アイのままに、ワガママに~名探偵は一家団欒を望む~   作:サニキ リオ

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第31話 炎の大脱出

『さて、惜しくはありますが私のショーもフィナーレの時間。最後に皆様には最高の奇跡をお見せしましょう』

「っは、何が奇跡だよ……」

 

 芝居がかったMr.ネロの言葉につい悪態をついてしまう。

 

「どんな奇跡を見せてくれるのかしら……!」

 

 そんな俺とは対照的にディアナは目を輝かせてMr.ネロを見つめていた。

 

『鎖で頑丈に固定されたどう見ても身動きの取れないこの状態で、燃え盛る箱から見事脱出してご覧にいれましょう!』

「マジでやんのかよ……」

 

 つい先ほど冗談で言った内容を本気でやるようで、乾いた笑いが零れる。

 そういえば、このステージはビル内でも特別な防火仕様となっており、火気の使用も可能だったな。何か大量の火薬も用意してあったし、最初からこれをやるつもりでこのビルをマジックショーの舞台に選んだのだろう。

 ディアナはもう待ちきれないとばかりにステージを見つめている。

 俺はそんな彼女の横顔を見て、思わずため息をついた。

 

「楽しそうだな、お前」

「ええ、だってあんな雁字搦めにされた状態からの大脱出よ! わくわくするじゃない!」

 

 ディアナは子供のように目を輝かせている。

 それとは対照的に俺とアイは冷めた目つきで鎖で拘束されていくMr.ネロを見ていた。

 

「パパ、どう思う?」

「並みのマジシャンならまず脱出は不可能だな。そういうアイこそどう思うんだ?」

「多分あの人なら余裕だろうね」

「だな」

 

 体中に鎖を巻きつけられたMr.ネロは身動きできない状態だ。

 あんな状態で箱に閉じ込められて火を付けられればひとたまりもないだろう。

 

「あ、あんなにガチガチに拘束されて大丈夫なのかしら……殺人犯だってあそこまで拘束したりしないわよ!?」

「よくそこまで本気で心配できるな……」

「まあ、いいじゃん。純粋なのはいいことだよ」

 

 ディアナは本当に危険なマジックが行われていると思っており、不安げな表情でショーの成り行きを見守っている。

 こいつ、毎回こんな調子でベオウルフの捜査担当していたのかよ……。

 そうこうしているうちに、鎖で拘束されたMr.ネロが箱に閉じ込められていく。

 

『それでは箱に火を放ちます!』

 

 アシスタントのバニーガールが箱に火を放つ。

 箱にはあらかじめ油がかけてあったのか、瞬く間に箱は火だるまになっていった。

 この大脱出マジックの種として考えられるのは、箱の下にステージと繋がった脱出口が用意してありそこに降りれるようになっている場合。

 

 ただ、さっき箱を移動する前に確認したが、床に仕掛けは見当たらなかった。

 となると、箱の後ろが開くようになっていて完全に箱が燃え尽きる前に脱出するという可能性の方が大きい。

 アシスタントも後ろに移動した様子はないことから、この場合は箱を内側から開けなければいけない。

 つまり、どうあがいても鎖は自力で解かなければならないということだ。

 

「……大丈夫かな、パパ」

「お前までそんなこと言うのかよ」

 

 おそらく俺と同じ結論に至ったアイが急に不安そうな表情を浮かべだした。

 

「だって、このマジックって重要なのは仕掛けよりも本人のマジシャンとして腕だし……」

「あのなぁ、Mr.ネロは世界的なマジシャンだぞ。手首がそれなりに動く状況で鍵にも指先が届くんだ。どうにかするだろうよ」

 

 ま、これがミステリー小説だったら箱の仕掛けや鎖についている鍵に細工されてそのまま焼け死ぬだろうけどな。

 火の手が上り、箱は激しく燃え盛るが一向にMr.ネロは脱出する素振りを見せない。

 演出と思っていた観客達も、スタッフ達が慌てたようにざわつき始めているのを見てこれはハプニングなのではないかと勘繰り始める。

 

「ど、どうしようライアン! Mr.ネロが死んじゃう!」

「落ち着け、お前はもっと推しの実力を信じろっての」

 

 これも演出だ。

 少なくとも、マジックの仕掛けに細工をされているんだとしたらあの男が放っておくはずがないからな。

 

「ったく、よくやるよ」

 

 慌てたスタッフが消火器を箱にかける。

 消火器から噴出される消火剤はまるでスモークのようにステージを彩っていく。

 きっとこれも計算の内なのだろう。

 

「ちょっとあたし行ってくる!」

「あっ、おい! ディアナ!」

「ママ!?」

 

 ディアナは立ち上がると、勢いよくステージに向かって飛び出していく。

 あのバカ……!

 俺も飛び出したディアナを追いかける。

 

「よせ、火傷するぞ!」

「あたしはいいのよ!」

 

 ディアナはまだ熱を持った箱を素手で握り力づくで開ける。

 常人なら熱で変形したマジック用の頑丈な箱を開けることは不可能だが、ディアナは持ち前の馬鹿力で火傷も気にせずに箱の扉をこじ開けてみせた。

 

「あ、あれ? いない……」

「そりゃ脱出してんだから当然だろ! もう少し考えて行動しろバカ! 下手したら火傷だけじゃ済まなかったんだぞ!」

「人が死ぬかもしれないってのに、黙って指を咥えて見てるなんてできるわけないでしょ!」

「もう、二人共! 喧嘩は、め! ここステージの上だよ!」

 

 俺についてきたアイの言葉で我に返る。

 そして、背後に気配を感じて振り返ると、そこには少々焦げた衣装に身を包んだMr.ネロの姿があった。

 

『はっはっは! 皆様、お騒がせ致しました! トラブルもありましたが、何とかこうして脱出することができました!』

 

 Mr.ネロはマイクを通して自分の無事を伝えると、俺達の方へと向き直って告げる。

 

『こちらの勇敢で麗しい女性とそのご家族にも盛大な拍手を!』

 

 その言葉の直後に割れんばかりの拍手が俺達にも送られる。

 目立つのはあまり好きではないし、ここはさっさと退散させてもらおう。

 ディアナの手の火傷も心配だしな。

 

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