アイのままに、ワガママに~名探偵は一家団欒を望む~   作:サニキ リオ

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第33話 犯罪者に妙な期待をするな

「だと思ったよ」

「えっ、どういうこと!? カーミラは人間離れした身体能力を活かした殺しをするんじゃ……」

「簡単なことだ。今まで事故死に見せかけて殺したこともあるってことだろ」

 

 カーミラは未解決の殺人事件の犯人として名を馳せているが、その犯行手口は多岐にわたる。

 有名なのが刃物による殺害方法というだけで、それ以外の方法を取らないわけではないのだ。

 

「でも、カーミラから狙われるってことは、誰かが彼女にMr.ネロの暗殺を依頼したってことよ?」

 

 しかし、カーミラがいくら凄腕の殺し屋だとしても所詮彼女は雇われの身。言ってみれば、アルバイトのようなものなのだ。

 

 つまり、親父の殺害動機そのものは彼女ではなく、その雇い主にある。

 親父もその相手が誰なのか理解しているからこそ、カーミラの犯行だと断定できたのだろう。

 

「私はある犯罪組織に命を狙われているんだ」

「犯罪、組織ですか」

「警察が長年かけて追っているが、その正体すら掴めていない裏社会を牛耳る組織さ。鮮血鬼カーミラもその組織の一員なんだよ」

 

 犯罪者が蔓延るこの国で、表の世界で生きることのできない〝社会的な死人〟は大勢いる。

 そんな奴らが集まり出来上がったのが、裏社会を牛耳る巨大な犯罪組織というわけだ。

 

「……どうしてあなたがそんなことを知っているんですか?」

「警察関係者とは旧知の仲でね。いろいろ情報も入ってくるんだ」

 

 親父はそう言うと、そのまま組織についての話を続ける。

 

「組織の名前は――」

「あんたプライ姉さんがどうなったか忘れたのか!?」

 

 俺は組織の名前を告げようとした親父の胸倉を掴み上げてそのまま壁に叩きつける。

 

「坊ちゃま! おやめください!」

 

 ヤジマさんが止めに入るが、俺は腕の力を緩めることはしない。

 

「忘れるものか」

 

 親父は胸倉を掴まれたまま真剣な表情で告げる。

 

「大切な娘を失ったんだ。忘れるわけがない」

 

 親父の言葉にディアナが息を呑む。

 俺の姉であるプライ・スローンは探偵として組織を探り、命を落としたのだ。

 

「だったら、軽率にその名前を口にするんじゃねぇ!」

「お前もアイちゃんも知っている名だ。刑事であるディアナさんが知っても問題はないだろう」

 

 確かに親父の言葉にも一理ある。

 だが、それでも俺は納得できない。

 

 俺は親父から手を離すと、手近な椅子に座る。

 そして、ディアナに視線を向けた。

 ディアナは少しだけ困惑した様子だったが、俺の意図を理解したのか口を開く。

 

「大丈夫。こちとら刑事になってからずっと命懸けよ」

「命を捨てるのと懸けるのじゃ訳が違うぞ」

「そんなことは百も承知よ」

 

 ディアナはそう言って微笑むと、親父に向き直った。

 親父もそれを受けて、静かに語り出す。

 

「この国に蔓延る犯罪組織、その名を〝ハロウィン・シンジケート〟。鮮血鬼カーミラをはじめとする有名な犯罪者から無名の者まで多くの犯罪者を抱え込んでいる巨大犯罪組織だ。ボスはジャックと呼ばれているらしいが、詳しいことはわからない」

「ハロウィン・シンジケートにジャック……実態は〝お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ(トリック・オア・トリート)〟なんて生優しいもんじゃなさそうね」

 

 ハロウィンやジャックといえば、カボチャ頭の紳士を誰もが想像するだろう。

 犯罪組織の名前に使われているせいで、お菓子は麻薬、悪戯は殺し、という風に想像できてしまうだろう。

 有名な犯罪者が在籍していると聞いて、ディアナは何かに気づいたように呟く。

 

「まさか、怪盗ベオウルフも……!」

「ママ、それはわからないよ」

 

 ベオウルフもハロウィン・シンジケートの一員なのではないのか。

 そんなディアナの考えはアイが即座に否定した。

 

「ベオウルフはどちらかと言えば義賊よりの思想をしてる。人の命も平気で奪う犯罪組織にいるなんて考えづらいよ」

「そう、よね……」

 

 ディアナとしては、ベオウルフは犯罪者として許せない存在だが、救いようのない悪ではあってほしくないという気持ちなのだろう。

 まったくもってバカげている。

 

「ディアナ、更生の余地のない人間はこの世にごまんといる。ベオウルフも所詮、表の世界で生きられないような社会的な死人みたいなもんだ。死人を生き返らせるのは土台無理な話なんだよ」

 

 救いようのない犯罪者を更生させる。そんなことができるのは、物語のヒーローくらいなものだろう。

 それこそ、そのヒーローだって、生まれ持った環境の影響でヒーローとしての使命を全うしているに過ぎない。

 そんな奴らがこの世界に何人いるだろうか。

 

 少なくとも俺にとってのヒーローはもうこの世にいない。

 

「あたしが言うのもなんだけど、どうしてそこまでベオウルフを毛嫌いしてるの? 確かにあいつは犯罪者だけど根っからの悪じゃ――」

「犯罪者に妙な期待をするんじゃねぇ!」

 

 ディアナの言葉に俺は思わず声を荒げた。

 アイがビクッとなり、ヤジマさんは困った表情を浮かべる。親父は相変わらず表情一つ変えない。

 それを見て俺は急速に頭が冷えていくのを感じた。

 

「悪い、熱くなりすぎた。ちょっと頭冷やしてくる」

 

 俺はそう言うと、部屋を出て行く。

 

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