アイのままに、ワガママに~名探偵は一家団欒を望む~   作:サニキ リオ

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第18話 罪を犯していい理由にはならない

「な、何をおっしゃっているんですか! どうして私がヴァールハイト様に罪を着せなければいけないのですか!」

 

 セレーヌは慌てた様子で捲し立てる。

 

「だいたい証拠は揃っているんでしょ! だったら、犯人だって証拠のない私をわざわざ意味不明な理由で犯人に仕立て上げるなんて横暴だわ!」

「物的証拠ならあるわ」

 

 ディアナがそう告げるのと同時に店の奥から捜査二課の刑事が出てきた。

 

「姐さん、彼氏さんからの伝言通りにキルギヌさんのロッカーを調べたら出てきやしたぜ! 合成樹脂で作ったブローチの装飾だ! しかも空っぽの宝石部分の形状は慈愛の涙とピッタリ一致しやした!」

 

 捜査二課の刑事が証拠品として押収したブローチの装飾を持ってきたことで、ディアナは笑みを浮かべて俺に視線を向けてきたので笑顔で頷いておいた。

 

「セレーヌさん。あなたはおすすめの一品と言って、大粒のルビーに安っぽい装飾がされたブローチをインカさんに見せた。しかも、わざわざ宝石部分に素手で触るように言って指紋を付けさせたのよ」

「そ、そういえば、あのとき店長はインカに〝宝石部分の特徴的なカットを素手で触って確かめてほしい〟って触らせていましたわ」

「そう、あれは既に特別展示室から盗み出された慈愛の涙の上からブローチの装飾を被せたものだったのよ。パスワードのシステムだって管理しているのはセレーヌさんよ。パスワードのメール転送だってあなたなら簡単でしょ?」

 

 強固なように見える防犯システムも、管理している人間が悪用すれば意味を為さない。

 逆に言えば、それこそこの犯行がセレーヌにしかできないことを裏付けていた。

 

「で、でっちあげよ! 慈愛の涙はインカの鞄から出てきてるんでしょ!」

「ま、大方彼女がお手洗いに行っているときに仕込んだんでしょうね。彼女がお手洗いに行く際に店員に鞄を預けたことも確認済みよ」

 

 もしもお手洗いに行かなかった場合は、他に理由を付けて荷物を預かる算段だったんでしょうけど、とディアナはセレーヌの犯行についての推理を締め括った。

 それから、今度はセレーヌが何故今回の犯行に及んだかについて話し始めた。

 

「さて、一番気になる動機だけど……それは宝石商であるインカさんの旦那さんが関わってくるわ」

「主人が?」

 

 インカさんは不思議そうな顔で聞き返す。

 彼女からしてみれば突然旦那の名前を出されても心当たりはないだろう。

 

「旦那さんのスタンリーさんは優秀な宝石商よ。でも彼が若い頃、偽物の宝石を仕入れてしまったことがあった。そうよね? セレーヌ・キルギヌさん――いえ、セレーヌ・アッズーロさん」

「っ!」

 

 ディアナがセレーヌを旧姓で呼ぶと、セレーヌの表情は引き攣る。

 

「昔、有名だったマフィアグループ〝イグニス・ファトゥス〟のボスであるフィアンマ・アッズーロ。あなたは彼の娘ね?」

「……チッ、どうやって調べたか知らないけどその通りよ」

 

 セレーヌは弁解が無理と悟ったのか、悪態をつきながら素直に話し出した。

 

「父はマフィアだったけど、私にとっては優しくて大好きな父だった。でも、あの男のせいで父の命は奪われた」

「原因は重要な取引でスタンリーさんから買い取った偽物の宝石を渡したことよね」

 

 国内でも大きな影響力を持つマフィアであるイグニス・ファトゥスのボスの死は当時話題となったから俺も覚えている。

 真犯人はわからないまま捜査は打ち切りになったが、取引相手のマフィアに偽物の宝石を渡したことで相手の怒りを買って殺されたとされている。

 

 そのとき取引されていたのは、当時有名だった怪盗シャノワールによって盗み出された宝石〝賢王の太陽〟だった。

 シャノワールはベオウルフが有名になる前の怪盗を象徴する存在で、彼が盗み出した品々は偽物が出回り、社会問題となっていた。

 宝石商として駆け出しだった頃のスタンリーさんがそれを入手してフィアンマに販売してしまったことも詮無いことだろう。

 

「……許せなかったのよ。あの男が偽物を売りつけたりしなければ、父は死なずに済んだ!」

 

 セレーヌの叫び声が店の中に響く。その瞳には涙が浮かんでいた。

 

「ちょうど良かったのよ。父が死んだときは怪盗シャノワールのせいで偽物が社会問題となっていた。今もそう。怪盗ベオウルフのせいでこの国の美術品は偽物だらけ」

「では、ベオウルフ様の名前を使ったのも……」

「そうよ! あのキザなコソ泥の名前をいくら使ったところで心は痛まないもの!」

 

 セレーヌは自分の犯した過ちを棚に上げて、全ての責任をベオウルフに押し付けた。

 

「あたしも怪盗ベオウルフのことは嫌いよ」

 

 そんな彼女にディアナは淡々と告げる。

 

「でもね。それはあなたが犯罪を犯していい理由にはならない」

「……っ!」

 

 ディアナの真っ直ぐな言葉がセレーヌに突き刺さる。

 それからセレーヌは力なく笑うと、ディアナを恨みがましく睨みつけた。

 

「っは、まったく私もついてないわ。世間じゃポンコツ刑事って言われてるあなたがここまでキレ者だったなんてね」

「……ポンコツ刑事で悪かったわね。ジル」

 

 ジル刑事は無言で頷くと、セレーヌに手錠をかけるために一歩前に出る。

 

「どきなさい!」

「うわっ!?」

 

 しかし、懐から拳銃を取り出したセレーヌにジル刑事は驚いて後ずさってしまった。

 

「おい、あんた」

「動かない――で!?」

 

 俺は銃口を向けられた瞬間に、銃を奪って関節を決める。

 

「ジタバタすんじゃねぇ」

「うぐっ……!」

「俺はあんたみたいに、復讐を理由に家族の絆を平気で踏みにじる奴は嫌いなんだよ」

 

 俺の言葉を聞いたセレーヌは悔しげに歯噛みする。

 それから抵抗を諦めたのか、彼女は大人しくなった。

 すると、ディアナはセレーヌの前に立ち、彼女の目を見つめ、ゆっくりと口を開いた。

 

「セレーヌ・キヌギル。窃盗と誣告の容疑で逮捕します」

 

 ジル刑事から受け取った手錠をセレーヌにかけると、ディアナは優しげな表情を浮かべて告げる。

 

「あなたは罪を犯した。でも、もしあなたが罪を償って再出発したいときはいつでも相談に乗るわ」

「うぅ……ちくしょう、ちくしょう……!」

 

 涙を流しながらセレーヌはそのまま捜査二課の刑事達によって連行されていった。

 こうして今回の事件は幕を閉じた。

 

「これで解決だね!」

「一件落着だな!」

 

 笑顔で両手を挙げてくるアイの高さに合わせてハイタッチをする。

 

「ほら、ママもママも!」

「えっ、あたしも?」

 

 アイがディアナにもハイタッチを要求する。

 ディアナは困惑しながらもアイとハイタッチをした。

 

「あたしはライアンから聞いた推理を披露しただけなんだけどなぁ」

「ディアナがいなけりゃここまでスムーズに解決しなかったんだ。何なら一番の功労者だろ。もっと誇っていいと思うぞ」

 

 それに俺はあんな風に犯罪者に寄り添うような考え方はできない。

 だからだろうか、セレーヌに優しく微笑んでいたディアナが輝いて見えた。

 

 

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