貴方に視て欲しくて   作:カフェかわいい

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ウマ娘プリティーダービー新時代の扉を映画館で視よう!
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03

 ◆

 

 家の近くからそう遠くない大きな川に掛かる橋の下。

 そこがリュウにとってもベストプレイスだった。

 身体を動かしたり、本を読んだり、何もせずぼーっと川の流れを見たりして過ごしている。

 本当は家の中が一番なのだが、母親が心配するので遊びに行くといって外へ出ている。

 リュウには友達がいない。学校で授業や日常会話など普通のコミュニケーションはとるが、遊びに行ったりする交友関係をもつものはいなかった。

 正直困らないし、必要性を感じない。何より話の合わない人間と無理やり関わってもよいことがない。

 ネットが普及していれば自分の趣味などのコミュニティに属したりもできたが、この年代はまだそのあたりは発達していない。

 検索すればなんでもわかる(真偽保証はない)時代とは大きく違うのだ。

 

 そして今日も今日とてリュウは橋の下に腰を落ち着ける。

 

「……しまった、図書室から借りる本を間違えた」

 

 前回読んでいた【ウマ娘の神秘・上巻】だったので次は下巻だと思って借りたのだが、実は中巻があったようだ。

 

「しょうがないか……」

 

 また明日借りよう。そう思い本から目を離し川へと向ける。

 規則正しく流れる様をただただ眺めていた。

 あるのは微かに聞こえる水の音と吹き抜ける風。

 何もしないことは嫌いじゃない。

 

「――ッ――」

 

 そこに音が入ってきた。地を蹴り、駆ける音だ。

 

「ああ、またあの子か……」

 

 まだ幼い黒髪のウマ娘が前を通り過ぎていく。

 それは別に珍しい光景ではない。

 学校の校庭や近くの総合グラウンドに限らず、子供のウマ娘が走る姿などどこでも見られる。

 よくある風景、特に気にも留めないもの。

 なのだが――。

 

「――――!」

 

 リュウにはソレが見えている。

 黒髪のウマ娘、その先を走る黒い影が。

 幼子が親の後を追いかけるように、などと生易しいものではない。

 必死に、喰らいつくようにそのウマ娘は影に向かって走っていた。

 

 ――今日も勝てなさそうだな。

 

 差は歴然。そもそも能力値が文字通りケタ違いだ。

 大人と子供では勝負にならない。

 それでもそのウマ娘は毎日挑み続けていた。

 

 彼女とは一度も話したことはない。どこの誰かも知らない。

 リュウがこの場所に居座るようになって、気が付いたら彼女は走っていた。

 晴れの日も、雨の日も、雪の日も。毎日飽きもせず走り続けている。

 友達と走らず、誰かと競うこともなく。彼女は常に一人で影に挑み続けていた。

 

 ボッチなのかな? まぁ、俺も人のことは言えないけど……。

 

 遠くへ走り去る彼女の背中から視線を空へと向ける。

 雲一つない青空が広がっていた。

 

 ◆

 

「はずだったんだけどなぁ……」

 

 天気雨、あるいは狐の嫁入り。

 夕日に染まる紅空には雲一つないというのに、雨が滝のように降っている。

 そろそろ帰ろうか、そう思った矢先にぽつりと雨が降ってきた。

 直ぐに止むと思いその場に留まったのが運の尽き。土砂降りである。

 

「……まぁでも、直ぐに止むか」

 

 大きい橋の下ということもあり雨が入ってくることもない。

 止むまでここで時間を潰そう。

 そう思い、水嵩の増えた川を眺めていた。

 

「あっ……」

「ん……?」

 

 掠れた声が聞こえた。

 顔を上げるとそこにはずぶ濡れのウマ娘がいた。

 

「…………」

「…………」

 

 互いに無言。

 とりあえず軽く会釈だけして視線を逸らす。

 幼子といえ、濡れている女性をいつまでも見ているわけにはいかない。

 それに彼女の傍に立つ亡霊のようなウマ娘と目を合わせたくない。

 

 ……悪い奴ではなさそうなんだよな。

 

 リュウに絡んでくる黒いモヤや、衝動のまま襲ってくる化け物とは違う。

 ヒトの形を保ち、明確な意志や目的を持っているように見えた。

 

 まあ、悪意がないならいいか……。

 

 やっていることといえばこのウマ娘の前を走るくらいだ。

 能力値の差がありすぎるので勝負にならない、正直大人気(おとなげ)ない気がする。

 

 そんなことを考えていると少し離れた位置に彼女は座った。雨宿りに来たのだろう。

 お互い話すことはなく、ただ無言で時間だけが過ぎていく。

 

「……いつも、ここにいますね」

 

 意外なことに彼女の方から話しかけてきた。

 社交的な人物には見えなかったので驚いく。

 それとも無言の空間に耐えかねただけか。

 

「ああ、この場所が好きだからな。そういう君もいつも走ってるな」

「……追いつきたいので」

「そうか……」

 

 再び静寂が場を支配した。

 コミュ力は普通だと自負しているが、それは社会人としての話だ。

 友人でも同僚でもない、何の繋がりも共通点もない赤の他人。

 子供の、それもウマ娘相手に話すことなんて特に思いつかない。

 

 ……ああ、一つあったか。

 

 話のネタを思いついたと同時に雨が止んだ。

 立ち上がり彼女を見る。

 

「そのゴーストに勝ちたいのなら、がむしゃらに走るだけじゃ意味がない。

 スピードとスタミナ、あと体幹を鍛えてフォームをきちんと指導してもらえ」

「えっ……?」

 

 そうすりゃあと10年もすれば追いつく。そう言い残し、リュウは帰路に着いた。

 黄昏の空。気の早い一番星がキラキラと輝いていた。

 

 ◆




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