎と旧校舎は互いに隣接していて、その間には連絡通路[==]が走っている。

グ(・)ラ(・)ウ(・)ン(・)ド(・)側(・)か(・)ら(・)見(・)て(・)、右が新校舎[□]、左が旧校舎[■]だ。

この時点で分かる事は?」

 

□(新)--

通路==⇔====-グラウンド-

■(旧)--

 

「えっと……真ん中の連絡通路を右に曲がると新校舎に、左に曲がると旧校舎に入る?」

「その通り。

グラウンドから新校舎に入るには、当然ここで右に曲がらなければならない。

しかしどういう訳か、キミは左に曲がり、旧校舎へと迷い込んだ。

通常の健康状態であれば、この様なミスは決して起きないだろう。

 

――左(・)右(・)の(・)平(・)衡(・)感(・)覚(・)が(・)狂(・)っ(・)て(・)で(・)も(・)い(・)な(・)い(・)と(・)ね(・)。

 

更に付け加えると、古びた内装を見ても旧校舎だと気づかない程に重症だった、という裏付けでもあるよ」

「……わかりやすいな、ありがとう」

 

ずっと一人ぼっちだったと言うわりには、ずいぶん説明慣れしているように思えた。

 

「平衡感覚を司る三半規管は、耳の内側に存在する。

そこに何らかの衝撃が加わった、という可能性が浮上する訳だ」

 

 

②【キミは腫れた左側頭部を手で押さえていた】

 

 

「そして二つ目の証拠が、可能性を事実へと確定させる」

「ホントだ……」

 

おれの関心を気にも止めず、夜子さんは話を進める。

 

「ここで注目すべきは、どこで、どのようにして左側頭部に衝撃を受けたのかという点だね。

当時のキミは、ヘルメット以外の装備を着用したままだった。

つまり、どこでというのは……」

 

今度はスマホに大きく扇▽を描く。

次いでその内側に、一回り小さな菱◇を付け足した。

 

「野球のグラウンド、だよね」

「うむ。

次はどのようにして、だ。

このグラウンド内で側頭部に衝撃を受ける可能性は、おおよそ四パターンに数えられる」

 

画面に描かれたグラウンドの横に、今度は言葉が記されてゆく。

 

「グラウンドでの〈転倒〉、

選手同士の〈接触〉、

打たれたボールが守備選手へと直撃する〈強襲〉、

そして投げたボールが打者へと直撃する〈死球(デッドボール)〉

……いささ些か釈迦に説法じみているが、まず除外すべきは〈強襲〉だ。

理由は分かるかね?」

「えーっと……」

 

基本的に守備の人たちは、打者に対して真正面を向いている。

ボールがどこに飛んでくるのかを見極めるためだ。

だから万が一、飛んできたボールが守備の頭に直撃することはあっても、

 

「向き的に考えて、側頭部には当たらない……で合ってる?」

「ご明察だよ。

次にボクから言わせて貰うが、〈接触〉も同じく除外だね」

 

〈強襲〉と〈接触〉に、指でバッテン☓が引かれれる。

 

「……え、この時点で?」

「少し考えれば分かる事さ。

〈接触〉事故は怪(・)我(・)人(・)が(・)二(・)人(・)同(・)時(・)に(・)発(・)生(・)す(・)る(・)。

そしてキミの症状を考えると、ぶつかった相手にも相応のダメージが考えられる。

それで二人仲良く新校舎の保健室に向かっていたのなら、そもそも旧校舎になんて迷い込みやしない」

「流石にどっちか気づくだろうし……というか、ここに来たのはおれだけだ」

「故に、残された可能性は二つ。

単独でダメージを負う地面への〈転倒〉、

打者のみがダメージを受ける〈死球〉、

なのだけれど……喉が渇いた。先に頂くよ」

「…………」

 

たった二つの証拠から平衡感覚の消失を見抜き、その原因を〈転倒〉と〈死球〉に絞りこむ。

かといって話についていけないなんてことはなく、逆におれの理解度に合わせて説明してくれる。

これでおれと同じ高校生だなんて思えなかった。

 

「んっぷ、ふう……。

何を呆けているのかね?

これまでの話は軽いジャブのようなものだよ。まだまだ真相には程遠い」

「いやいや、めちゃくちゃビビってるんだけど……なんでも当てて、まるで探偵さんみたいだね」

「……チッ」

「なんで!?」

 

本当に、どこに地雷が埋まっているのかわからない。

おれは慌てて続きを促した。

 

「そうだね……一旦外に出て、それから入り直してくれないか。

きちんと戸を閉めて、だよ」

 

部屋の引き戸を指差すので、おれは指示に従った。

ガラガラ……コンコン……ガラガラ……、

 

「お邪魔しま~す……って、これになんの意味が?」

「まあ、聞きたまえ。

キミは外から戸を引く際、右手を使って〈右から左に〉開いただろう?

原則的に日本で設計される片引き戸は、ほぼ全てがこの右開き仕様と言っていい」

 

右手を使って〈右から左に〉……そこまで言われて、三つ目の証拠を思い出す。

 

 

③【キミは入室の際に左手を使い、一度引き戸を開けそびれている】

 

 

「気づいたようだから言っておくけど、これは推理以前の、前提条件の話だよ。

ボクは当時のキミを『ヘルメット以外の装備を着用したまま』と言ったが

 

――そこにはグローブも含まれている」

 

夜子さんは言葉を止めた。

目を細める。

まるで自白でも促すかのように、おれを見つめる。

沈黙と、ピアノソナタ。

だんだんと早まっていく旋律に、なにかを急かされているようで。

 

「おれはグローブを右(・)手(・)に(・)嵌(・)め(・)た(・)ま(・)ま(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

だから――左手で戸を開けようとした」

 

予感が、した。

 

「その時点で、キミが左手でボールを扱う選手だと判明した。

そして更に、左手で引き戸を開けそびれたという事実から

 

――キ(・)ミ(・)の(・)ポ(・)ジ(・)シ(・)ョ(・)ン(・)が(・)投(・)手(・)で(・)あ(・)る(・)事(・)を(・)も(・)確(・)定(・)す(・)る(・)。

 

さしずめ、得意球は〈サイドスロー〉って所かね」

 

……〈サイドスロー〉というのは投球フォームの一つで、いわゆる横投げだ。

 

腕を地面と並行に振りかぶり、勢いが最も大きくなるタイミングでボールを投擲《リリース》する。

二つのメジャーな投球フォーム――

地面に対して腕を垂直に振りかぶる〈オーバースロー〉、

斜め四五度の〈スリークォーター〉

――と違い、〈サイドスロー〉を扱う投手はそう多くない。

 

そして、お(・)れ(・)の(・)得(・)意(・)フ(・)ォ(・)ー(・)ム(・)で(・)も(・)あ(・)る(・)。

 

本日何度目かもわからない、論理の跳躍。

はるか遠くに見ていたモノが、いきなり目の前へと迫って来るかのような圧迫感。

ちょっと心臓に悪くて、いつまで経っても慣れそうにない。

 

「……どうしてだ?」

 

夜子さんの言葉はすべて正しい。

それを受け入れて、次のステップへと進むしかなかった。

 

「最初に言っただろう。片引き戸はほぼ全てが、外側から見て〈右から左に〉引く右開きだと。

日本人は右開きに慣れきっている。

何度も何度もその動作を繰り返していれば、利き手に関係なく、否が応でも体が覚える。

もはや条件反射レベルの常識と言ってもいい。

それぐらいに当たり前の、右開きの扉を、

 

 

――キ(・)ミ(・)は(・)開(・)け(・)損(・)ね(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)」

 

 

流れ続けるピアノの音。

 

「旧保健室(ココ)に来た時、キミは今にも倒れそうだった。

失神直前――極限状況下における行動は、得てして無意識的なものとなる。

……であれば、尚更可笑しい。

片引き戸を〈右(・)か(・)ら(・)左(・)に(・)〉引くという行為を、意識して行う者など居ない。

これは無意識に根付く行為だ。

極限状況下だからこそ、右開きの扉を開けそびれるなんて事は有り得ないのさ。

 

……もしも考えられる可能性があるとすれば、それは一つだけ。

 

キミの左手には〈左(・)か(・)ら(・)右(・)に(・)〉という動作が深く刻み込まれていて、無意識の内にそれが発露した場合だ。

 

 

 

――直前までボールを投げていたなら、無理もないだろうね」

 

 

 

……もう、覚えていないぐらいに投げこんだっけ。

 

そうやって、ただひたすらに磨き続けた〈サイドスロー〉が、〈左(・)か(・)ら(・)右(・)に(・)〉振(・)り(・)か(・)ぶ(・)る(・)動(・)作(・)が(・)、お(・)れ(・)の(・)左(・)腕(・)に(・)は(・)刻(・)み(・)こ(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

――夜子さんは、それを見抜いた。

 

たった一度の、

 

戸の開け方、

 

それだけで。

 

ゾワゾワする。

薄ら寒いものを覚える。

おれのなかの天秤が、良くない方に傾いた。

 

 

す(・)ご(・)い(・)、から――こ(・)わ(・)い(・)、へと。

 

 

「キミは左投げの投手である。

これを前提に、話を進めよう」

 

待ってくれ。

 

「待たないよ」

 

そう言おうとする前に、釘が刺される。

 

「約束したじゃないか。

キミの失われた記憶を、ボクが再構築すると。

今日だけはキミに尽くすと。

 

――それを反故にするつもりかい?」

 

ちらりと、蔑んだような眼差しが向けられる。

 

――始まりは、おれからだ。

 

おれが、夜子さんに、謎解きを望んだんだ。

 

……ここで止まることは、許されない。

 

「続けてくれ」

 

ごほん、と。

わざとらしく改めて。

 

「では最初に。

言うまでも無いが、『熱中症に罹った』というキミの言葉は……嘘だ」

 

 

❹【キミは泥だらけで室内に入ってきて、『熱中症に罹った』と自己申告した】

 

 

「何故このような嘘をついたのか、この時点では分からない。

しかし、ここにおいて嘘(・)の(・)中(・)身(・)は(・)ど(・)う(・)で(・)も(・)い(・)い(・)。

重要なのは嘘(・)を(・)つ(・)く(・)必(・)要(・)が(・)有(・)っ(・)た(・)という点だ。

 

――さすれば、〈転倒〉は除外される」

 

先ほど二つに絞られた〈転倒〉と〈死球〉。

その内の〈転倒〉に、夜子さんは否(☓)をつけた。

 

「理由は明快、 嘘(・)を(・)つ(・)く(・)必(・)要(・)が(・)無(・)い(・)んだ。

一人勝手に〈転倒〉して頭を打つなんて、どう考えても自業自得だ。

そこに他者は一切介在しない。

これを熱中症だと嘘を付いた所で、自分を守る事も、

 

 

――誰(・)か(・)を(・)守(・)る(・)事(・)も(・)出(・)来(・)な(・)い(・)よ(・)」

 

 

「誰かを守る……?」

「嘘には二種類存在するんだ。

自分を守る嘘、誰かを守る嘘。

キミは……い(・)い(・)や(・)、キ(・)ミ(・)だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)分かるだろう?

 

――ボクに罪悪感を植え付けないよう、あんなに腫れた捻挫を隠そうとしたキ(・)ミ(・)な(・)ら(・)ば(・)」

 

 

――そんなくだらない嘘が、このボクに通用すると思うなよ?

 

冷たい目つきでそう戒めたのも、温かい目をして湿布を貼ってくれたのも、同じ夜子さんだ。

 

――可哀想だね。

 

 

二つの言葉が、おれのどこかで重なった。

 

「〈強襲〉、〈接触〉、〈転倒〉。これら三つを取り除いて残った〈死球〉こそが、キミの左側頭部に衝撃を与えた原因だよ。

そ(・)し(・)て(・)キ(・)ミ(・)は(・)投(・)手(・)だ(・)。

 

……ここまでくれば、誰が〈死球(デッドボール)〉を放ったか分かるだろう?

 

 

二(・)軍(・)の(・)投(・)手(・)――即ちキ(・)ミ(・)の(・)先(・)輩(・)さ」










ここまで読んでくださりありがとうございます。

寝台探偵・夜子さんが仮説に仮説を重ねて「謎と事件と犯人」を浮き彫りにしてゆく推理展開はいかがだったでしょうか。
ミステリ初挑戦ですので、上手く機能していると幸いです。

まだ真相編が残っていますが……ストックはここまでとなります。
元々公募用にちまちま書いるいるので不定期更新の予定です、ご了承ください。


……モチベ次第。
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