アイのままに、ワガママに~名探偵は一家団欒を望む~   作:サニキ リオ

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第32話 事故を装った殺人未遂

「君、早く医務室へ」

「えっ、あっ、はい……」

 

 幕が下りると、先ほどとは打って変わって神妙な表情を浮かべたMr.ネロに連れられてディアナは医務室へと連れていかれた。

 

 その隙に俺はステージ上の箱や鎖を調べる。

 どうやら、鍵開けに苦戦したというのは本当らしい。

 鎖に取り付けられている鍵がいくつか種類の異なるものに変えられている。きっと、隠し持っていたピッキング用の針金で何とか開けたのだろう。

 それに焼けてしまってわかりにくいが箱も一部が不自然に変形している。まるで外から強い衝撃を受けたようだ。

 

 それにスタッフが慌てていたのは演技ではなく本当のようだ。

 先ほどまで焦っていたスタッフのざわつきがまだ収まっていないのがその証拠だ。

 しかし、こんなトラブルにMr.ネロが気がつかないわけがない。

 敵を騙すにはまず味方からといったところだろうか。

 マジックの仕掛けに仕込まれた細工の数々。それはこのマジックショーの裏で事故を装った殺人未遂が起きていたと推測するには十分な材料だ。

 

 マジックショーが終わったことで観客は続々と帰っていく。

 その中で俺とアイは医務室へと運ばれたディアナを追って医務室へと向かった。

 医務室へ入ると、ちょうどディアナの両手に包帯が巻き終わったところだった。

 

「ディアナ、火傷の方は大丈夫なのか?」

「ええ、思ったよりも大したことなかったみたい」

「まったく、少しは考えてから行動しろっての」

 

 危なっかしくてこっちは心臓が持たない。

 ディアナの手当てが終わって安堵のため息をついていると、医務室にこの国では珍しい黒髪黒目の初老の男性が入ってきた。

 

「失礼致します。Mr.ネロからあなた達を楽屋へとお連れするようにと命じられてまいりました」

「わざわざ悪いな、ヤジマさん」

「いえ、滅相もございません」

 

 Mr.ネロの付き人であるヤジマさんに連れられて廊下を歩いていると、ディアナが小声で話しかけてくる。

 

「何、知り合いなの?」

「まあな」

 

 適当にはぐらかしてヤジマさんの後を追う。どうせ、楽屋に入ったらわかることだ。ここで説明する必要もないだろう。

 

「ささ、旦那様がお待ちです、坊ちゃま」

「坊ちゃま?」

「旦那様、坊ちゃま達をお連れ致しました」

「ああ、入って構わないよ」

 

 入室の許可が出たことで、俺達は楽屋の中へと入る。

 

「で、わざわざ楽屋にまで呼び出して何の用だよ、親父」

「息子の顔を見るのに理由がいるかね?」

「へ?」

 

 俺の家族構成を知っている人間は少ない。

 俺自身、家族について語ることは滅多にないし、仕事上の付き合いのある人間はなおさらだ。

 この世界的に有名なマジシャンMr.ネロことコネロック・スローンは俺の父親である。

 

「こ、この人世界的なマジシャンのMr.ネロよ!?」

 

 ディアナは驚きの声を上げるが、俺は構わずに親父を睨みつける。

 

「そう。それでもって、マジックが嫌いになって修行中に家出して、現在私立探偵をやってるドラ息子が俺ってわけ」

「ほっほっほ、ライアンの修業は最終試験以外は全て終わっている。並みのマジシャンなら敵わないだろう」

「じゃあ、あんたマジックできるの!?」

「ライアンの腕なら今すぐにでもショーに上がれるさ」

 

 親父の言葉を聞き、ディアナは目を輝かせて食いつく。

 それを見た親父は自分が褒められたように顔を綻ばせる。

 その態度がまた気に障る。

 

「できるけど、見せねぇよ。言ったろ、マジックは嫌いなんだ」

「〝マジシャンも怪盗も所詮は人を騙して利益を得る存在〟だったかな?」

「チッ、覚えてんじゃねぇよ」

 

 思わず舌打ちしてしまう。

 ステージ上の一件がなければ今すぐにでもここを立ち去りたい気分だ。

 

「あたしは好きよ、マジック。だって人を騙して幸せにできる数少ない真っ当な職業だもの」

「へーへー、そうですかい」

「ほっほっほ、ライアンはいいお嬢さんを見つけたみたいだね」

 

 ニヤリと笑う親父の表情に俺は苛立つ。別に恋人でも妻でも何でもないっての。

 楽し気な様子の親父は一度表情を引き締めると、ディアナに向き直り頭を下げた。

 

「改めて礼を言わせてほしい。助けてくれてありがとう」

「い、いえ! ただの演出だったのに、むしろ邪魔をしてしまって……あっ、あたし、ディアナ・モンドと申します!」

「ディアナさんか。うん、君らしいいい名前だね」

 

 済ました顔で笑っているが、どうやら親父も理解しているようだ。

 ディアナが飛び出したことで、犯人は辛うじて燃え盛る箱から脱出した親父を殺しそびれたのだと。

 

「そういえば、ライアンのお姉さんは来ていないんですか?」

「「「「っ!」」」」

 

 何気なく放ったディアナの一言で楽屋の空気が凍り付く。

 ディアナはそれに気がつかずに楽屋に置いてあった写真を見つけて目を輝かせた。

 

「あっ、この人があの有名な名探偵のプライさん? アイちゃんにそっくり! さすが伯母ね、遺伝子感じるわぁ」

「そう、だな……」

「うむ……」

「あ、あれ、あたしなんか変なこと言っちゃった?」

 

 地雷を踏んだことにようやく気づいたディアナはオロオロと慌て出す。

 俺は空気を変えるために親父に命を狙われている件について話を振ることにした。

 

「それよりも親父。大丈夫なのかよ」

「大丈夫とは?」

「とぼけんな。親父は殺されかけただろ。そのために俺達を呼んだんじゃないのか」

「えぇ!?」

 

 重苦しい沈黙が楽屋を支配する中、親父が口を開いた。

 それは俺が今まで聞いたことのないような真剣な声音だった。

 

「ライアンの言う通り、私は何者かに命を狙われているんだ」

「ステージを見たけど、鎖に付いている錠が取り換えられてたな」

「おかげで当初の予定より鍵開けに時間がかかってしまったよ」

「それで、犯人に心当たりはないのか?」

 

 このままだと親父はいつまでもくだらない話を続ける。

 そう思った俺は単刀直入に尋ねる。

 

「心当たりはある」

「だ、誰なんですか! その不届き者は!」

「鮮血鬼カーミラだよ」

 

 親父は神妙な表情でそう告げた。

 

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