貴方に視て欲しくて   作:カフェかわいい

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ウマ娘プリティーダービー新時代の扉を映画館で視よう!
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04

 ◆

 

 足で地面を掴む様に駆ける。

 スピードのノリはいつもよりいいが慣れないせいでバランスが保てない。

 それでも歯を食いしばりながら目標ラインまで走る。

 

「はーい、あと10セット。がんばれウマ娘ー、まけるなウマ娘ー」

「――ッ――」

 

 やる気のない声が聞こえる。

 視線を上げるとこちらを見向きもせず、本を読んでいる男の子がいた。

 

 ……少し、腹が立ちます。

 

 トレーニングをみて欲しい。そう頼んだのは自分だ。

 自分と同じもの(・・・・)が見える彼なら、何かを得られると思った。

 そして言われた通りのトレーニングをしているというのに、言った本人はさして興味がなさそうだ。

 

 本当に、意味があるのでしょうか……。

 

 再び地面を蹴る。

 先ほどより集中力を欠いてしまったためか、少し雑な動きになってしまった。

 

「体幹左にズレてるぞ。雑にやるなら意味ないからやめた方がいい」

 

 まだスタミナに余裕があるし疲れてるわけじゃないだろ、そう見透かすように言葉を投げられた。

 ハッとなり彼をみる。先ほどと変わらず本を読んでいた。

 自分の状態を自分以上に理解している気がして、少し怖かった。

 それでもお友達が彼の周りを飛び回り、時折ちょっかいをかけているのを見ると、悪い人ではないと思える。

 鬱陶しそうにお友達の相手をしている姿を見て。

 

 ――私はひとり(・・・)じゃないんだ。

 

 それは安心だった。

 両親も、先生も、クラスメイトも誰も見ることができないお友達。

 自分だけが見えていて、自分だけしか知らない存在。

 きっと一生誰にも理解されずにいる、そう思っていた。

 けれど違った。同じ景色を見ている人がいた。

 

 ……ああ、きっと私は彼にトレーニングをみて欲しいんじゃなくて、本当は――。

「どうかしたか?」

 

 動きを止めた自分を心配したのか、彼がこちらを見た。

 

「あと9セットだが、無理しなくていいぞ。やる気が出ない時とかよくあるし」

「……やります」

 

 そう言って、再び走り出した。

 不慣れなはずの走り方が少しずつ身体に馴染んできた気がした。

 

 ◆

 

 いつもと変わらない日々。

 今日も今日とて橋の下へとリュウは向かっていた。

 するとそこには。

 

「……こんにちは」

「……どうも」

 

 先客がいた。昨日話した黒いウマ娘だ。

 休憩中なのだろうか、珍しいこともあるものだと思い、いつもの場所に座り本を取り出す。

 

「…………」

「…………」

 

 ウマ娘がこちらをガン見していた。

 

 いや、なぜ……?

 

 いつもなら走っている時間だし、リュウのことなど気にも留めていなかった。

 何かあったのだろうか。

 

 ――というか。

 

 ゴーストが鬱陶しい。

 先ほどから周囲を飛び回りこちらを観察している。

 よく見ると顔がとてもいい。イケウマ娘だ。何を思ったのか突然抱き着いてきた。

 

 あ、柔らかい……。

 

 豊満な感触が背中から伝わる。すりすりと頬を擦り付けてきた、ネコか何かか。

 

「こいつ共々、何か用?」

「……やはり視えているのですね」

 

 少し機嫌が悪そうに彼女が答える。ゴーストをとられた嫉妬かな。

 

「そういうお前も視えてるんだろ? この町で視える奴に会ったのは初めてだ」

「それは私もです」

 

 ウマ娘なんてはっちゃけた存在がいるが、この世界は普通だ。

 不思議パワーはほとんど存在せず、平和な世の中。

 いや、もしかしたら裏で世界滅ぼし軍がいて着々と準備を進めているかもしれないが、ただの小学生には知る由もない。

 その場合は運が悪かったと諦めよう。どうせ二度目の人生だし。

 

 なんにせよ、彼女は珍しいタイプだ。

 ウマ娘で、その上ゴーストに憑りつかれている。

 顔も声もいいので将来は美人さんになるだろう。属性盛りすぎでは。

 

「それで用件は? このゴーストを払ってほしいのか?」

「それは止めて欲しいです。お友達なので」

 

 払う、という言葉に反応したのかゴーストが彼女の後ろまで逃げた。

 まあ悪い存在じゃなさそうなので、積極的に払おうとは思わない。美人だし。

 それはさておき。

 

 ――お友達、ときたか。

 

 ゴーストをお友達と呼ぶのはあまり健全ではない。

 きっと彼女は周囲から非常に浮いていたのだろう。視えているものが違く、話が合わず。

 その結果、コミュニティから排される。子供は純粋で、とても残酷だ。

 

 ――だからこそ、お友達なのか。

 

 たった一人、ずっと傍にいてくれた存在。彼女はゴーストに心を許しているのだろう。

 年齢に似合わないほど落ち着いているのもゴーストが一緒にいた影響か。

 

「じゃあ何の用?」

「……昨日、貴方は言いましたよね。鍛えたらお友達に勝てるって」

 

 ああそのことか、と納得する。

 話のタネにでもなればと思って言った言葉だ。

 

「そりゃ鍛えて差を埋めれば勝てるんじゃないか。伸びしろあるし」

「……どうしてそう思うのですか?」

 

 どうして、とはなかなか言語化が難しいことを聞く。

 能力値を上げてスキルを磨き、相手を上回れば勝てる。リュウから言えるのはそれだけだ。

 だがそれはステータスが見えるからに過ぎない。

 普通の人は自分の状態を数値として見ることはできない。能力値が僅かに上昇したとしても体感ではわかりづらい。

 言ったところで伝わらず、実感もできない。他人から見たら大ほら吹きだろう。

 

「なんとなく、だよ。お前の走りを見てそう思っただけだ」

「……そうですか」

 

 そして彼女は少し考える素振りをして。

 

「私にトレーニングをつけてくれませんか?」

 

 そんなことを言った。

 何言ってんだお前、と思う。

 

「何言ってんだお前」

 

 口に出ていた。でもそうだろう。いきなり鍛えてくれと言われても困惑する。

 出会って間もない、昨日初めて話した相手だ。

 なにより。

 

「そういうのは専門家に聞けばいいんじゃないのか? たしかトレーナーとかいうウマ娘を鍛える専門職があるんだろ」

「……この町にトレーナーは居ません、トレセン学園もありませんし。何より、お友達に勝てると言ったのは貴方です」

 

 ダメですか? そう不安そうに彼女が呟く。

 改めて彼女とゴーストを見比べる。

 差はケタ違いで絶望的。大人と子供なので当然だろう。

 だが成長率や才能から、きちん時間をかけて鍛えればいつかは追いつけそうだ。

 

 ――まあ、暇だしいいかな。

 

 自分のステータス上げるのもマンネリ化していたところだ。

 他の人を鍛えて能力の検証してみるのも悪くない。

 

「まあいいけど、専門家じゃないからうまく説明とかできないぞ」

 

 そんな打算から彼女の提案を受けることにした。

 

「……! はい、よろしくお願いします、トレーナーさん」

 

 いきなりトレーナー呼びなのか、同い年くらいなのに。

 ま、すぐ飽きるだろうし、この関係はそんな長くは続かないだろう。

 この時のリュウはそう思っていた。

 

 ◆




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