アイのままに、ワガママに~名探偵は一家団欒を望む~   作:サニキ リオ

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第24話 Ladies and Gentlemen!

 予告の時間が近づいてくる。

 準備は万端、あとは結果をご覧じろってところか。

 

「アイちゃん、ライアンはどこにいるのかしら」

「たぶん、ベオウルフの逃走経路を予測してそこに陣取ってるんだよ」

 

 ディアナとアイの会話が聞こえてくる。

 ディアナに変装されている可能性もある以上、アイも詳細は語らない。

 

「なるほど、待ち伏せってわけね。あいつらしいわ」

「ママは前にベオウルフを追ってたときに、待ち合わせするパパを見たんだっけ」

「ええ、姿は見てないけどベオウルフがしてやられたって感じで〝名探偵君〟って呼んでたから、街中探し回ってライアンに辿り着いたの」

 

 どうやら、ディアナはあの怪盗と名探偵が邂逅した夜以来、必死にその名探偵を探し回っていたらしい。

 彼女のことだ。足を使って地道に探し回ったのだろう。

 それで本当に俺達のところに辿り着くのだから、ディアナの捜査力もバカにはできない。

 

 それからしばらく二人の会話に耳を傾けていると、予告の時間が近づいてきた。

 さて、そろそろだな。

 

「照明が落ちたわ! 総員、警戒態勢!」

 

 特別展示場の照明が落ちた瞬間、ディアナが大声を上げる。

 ディアナはこの状況を何度も経験しているからこそ、真っ先に反応できるのだろう。

 

 

「Ladies and Gentlemen!」

 

 

 電気が復旧した特別展自室に今夜の主役の声が響き渡る。

 

「怪盗ベオウルフ、ロゼミ・クロサイト様に地上の明月を返却しに参上いたしました」

「出たわね、怪盗ベオウルフ!」

「先日ぶりですね、ディアナ警部。今日も一段と美しい」

「けっ、そういう歯の浮くような台詞はロゼミにでも吐いてなさい!」

 

 現場ではお約束となった怪盗と女刑事とのやり取り。

 ディアナは吐き捨てるように言うと拳銃を構える。安全装置を外す音はしたが、余程のことがなければ彼女も発砲しないだろう。

 

「おっと、拳銃はしまっていただきたい。今宵の私はただ宝石を返却しにきただけなのですから」

「あんたが妙なことをしなけりゃ撃たないであげるわ。こっちは始末書なんて書き慣れてるのよ!」

「刑事が発砲して始末書で済む辺り、この街の治安が窺い知れますね。まあ、ご安心を。もうやるべきことは済んでおりますから」

「それってどういう――」

 

 ブランニュイ市じゃ民間人の発砲すら日常茶飯事だ。それが刑事となれば尚更だろう。

 

「お待ちしていましわ、ベオウルフ様」

 

 ディアナがどういう意味か尋ねようとしたとき、ロゼミが会話に割って入る。

 

「ロゼミお嬢様、先日はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。そして、今宵はこの場に招待していただき誠に感謝します」

「いえ、礼を述べるのはこちらの方ですわ」

 

 仰々しい挨拶に対して、ロゼミは弾んだ声音で答える。余程ベオウルフに会えたことが嬉しいのだろう。

 

「先日の一件はあなたも被害者ですわ。あなたが気に病むことなど何もありませんわ」

「寛大なお言葉、感謝いたします」

「御託は良いからさっさと地上の明月を返したらどうなの?」

 

 痺れを切らしたようにディアナが告げる。

 

「それならば、もう既に返却済みですよ」

「嘘……」

「お嬢様の望み通り、ケース内に設置させていただきました」

 

 ディアナが驚いたような声を零す。

 無理もない。何せ鍵穴に何かを差し込んでピッキングしているときの音は一切しなかったのだ。

 照明が復旧するまでの一瞬で、ケースを開けて宝石を置くことなど不可能なのだ。

 

「な、何ですと!? 電流装置を一体どうやって……!」

「ああ、あのケチな仕掛けですか」

 

 驚いているヴィクトル博士に対して、嘲るような言葉が静まり返った展示室に響き渡る。

 

「あんな子供騙しの装置でこの私を捕まえられるなんて思わないことですね。ヴィクトル博士、あなたは素晴らしい技術をお持ちなのだから、もっとそれを世のために行かした方が良いのでは?」

「くっ……!」

 

 煽るような言葉に、ヴィクトルは悔しそうに歯噛みする。

 誰もがベオウルフの一挙手一投足に見とれて動けなくなっている中、軽快な足音が近づいていき――

 

「えいっ」

 

 可愛らしい掛け声と共に手錠がかけられる音がした。

 

「おやおや、これはまた随分と珍しい歓迎ですね」

「気に入っていただけましたか?」

 

 手錠をかけた犯人はロゼミだった。今回はベオウルフを捕まえる気はないと取材で言っていたと思うのだが、どうやらそれは嘘だったようだ。

 

「悪い気はしませんが、私とあなたを繋ぐ運命の糸にしては少々無粋な気もします。ですので――」

 

 しかし、手錠だけで拘束できるほどベオウルフは甘くはない。

 

「こちらは外させていただきました」

「い、いつの間に?」

 

 音もなく外された手錠。これはピッキングではなく、素早く関節を外して手錠から抜け出したのだ。

 

「さて、名残惜しいですが、目的も果たしたことですし、私はこれにてお暇させていただきます。Adieu!」

「待ちなさい!」

「はっはっは! 待てと言われて待つ泥棒はいませんよ!」

 

 高笑いと共に気体が噴出される音が響き渡る。

 これは事前に会場に仕込んであった煙幕装置が作動した音だ。

 

 さて、ここからは探偵の出番だ。

 

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